RethinkFUKUOKAProject

コトバナプラスvol.6 敏腕プロデュースおじさんが説く メディア運営のおカネとホンネ

ReTHINK FUKUOKA PROJECT レポートvol.38

アナバナではReTHINK FUKUOKA PROJECTの取材と発信をお手伝いしています。

そして8月より、アナバナが企画する『コトバナプラス』が始まりました。
モデレーターに、プロダクトデザインやみそづくり、麹づくりのワークショップで、今や世界に発酵の風をふかせている発酵デザイナー小倉ヒラク氏を迎え、毎回さまざまなゲストをお招きし、連続シリーズで開催しています。

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「未来の種」をキーワードに、九州内外のさまざまなゲストを迎えて語り合うトークイベント「コトバナプラス」。昨年、全5回にわたって開催され、すべての回がほぼ満席を記録。好評を博したこのイベントのスピンオフ企画として、2月6日(月)に「プロデュースおじさんのメディア学」が開催されました。

モデレーターを務める、発酵デザイナーの小倉ヒラクさん曰く「僕の趣味丸出し」という今回のテーマはなんと、「おじさん」!?  「ソーシャルデザイン」の概念を世に広めたNPO法人グリーンズ所属のプロデューサー・小野裕之さんと、人気ECサイト「北欧、暮らしの道具店」を運営するクラシコム代表の青木耕平さんを迎えて、メディア運営とプロデュース業について、“おじさん”の感性で語り合いました。しゃべり出したら止まらないおじさんたちの、示唆に富んだトークに会場も興奮。圧倒的な情報量で充実の内容となった当日の模様を、一部抜粋してお届けします。

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記事の制作と発信だけに頼らない
ビジネスモデルを持つ

小倉 今日用意してきたテーマは、1メディア論、2ビジネス論、3お金の話、です。会場の皆さん、どの話が一番聞きたいですか?

(会場  「3お金の話」に挙手が多い)

わかりました(笑)。では、最初はメディア論から始めて、だんだんカネと権力の話に移っていきましょう(笑)。ではまず、青木さんから自己紹介をお願いできますか。

青木 はい。「北欧、暮らしの道具店」というサイトを運営している青木です。北欧のヴィンテージ食器を扱う専門店としてスタートして、現在は「北欧のライフスタイルにインスパイアされた暮らし」をテーマに、さまざまな暮らしの品を扱っています。物販のほか、クライアントから依頼される記事広告も制作していて、B to BビジネスとB to Cビジネスを両方やっています。

小倉 この仕事を始めたきっかけは?

青木 最初はITベンチャーを立ち上げようとしていたんですが、最初に取り組んだ事業は自分の力不足でうまくいきませんでした。それから、北欧の蚤の市でヴィンテージを買ってきて日本で売るということを始めました。人気の商材だったんですが、ヴィンテージの食器って新しく作られるものじゃないので、人気になって過去のストックを掘り尽くしてしまうとビジネスとして長く続けていくのが難しくなります。だから、欲しい人のリストを作って、こちらからアプローチできるようにして、違う商材を紹介できるように整えていったんです。

小倉 このサイトのどのあたりが、グッとくるポイントなんでしょうね?

青木 そうですね。例えば雑誌って、同じような価値観を持った近しい年代層の人たちにターゲットを絞って中身を作っていますよね。でも、Webサイトで価値観をセグメントしてしまうと、ターゲットが小さくなって、マネタイズの構造上難しいですよ。PVによる広告収入モデルって、1PVが0.1〜0.5円とかの世界なので、母数が少ないとビジネスが成り立たない。うちのサイトの場合は、物販で直接マネタイズできているので、記事は「自分の価値観に合う」と思えるようなセグメントした情報を届けられるんです。

小倉 では小野さんも、自己紹介をお願いします。

小野 greenz.jp を運営している、小野です。greenz では、70〜80人の契約ライターさんが記事を書いてくれています。意識としてはgreenzが本業ながら、実態は、それぞれ他でも食い扶持を稼げるような人間たちが集まって、そこで上がった利益をgreenzに投入するという形で始まりました。いま風に言えば、広告制作プロダクションのオウンドメディア的な立ち位置です。今年で設立から11年目なんですが、単独の事業で黒字になるまで7年近くかかりました。

青木 7年ってけっこうしんどいよね。

小倉 そこからどうやって黒字化していったんですか?

小野 初めは、分かりやすい記事広告を入れてたんですが、ここだけの話、あんまり読まれないんですよね。これはgreenz特有の悩みですが、「ほしい未来は、つくろう」というのがgreenzのコンセプトなのに、記事広告として「欲しい未来、買いませんか」みたいなメッセージを暗に入れ込むようなことになってしまうと、サイトへの期待や信用がなくなってしまう。つまり、普通の記事と記事広告の、メッセージの質の差が大き過ぎる。そうすると、マガジン特有の爆発力と言いますか、ミラクルが起きなくなってしまうと考えて、思い切って止めました。いまは、Webメディアの運営と連動するかたちで、比較的大きな企業や行政と、中長期的な価値づくりやブランディングのためのプロジェクトを開発して、売上を立てています。

小倉 具体的にはどんなことをしてるんですか?

