LOCAL BUSINESS X FUKUOKA

人気直売所「マッちゃん」を25年継続させるその原動力とは?三瀬トンネルの開通に、直売所の可能性をいち早く見出した合瀬さんの思い。

アナバナでお手伝いをしている福岡市農山漁村地域活性のプロジェクト「海、山、未来が近いまち、福岡。LOCAL BUSINESS X FUKUOKA」。トークイベント3回目のゲストにおいでいただいた有限会社やさい直売所「マッちゃん」取締役会長の合瀬マツヨさんにお話を伺いました。

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合瀬マツヨ 有限会社やさい直売所「マッちゃん」取締役会長。 福岡市と佐賀市をつなぐ三瀬峠で、やさい直売所直売所「マッちゃん」を運営している

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週末は渋滞も珍しい風景ではない「マッちゃん」。ドライブコースの寄り道スポットとして県内外からお客が訪れる。

何かを始めないと、このままだと食べていけなくなる。

─やさい直売所「マッちゃん」は、三瀬峠へのドライブで欠かせないスポットになっていますよね。合瀬さんが直売所を始められたきっかけは何だったのですか?

 私は19歳で主人のところに嫁ぎました。同じ三瀬の集落内での結婚で、実家も百姓です。主人はもう亡くなりましたが、九州男児っぽくない、控えめで口数が少なく、主導権を私に任せてくれる人でしたので、集落でグループを作って野菜を販売していたんですが、おじいちゃんおばあちゃんたちと相談しながら、どの野菜を作っていつ出荷して、といった日常的な段取りは、すべて私がやっていました。作業は話し合いながら二人でやっていましたけどね。
 嫁いだ当初は、農業と家事をすることで精一杯だったのですが、20年ほど経った頃、集落のみんなが年をとっていく中で、おじいちゃん達が動けなくなる日が来るなと思ったとき、このまま農業だけやっていても、食べていけなくなると思ったんです。

 

─そこで、直売所を思いつかれたのでしょうか。

 そうすぐにはいかなかったのですが、いまのマッちゃんがある土地は、もともと我が家の田んぼでした。そこに、先人さんのおかげで三瀬トンネルが開通するという話があって。あぁこれは、県道端なので福岡から車で来る人が増えるかもしれないな、と思って、場所を活かして動くことをしよう、と主人と色々と話し合ったんですね。それで、「ないじゃいしゅう(何かやろう)! 直売所がましばい!」と、野菜を自分たちで売る場所を作ろうという結論になりました。
 それから、農業しか経験したことがないので、仕出し屋さんでパートをして、農業以外の仕事の流れを学びました。開店まで3~4ヶ月は参考になりそうなところに行ってみたり、勉強したりもしました。

 

─当時の周囲の反応はいかがでしたか?

 「まーたマッちゃんがあがんするばってん、大丈夫やろか」と、心配されていましたね。三瀬トンネルの開通で、交通量が増えて直売所が流行るのでは、といったことを考えて動こうとする人は、私たち以外にはいませんでした。それでも、何かを始めないと、このままだと食べていけなくなるのはわかっていたんです。若い人が新しく集落にお嫁に来てくれるとも思えませんでしたし。
 生産者5人くらいで始めました。月を追うごとに増えていったのですが、最初は土日で平均2万円くらいの売上で、2~3年は赤字でした。売るものがなくて、お菓子なんかも売っていましたね。

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直売所に飲食コーナーができ、いまでは買い物だけでなく食事も楽しめる。ここでも食材をどう調理すればお客さんが飽きずに何度も来てもらえるかを考えながらメニューを考えるように、という合瀬会長のアドバイスが活きている

開店から25年。「マッちゃん」が大きくなっていった理由。

─今のマッちゃんのような大きな店舗になったのは開店からどれぐらいの時期ですか?

 4年目で定着したと思います。ありがたいことに、三瀬峠を越えてドライブに来てくださる方々が、リピートしてくださるようになったんです。口コミでひろがって、一日の売上平均が5万円くらいにまでなりまして、最初は主人と二人でしていましたが、人を雇うことができるようになりました。人を雇えるようになると、レジを入れてみたり、生産者の野菜だけではなく、加工品を作ることができるようになったんです。

 

─今では定番となっているお漬物やザル寄せ豆腐などの加工品が、「マッちゃん」が大きくなってきたポイントだったんですね。雇用や商品開発など、合瀬会長の中で、計画があったのでしょうか?

 いやいや、そんなものはなかったですよ。もう、毎日がむしゃらでしたから。ただ、あまり苦労したという記憶がないんです。もちろん資金繰りやら従業員の問題やらと色々とありましたが、みんなから支えられながらここまできたので。おもしろみのある店づくりをしようという想いでいままでやってきました。
 平成3年に立ち上げましたが、当時はまだ直売所や物産所というものはなかったんです。先駆けですね。その後、5年ほどしてから道の駅ができ始めました。結構全国から視察や取材にも来られましたよ。

 

─なるほど、確かに直売所の先駆けですね。マッちゃんが支持されている理由はどんなところだと思われますか?

