ReTHINK FUKUOKA PROJECT レポートvol.20
アナバナではReTHINK FUKUOKA PROJECTの取材と発信をお手伝いしています。
いつもと違う景色や現地の人との交わりは、アイデアを生み出すきっかけになったり、困難に向き合うために背中を押してくれたり。あるいは、異国の地で味わう心地良い孤独感が自分と向き合う時間を育んでくれるなど、受ける影響は人それぞれです。この「タビ」という非日常を、日常、つまり仕事に変えてしまった人々がいます。それが今回のゲスト、自転車で世界一周中の冒険家・西野旅峰さんと日本ワーキングホリデー協会九州統括の藤田逸郎さん。モデレーターは、2017年に世界一周の武者修行を控えている大学生の新福剣士さんと学生起業家の松口健司さんの学生コンビが登場。世界を股にかけたゲストのお二人による旅への思いや壮絶な海外体験記をお聞きして、「働く」と「タビ」の関係をReTHINKしましょう。
「タビ」とは「生き方」である
海外での経験こそが人生の分岐点だった
松口 今回のテーマはミライの働く・タビというテーマです。早速ですが、西野さんは自転車に乗って旅をしていらっしゃったんですよね?
西野 僕は自転車に乗って世界一周の旅を“している”途中です。まだ成し遂げた訳じゃありません。今まで、26歳の時の南米大陸自転車横断に始まって、北南米縦断、そして昨年ヨーロッパ・アフリカ縦断を終えました。残すは最終ステージ、アジアとオセアニアが残っていますので、今は日本に一時帰国中。僕の信条は、「厳しい所を厳しい時期に旅をする」です。例えば、マイナス60℃に達する厳冬期のアラスカは、-45℃くらいになると、自分が吐いた息が眼の前で白く凍るんですよ。その逆に、脳みそがグツグツ沸騰するような暑い所にも行きました。日陰で54℃、直射日光だと70℃を超えてくるんですけど、モノの輪郭が2重3重になって、まともな思考ができなくなります。これが気持ちいいんですね(笑)
松口 僕も旅が好きでいろんな人の話を聞くのですが、ここまでドMな方はいないなと(笑)。では次は、藤田さんに現在のお話をお聞きしたいと思います。
藤田 西野さんほどの変態的なエピソードの後にすごく話しづらいんですけど(笑)。私は日本ワーキングホリデー協会で仕事をしています。ワーキングホリデーも言ってみれば旅の一つで、18〜30歳までの方が協定を結んでいる国で自由に生活ができるというシステムです。私自身も15年前にオーストラリアに行きましたが、そこで人生が変わりました。なので海外へ行きたいと思う人のために何かしたいと、海外とつながるカフェをコンセプトにした「Manly」というお店をやっています。
松口 お二人とも仕事としての「タビ」ですよね。そこで、「タビをする働き方」というテーマについてお聞きしたいです。
西野 どんな分野でも、その道の第一人者になれば食べていけると思います。ただし、僕にとっての「タビ」は、働き方ではなく、「生き方」なんです。どんなすごい経験ができるか、そしてどんな学びを得て生きていけるかですね。
藤田 僕はもともとこの仕事に就くとは思っていませんでした。実際に英語を使って仕事をしたいという人がいますが、これは誰にでもできるんですよ。ワーキングホリデーは、留学に比べてコストが安く、海外で働くという経験も積める。未来を楽しくするために、「あの時があったから良かったなあ」という体験を海外で見つけて欲しい。
新福 僕はやりたい事を仕事にして食べて行きたい。世界中を回って宝物を置いてくるとか、面白い事をやりたいですね。
松口 新福さんは来年世界一周旅行に行くんですよね?
新福 そうです。旅をコンテンツとして扱う「TABIPPO」という会社のコンテストに応募して、そこでプレゼンをして優勝しました。「世界のお祭り男になる」というテーマで。現地のリアルな状況を伝えたい。
松口 実は新福さん、海外未体験なんですよね。
新福 そうです。海外童貞なのに、いきなり世界一周(笑)。あえて何も知らないまま行って、現地の空気を感じたいですね。
おもろい旅の話のつもりが…
命の危険を感じるアラスカでの体験にゾクゾク!
松口 次は、「これまでに経験したおもろい話」がテーマです。さっきバックヤードでめちゃめちゃ盛り上がりましたよね。
藤田 英語が話せなくて、税関でYESしか言わなかったら止められたり、インドに行った時にブッダが悟りを開いた沙羅双樹の木に近づこうとしてボコボコにされる寸前まで?。まあ色々あります。あと、私が筑紫野市にいた頃に付き合っていた元カノと西田さんがブエノスアイレスで出会ったそうで。
西田 向こうは「知人」と言ってました(笑)。僕は、最初に話した凍傷の話ですね。—25℃までは割と平気なんですよ。-35℃からは命の危険を感じます。寒さが細胞をこじ開けて自分の命に迫ってくるような感じ。-45℃を超えると、息が凍って呼吸ができない。指の先端も真っ白で何も感じない。指の氷を溶かすのが本当に痛い!こんな所で指を失くすなんてと初めて後悔しました。その時宿で一緒だった人に、「死んだ時に遺体を日本まで送るお金を持っていないなら旅を辞めた方がいい」と言われて、とても怖くなったのを覚えています。ちなみに、アラスカから日本へ遺体を運ぶのは約500万、アフリカでマラリアにかかった事もあるんですが、アフリカから遺体を輸送するのって約1千万かかるそうです。これが面白い話ですかね(笑)
松口 藤田 新福 いやいや、全然笑えません…。
相手の文化をどれだけ知ることができるか。
旅先での経験が今後の日本を救うかも!?
