LOCAL BUSINESS X FUKUOKA

発想の転換で生み出す、6次産業のカタチ〜後編〜

イベント後半は、さらに様々な視点からの問いや意見を参加者からも聞き出しながらのトークが展開されました。

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起業によって人口は増えた?

参加者1周防大島では過疎が進んでいたということですが、瀬戸内ジャムズガーデンさんによって旅行者や移住者が増えるなど、過疎ストップに貢献した面はありますか?

松嶋島自体の目標が「交流人口100万人を目指す」なので、ショップに年間7〜8万人のお客さんが来てくれているのは大きいと思います。また社会増減だけを見ると、昔は定年退職者が島に戻ってきていたけれど、今は若い人たちも島に入ってくるようになったので、とんとんの状態になってきた。しかし人口が右肩下がりなのは止められていません。70代後半の方の人口比率が非常に高くて、死亡者が多いんですね。僕が移住してきた頃は21,000人でしたが、今は1,700人まで減っています。

売りに行くのではなく、客を呼び寄せる

参加者2商品の販売戦略や広報などについて具体的に教えてください。

松嶋広報にお金をかけるということは非常に大変。結局プル型が利益率も販売効率もいいので、いかに島に来てもらうかということを一番に考えています。販売率の6割を直営店が占める理由もここです。卸先は80店舗ほどありますが、僕たちは声をかけていただいた店にしか卸していないんですね。じゃあどうやってお声がけいただくかというと、まずは商品そのものが目立つ必要があるのと、メディアで取り上げていただく。田舎には日常的に大きなニュースがそんなにありませんので、ちょっと目立つだけで取り上げてもらいやすいです。特にニュースがない時期には、タイミングを狙って、取っておいたネタを核心的に出す(笑)。もう一つは、やっぱりSNSでの情報発信。ひと昔前は、山奥で面白いことやって発信したいと思っても、広告代理店に何百万というお金を取られていました。でも今は個人が自由に発信できる。リツイートやライクなんかで一気に拡散すると、一気に注文が来るんです。そういう意味で田舎はボーダレスになってきていると感じますね。

宮田僕らは、ターゲットを絞り、ストアコンセプトを錬り、緻密に商品設計図を作ります。ドライフルーツって生活に必要なものというよりは、ライフスタイルの一部なんですね。特に30〜40代の女性などのライフスタイルに敏感な層はターゲットにしやすい。そのとき、母親や娘へのプレゼントとして買ってくれるかもしれませんし、彼女たちは独身なのか、子育て世代なのか、細かいところまで設計図を立てるわけです。また場所によってはマルシェも企画して、不特定多数の人と交流することでさらに販路を広げられるようにしています。大分県人の経営している店舗を調べて行くのも戦略のひとつですよね。
重要なのは、自分たちの感性を信じて商売をするか。大手起業の商品じゃないけど、作り手のことはどこよりも強く伝えられることをぶつけるんです。売る・売らない、あるいは買う・買わないは相手が決めること。僕らは、会いたい人に会いに行って、その行動力を成果に結びつけるだけだと思っています。

田舎には何もない? 何でもある?

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参加者3みなさん、地域資源を活かして素晴らしいビジネスをされていると思います。一方で、例えば福岡県遠賀郡など良くも悪くも中途半端な田舎だと、何を資源に何をしたらいいのか分からなくなります。なにかしらヒントがあればいただけますか。

宮田何を言ってらっしゃるんですか(笑)。隣に150万人都市、福岡市があるんですよ。わざわざ田舎で売らなくても、隣街に行って売ればいいじゃないですか。マーケットはすぐそこです。

