ゲストハウスどうしのつながり
白石ゲストハウス同士のつながりってあるものなんでしょうか?
安河内実は&AND HOSTELは、TONAGIさんにものすごくお世話になったんです。オープン時に工事の遅延があったので、予約をいただいていたのに宿泊できる環境が整っていなかったということがあったんです。そのときはどんどんTONAGIさんを紹介させてもらって(笑)。200泊分くらいあったので、一大危機でしたね。
石井TONAGIもお盆明けでちょうど空いていたので(笑)。どうしても受け入れられない方もいたんですけれど。
安河内ビジネスホテルには送れないんですよね、価格帯も違うし。だからこういうつながりは本当に必要だと思います。そしてこれは、横のつながりができていないと成り立たないですよね。
石井どんな事業でも最初は大変ですから、連携できるところは連携していかないと。
白石こういったゲストハウス同士のつながりにおいて、実際の取り組みなどが行われていたりするんでしょうか? オーナーが集まったり、情報交換したり……。
石井ゲストハウスに限定した取り組みではないですが、福岡で面白い事業を展開している人たちが集まる場に呼んで頂いたことはありますね。あと、ゲストハウスをやりたい人はやはり、視察を兼ねて色んな場所に勉強しに行ってつながりをつくる。僕自身、雲仙の「TSUDOI」さんなど、仲の良いゲストハウスの方とは資料や情報の交換をたびたびしています。そういうつながりを保つことが、福岡と別の地域をつなぐことにもつながっていく。例えば福岡で一泊してその翌日に雲仙に行く方がいればご紹介できるでしょう。特に福岡って、中継地点というか、ハブ的な使い方をする方が多いんです。
安河内&AND HOSTELは東京や京都でのつながりが多いですね。浅草の「nui.」や河原町の「Len」を運営しているBackpackers’ Japanさんとすごく仲良くさせてもらっているので、&AND HOSTELのスタッフが常にnui.に勉強しに行ったり、逆にnui.から&AND HOSTELに来たりして交流しています。
白石へえー! 交換留学のような感じですね。
安河内まさにそうです。資金協力はまったくありませんが、聞かれたことはすべて答えるというスタンスで協力し合っています。そういうところから情報を引っ張ってきて、運営に反映するという感じです。
都市型、農村型…それぞれのゲストハウスが持つ役割とは
白石今まさに色々な地域のゲストハウスのお話がありましたが、全国的に見てもゲストハウス自体ものすごく増えています。その中でも都市型、農村型など、さまざまなスタイルがあると思います。お二人の場合は都市型に近いと思いますが、農村型に比べてスタンスや役割の違いなどはどうお考えですか?
安河内例えば地方の大自然のなかのゲストハウスなんかは、どちらかというとペンションのような立ち位置に近いと思います。オーナーの思いが強く、その場所にゲストハウスをつくるということがまず先にあって、お客さんもそこを目的に訪れる。僕たちは逆で、アリの群れの上に砂糖を持っていくというスタイル(笑
石井そうですね。目的が後にくるか先にくるかということはあると思いますね。例えば福岡は、街でショッピングして、美味しいものを食べて…という人もいて、さまざまな目的を持ったさまざまな人たちが集まっています。シティホテルもあれば、ビジネスホテル、カプセルホテルもあるし、ゲストハウスもまた必要だと思います。農村は、その地が好きで好きでたまらないオーナーがそこに移住して、その土地の魅力を伝えるためにゲストハウスをオープンしたというケースも多いですよね。だから田んぼや川がある中で地元の料理を食べられたりと、その地の魅力をぐっと凝縮したような宿のつくりになっていることが多い。どちらもその場、その人にあった魅力、役割があるのではないかと思いますね。
白石利用される方は、何泊くらい滞在される方が多いですか?
安河内一番多いのは2〜3泊でしょうか。10日間くらい泊まっていかれる方も多いですね。
白石海外だと10日間って一般的だと思うんですが、福岡で10日間いてどこに行かれるんでしょうかね?
安河内海外の人は“まち歩き”に行くんですよ。福岡のローカルな生活を味わいに来ているから。地元の人が行くスーパーに行くとか、目的なくフラっと歩いてて、道に迷うのもまた一興というか。確かに僕も海外に行くと、ガイドブックに載ってるような有名店に行くよりも先に地元のスーパーに行って、何かよくわからんけど買ってみるほうが楽しかったりするし。その延長線じゃないかなと思いますね。
白石なるほど。その気持ちはすごく分かります。最近はそういう“ぶらり旅”的なものが増えているんですね。
石井ロングステイされる方は特にそうだと思いますね。福岡のまちってどんなまちなのかが知りたい。だから敢えて歩いたり、自転車で一日散策したりするんですね。逆に2〜3泊のお客さんは、コンサートやイベントなど、目的がはっきりしてる場合が多いです。
白石具体的にはどんな場所に行かれているんですか?
