RethinkFUKUOKAProject

コトバナプラスvol.5 自分をごまかさずに生きる 個人の活動を突き詰めて、社会の課題へと向き合う方法

ReTHINK FUKUOKA PROJECT レポートvol.31

アナバナではReTHINK FUKUOKA PROJECTの取材と発信をお手伝いしています。

そして8月より、アナバナが企画する『コトバナプラス』が始まりました。
モデレーターに、プロダクトデザインやみそづくり、麹づくりのワークショップで、今や世界に発酵の風をふかせている発酵デザイナー小倉ヒラク氏を迎え、毎回さまざまなゲストをお招きし、毎月第1水曜日に連続シリーズで開催します。

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「未来の種」をキーワードに、九州内外のさまざまなゲストを迎えて語り合うトークイベント「コトバナプラス」。発酵デザイナー・小倉ヒラクさんの進行のもと、8月より毎回定員いっぱいの人気企画となったこのイベントも、12月7日(水)でついに最終回となりました。

この日のゲストは、糸島を拠点に活動するお二人。新米猟師の畠山千春さんと、テキスタイル作家のmakumo(マクモ)さんです。テーマは、「“モノ”を通して社会の課題をとことん考えてみる」。狩猟という命をいただく仕事、そしてテキスタイルという新しいものを作り出す仕事、それぞれ活動を極めていくことで、社会の課題とどう向き合っているのかを、ヒラクさんと一緒に考えました。

最終回ということで、惜しまれつつも盛大に盛り上がったイベントの様子を、一部抜粋してお伝えします。

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部外者になる部分をなるべく少なくしたい
だからちゃんと知りたい。

小倉 まずは千春ちゃんから活動内容を聞いていきたいんだけど。猟師ってことは、猟をして生活してるってことですか?

畠山 そうなんですけど、狩猟って年間を通じてできるわけではなくて、だいたい11月15日から2月15日までが猟期といって、猪や鹿なんかを狩猟していい時期です。でも狩猟だけやってても、お金はあんまり稼げません。猟は罠を使ってやるんですが、半日がかりの作業になってしまうので、原稿の締め切りに追われている時とか、忙しい時期はできないし。わたしの仕事は、狩猟も含めた自分の暮らしぶりを表現することで、コラムを連載したり、今日のようにトークイベントに出たり、家でワークショップやったりするのが活動のベースですね。うちはもともと、「暮らしを作る」というテーマで、みんなで活動してて。

小倉 それが、千春ちゃんが運営している「いとしまシェアハウス」のことですよね? 

畠山 そうです。シェアハウスのみんなで生活してます。米は100%自給してて、野菜も少しですが育てているし、肉も獲ってきたものしか食べないので、食費は一ヶ月あたり3〜4千円ぐらいですね。

小倉 それは安い! でも、そもそも狩猟をやる人たちって、何のためにやってるんですか?

畠山 昔は畑や田んぼを守るという意味もあったし、趣味の人も多かったようです。今はわざわざ山に行かなくても面白いことはたくさんあるので、趣味の狩猟っていうのは結構減ってきたみたいだけど。今猟師の免許を持っている人で多いのは、兼業農家ですね。普段はみかんなどを育てていて、猪が入って荒らすから、罠をかけていると。

小倉 僕は山梨の、標高千メートルぐらいのとこに住んでるんだけど、ワインとかのぶどう農家は結構猟師免許を持っている人が多いですね。ぶどうの新芽を鹿が食べちゃうから。それで千春ちゃんの場合は、何を理由に始めたの?

