LOCAL BUSINESS X FUKUOKA

真のネットワークは「横のつながり」。中野さんをハブにして拡がる縦横無尽の連携が生み出す産直事業。

アナバナでお手伝いをしている福岡市農山漁村地域活性のプロジェクト「海、山、未来が近いまち、福岡。LOCAL BUSINESS X FUKUOKA」。トークイベント3回目のゲストにおいでいただいた九州の食と文化応援隊・中野ユキヒロ商店代表の中野幸浩さんにお話を伺いました。

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中野幸浩 九州の食と文化応援隊・中野ユキヒロ商店代表

九州の食を流通と生産者をつなげるという視点で応援しているアドバイザー。料理人、スーパーの鮮魚コーナーの担当者を経て、九州のムラ市場の店長を立ち上げ時より担当している。

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生産者の写真を添え、顔が見える売場作りをしてきた

生産者や事業者同士、横のつながりが意味を持つ

─多方面でご活躍の中野さんですが、現在はどのような事業をされているのでしょうか。
 多方面というか、ひとつの想いを実行していたら拡がっていったという感じなんですが・・・私は元々、板前をやっていたんです。その後、スーパーの鮮魚コーナーで流通業を経験して、九州のムラ市場の立ち上げ時に店長で来てほしい、とお声がけを頂きました。それまでの飲食業から流通業、そして地域の生産者と販売者をつなげる仕事に携わったことで、今の事業が成り立っています。主に一次産業に携わるの方々とのネットワークを活かした活動ですね。

─なるほど。具体的にはどんな仕事内容ですか?
 一つ目は、商品開発です。九州や広島などで、直売所の立ち上げのお手伝いをさせて頂いているんですね。流通業での売り場作りのノウハウと、この直売所立ち上げで得たノウハウを以って、生産者と販売者、そして消費者が喜ぶ商品の開発をお手伝いしています。
 二つ目は、イベント企画です。主に地域を元気にするためのイベントを、九州のムラ市場の時代から大小さまざまに取り組んできました。例えば、4年前に別府市で実施したものは「観光スポットには寿命がある」という前提のもと、観光コンテンツに頼らない滞留人口の拡大策として、九州各地の地域産品の事業者を80社集めました。広域で連携し、開催地が別府市、というスタイルです。実はこの時のイベントのひとつが、畜産業だけを集めたゾーンという試みだったのですが、現在全国で開催されている「肉フェス」の先駆け的なイベントなんです。「同じ業種を集めて、大丈夫?」という開催前の不安はまったく感じられない盛況ぶりでした。
 三つ目は、ラジオパーソナリティです。九州の食と文化応援隊を立ち上げて、毎回九州各地の生産者、そして販売者や加工業者などの商品への想いや取り組みを紹介させて頂いています。今度の3月で、放送150回目を迎えます。
 四つ目は、食育の観点から、絵本を出版しました。

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ラジオ番組のパーソナリティを務める徳永玲子さんが絵本の読み聞かせの活動をされていることで、出版の話はとんとん拍子に進んだ。文は徳永さん執筆によるものだ

─すごい活動量ですね。お話の中で「生産者と販売者をつなぐ」というキーワードが出てきましたが、具体的にはどういうことでしょうか?

 先ほどの「ひとつの想い」というのがまさにそれなんです。料理人として各地の食材を扱ってきた経験と、スーパーの売り場で流通の裏事情を熟知した経験から、九州のムラ市場では、取り扱う地域の商品の生産者や事業者さんのところには必ず足を運んできました。商品の価値をきちんと知らずに、売れないというコンセプトだったからです。その数は約1000軒に及びます。現場に赴いて、家族ぐるみの付き合いをしてきたので、一人ひとりのことを私はよく知っています。
 しかし、生産者や事業者の方々って、横のつながりがほとんどないんです。私との放射線状のつながりはありますが、それだけではダメで、横のつながりを作らないと、このままではもったいないと考えました。そのことに気づいて、13年前から、私が知っている人たちを集めて、毎年情報交換の交流会を開催しています。一番多いときは350名集まりました。毎回、全員の紹介を私がしたあとに、全参加者の名簿を作って配るんです。そうすると、おもしろいことが起きる。あるとき大分のワッフル屋さんが、美味しい牛乳を探していて。生産量は少ないけれど日本一の特別牛乳を作っている嘉麻市の生産者さんがつながり、実に魅力的なワッフルが誕生しました。大分の地粉と嘉麻市の特別牛乳、それぞれの良さや特徴を知り、認め合うこと、そういったより深い情報交換ができる場所を提供させてもらうことで、商品開発はうまくいきますし、イベントにも皆さんが協力してくださるんです。今はこの交流会と同じような「横のつながりを作る」ことを、ラジオでもやらせてもらっているという感じです。ですから、ラジオではその事業者の商品情報を主にお伝えするわけではありません。どんな想いで、どんなものを生産しているのか、製造しているのか、それだけを紹介します。問い合わせが入って、おつなぎする、という形です。

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放射線状のネットワークに横のつながりを生み出している交流会の様子

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トマトの家族が摘果作業で間引かれていくようすを通して、残されたトマトが美味しくなろうと努力する姿を描く。そこに携わる農家の人の想いも自然と汲み取れる

生産者の想いや生産過程を語ることで、ものの正当な価値を伝えていく。

─絵本を出版されたのはどうしてですか?