安河内僕たちのエリアでいうと、櫛田神社、キャナルシティ博多、吉塚うなぎ、あとは最近中洲に新しくできたクラブなんかにもよく行っているようですね。中洲川端商店街を楽しみたいというお客さんも多いので、そこに泊まっちゃおうという感じですね。
石井アジアの方はお買い物やコンサート、欧米の方はぶらぶらしたりする方が多いようですね。あとは意外に南蔵院(糟屋郡篠栗町)なんかも人気ですね。鎌倉と奈良、そして福岡でもビッグ・ブッダを見られるんだ、と(笑)。紅葉や相撲も人気です。
安河内そうそう、大相撲のチケットって海外発送してないんですよね。だから、チケットだけ先に宿に送ってきて、「保管しといてね」みたいなことありますよね(笑)
石井あります。もう責任重大ですよ。それ目的で海外から来てますから(笑)。コンサートのチケットも多いですけどね。
白石そんなこともあるんですね(笑)。イベントと連動した動きが興味深いですが、その点でいうと、国内の人たちの需要もまだまだありそうですね。
口コミの評価を上げるための秘策とは?
白石日本の方が宿泊された場合の反応はいかがですか?
安河内宿泊サイトの口コミなんかを見ると、日本の方のほうが評価が低いですね。泊まってみたら相部屋だったとか、隣の人のいびきがうるさいとか。
石井「ドミトリー」って明記してるんですけど、知らない方は値段だけで決めちゃうから。泊まってみてはじめて分かることも多いですから。
白石なるほど。旅行サイトを利用する方って結構多いと思うんですが、特に海外の方に向けて宿を知ってもらうための取り組みはどうされていますか?
安河内宿泊していただいた方に、いわゆるポータルサイトや、SNS、ブログなどに、口コミを書いてもらってますね。
白石なるほど。書いてもらうような働きかけをしているということでしょうか?
安河内いやいや、仲良くなったら書いてくれるんですよ。「めっちゃいいって書いとくよ!」と。
石井TONAGIも同じです。泊まってくれた方がポジティブなことを書いてくれることによって、評判が広がっていくから、口コミサイトってけっこう大事で。広告費はほとんどかかっていません。
白石レビューを書き込まれるのって面倒なときもありませんか?悪いこと書かれるかもしれないし、それをコントロールできるわけでもない。僕の経験上、安い宿のほうが口コミの評価が高かったりしますし。「お湯が出た!」とかね(笑)
石井最初の敷居が低い分、評価が上がりますよね(笑)
白石そう考えると、最初の敷居が高いと評価が下がる。相部屋だったとか、トイレ共同だったとかですよね。宿泊先を選ぶ時は、レビューをそのまま受け取るんじゃなくて、“勘違いレビュー”かどうかを見極めなければいけないですよね。このレビューの見方問題は大切な気がします。
石井それはありますね。僕らの宿はおそらく10点中8点代後半だと思うんですが、詳しく精査していけば5点もあれば10点もある。客商売なのである程度批判されることも仕方ないとは思いますが、対処としてはいかに宿の良さをアピールして、価格以上の満足度を得てもらうかということですね。
白石満足度を上げるために、具体的にどんな対応をされていますか?
安河内&AND HOSTELは看板をよくリニューアルしていますね。
石井TONAGIも看板やポップ、あとはレセプションでお配りしているインフォメーションの用紙などを、分かりやすいかな、楽しめるかなとアップデートしながらより良いものを作っていますね。
安河内あとはとにかく、つながること。“つながりたくない人”は、ゲストハウスを選ばないんです。だからこちらからつながりに行って、コミュニケーションを取るんです。それだけで、星が1から4になったりしますから。
石井そうそう、スタッフが親切だったというだけで星の数上がりますね。
ゲストハウスと地域とのかかわり
白石お二人の話をお聞きしていると、お客さんとの関係づくりが普通のホテルなどとは全然違うわけですよね。事務的なやり取りやサービスだけじゃない。そこで気になるのが、カフェの存在です。お二人のゲストハウスをはじめ、今注目されている全国のゲストハウスの多くは、1階がカフェスペースになっています。そしてカフェには宿泊者以外の人たちも出入りできるつくりになっています。このカフェスペースをどのように活用していますか?
