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美味しいだけじゃ、つまらない!? manu coffee西岡さんと伊藤総研さんが考える、 コーヒー屋が“もっと”街にできること

ReTHINK FUKUOKA PROJECT レポートvol.18

アナバナではReTHINK FUKUOKA PROJECTの取材と発信をお手伝いしています。


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世界トップレベルのバリスタや焙煎士が県内各地で店を構え、高いレベルを誇る福岡のコーヒーシーン。その中でも、サードウェーブ系コーヒー店の旗手として、シーンを10年以上にわたって牽引してきたのが、manu coffeeです。今回のReTHINK FUKUOKA PROJECTは、そんなmanu coffeeのオーナー・西岡総伸(そうし)さんがゲスト。お相手は、雑誌BRUTUSや広告・映像制作等で幅広く活躍する編集者・伊藤総研さん。福岡のコーヒーネットワークをつなぐClick Coffee Works主催の古賀由美子さんをホスト役として、「コーヒー×ソーシャル 〜コーヒー屋が街にコミットできること〜」をテーマにトークが行われました。

今年3月にオープンさせた承天寺店も好評のmanu coffee。オーナーの西岡さんもノリに乗っているかと思いきや、トップランナーゆえの迷いもあるようで……。満員御礼となった9月3日(土)のトークの模様を、一部抜粋してお伝えします!


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不安で家に帰りたくない人が
集まって安心できるコーヒー屋


古賀 今日はまず、コーヒー屋の価値ってなんだろうというところから、始めたいと思います。西岡さんは、コーヒー屋の価値をどう考えてますか?

西岡 うーん、まず第一に、コーヒーの美味しさをちゃんと伝えていくことですよね。

伊藤 素人質問ですけど、manu coffeeの味の特徴ってどんなもの? 何を飲んだら、manu coffee“らしさ”が良くわかるの?

西岡 エスプレッソでしょうね。うちのエスプレッソは5種類の豆を使っていて、それぞれに焙煎を加減して組み合わせています。例えば、味の骨格を作る豆は、しっかり火を通して味わいを出す、とか。ラテの場合は、ミルクの温度と量をそこに合わせて調整して、多くの人にとって飲みやすい味にしてます。

伊藤 確かに、僕もmanu coffeeのラテは好き。5つ並べて味見しても、manu coffeeのラテだってわかるくらい、特徴あるよね。

古賀 manu coffeeのコーヒーはもちろん美味しいけど、西岡さんがやろうとしているのは、味の追求だけじゃないよね? 例えば太宰府にある「蘭館」は、地域密着型の喫茶店で、地元の人も観光客も立ち寄る地域の公民館みたいなお店なんです。コーヒー屋さんが、観光資源になったり、地域の価値を上げたりといったこともできるんだと思える存在で。

伊藤 観光資源……。でも、福岡はコーヒー豆の産地ではないわけだし、どこにいっても飲めるコーヒーってものが、福岡独自の観光資源になるのかな?

西岡 例えば、海外に行ったら、コーヒーショップとかホテルのロビーでコーヒーを飲みながら、今日はどこに行こうかな、何しようかなと考えますよね。コーヒーがある場所は、観光拠点になるというか。

古賀 福岡に個性のあるコーヒー屋が集まってたら、それだけでも行ってみようという人はいるんじゃないかと。

伊藤 なるほど。コーヒーは世界中で供給できる、いわば共通言語だから、特色を持ったコーヒー屋は街の価値になるのかもね。こういうことを考え出したきっかけは何だったの?

西岡 僕がまだ春吉店に立っていた2005年に、福岡県西方沖地震があって。最初は、こんな時に店開けるのもどうかなと思ってたんですが、常連の子たちが家に帰るのを不安がって、店に集まってくるんですよ。それで結局1日営業して。その時、コーヒー屋がコーヒー以上に提供できる何かがあるんじゃないか、って思ったんです。それから、音楽のイベントをやったり、アーティストの作品を飾ったり、店でできることをいろいろ試し始めて。まだ手探り状態だから、完成とは言えないんですけど。

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manu coffeeは出会いの場!?
結婚したカップルが3組


伊藤 今福岡は、コーヒー屋さんの出店ラッシュだよね。福岡に来るたびに、新しい店ができてる。そんな状況はどう見てるの?

西岡 いい店もあるし、それをやりたいならコーヒーじゃなくてもいいんじゃない?って思う店もあります。業界が盛り上がること自体は、いいことだと思いますけどね。

伊藤 よくない店って、どんな店のこと?

西岡 自己満足型の店ってことですかね。お客さんの価値を中心に展開してない店。

伊藤 西岡くんは、この先どんな店を作っていきたいの?

西岡 んー……。今はちょっとわかんなくなって、ドン詰まってるんですよね。

古賀 店にもっと明確な機能が欲しいって、よく言ってるよね。

伊藤 機能?