松口 最後にお聞きしたいのですが、「これからの社会でタビをする魅力」について。「タビ」って、どんな意味を持つのでしょう?
西田 「タビ」を仕事にする場合、その働き方に関しては様々な可能性が広がると思います。今では旅先からリアルタイムで、しかもきれいな映像でいろいろな人に発信できる。でも、携帯があるからこその問題点もあると思う。僕は旅に出る時携帯を持たずに野宿しています。マイナーなルートだと、周囲何百kmに人がいないこともある。外界との接触を絶って孤独を突き詰めていくと、人との距離を近く感じるんです。自分の内面を深く掘り下げるほど、今まで色々な人が僕を支えてくれた事を思い出す。それがあるから、旅に出る事ができる。
松口 意図的に孤独な状況を作った方がいいのでしょうか。誰かと一緒に「タビ」に出る事はないのですか?
西田 自分の命を守るので精一杯なので。一緒に行ってくれる人がいないのもありますが。
新福 僕は逆にチームで行きたい。寂しがり屋だから。世界一周には写真と映像ができる人も一緒に同行します。
藤田 僕は、旅に出るより、旅人を受け入れる側として日本が変わっていかなければと思っています。今、日本を訪れる外国人は年間2000万人くらい。海外の旅行客を受け入れる事も経済の発展につながるため、国の政策として2020年までに訪日客年間4000万人を目指しています。そうなると英語の需要が高まり、英語を話せる人が今の4倍は必要になると言われています。でも実際に英語を使って働くとなると、言葉だけではなく「相手の文化をどれだけ知ることができるか」が大事。文化が分からなければ、接客すらできないですよね。留学もワーキングホリデーも旅も全部一緒なのですが、他国の文化をしっかり吸収して、日本で働くために使って欲しい。今は手続きも簡単だし、ワーキングホリデーを利用する人を増やして、日本を変えたいですね。
松口 なるほど。最後に世界一周に旅立つ新福君、何かお二人に質問は?
新福 二人の最終目標って何ですか?
藤田 ワーキングホリデー協会の活動を通して、20年後、日本が変わってきた時に「自分がそのきっかけになったんだ」って言いたいですね。
西田 僕は旅に出ていた時、泣いている子ども達を笑顔に変えていくのが好きだと気付きました。だから、世界中の子どもの泣いている顔、その後の笑顔を発信していきたい。僕にとって未知の領域であるジャーナリズムに携わりたいと考えています。
新福 今日お二人に出会えた事もですが、僕は自分の可能性を広げてくれるのが「タビ」だと思う。いろんな人と出会って、未知の可能性を広げる一番身近な手段。これからもそんな「タビ」を続けていきたいと思います。
藤田 いくつになっても旅はできるもの。ぜひ海外に飛び出して、未来につながるような「タビ」をして欲しいですね。
西田 僕にとっては、どこにいようと自分にとっての発見があるなら「タビ」です。国内に居ても世界のニュースに目を向けて、感受性を研ぎ澄ませて次の「タビ」への準備をしていきたいし、子ども達にそんな姿を見せていきたい。それが、今まで支えてくれた人々への恩返しになると思います。
松口 「タビ」自体の魅力というよりも、「タビ」を通して自分を見つめ、今後を考えるきっかけになるようなお話でした。皆さんもぜひ考えてみてはいかがでしょう?
時には、笑える失敗談や日本の社会問題を経由しながら、それぞれが考える未来の話へ。まるで行先の決まっていない列車のようなトークは、世界一周を控えた新福さんをはじめ、会場中の人に勇気を与えてくれたよう。ホームをただ離れるだけではなく、そこで自分の価値観を変える出来事に巡り合い、今後の行く末を見つめ直すのが“タビ”の醍醐味。だからこそ、多くの人々が魅了されるのでしょう。皆さんの旅路はどこへ行くのか、ぜひReTHINKしてみては。
ReTHINK FUKUOKA PROJECTについて
コミュニケーションや働き方、ライフスタイルに大きな変化をもたらしている福岡。新しい産業やコミュニティ、文化が生まれるイノベーティブでエネルギッシュな街となっています。
そのチカラの根底には、この街に魅力を感じて、自らが発信源となっている企業や人がいます。
ReTHINK FUKUOKA PROJECTは、「ReTHINK FUKUOKA」をテーマに、まったく異なるジャンルで活躍する企業や人々が集い、有機的につながることで新しいこと・ものを生み出すプロジェクトです。