石井TONAGIはカフェに観光資料を結構置いているので、ロングステイの方やこれからよそに行くという方が資料を手にとって「ここ行ったけど良かったよ」とか「どこがいいかな?」と聞いてくれたりします。もちろんこちらから話しかけることも多いですが、こういう話ができる空間がまずあること、そして話しのきっかけになるためのツールを揃えておくということは結構重要だと思います。
白石TONAGIさんの場合、立地柄、学生さんも結構多いですよね。打ち合わせしにTONAGIさんに行ったら、満席で。しかも全員ノート開いて勉強してて、完全に自習室状態ということがありました(笑)
石井そうなんですよ。スペースの広さの割には席数が26席しかなくてゆったりしているし、テーブルも広いので勉強しやすいということもあるかもしれません。試験前にはスタッフも気を遣うくらいピリピリしてる学生が来たりします(笑)
白石コーヒーも安いですもんね(笑)
石井大都会じゃ無理な値段ですけど、千代の家賃だからやっていけるということもあります。学生のニーズは高く、大学のベンチャー学生と連携したイベントをすることもあります。あとは留学生も多くて、そういう学生さんと宿泊者さんがつながるケースもありますね。ちなみにカフェメニューは、地元のカレー屋さんや菓子店にTONAGIオリジナルのメニューを作って頂いてます。
白石学生は多いのにカフェや飲食店が少ない千代ならではの独特のつながりで大変興味深いと思います。
一方の&AND HOSTELさんは繁華街のど真ん中ですが、カフェのあり方そして地元とのつながりについてはどのようにお感じですか?
安河内カフェでお酒を飲むお客さんももちろんいらっしゃいますけど、周りにも酒場が多いので、そこは必ずしも&AND HOSTELじゃなくてもいいという構えです。ただ&AND HOSTELには何があるかというと、出会いがある。実際にいろんな出会いを目の当たりにしています。例えば、屋台に行きたいけど足踏みしている海外のお客さんに、商店街のおじちゃんが「俺たちが連れてっちゃる!」と連れて行ってくれたこともあった。お酒と音楽の力もすごいですし、やはりその地、その瞬間にしか生まれ得ない出会いが素晴らしいと思っています。そういった賑わいを少しずつ発信できるような場所にしていきたいですね。
白石商店街のおじちゃん、すごいですね(笑)。ちょっと気になっていたんですが、商店街って保守的な方も多いと思うのですが、&AND HOSTELさんのような新しい取り組みをどのように受け入れておられるんですか?
安河内一番最初にご挨拶に伺ったとき、理事長がラガーマンみたいなガタイでスパーっとタバコを吸っていた(笑)。ドキドキしていたら、「これからは若いヤツの時代やけんお前ら頑張れよ。分からんことは何でも聞け」と。もう、商店街のつながりって強いし、やっぱり素晴らしいと思いました。新しいことをやろうとしている僕たちのこと、そしてインバウンドがこれからの福岡を支えるひとつの大きな要素になっているんだということも、しっかり分かっておられますね。
白石素晴らしい関係を築けているんですね。というのは、僕は安河内さんの学生時代を少し知ってますけど、いわゆるヤンチャな感じだった。そんな人が、福岡でも歴史ある商店街でどうやっていくんだろうって思ってたんです(笑)。そもそも安河内さんの経歴も普通じゃないじゃないですからね。
安河内バックパッカーやって、インドで学校作って、地域活性化で大分のビーチ貸し切ってフェスやって、大学3年のときに飲食店を立ち上げて、福岡に戻ってきて西中洲で割烹をして、今に至る、です。
白石ヤンチャです(笑)
安河内大学の事務局にはムチャクチャ怒られてましたけど、まちの人からは怒られたことないですよ(笑)。というのは、&ANDHOSTELなんかは特に国交省や経産省と絡んだりしていて大義名分が見えやすいんですよ。
白石やっていることが世の中に求められていることですからね。それにこのあたりのエリアはインバウンドのポテンシャルとしてはかなり高いですよね。トリップアドバイザーによると、海外での福岡の人気スポットNo.1は吉塚うなぎで、続いて櫛田神社やキャナルシティが入っています。そもそも安河内さんは、ゲストハウスをこのあたりにつくろうと思っておられたんですか?
安河内いえ、もともと今宿(福岡市西区)につくろうと思っていたんです。ただ色々あって頓挫してしまって。そういう時に、ゲストハウスやるなら中洲川端がいいと勧められたんです。中洲川端商店街って土砂降りの日でも空港から傘が要らないんです。最初は博多エリアってピンとこなかったんですけど、ゲストハウスやるならここしかないな、と。
白石今後はゲストハウスを通してまち全体が賑わっていくようなイベントも仕掛けていくとか?
安河内ナイトマーケットを企画しています。川端商店街のシャッターって6時に閉まっちゃうんで、夜が淋しいんです。その時間帯に賑わいを創出しようと。それこそ飲食店や雑貨が並んだような、海外の夜市的なものを考えています。継続的に開催していくことで「川端商店街でナイトマーケットやっているらしいよ」と認知されることが一番の強みになると思っています。
白石商店街の方々の反応や課題などはいかがですか?
