インタビュー

3人のキーパーソンが描く、これからの島のカタチ 。「KOSHIKI FISHERMANS Fest」の舞台裏インタビュー

前編の「KOSHIKI FISHERMANS Fest」レポートに引き続き、後半はその舞台裏をお届けします。

このフェスの発起人であり、実行委員を務める山下賢太さん、長浜漁業集落でタカエビ漁を操業する漁師の下野尚登さん、実行委員で人材マネージメントを担当する安藤淳平さんの3名それぞれに、開催翌日にお話を伺うことができました。開催を振り返るとともに、島のこれからについて、思いの丈をお話いただきます。

漁師さんのが見えるイベントを通して甑島産の魚の価値を伝えたい。

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山下賢太さん プロフィール

上甑島生まれ。JRA日本中央競馬会競馬学校を中退したのち、キビナゴ漁船の乗組員を経て京都造形芸術大学デザイン学科地域デザインコースに入学。京都で会社員を務めたのち、「故郷をもっと好きになりたい」と6年前に島に戻る。現在「東シナ海の小さな島ブランド株式会社」代表取締役を務める。

 

Q:「KOSHIKI FISHERMANS Fest」を終えての率直な感想を聞かせてください。

山下さん:まず一番嬉しかったことは、島の漁師さんたちが笑顔でいてくれたことですね。そして来てくれたお客さんたちもみなさん本当に楽しそうにしてくれていて、とにかく感謝の気持ちでいっぱいです。

もちろん島の漁師さんたちの活動を伝えるのに、今回のフェスという形が本当に正しかったのかどうか、その評価が問われるのはこれからだと思うんですけど、でもこれだけは自信をもって言えますが、会場での漁師さんとお客さんたちの笑顔だけは「本当の時間」だったと思います。

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Q:そもそもこのイベントを企画したのはなぜですか?

山下さん:僕自身、島に戻って来てから、島の風景や暮らしに直結する仕事ができないかと模索していました。やっぱり第一次産業が元気な町は暮らしが豊かだと思うんです。美しい水田や棚田があって、漁師さんたちが毎日いきいきと漁に出て行く、この甑島にはそういう風景が似合うと思うんです。ただその一方で、一度島外で暮らした経験があるからこそ感じる疑問もあって。

例えば マーケットの動向で昨日と今日の値段が大きく変わるので、消費者はその価値ではなく値段で判断してしまいがちです。また農作物においては小売店などで生産者の顔が見える販売が行われていますが、鮮魚にはそれがない。だからこそ漁師さんたちの顔が見えて、話を聞く事のできるイベントをやりたかったんです。そうすることでこの島で水揚げされる魚の価値を直接的にお客様に伝えられますから。

Q:初めての開催ということで、苦労はありましたか?

山下さん:苦労と表現する苦労は特になかったんですけど、漁師でもない自分が漁師が主役のイベントを開催したいと言った当初、島のみんなはピンと来なかったと思うんです。あたりまえですよね、自分は豆腐屋だし、漁船はおろか釣り竿さえも持ってないんですから。

でも島に帰ってきて6年間の中で、島の現実を肌で感じる事が多かったんです。例えば若い人が島外に流出してることで島に元気がないとか。他にもありますが、そういう島全体の雰囲気を変えられる何かが欲しかったんです。だからイベントの企画から開催までというより、「イベントをしたい」と声を上げるまでの方が僕にとっては苦しかったですね。でもその苦労もこのイベントが実現した事で今まで絵空事だった想いがカタチになって、未来につながるのかなと感じています。

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来場者に、力を込めてイベント開催への想いを伝えます

Q:これからの甑島にどのような未来を描いていますか?