 出版したのはトマトの絵本なんです。消費者と生産者の「ものの価値」についての認識の差を埋めたくて、子ども達に小さいうちからその意識を持ってもらいたいと思って作りました。絵本の中では、トマトが畑から食卓にのぼるまでを描いていますが、途中でまびかれることで、残されたトマトがしっかりとした実になることなど、トマトの視点で語っています。食べ物が食卓に届くまでにはたくさんの過程と人の想いが詰まっていることを描くことで、食べ物の正当な評価をする視点を持ってもらいたいなと思って、子どもでも読める絵本にしたんですね。

 

─中野さんがおっしゃる「ものの価値への”認識の差”」とはどういうことでしょうか?

 これは鮮魚コーナーにいた時代から、ずっと感じていたことでもあります。一尾500円で売らないと採算がとれないサバを、目玉品として100円で売る。そうすると、もう500円では売りづらくなります。じゃあ100円でサバを売るとどうなるかというと、当然漁師や仲介業者にしわ寄せがいきますよね。同じようなことが、いま直売所でも起きていまして、安くしないと売れないから、収益が確保できず、若い生産者は直売所にものを卸さなくなります。このままだと直売所は立ち行かなくなると思います。こういったことを見てきて、金額の意味もですが、商品そのものの価値の意味を、もっときちんと考えられるようにしないといけないと思っています。お客様は、500円でサバを「買ってあげている」と思っているかもしれませんが、それは違う。だって、どんなにサバを食べたくても、漁に出て、せりで仕入れて、売り場で売る人がいなければ、サバは食べられないじゃないですか。自分でサバを獲ってきて食べることは、私たちにはできないですからね。

ついた値段には、理由がある。

─生産者はしっかりとその想いや背景を伝えることが大事、そして我々消費者も「ものの価値」についてしっかりと考えることが大事、ということですね。具体的に、生産者の意識を変えたいと思われているエピソードはありますか?

 はい。農林水産省の「農林漁業の6次産業化」でプランナーとその検討委員をさせて頂いたときに、生産者サイドにも同じように価値の意味を理解してもらう必要が非常にあると発言しました。6次産業化といっても、正直、いち農家だけですべてはできません。まず、値段設定の考え方が不十分な皆さんが多い。売るための損益分岐点の考え方や、手間賃などの中間コストの意識がない方がほとんど。直売所の野菜が安いのは、ほぼ原価だったりすることが多いからなんです。そうしたことを知って、きちんとした対価をもらえる仕組みにしないと、続かないわけです。そのためには生産者や事業者だけでは限界があります。そういう意味でも、横のつながりってとても大切だと思います。絵本も商品開発も直売所の売場作りも全部同じで、ついた値段には理由があるのだということをきちんと発信し伝えていくことを端折ってはいけないんです。伝わったあとに、様々な価値観や感性で、値段の安いものを買う、それは消費者の問題なのでいいと思うのですが、生産者や事業者など、売る側の人間は、伝える努力をしないといけない。そして、そうした発信と価値づけがしやすいのが、本当は直売所だと私は思っています。大手流通はなかなかそうもいきませんから。せっかくものの対価を正当に価値づけできるのは直売所なのに、いま、多くの直売所が量販店型になってしまっていることに危機感をおぼえています。

 

─中野さんという媒介の存在が、生産者や事業者、流通、そして消費者それぞれに対して大切なことを伝えていく事業内容になっているんですね。

 媒介としての役目から、色んなお仕事につながっていると思います。ただ、私だけではダメで、生産者や事業者一人ひとりがそれに気づいて、また同じ想いの人たちが様々なアクションを起こしてくれたらと思っています。先にお話した別府市のイベント等、これまで“先駆け的な”と言って頂ける企画を立てたり、参加させて頂いたりしましたが、私は企画を独り占めしたりする考え方はありません。独占したり、抱え込むのはよくない。同じ想いの人が増えて、各地で同じように地域と生産者と消費者を想う良い形の流通になればと思っています。
 例えばトマトひとつとっても、生産者が違えば味も見た目も違うんです。よく生産者の方に「もっと料金を考えて」という話をすると、「それじゃ売れない」と言われますが、それは売り方を知らないだけなんです。私たちのようなアドバイザーは、その売り方を伝えていく活動をもっとしていくべきだなと思います。

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料理人、流通業、小売業を通して感じてきた疑問と、ふれてきた生産者や事業者の想いが、中野さんというフィルタを通して膨らんでいく。その熱のこもったトークには力強さと説得力がある

福岡の産直事情は、全国的にも恵まれている。

─福岡市は近隣に糸島市や三瀬村など産直地としても有名な土地が多く、その恩恵を受けやすい環境にあるのではと思います。福岡市近郊の生産者事情は、中野さんの目から見てどう映っていますか?

 福岡市はとても地形の利点が大きいと思います。生産地と消費地が近いので、交流がしやすいという特徴があります。実は、直売所でも結構うまくいっているところが多いんですよ。消費地と、生産地や加工現場との距離が近いので、色んなことを知るきっかけがあります。何度も通うことができるので、農業の一連の流れを見ることができます。ですから、もっと実践的な体験を織り交ぜたイベントなどを企画していくといいなと思っています。

─最後に、これから取り組みたいことはありますか?
 これからも、今までと同じように九州圏内のネットワークを深く拡げながら、つなげていく仕事をしていきたいです。実は孫がいるんですが、このままだとこの子たちの将来の食事情が心配です。残すべきものをちゃんと残せるように、伝えるべきものは後世にしっかりと伝えていくように。そういったことを念頭に生産地から売場までを想像して直売所を作ったり、商品開発に携わっていきたいですね。


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中野ユキヒロ商店
nyfbh850@cap.bbiq.jp


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