福岡市平尾の古いアパートの一室にある「ギャラリィ亜廊」さんで催されていたくろくも舎 切り絵展 『白虫夢』に行ってきました。
靴をぬいでお邪魔すると、静寂な空間に幻想的な切り絵の世界が広がっていました。
作家は八女市で生まれ育った「くろくも舎」の切り絵師・松原真紀さん。八女の手漉き和紙をナイフ一本で繊細に切り出した作品がギャラリィにちりばめられています。
自然を生きる動物や花、小さな生き物、少女…と、モチーフは私達が見慣れたものばかりであるのに、そのひとつひとつからは独自の世界観が香っています。
多彩な切り絵たちは、可憐だったりノスタルジックだったり。
細かく丁寧な手仕事からうまれるナイーブな美しさに心奪われます。
作品は、すべて「一枚の紙を切り抜くこと」が守られているそうです。手漉き和紙の持つ温かく素朴な風合い、無数の強い繊維が絡み合っておりなす凹凸のあるテクスチャー。
それとは対照的に、洗練されたなめらかさで迷いなく切り抜かれた、しなやかな線の表現。
間近でうっとり見惚れていると、まさに時が止まるようでした。
さて、「くろくも舎」作品は多彩な切り口で、切り絵の物語を魅せてくれるところも愉しいのです。
白い紙を切り抜いた絵の裏に、美しい色合いのむら染めの和紙をあてたもの、切り絵の背景が黒だったり、透明だったりするものと、作品ごとに印象がガラリと変わります。切り絵を組み立て、中にあかりを灯して照明に仕立てたものも。和紙を透かしてやわらかく放たれる光に心落ち着きます。
「くろくも舎」さんの作品はどれも静かでありながら、ひとつひとつ手を動かし吹き込まれた、「命の躍動」にあふれていました。また、女性らしくやわらかな体温も感じることが出来ます。
その源泉は、地元の風景や自然の中で暮らす生き物たちを包み込むような、作り手さんのやさしいまなざしと真摯な想いだという気がします。そんなところがとても魅力的でした。
あらためて、八女は、ものづくりを生業とする人々を中心に皆でまちを盛り上げようとしている粋な土地、気になる場所だ…と思いました。八女の本拠地「ギャラリエ くろくも舎」にも、ぜひ次回は足を運んでみたい。
「ギャラリエ くろくも舎」は福岡県八女市にある通称白壁通りと呼ばれる古い町並みにあります。八女で生まれ育った切り絵作家・松原真紀さんが2010年、憧れていた町家に引っ越し、改装した上でギャラリーを始めたのがきっかけだそう。定期的に作品の展示、販売を行なってらっしゃいます。作品は、JR筑後船小屋駅の待合室のガラス戸に、筑後の四季折々、土地独特の植物や生き物を表現した切り絵が使われていたり、八女の町並みが描かれた地サイダーや手ぬぐいのラベルデザインなど、地域に根付いた仕事を手掛けていらっしゃいます。
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(タハラ)