畠山 私のきっかけは3.11でしたね。当時横浜に住んでいて、やっぱりお金って何の役にも立たないじゃないかってことを感じちゃったんですよ。買い占めや計画停電があって、お金を持ってても買うものがなくて、途方にくれて。だから自分の食べ物ぐらいは自分で得られるようになりたいと思って、畑をしたり、その延長で猟をしたり。

小倉 なるほど。

畠山 福島の原発は、私が横浜の生活で使っていた電気を発電するために動いていたわけで、自分が責任を取れないものに依存して生きていくっていうことが嫌になって。食べ物だって、お肉が自分の手元にやってくるまでにどういうプロセスを経ているのか、全然見えなかったんで。だから、肉を食べるなら最初から最後まで自分の手でやってみて、自分で判断しようと思って始めました。

小倉 そういう風にやってきた中で、何を感じたんですか?

畠山 自分の手で触れて、知ることがすごく大事だなと。例えば猟をするなら、自分で罠を掛けて仕留めて、殺して、さばいて食べるっていうのを自分でやるわけです。最初は、自分で殺せるようになるまでは、どこか辛い気持ちがあったんですよね。動物が目の前で死んでいくことに対して、可哀想とか痛そうとか。でも自分で殺すと、そこで完全に一対一の、フェアな関係性ができるんですよ。特に罠は生きた状態でかかるので、こっちが可哀想なんて気持ちでいると、こちらの命が危ないんです。その瞬間って、すごくフェアな状態なんですよね。

小倉 つまり千春ちゃんは部外者になりたくなかったということだね。自分の人生だから、自分が部外者になる部分をなるべく少なくしたい、だからちゃんと知りたいと。

畠山 その方が、自分にとって楽なんです。誰かに依存しているとか、負担を強いるのではなくて、自分で責任を取れた方が、自分が生きやすいんですよ。

小倉 性根の優しい人ですね。


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使い続けるごとに、
手に馴染んでいくものを作りたい

小倉 ではmakumoちゃんにも話を聞いていきましょう。もともとはどういうきっかけで始めたんですか?

makumo 「makumo」は、最初は私一人で始めたブランドです。私は昔、切り絵を路上で売りながらフラフラしていた時期があって、ふらりとたどり着いた金沢市で古着屋さんをやることになったんですよ。古着って結構クレイジーな柄が多いので生地を趣味で集めていて、それが布に興味を持ったきっかけなんですけど、だんだん年を経るごとに面白い布が出なくなってきて。だからどうにか自分で面白い柄を作りたいと思って、福岡の実家に戻って、自分の古いコレクションをオークションで売りさばいて資金を作って、シルクスクリーンをできる道具を揃えて始めたブランドなんです。どう売っていくかも初めは本当にぼんやりしてて、とりあえずバックとか布小物を作って売っていたら、百貨店さんに声を掛けていただいて、だんだん広がってきて。アシックスのオニツカタイガーさんとmakumoの布のコラボレーションもさせていただきました。

小倉 僕も今日履いてきてますよ。これ、納豆柄なんです、いいでしょ? まさに僕のためのデザイン(笑) 品切れで全然買えなくて。

makumo そう。履いてくれてありがとう! この靴は、makumoのアトリエでプリントをしたり、染工場や織り工場を探したりと、柄のデザインから布を卸すまでを担当しました。品切れになったのは、makumoのアトリエで染めることができる量に限界があって、そもそも製作した数が少なかったからという理由もあるんですけどね。

小倉 でも、オニツカタイガーとのコラボといったら、makumoとしては一大イベントですよね?

makumo そうなんです。オニツカタイガーの生地を染めまくる業務に追われて、makumoの商品がなくなっちゃって。夫と二人で試行錯誤の繰り返しでした。今はメンバーが増えて、いとしまシェアハウスのメンバーであるパタンナーの方の助けを借りて、3人体制で運営してます。

小倉 千春ちゃんのところから人材を調達したんですね(笑)

makumo ええ(笑) 今はみんなそれぞれ糸島で生活していて、家族も居て、makumoがあることでその生活が豊かになっていったらいいなと思いながら、続けています。