小野 例えば大阪ガスさんなんだけど。地域にハード的なインフラを供給している地元密着企業が、地域の人と一緒に、どのようにしたら長期の目線でまちづくりを行うことができるか、というお題をいただきました。もうすでに始まっていて、これからさらに変化していくエネルギーの自由化もきっかけとなっています。その一環として、greenz上で「マイプロジェクトSHOWCASE関西編」という連載を立ち上げることになりました。例えば最近では、地域に馴染むことに苦労している外国人同士が、悩みを共有しながら一緒に料理を提供するカフェ「コムカフェ」のような事例を取り上げています。NPO法人だけでなく、市民が主体となってさまざまなクリエイティブな活動を行ない、自治を獲得していくような事例を、これまでに100件以上記事化してきました。

大阪ガスさんは上場企業なので、もちろん営利性の出せる事業展開が大前提。かといって、greenzの取材先のみなさんのような活動すべてを、税金を使って行政が運営できるわけでもない。そんな時、NPOなら行政がやるほどには課題に普遍性がなく、企業がやるほどには利益が出せるわけではない領域をカバーすることができます。2年前から、大阪ガスの一般ユーザーのみなさんからの投票で、greenzの取材先に寄付が回るようなプログラムもコツコツ続けています。大阪ガスさんにとっても、こうしてgreenzを通じて多様なNPOとパートナーシップを結んでいくことが、地域の人から選ばれる理由にもなるはずなので。そんな風にして、直接的な記事広告とは違う形で、サービスを展開しています。

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お金とは、作りたい世界を
表現するための道具である

小倉 二人とも、公共性の高い事業を運営してるんだけど、僕たち普段から、集まるとすぐカネの話になるよね(笑)。そこが好きなんですけど。greenz.jpだって、単独のモデルでは継続不能なんだけど、存続できるように売上を上げているわけでしょ?

小野 そうね。NPO法人は経済活動の蚊帳の外にいる場合が多くて、むしろ自分たちから進んで蚊帳の外に出て行っているところもあるけど、継続していくにはお金が必要です。

青木 お金って、パソコンとか文房具と一緒で、道具だと思うんですよ。自分が作りたい世界を作っていくために、お金を道具としてコントロールしていく必要がある。だから、お金を稼ぎたいのは、自分個人が贅沢したいとかではなく、作りたい世界を作る材料や道具がより多く欲しいからというところがあります。

小野  僕も同じ考えですね。NPO法人にいると、お金を稼ぐことに苦手意識を感じている人にも出会います。でも、お金を、英語よりも広く利用されている世界共通言語と見立てることもできると思うんです。ツールであるお金とうまく付き合って稼いで、次の投資に回して、次の未来を創り出していきたいと思ってます。

小倉 では二人が、経営を通じて今後実現したいことって、何ですか?

青木 僕は、“社会内社会”を作りたいと思ってます。今の時代は、かつて国民全体で共有できていた希望が少しずつ薄くなって、それぞれが細分化して、コミュニティが分断されている状態ですよね。他国だったら部族とか宗教が、細分化した後でもコミュニティをまとめる役割を担うと思いますが、日本の場合は何だろう。

地方創生と言って地方を盛り上げようとしていますが、地域の再生でコミュニティの分断が回収されるのか、僕は疑問を持っていて。それよりも、株式会社という存在が、日本では土着性を持って、その機能を担えるんじゃないかと考えているんです。事業だけを考えると、物を売って売上を社員に分配してというシンプルな仕組みですが、従業員をコミュニティと捉えると、小さな社会ですよね。そこで皆が幸せにいられる環境を作っていきたいなと。

小野 僕は、“多様性”に興味があります。よく「社会を変えよう」と言うけど、現状がいいと思っている人もいるのに、どういう責任でそれを言ってるのか、疑問に思うんです。始まりから多様で、終わり方も多様。一つの企業なり組織が、他を駆逐して成長していくのではなくて、小規模でも長く続く組織を作りたい。1億稼げる会社を10個作って、全体で50人ぐらいが働いていて、多様なまま存続する、そんなモデルを作っていきたいですね。

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いいプロデューサーは
プランだけでなくお金もちゃんと出す人

小倉 後半は参加者から質問を受け付けますね。質問ある方は挙手をどうぞ。

参加者Aさん 私はライターをしているんですが、現代は情報が消費されるスピードがあまりに早くて、虚しく思うことがあります。お二人は、そう思うことはありますか?