松嶋僕も島に来たときは、「こんな何もない島によく来たねえ」と散々言われました。でもそこで何をどう掘り起こすかが問題ですよね。どこにスポットを当てるか。例えば島では、いわし網の網元の息子さんが「ジャム屋みたいな挑戦をしたい」ということで、オイルサーディンをつくっています。いわゆる安物の缶詰め臭いオイルサーディンじゃなくて、もっとリッチなオイルサーディン。彼は今工場を持って、従業員も雇うほどになりました。また福岡からUターンで戻ってきて、養蜂家になった方もいます。はちみつって収穫して売るだけだとすごく大変。だからドリンクにはちみつを入れてカフェで提供することで利益率の向上につなげるなど、1次産業をいかに商売と絡めていくのかというところまで検討し合っています。それでも島に比べると、遠賀郡は羨ましい立地です。僕がそこで事業をすれば、今の3〜4倍は売上げつくれると思います(笑)。

山口僕、好きな例え話があってですね。水が半分入っているコップがあって、それを「半分しかはいってない」と思うか、「半分も入っている」と思うか。物理的には同じなんですが、見方を変えるだけで価値がひっくり返っちゃうんです。それって田舎そのものですよね。

よそ者という“異物”は、石ころか、はたまたダイヤモンドか

参加者4福岡でもお二人のようなビジネスをやりたいという方は増えていますが、新規参入したくても非常にしにくいのが現状だと思います。地域のしばり、農協さんのしばり、地域の人と事業者の距離感、マッチング、いろいろあります。外からの新規参入について、お二人の考えをお聞かせ下さい。

松嶋よそから移住してきた人が簡単に起業できるかというと、田舎はとくに難しいのは確かですよね。移住者と地域をつなぐ人がいないと浮いてしまう。でも移住者の知識や経験を活用すれば、地元の地域資源といくらでも結びつけられるからもったいないんです。だから僕らは、外からの人を内側につなぐ取り組みもしています。ただ大事なのは、踏んではならない足もあること。例えば、ジャムを作りたい人には地域の人も手を貸さないと思います。消費者からすると、もっとレベルの高いジャムが欲しいかもしれない。でも地域を乱すわけにはいかないんです。そういう意味で田舎は二律背反の部分を抱えています。移住希望者と交流する際には、それをきちんと教えます。

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宮田ドリームファーマーズの契約農家として安心院に移住してくる人と、電力会社を辞めて安心院で就農する人、みなさんはどちらを信用しますか? 前者ですよね。受け入れる地域の側は、どうしてもよそ者を「異物」と感じてしまう。ではどうすれば異物を異物と感じなくなるんでしょうか。異物を結石と思ってみてください。身体の中に結石ができたと思っていたんだけど、取り出したらダイヤモンドかもしれない。異物とは、石かダイヤモンドか分からないんです。そして、その異物がいつでも発生しうる可能性を持っているのが、人間の身体であり、地域だと思います。そうは言っても、福岡市のような大都市では小さなスタートをするのは大変。これからは横のつながりを強めて連携していく必要があると思います。

外への拡大ではなく、内側への広がりが地域の活性化につながる

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参加者5お二人が起業してビジネスを拡大していく過程で発生する問題の変化や対処などがあれば教えてください。

松嶋最初はやりたいことをやっている感じでしたが、一人目の正社員を雇った瞬間に、僕は経営者なんだという意識が急に生まれました。それまでは、売上げが下がれば自分の給料が減るだけですが、社員の給料を減らすわけにはいかないわけです。利益ギリギリのところでものをつくるんじゃなくて、きちんと利益が出る仕事をしようと思うようになりました。どんどん商品を卸せばいいと考えがちなんですが、利益率の点では直売が一番なんです。島に足を運んでくれて、しかも島を好きになってくれれば、なお嬉しい。空き家をリノベーションしているのも、そういう仕組みをもっと充足させようという取り組みの一つです。空き家を宿にして、ジャムのキャップ100個集めたら、一泊無料で泊まれるよ、とか。つまり島に来る動機づけをつくる。利益=ジャムづくりオンリーなのではなくて、島にある手持ちの資源をどう活用して、より付加価値の高い産業をつくっていくか、ということを目指すようになりました。