小倉 僕がmakumoをいいなと思ってるところは、全部が等身大ってことですね。特別な才能を持った人のストーリーではなくて、自分の好きなものとかしっくりくるものを追っかけ続けていくうちに、だんだん仲間が増えていって、マーケットができていって、素敵なプロダクトができていったっていう、話の運びに嘘がない感じがして。もちろん、プロダクト自体も魅力的。日本のいわゆる土着っぽい染物っていうよりは軽くて、モダンデザインというよりは土臭くて、不思議なセンスだなと。こういうのは、どこから生まれているんですか?

makumo 古着屋さんをやっていた時からそうなんですが、海外デザインを日本人が飲み込んで日本人らしく作っちゃった感じとかが好きで。

小倉 日本人が一回吸収してアウトプットしたものってことね。タラコスパゲティーみたいな(笑)

makumo そうそう。最初はそういう風に好きな柄を作ってたんですけど、最近は生地に柄を乗せるってことの意味をもっと考えるようになりましたね。

小倉 と言うと?

makumo 本来は人って真っ白な生地のほうが使いやすいはずなんです。でもわざわざそこに柄を乗せるのって何のためなのかなって。白い生地は、使っていけば汚れていくだけだけど、柄があればそれが愛着になっていったりしますよね。使う人にとってしっくりくる、優しいものができたらいいなと思いながら、最近はデザインしています。

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動物のように
危機を察知したら動くべし

小倉 後半はいつものように、来てくださったお客さんからお題をもらって、それにゲストの二人と一緒に答えていきますね。質問ある人、どうぞ!

参加者Aさん 千春さんの自給自足を目指すスタイルは、どこまで極めようと思っているんですか。

畠山 私の今の段階は、依存から一歩抜け出すということなので、完全な自給自足を絶対実現しなくちゃいけないとは思っていないんですよ。太陽光発電のパネル作って、それで携帯を充電したりしていますけど、それは100%自己発電を目指しているというよりは、万が一地震や災害があって全部停電になった時に、自分のところで作れるエネルギーがちょっとでもあれば携帯を充電して、SOSを送れるじゃないですか。そういう、少しでも自分で作る技術を持つってことが大事だと思ってます。

参加者Bさん マクモさんに聞きたいんですが、アーティストとして自分の表現を作品にするのではなく、テキスタイルという手段を採っている意義とか強みってありますか?

makumo 布って生活に欠かせないもので、ただの飾りじゃなくて、もっと身近なものですよね。私が作っているデザインっていうのは、人が使って完成するものだと思ってるんです。デザインをして商品を出したから、それで完成というわけではなくて、その人が使って、例えばクタクタになった状態だとか、汚れてしまった状態もひっくるめてのデザインなのかなと思っています。

小倉 地に足のついた答えですね。

makumo それはね、私がもともとイラストレーターを目指していて、うまく成り立たなかったからだと思います。イラストレーターとして成り立っちゃってたら、完成系のものをお渡しするという仕事の仕方だったかもしれなくて。でも自分の中では、人がいてそのデザインが成り立つっていうものの方が、自分の色が出せる気がしてますね。

参加者Cさん お二方とも、今の仕事を始められたきっかけとなった、最初の一歩がどんな風だったのかを聞きたいです。

畠山 私はよく、自分の人生の事を波乗り人生と言ってるんです。海にプカプカ漂っていると、向こうからすごいでかい波が来る。それは3.11とか、会社の移転とか、本を出版することとかです。大体そういう波って、自分が準備万端で「よしこい!」って時に来るんじゃなくて、自分がもがいて沈まないようにしている時に来るんですよ。それで、「乗らなかったら今の波に巻かれて溺れるな」と思って、とりあえず波に乗ると、その波が遠いところまで自分を運んでくれて、自分が泳いだだけでは届かないようなところに行ける。その繰り返しですね。だから、どんな波が来てもすぐ乗れるようなコンディションに自分を置いておくことを、いつも気をつけていますね。

