RethinkFUKUOKAProject

“コーヒー屋×デザイナー” ふたりのクリエイターの蜜月から生まれた、 コーヒーの新しい視覚表現

ReTHINK FUKUOKA PROJECT レポートvol.25

アナバナではReTHINK FUKUOKA PROJECTの取材と発信をお手伝いしています。

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今年だけでもいくつもの新店が誕生し、話題に事欠かない福岡のコーヒーシーン。ReTHINK FUKUOKA PROJECTでは、Click Coffee Worksの古賀由美子さんが主催し、福岡のコーヒーシーンで注目されている方たちを招いたトークイベントをシリーズで開催してきました。3回目となる今回のテーマは、「コーヒー屋×デザイナー 本質をあぶりだす〜」。9月に福岡・高砂に新店舗をオープンさせたCOFFEE COUNTYのオーナーロースター・森 崇顕(たかあき)さんと、新店のオープンに合わせてグラフィックデザインを担当されたデザイナーの長尾周平さんがゲストです。同じ久留米に住むお二人が、何度も打ち合わせを重ねて辿り着いたデザイン表現について、たっぷり2時間、丁寧にお話いただきました。前回に続いて満員御礼となった10月25日(火)のトークの模様を、一部抜粋してお伝えします!

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遭難するほど分け入って
ようやく山のことが理解できる

古賀 今日はまず、お二人の出会いからお聞きしてもいいですか?

 僕は3年ぐらい前に久留米でコーヒー焙煎の店「COFFEE COUNTY」を始めたんですが、今年の9月に2店舗目を福岡・高砂にオープンすることになり、そのタイミングでグラフィックデザインを長尾さんにお願いして。

長尾 僕は、2015年の秋に東京から福岡に戻り、久留米を拠点に活動を始めました。うきは市の「MINOU BOOKS & CAFE」のトートバッグのデザインも担当させてもらってるんですが、カフェで出されるコーヒーがCOFFEE COUNTYの豆だと知って、気になってお店を訪ねてみたんですよ。その時は森さんには会えなかったんですが、今年の元旦に偶然お会いして、散歩しながらお話をして。

古賀 それが初デートだったわけですね(笑)。森さんが、長尾さんに興味を持ったきっかけは何だったんですか?

 長尾さんの事務所で、MINOU BOOKSのためのトートバッグのスケッチ画が壁一面に貼られているの見たんですよ。その時に、とてもプロセスを大事にデザインされる方だなと感じたんです。

古賀 そのトートバッグの仕事は、どんな風に進めていたんですか?

長尾 MINOU BOOKSの名前の由来でもあり、店の象徴である耳納連山をモチーフにトートバッグを作ることになって、まずはフィールドワークとディスカッションを重ね、耳納連山をどう表現するかを考えました。最初に外から山を見てスケッチする。それから、山に登ってみる。登山道は整理された道ですが、そこから一歩外れると、すごく野生的になってきて、それまで見えなかった側面が見えてきます。途中、深く入り込みすぎて遭難しかかったりもしたんですが(笑)、そうやっていくつもの画風でスケッチを描いていって、絞り込んで、ようやく現在の形になりました。

古賀 トートバッグひとつのデザインのために、そこまでするんですか!?

長尾 ええ、できる限りは。自分がイラストレーターだったら、遭難せずに描けるのかもしれないですけど、まずは知らないものを自分に取り入れていくことから始まるので。

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限られた情報源から
できるだけ多くを引き出す

古賀 こういった長尾さんの仕事ぶりを見て、新店のデザインをお願いすることになったと。

 ええ。久留米はあくまで焙煎所の併設店なので、今回独立した店舗を出すにあたって、改めてCOFFEE COUNTYのデザインというものをいちから考える必要が出てきたんです。

長尾 その頃には僕も、森さんの仕事ぶりやものづくりへの姿勢に共感して、コーヒーについても少しずつ理解できるようになってきました。

 COFFEE COUNTYという存在を理解してもらうための資料として、これまで僕が訪ねた世界各地のコーヒーの産地の写真を送ったんですよ。そうしたら、長尾さんの分析がまたすごくて。

古賀 写真を分析するんですか? 

長尾 そうです。森さんが送ってくれた写真は、コーヒー豆やコーヒーに関することだけじゃなかったんです。森さんが現地でお世話になっている生産者の家族の暮らしぶり、マーケットの様子とか、いろんなものがそこにはあって。一枚一枚から読み解けるストーリーがあるし、森さんがこういう写真を撮っていることから、コーヒーそのものだけでなく、森さんが大切にしたいものがわかった気がして。

古賀 (制作時の長尾さんのメモを見ながら)写っている人の着ている服とか、随分細かなことをメモしてますね。

長尾 現地には行けないからこそ、受け取った素材からなるべく多くの情報を引き出して、デザインに生かす必要があるんです。

古賀 なるほど〜。長尾さんは、タイポグラフィに関しても造詣が深いんですよね。今回も、ロゴではなく、COFFEE COUNTY用のフォントをいちからデザインしたとか。

長尾 ええ、そうです。森さんのコーヒーは、農園ごとの味わいをそのまま伝えることにこだわってらっしゃるので、コーヒー豆のパッケージデザインにおいても、農園名が重要なんです。ロゴだけがデザインされてても、あまり意味がなくて。それで、産地の風景から受ける感覚や、そこで産まれたコーヒー豆の風味を表現したオリジナルの書体をAからZまで作って、「Vibrant」と名付けてパッケージなどで使用しています。

古賀 どのクライアントと仕事をするときでも、オリジナルの書体を作るんですか?