安部僕らは常にシフトチェンジをしている感じですね。ぶどう農家が起業してドライフルーツを加工するようになり、農村ベースでイベントをはじめ、自社農場を持ち、農業生産法人の資格をとり、従業員を雇い、カフェ&バー運営をはじめた。シフトチェンジというよりは、たくさんの変化を3人で対応しています。その際にキーワードとなるのは、山口さんにもおっしゃっていただいた「農家の力で農村イノベーション」。結局行き着くのは、農業をしながら農村を活性化したいという思いなんです。これは瀬戸内ジャムズガーデンさんと同じなんですが、外へ外へと広がっていくよりも、内側を強くしていくことが売上げや地域の活性化につながるという考え方です。

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インバウンドの影響について

参加者6お二人の起業によって、地域がインバウンドの影響を受けている事例はありますか?

松嶋お隣の宮島は観光客の外国人がたくさん訪れているんですけど、あいにく周防大島はインバウンドから取り残されています。そこは課題でもありますね。

宮田ドリームファーマーズによって、というよりも、大分には湯布院と別府があるので、インバウンドの影響はものすごく受けています。例えば、湯布院や別府の宿泊施設を確保できなかった人たちが宇佐市のホテルに泊まりに来ることもあります。
これは夢ですけど、僕らはミャンマーかカンボジアに会社をつくって、日本の農業を守るために現地から人を呼び込む仕組みをつくりたいと思っているんです。日本全国の農業が衰退しているわけだから、これは安心院とか周防大島に限った話じゃないんです。一つの地域にスポットを当てるんじゃなくて、もっと広い目線で日本に移住者を増やそうという構えのほうがいい。

「何もない」で終わるのではなく
ひっくり返して「何でもある」と思えるかどうか

山口では最後に、ひと言ずつメッセージをお願いします。

松嶋田舎には魅力的な地域資源がたくさん転がっています。それを事業化につなげて島全体の魅力を上げていくためには、長い目で見ると、子どもたちへの教育が欠かせないと感じています。そのために周防大島では、小中高連携の起業家教育を全国初で取り組んでいます。例えば中学校では、グループごとに模擬株式会社をつくる。自分たちで事業計画書を書いて、保護者や地域の人たちにプレゼンをして、株券を配り、お金を集めて、商品をつくって、イベントで実際に売る。学校教育って、知識は教えてくれるけど、自分で判断・行動し、その結果に対して責任を持つという経験をさせないでしょう。それを若いうちから経験させようという取り組みです。
瀬戸内ジャムズガーデンはジャム屋でありながら、地域の中で同じ資源を使って、雇用を生んで、地域の人たちに「島にはこんなお店があるんだよ」と誇りに思ってもらえるような会社に成長したいし、そんな会社を増やしたい。福岡市はそれ以上に多様性に溢れたステージがあると思います。ぜひ色々とチャレンジしてください。本日はありがとうございました。

宮田確かに日本の教育では、いい会社に「入る」ことは学ぶんですけど、「つくる」ことは教えてくれない。周防大島の教育の取り組みは本当に素晴らしいと思いました。福岡のように学園がたくさんある都市では、そういったソフト面の会社をつくるのも面白いかもしれませんね。
今日は高いところから威圧的に話してしまいましたが(笑)、本当は普通の農家のおっちゃんですので、是非一度安心院に遊びに来てください。まずはSNSでつながって、一緒に九州を盛り上げていきましょう!

山口ありがとうございます。本日は非常に興味深いお話がいくつも飛び出しました。特に印象に残ったのは、ビジネスを拡大することは、必ずしも外へ販路を広げていくだけじゃないということですね。彼らは逆さまのやり方をやっている。自分たちがキーになって、地域の内側の経済を循環させることが大事なんだと。このとき田舎は、多様なことができる可能性を秘めている事に気付かなければいけないんですね。「何もない」で終わるのではなく、ひっくり返して「何でもある」と思えること。もちろん、魅力的な資源を発掘するそのセンスは必要です。
今日のお話しからたくさんの気付きや学びがあったように思います。ひとつでも持ち帰られるものがあったら嬉しいですね。本日はお二人とも本当にありがとうございました。

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(了)


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