安河内もちろん協力してくださいっています。課題としては、祭って飲食店が一番盛り上がるので、そうじゃない事業者にもきちんとした利益を享受していただくための仕組みづくりを考える必要があるということですね。
白石お二人とも、スタイルは違えど地域とのつながりが非常に興味深いですね。最後に、今後の展望をひと言ずつお願いします。
石井今もそうですが、今後も重要なのは「TONAGIからよそへ、よそからTONAGIへ」です。つまり福岡を中継地点にして訪れたい魅力的なスポットとつながりを強めていって、ハブとしての機能を高めていきたいと思っています。そのためにはまず、「経営できたね、おめでとう」じゃなくて、「ずっとあるね」と言われるような存在になれるように、ローカルに連携を図ること。じゃないと、本当の意味で根付いたことにはなりませんから。
安河内&AND HOSTELは福岡にもう1店舗、京都の四条烏丸にも店舗、そして個人的にはプノンペンにもと考えています。
白石どうしてカンボジアなんですか?
安河内経済成長率がすごいですし、外貨の持ち出し持ち込み自由ですし、法人税ないので(笑)。これから創っていけるまちということで、そういう場所で勝負してみたいですね。今のうちに行かないと。
***トーク終了後も、会場から質問が飛び出しました。***
Q.お客さんとコミュニケーションを取ることが大切で、そのためには英語をはじめ語学が必須だというお話でしたが、どのように語学が堪能な方を探すのでしょうか? また外国人の雇用は考えていますか?
安河内語学ができる人を見つけるのは正直ムチャクチャ大変です。僕の出身大学が国際系だったので、そういうところからも引っ張ってきたり、あとは基本的にヘッドハントしてます。外国人の雇用も全然あり得ます。実際に来年からインターンも考えていますし、スタッフも外国籍が多いとダイバーシティのようで楽しいと思っています。
石井TONAGIもヘッドハンティングというか、外国語ができる方を一本釣りで探す感じです。外国人スタッフも、可能性としては当然あります。
Q.通訳関係の仕事をしていて、美術関係のイベントに関わっています。海外から来られてお客さんでアートに興味をお持ちの方はおられますか? またどのような仕掛けがあれば、海外の方にもっと福岡のアートに興味をもって頂けるとお考えですか?
安河内直接的にアートに関して聞かれることはあまりありませんが、福岡アジア美術館が近いので行かれる方は結構います。僕自身、アートというのは重力のある空間にする上で非常に重要だと思っていますので、2号店は2階にギャラリースペースを設けて、レンタル料などは頂かずに色々な作品を展示していきたいと考えています。ゲストハウスという場所柄、色んな世界観がぶつかり合う場所にしたいと思っています。
石井海外の方は工芸品などに興味を持っている方も多いと思います。TONAGIのオーナーが木工職人ということもあるので、木工のワークショップを開催することが多いのですが、そういった各スペースの取り組みを紹介し合うことが、アートや工芸作品への興味を深めて頂けるきっかけになり得るのではないでしょうか。
Q.外国人が多い宿泊所では窃盗などのトラブルも多いというイメージがありますが、セキュリティ対策はどのようにされていますか?
石井今のところトラブルはないので何ともいえないのですが、セキュリティケースは備えています。あとは、貴重品に関しては自己管理なので気をつけてくださいとアナウンスしています。そもそも海外の方は、差しっぱなし、置きっぱなしにしない。不用心だと分かってますからね。
安河内&AND HOSTELも今のところまったくトラブルはないのですが、お客さんを選ぶことや、コミュニケーションを取って仲良くなることは心がけています。友だちからは盗りませんから。少々大袈裟なことを言うと、僕はたくさんの人が海外に行って、一回くらい盗られたらいいと思っています。それも経験ですから。
Q.私はまちにイベントを仕掛けていく側の立場なのですが、ゲストハウスを運営されているお二人からまちに要望あれば教えてください。
安河内まちの中に東西南北の表記が少ないと思います。慣れていない海外のお客さんはすぐ迷うんですね。あと、デパートは22時までオープンして頂きたい。夜になると行く場所がないんです。ナイトクラブとかに行こうと思っても、外国人オンリーだと入れてくれないような店もあります。ナイトライフ全般は、福岡だけじゃなくて全国的な課題だと思っています。
石井そうですね。実感として、昔より静かになるのが早くなった気がします。それによってメリットもあると思いますが、ナイトライフを目的としている人たちにとって、夜は静かで暗いまちでいいのかなと思いますね。また個人的には、スーツケースなど荷物を預かってもらえる場所が少ないことや、英語が通じる店が少ないことなどが気になっています。