青木 うーん。例えば彼氏と話すいろんな話が、その場で何も残らず消えていったとしても、それで虚しくなったりはしないでしょ? だから、ストック(資産)と捉えるか、コミュニケーションと捉えるかの違いだと思いますよ。僕らが記事を発信するのはお客さんとのコミュニケーションだと思ってるし、コミュニケーションであればいくらでも投入できる。毎回新しいネタを用意しなくても、同じことを繰り返し言ってもいいわけだし。

小倉 僕は7年ブログを続けているんだけど、7年前に書いた記事がいまだに読まれてます。だから、単に消費されて消えてしまうわけではなくて、昔の記事でもふとしたタイミングで輝きを持って返って来ることがありますよね。

小野 greenzは編集系のスタッフや外部ライターさんが記事を書いてくれるんですが、PV云々の話は僕からは一切しません。僕らが目指しているのは、何度も繰り返し読みたくなる本のような記事なんです。最近は、greenz.jpのライターをしながらエッセイ風の本を出す人が多くて、きっとgreenz.jpは長く残して本にできるような記事を書くプラットフォームとして機能してるんだなと感じています。

 

参加者Bさん 自分で運営している、ゲストハウスの紹介サイトがあるんですが、マネタイズできなくて困ってます。何かアドバイスをいただけますか。

青木 ビジネスを考えるなら、お金を持っている人をお客さんにするというのが鉄則だけど、安い宿泊費で回していくゲストハウスからお金をいただくのは、構造上なかなか難しいですね。

小野 そう、オンライン予約できるなどのC(宿) to C(利用者)モデルは難しいと思います。宿泊費が3,000円として、1件成約するごとにその1割を得たとしても300円。100件取れてようやく3万円の利益というのは、やってはいけないモデルです。それよりも自分で1軒、いろいろなケースを見てきたからこそ分かるような理想を詰め込んだゲストハウスを運営して、流行らせればいいんじゃないでしょうか。ゲストハウスというインターフェイスを通じて商売をやりたい人はたくさんいるし、自分のゲストハウスが話題になってそれを伝える場所もあれば、プロデュース案件もたくさん取れると思います。

青木 人の職能って、ディレクタータイプとプロデューサータイプに大別できると思うんですよ。自分が作る価値の最終形が見えていて、そこに向けて作り続けられるのがディレクター。お金や人を用意してプロジェクトを遂行するのがプロデューサー。自分がどっちなのかを知って、自分とは違うタイプのパートナーを見つけるのが大事だと思いますよ。

 

参加者Cさん いいプロデューサーの見分け方を教えてください。

青木 逆説的だけど、プロデューサーを目指してない人、ですかね。プロデューサーって、ディレクターに憧れて、なりたくて、でもなれなくて、しょうがなく他の全部のことを引き受けている人だと思うので。自分もそうですし。

小野 状況が、プロデューサーという立場を作るってことですよね。あとは、一緒に新しい夢を描けるかを見極めることかな。単純に、「あなたの言っていることはいいですね、素晴らしい」と言い寄ってくる人は、その人に消費されて終わってしまう可能性も高いので。

青木 プロデューサーって、「箱を用意する人」だと思います。僕は妹と一緒に創業したんですが、妹がまさにディレクタータイプで。僕はプロデューサーとして、現場は基本的に彼女に任せて、彼女が嬉々として自分の力を発揮していけるような枠、箱を作ることに専念していますね。

小野 あとは、ちゃんとお金を出す人。いろいろ口を出しながら、カネは出さないという人は信用しちゃいけませんよ(笑)。プロデューサーが最大限の信用を勝ち取る方法って、結局お金を出すってことですから。儲ける手段がちゃんと見えてるなら、お金も出せるはずです。

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いかがでしたか? 「おじさん」とはいえ、まだまだ若々しく、精力的に組織を引っ張る二人のリーダー。組織に属する人それぞれに適切な役割を与え、自分の役割を全うし、ビジョンを形に変えていく様は、「きっとここで働く人は幸せだろう」と思わせるに十分なオーラがありました。会場からもその納得感が伝わってくる、素晴らしい回となりました。

好評に応える形で、延長戦に突入したコトバナプラス。茶目っ気たっぷりな小倉ヒラクさんの進行のもと、次回はどんな話が聞けるのか。楽しみにお待ちください。

 

ReTHINK FUKUOKA PROJECTについて
コミュニケーションや働き方、ライフスタイルに大きな変化をもたらしている福岡。新しい産業やコミュニティ、文化が生まれるイノベーティブでエネルギッシュな街となっています。
そのチカラの根底には、この街に魅力を感じて、自らが発信源となっている企業や人がいます。
ReTHINK FUKUOKA PROJECTは、「ReTHINK FUKUOKA」をテーマに、まったく異なるジャンルで活躍する企業や人々が集い、有機的につながることで新しいこと・ものを生み出すプロジェクトです。


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