山下さん:もちろんこれからも島だからこそできることに光を当てて行く活動をしていきたいと思います。でもそれには自分たちだけではダメなんです。そこには内外を問わず島を想ってくれる人の協力も不可欠なわけで。そのような人々が主体的に関わってくれることでこれまで見えなかった新しい島の可能性を掘り起こしてくれるのではないかと期待しています。

そのためにもまずは僕自身が前向きに生きる姿を示して行きたい。まるで空気清浄機のように。まずは自分の周りからよりよい空気の循環が起きればいいなと(笑)。そしてそこから周囲に広がり、最終的には島全体に浸透するのが理想です。「島で仕事をしてよかった」「島に暮らしてよかった」。島に関わるみんながそう思ってくれると嬉しく思います。

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お客さんたちに混ざり、キビナゴ片手に会場を見守ります

 

イベントを通して「漁師ってカッコいい」というイメージをPRしてくれたことは素直にうれしいです。

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下野尚登さん プロフィール

鹿児島県甑島漁業協同組合・長浜漁業集落でタカエビ漁船を操業。タカエビの商品開発における取り組みが地域活性化の手本となると評価され、平成27年度内閣総理大臣賞を受賞した。

Q :今回のフェスに参加することに決めた理由を教えてください。

下野さん:5年前に山下商店の賢太君が地域雇用創造協議会という地域おこしのセミナーで講師として、島に対する想いや可能性について語ってくれたことがきっかけで知り合いました。島で豆腐屋を始めた話を聞いて、「若手でやる気のある奴がいるなぁ」とね。

その後、SNSや電話などでの交流を続けていたんですけど、2ヶ月前に彼が「漁師にスポットを当てたイベントをやりたいので協力してほしい」と言ってきたんです。島の漁師として思うことを話して欲しいとね。

正直私なんかでいいのかと思ったんですが、これまでの私の取り組みなどを賢太君は見ていてくれたみたいで。「下野さんじゃないとダメなんです」と言ってくれて。それで私も参加を決めました。僕は主に島の漁師と実行委員会の架け橋役を務めました。漁師はシャイですから、なかなか自分たちから出向くってことをしづらいんです。まぁ僕は長老のような存在なので、みんなに声をかけることはできますからね。

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Q:イベントの良かった点、「もう少しこうした方が」という点があれば率直にお聞かせください。

下野さん:漁師っていうのは情報発信が苦手なんですよね。何かアクションを起こさないといけないのは分かっているのに、その手段が思い浮かばない。その点賢太君の企画力や情報発信力は素晴らしいものがあります。私らでは正直思いもよらなかったですよ。でも彼は形にして、発信し続けてくれて、島の外からこれだけの人を集めてくれたんです。

このイベントを通して「漁師ってカッコいい」というイメージをPRしてくれたことは素直にうれしいですね。ただ今回は第1回目ということもあり、島の住民の参加が少なかったように思います。今後はもっと地域のみんなを巻き込んで、島の内外の人々が一緒に盛り上がるイベントになってくれればと思います。

Q:下野さんは今回の取り組みを通して何か発見はありましたか?

下野さん:やっぱり島の人間にもっともっと参加してもらいたいなとあらためて思いますね。こういうイベントを仕掛けようとしている姿を遠巻きに見て「あぁ、何かやってるな」ではなく、その中に入って取り組むことで何ができるのかを一緒に摸索できればいいと感じました。特にうちの若い漁師たちも、賢太くんや実行委員の方々から大いに刺激を受けて欲しいと思います。それが次のステップなのかなと。

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島外から来た学生さんに、島の魅力を伝えます

Q:これからの島の漁業はどのようになって欲しいとお考えですか?

下野さん:とにかく“稼げる”漁師になってほしいと思います。 稼げると自信もつくし、その自信が人に「カッコいい」と思わせることができるんです。若手にはそんな漁師を目指してほしいと思っています。そういう稼げる、カッコいい漁師が島に増えるためには売り方も大事ですから、そこを賢太君のような子と協力して実践していってもらいたいですね。

もちろん失敗もあると思います。壁にぶつかることもあるでしょう。でもそれは若さですから、恐れてはいけません。もちろん年配者の私たちもフォローします。これからの島の若者にはどんどん進んでいってもらいたいですね。

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大抽選会にて、新鮮なタカエビを贈呈してくださいました

 

島外の人が関係者として長期的に島に携わってもらうことが重要だと思うんです。

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安藤淳平さん プロフィール

福島県郡山市出身。都市計画コンサルティング企業にて経験を積んだのち、鹿児島県に移住。自身の経験をもとに鹿児島移住計画を立ち上げ、鹿児島県内各地で地域と人財の関係づくりを行う。一般社団法人鹿児島天文館総合研究所Ten-Lab理事も務める。

 

Q:今回のイベントにおける安藤さんの役割はどのようなものなのでしょうか?