小倉 なんか動物的な観点ですね。

畠山 自分の力じゃどうにもならないことを知ってから、すごい苦しい時でも「今はこういう波が来てるけど、これはいつかすり抜けていくから、この波は受け流して今は海に浮かんでおこう」という感覚になれて、すごく楽に生きられるようになりましたね。

makumo 私の場合は危機感です。20代から5年間古着屋さんで働いていて、毎日酒飲んで音楽聞いて、めちゃくちゃ楽しかったんですよ。でもふっと気づいた時に、私がやりたいことってなんだっけって思ったんです。絵を描きたいってずっと思ってたはずなのに、もうひたすら楽しい生活を送ってて、このままこの生活が一生続きはしないって思って。やっぱり何か始めないと、そのうち自分が嫌になってくるだろうなと思って、危機感を覚えて衝動的に動いたっていうのが最初です。

小倉 僕は微生物学者で、生き物の研究をしてるんですが、人間って動物としての側面と人間でしかない側面と両方あって。例えばブラック企業で働いてて、毎日20時間ぐらい仕事して、このままだったら死ぬだろうって時に、「いや私はやりたいことがやれているから幸せです」ていうのは脳みその力で、人間だけのものなんですよ。一方で、目とか耳とかのセンサーを使って、何かが起こった時に危険を察知して、自分が生き残るためにすぐにアクションするというのは、動物の側面。それでお二人の場合は、人間の脳みその力が強くなりすぎているから、考える前にまず作ろうとか、行動しようという動物的な感性を、すごく意識的に育てているんだなと感じましたね。

畠山 それはよく言われます。

小倉 僕、ちょっと前から運命の出会いについて考えていて。運命の出会いって、大抵は地味だったりして、これが自分の運命を変えるものだとは気づかない場合が多いですよね。だから、すべての出会いが運命の出会いかもしれないと思うことが重要だなと思って。それを大事にしていれば、自分で決断をしなくても大事なことが自然と選べるようになるんじゃないかなと。僕の理想の生き方は、僕が一人で追い詰められて決断しなくていいぐらい、良い出会いに恵まれているっていう人生なんじゃないかなと、思ってます。

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<モデレーター小倉ヒラクより追伸>
2016年8月から五ヶ月連続で開催したアナバナプラスもこれでいったんおしまい。
第一回目の「感じる感性を鈍らせないこと」で話した「感じること」の大切さが具体的に押し広げられた内容になりました。
ものを作り出しながら、五感で感じること、コミュニティや自然、生命の営みに向き合いながら考え続けること。
これからの暮らしかたのヒントになる言葉がたくさん聞けた素敵なイベントでした。

お越しいただいた皆さまからのアツい質問も毎回最高でした。ゲストの皆さま、参加者の皆さま、ほんとにありがとうございました。


いかがでしたか? 畠山さんとmakumoさんのお二人から感じるのは、危機が迫ってもそれを乗り越えていくポジティブなエネルギーと、一つひとつの作業をきっちりこなしていく生真面目さ。この両極のバランスが、お二人の今の活動を支えているのかもしれません。毎度名調子の小倉ヒラクさんの進行も、今回は内容の充実と相まって、いつもよりさらにグルーヴィー。最終回にふさわしい、特別な一夜となりました。

全5回で展開してきたコトバナプラス、これにて一旦閉幕です。しかし、「アナバナ」と「Rethink Fukuoka Project」は、もちろん今後も続々と展開していきます。どうぞ引き続き、ご注目くださいませ。

 

ReTHINK FUKUOKA PROJECTについて
コミュニケーションや働き方、ライフスタイルに大きな変化をもたらしている福岡。新しい産業やコミュニティ、文化が生まれるイノベーティブでエネルギッシュな街となっています。
そのチカラの根底には、この街に魅力を感じて、自らが発信源となっている企業や人がいます。
ReTHINK FUKUOKA PROJECTは、「ReTHINK FUKUOKA」をテーマに、まったく異なるジャンルで活躍する企業や人々が集い、有機的につながることで新しいこと・ものを生み出すプロジェクトです。


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