 支持されている理由かどうかはわかりませんが、地元育ちのスタッフばかりですので、お惣菜も素直な味付けですし、加工品も、それぞれマッちゃんらしい食べ方を提案しています。どこからともなく車がやってきて、たくさんのお客さんが「こないだ来た時にはこんなのなかった!」と喜んで下さる姿は本当に嬉しいですね。2016年の11月で25周年を迎えましたが、立ち上げた当時から通って下さっているお客さんもいるんですよ。もうさすがに自分の足では来ることができなくて、お孫さんに連れてきてもらっているような人もいて、「また顔を見られて嬉しいねー」とお互いに言いあうこともあります。

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「お舅さんにお金をもらう度に“何に使うとや?”と聞かれて。そんなことが当たり前だった時代を経験しているから、自分で行動して何かを起こそうと思えた」と合瀬会長

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「マッちゃん」名物の「ザル寄せ豆腐」。豆乳の濃厚な味わいは多くのリピーターの心をとらえて離さない

大切なのは自分で考えて行動すること。お姑さんの視点でスタッフを教育。

─まっちゃんらしさを保っていくためには、スタッフさんの姿勢も大切だと思うのですが、人材育成のようなことも合瀬さんがされているのでしょうか?

 そうですね。私は、市場調査として遠方にでかけることもあります。参考にさせてもらってすぐ取り入れることもありますし、そうした情報を蓄えておいて、スタッフへの指導で反映することもありますよ。今、社員20名とアルバイトで運営しています。社員は、地元の主婦が8割、隣町の大和町などの主婦が2割です。つまり、みんな主婦なんです。私が嫁いだ頃は、「嫁はいち労働者」でした。お給料なんてない。何か欲しいものがあっても、いちいちお舅さんにお金をもらわないといけない。農業を夫婦でしっかりやって、家事もやるのが当たり前でした。そんな時代があったからこそ、反発精神で絶対成功させようと思ったんです。いまは自分のお給料を好きに使えることが当たり前の時代ですから、スタッフにも常識をしっかりと伝えて、若いアルバイトの人にとっては嫁修行になるような教育をしています。

 

─”三瀬村の働きもの”のお嫁さんらしい価値観が、まっちゃんらしさにつながっているんですね。スタッフさんの指導で、心がけていることはありますか?

 例えば、品物には最後まで責任を持つとか、お客さんに迷惑をかけないようにするとか、そういう基本的なことから教えますよ。あとは、仕入れから加工までやるので、原価のことは「しよればわかる」と言って、とりあえず商品について考えさせます。「どうやって売れば損をせずに売れるのか」を考えてもらうんです。ただ、今の若い人たちは、仕事が増えるのを嫌がるんですよね。でも、言われたことだけやっていても、ご飯は食べられないでしょう? 自分で考えて、どうやったらその商品が売れるか、ということを考えるようにといつも言っています。「(私は)こう思うばってん、(スタッフも)考えてみてくれんね」って、ヒントをあげると、実際に私の想像以上のものができることもありますよ。ですから、「怒る」と「褒める」を上手に繰り返しています。「やればできるじゃない」「うちのがいっちゃんうまか」「よそに行ったっちゃ食われん」と。自由に泳がせながらも、厳しく鍛えています。
 それと、スタッフの配置換えをしていますね。例えばずっとレジ打ちだと、「お客様と直接かかわるから、私の仕事(=レジ打ち)が一番大変!」といった不満につながるんです。人間は、自分のやっていることしかわかりませんからね。ですから、たまに配置換えをして、色んな仕事を経験することで、マッちゃんで働く色んな立場の人のことがわかるようになってもらえたらと思っているんです。

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原点に戻って、「マッちゃん農園」で農作業をしている合瀬会長。愛情たっぷりの野菜たちは、もちろん直売所「マッちゃん」で購入することができる

常に体験や感動を味わってもらう店であり続けたい。

─合瀬さんのお話は、まさに経営者の視点ですね。今後やっていきたいことは何ですか?

 今、経営に関しては息子が社長なので、私は少し後ろに下がっています。今はマッちゃんを充実させることに力を入れていきたいと思っています。外観はスーパーのようになってしまいましたが、中身でお客さんにおもてなしをしていきたいですね。これ以上拡げることよりも、充実させることを考えたいです。「マッちゃん」がここまで大きくなったのは、リピーターの方々のお陰だと思っています。いつ行っても同じではなく、常にお客さんに何かしら体験や感動を味わってもらって、「また来たい!」と思ってもらえるお店であり続けたいですし、そういうお店を、スタッフとお客さんと一緒に作っていきたいと思っています。
 いま、「マッちゃん農園」という畑で10種類くらいの農作物を作っています。私は会社にはほとんど行かず、農園で作業をする日々です。生産者に戻ってみました。もちろん、自分が作った野菜をマッちゃんに出してますよ。また、マッちゃんに出してもらっている生産者の方々の野菜がどうしても売れ残ってしまうときがあるので、そういうときは私が半額で買って、漬物にしてまたマッちゃんに出したりしています。やっていることはずっと同じですが、来て下さるお客さんや生産者のことを考えて、これからもやっていきたいですね。

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やさい直売所 マッちゃん
佐賀県佐賀市三瀬村杠246-1
0952-56-2705
http://www.macchan.co.jp/


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