西岡 例えば、manu coffeeの常連どうしで出会って、その後結婚したカップルが、3組いるんですよ。

(会場から拍手が起こる)

古賀 それが、コーヒー屋が街に果たした、わかりやすい機能ってこと?

西岡 そう。そういう明確な手応えが、最近つかめなくて。僕が店に立ってた時は、そういうことがしやすかったんです。でも、組織として拡大して、僕が現場に立たなくなると、難しくなって。

伊藤 小さいまま、個人店の規模を守ってたほうがよかったってこと?

西岡 でも規模が小さいと、いい状態の生豆を安定的に仕入れるのが難しくなるんですよ。従業員の給料をちゃんと払ったり、経営を安定させるには、ある程度の規模は必要だから。

伊藤 じゃあ今のサイズ感ぐらいが、ちょうどいいんじゃない?

西岡 そうなんですけどね……。サイズより、密度というのかな。接客だって、もっとお客さんのために動けると思うんですよ。コーヒーの味の技術的なトレーニングはできるけど、人のトレーニングって僕にはできないから。

伊藤 でも、manu coffeeのスタッフは素敵な人が多いと思うけど。

西岡 僕もそう思いますよ! スタッフが僕みたいのばっかりだったら、お店が回ってないですよ。

(会場 笑)

伊藤 西岡くんの悩みがよくわかんないなぁ(笑)。きっと美味しいコーヒーを提供するだけじゃ物足りない、飽くなき探求が、あるんだろうね。

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いいコーヒー屋には
“美味しそう”を誘発する何かがある

古賀 西岡さんは、コーヒーで街をデザインするってことがやりたいって、言ってたでしょ? それはどういうこと?

西岡 今manu coffeeは4店舗あって、あと1店を国体通りと那珂川が交差するあたりに出したいなと思ってて。この5店を地図に置いて繋いでみると、鶴が待っているような図形になるでしょ。舞鶴大作戦って呼んでるんですけど(笑)。この三角形に囲まれている人たちは、うちのコーヒーをたくさん飲んできてくれた人たちなんですよ。manu coffeeは、店内で福岡のアーティストや音楽を紹介したりして、店を通じて一つの動きを作ろうとしてて。それを人に伝えていって、福岡の街にあのコーヒー屋があってよかったねって言われるようになれたら嬉しいなと。

伊藤 なるほど。でもそれって、もうできてるんでじゃない? 

西岡 そうですかね? 

伊藤 うん、そう思うよ。僕はグルメじゃないから、コーヒーの味の細かい違いはわからない。でもそれって、他の大多数の人もそうだと思うんだよね。コーヒーのプロが感じる“美味しい”と、僕らのレベルで感じる“美味しい”は、結構違うから。それでも、お客さんはmanu coffeeが美味しいコーヒー屋だというイメージを持って来てるわけでしょ。ってことは、味そのものとは違う部分で、“美味しそう”を誘発する何かを、manu coffeeがすでに作れてるってことだよね。

西岡 ですかね……。

伊藤 納得してないな(笑)  

西岡 ちなみに、聞いてみたかったんですけど、総研さんだったら福岡でどんなコーヒー屋をやりたいですか? 

伊藤 コーヒースタンドかな。日常に溶け込んでて、さっと飲みに寄る感じの、タバコ屋みたいな店。須崎公園あたりの、ちょっと抜けた感じのエリアでのんびりやりたいね。

西岡 いいですね、それ。参考にします(笑)

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いかがでしたか? 味への追求はもちろん、店の周辺環境や内装、オリジナルのカップ、店内の音楽やグラフィティまで、manu coffeeにはいつも細部にまでこだわった一貫性が感じられます。しかし、それを率いる西岡さんは、常にいろんな葛藤を抱えながら進んできたのかもしれません。クリエイティブな活動を続ける人の本音がうかがえる、貴重な回となりました。

Click Coffee Worksが主催する、「コーヒー×〇〇」をテーマにしたトークは、まだまだ続いていきます。さて次は、どんなゲストの本音が聞けるのか、「ReTHINK FUKUOKA PROJECT」の今後の展開にも、どうぞご期待下さい。

 

ReTHINK FUKUOKA PROJECTについて
コミュニケーションや働き方、ライフスタイルに大きな変化をもたらしている福岡。新しい産業やコミュニティ、文化が生まれるイノベーティブでエネルギッシュな街となっています。
そのチカラの根底には、この街に魅力を感じて、自らが発信源となっている企業や人がいます。
ReTHINK FUKUOKA PROJECTは、「ReTHINK FUKUOKA」をテーマに、まったく異なるジャンルで活躍する企業や人々が集い、有機的につながることで新しいこと・ものを生み出すプロジェクトです。


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