安藤さん:僕は鹿児島市内でまちづくりに関わる仕事をしているのですが、その中で山下さんと出会い、島のことをいろいろと お手伝いしています。今回のイベントではいかに島外からサポートメンバーを集めて来られるかというミッションがありました。島の外の人が関係者としてイベントに携わる事で島に新しい変化が起きるかもしれませんから。そうやって島の中に多様性を生み出すために、僕は島外からの人を集めて、島の人と繋ぐ役割を行っています。

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Q:イベント運営で安藤さんが心がけたことはどんなことですか?

安藤さん:島内だから、島外だからというのではなく、いろいろな人が関係者として長期的に島に携わってもらうことが重要だと思うんです。今回、スタッフのほとんどは島外から参加してくれましたが、「こうしなきゃいけない」というプレッシャーがあっては長続きしません。チームには自主的に参加をしてほしいですから、なるべく負荷に感じてもらいたくなかった。

なので、チームへの出入りは自由にしました。もちろんそれぞれに事情もありますから、島への関わりから少し遠ざかってしまうこともあると思います。でもいつでも戻って来られる環境を用意することを心がけました。

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イベントの合間に釣りを楽しむスタッフたち。フランクな関係だからこそ、自然体でいることができます

Q:これから島に関わる人が増えるためには、どのような事が必要だと思いますか?

安藤さん:島に色々な働き方の選択肢が増えればいいなと思います。そうなれば島出身者でもUターンしやすいですし、移住者も増える。そうすると生き方の選択肢も広がっていくのではないでしょうか。

たくさんの人たちが島に惹かれてこの風景を大切に守りながら島で生きていく。そしてさらに次の世代へとこの島の豊かさを受け継いでいってくれるといいですね。

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フェスの翌日、島を離れるお客様をスタッフ一同、漁船に乗り込みお見送りします

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フェリーから手を振るお客様

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山下さんも旗を振って全力で見送っていました。船の別れってなんでこんなに切ないんだろう

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そして、最後はお約束?の飛び込みでずぶ濡れになってお見送りしました

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一人の若者の島を想う気持ちが、今回様々な人たちを動かし、イベントという形で結実しました。もちろんこれで何かが具体的に解決されたわけではありません。高い比率で高齢化は進み、就業人口数は下がり続ける一方です。実際に島を歩いてみると一部の住民からは「空き家を他人に貸したくない」などの排他的な声やイベントの事を「知らないから」「聞いてないから」と島で起き上がった新しい動きを他人事として捉える人も聞こえてきました。

確かに今ある生活に波風を起こす事を嫌う人もいるかもしれません。しかし島を豊かにするには山下さんや下野さんのように声を上げる人も必要なのだと思います。実際、彼の周りに集う人たちは県外の人の方が多いのが現状です。たとえ今はそうでも、このような取り組みを続ける事でいずれは島の人々がいろんなところから手を挙げる未来がくるのではないかと感じます。

「今は、雑草で荒れたような道を進むしかないんです。それでも一緒に手を取り、後ろを歩いてきてくれる人たちがいるからこそ、道はならされて行くと思います。できる理由を積み上げて行くこと、それだけです」。そう語る山下さんの目は力強さに溢れていました。そしてそれ以上に、彼を囲む人たちの表情は、まるで甑島の新鮮な魚のように、活き活きと輝いていました。

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(文/下原宗総、写真/田村昌士)


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