長尾 いえ、ここまでやったのは今回が初めてです。でも、アイデンティティデザインやブランディングデザインで一番いいのは、専用書体を作ることだと思います。書体を作ることは、クライアントの思想そのものを作ることなので。今回は、森さんのものづくりの姿勢を考えて、こういう作業をやらざるを得なかったということですね。

 僕も、お願いする段階でオリジナルの書体までは考えてなかったんですけど、逆に「どこまでをデザインする」という枠を設けていたわけでもなくて。お互いのやりとりの中で、自然とこうなりました。

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ただ正直にやりたい。コーヒーを飲んだ時にざわざわする
“震え(Vibrant)”のようなものを感じてほしい

古賀 今回の店舗デザインで特に際立っているのは、店内やパッケージにある絵と色使いですよね。どういう風にして生まれたんですか?

長尾 この仕事をするにあたって、コーヒーについてだいぶ勉強しましたが、それでも森さんに比べれば細かな味の違いはわからないんですよ。その違いを、パッと見て誰でも感じられる「色」の絵で表現できないかと思って。

 それでコーヒーの風味の傾向を7種類ぐらいに分けて、それぞれの風味を3つの色を使って表現したカラーチャートを作ったんだよね。

長尾 森さんからカラーチャートが上がってきた時、「これはグラフィックを勉強した人にはとても出てこない斬新な組み合わせの色だな」と、衝撃でした。それで、このチャートを使いながら僕がキャンバスに色をのせて、自由に絵を描いていって。森さんに見せながら、一つずつ採用とボツを繰り返し、決めていきました。

 感覚的なことを伝えるのって難しいですけど、お互いプロセスを共有しながら進められたので、うまくいったんだと思います。

古賀 おふたりは、それぞれ表現者という立場で、これからどんなことをしていきたいと思ってますか?

長尾 クライアントの伝えたいことを的確に表現するのがグラフィックデザイナーの仕事ですから、クライアントにとって何がいいのかを、これからも突き詰めていこうと思っています。そういう意味では、森さんとの仕事は最高のクライアントワークでしたね。

 僕はコーヒー店の経営者ですけど、店をもっと増やしたいとか、組織を大きくしたいとか、そういう経営的なビジョンはあんまりないですよ。ただ、正直にやりたいですね。嘘をつきたくないし、我慢もしたくない。自分が嘘をつかずにやれることに、取り組んでいきたいと思っています。

古賀 最後にひとつだけ。COFFEE COUNTYの新しいキャッチコピーである「Vibrant flow in you」という言葉には、どんな意味が込められているんですか?

 コーヒーを飲んだ時にざわざわする感覚、“震え(Vibrant)”のようなものを感じてほしいというメッセージです。ホッとするとか癒されるというよりも、「エッ!?」と驚くような感覚や刺激を体験してほしい、それがあなたの中に流れ込んで響き合ってほしい、そんなコーヒーであり続けたいという想いを込めた言葉ですね。

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いかがでしたか? 森さんの感性と、長尾さんの一つひとつ丁寧に向き合う仕事ぶりが合わさって結実した、COFFEE COUNTYの新店舗。おふたりの話を聞いてから伺えば、より楽しめるに違いありません。あなたを震わせ(vibrant)、感動を伝えるコーヒー屋さんが自分の住む街にある、それは毎日をどんなに豊かにしてくれることでしょうか。二人のストイックな職人たちが作りだした世界を、ぜひ堪能してみてください。

さて、Click Coffee Worksが主催する「コーヒー×〇〇」をテーマにしたトーク、次はどんなゲストが迎えられるのでしょうか。今後の展開にも、どうぞご期待下さい。

 

ReTHINK FUKUOKA PROJECTについて
コミュニケーションや働き方、ライフスタイルに大きな変化をもたらしている福岡。新しい産業やコミュニティ、文化が生まれるイノベーティブでエネルギッシュな街となっています。
そのチカラの根底には、この街に魅力を感じて、自らが発信源となっている企業や人がいます。
ReTHINK FUKUOKA PROJECTは、「ReTHINK FUKUOKA」をテーマに、まったく異なるジャンルで活躍する企業や人々が集い、有機的につながることで新しいこと・ものを生み出すプロジェクトです。


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