海も山も近く、風土豊かな糸島。都心部からのアクセスが良く、新鮮な食材を気軽に調達できる福岡県自慢の土地のひとつです。
その糸島の食を支える”農“が堪能できるビュッフェスタイルのフードイベント「糸島ファーマーズキッチン」にお邪魔しました。
会場は福岡市にあるウエディングホールの天神モノリス。実はこのイベント、糸島市と一般社団法人アグリフューチャージャパン(日本農業経営大学校) による「糸島農業経営塾」の最終課題として企画されたもの。塾生の農産物とそのお料理をいただきながら、それぞれの立場から、農業に対する考えなどをうかがことができました。その時のようすをご紹介します。
「自信と誇りを持った農産物と生産者の想いを料理にした“糸島”を堪能してください」と糸島月形市長の挨拶からスタートした今回のイベント。
その主役となった「糸島農業経営塾」とはなんでしょう?
この塾は、糸島市での就農者を対象に、生産物をどんな風に作り、どのような形で売っていくのかを学ぶ場として平成26年から開催されています。その「糸島農業経営塾」の塾生たちが中心となって企画されたのがこの糸島ファーマーズキッチンなんです。さらにウエディングホールなんてとてもよそ行きな場所での開催にもわけがありました。
糸島ファーマーズたちが目指す未来とは
糸島の食材は“質”が良く、今や“糸島ブランド”として全国区の知名度になりました。福岡市内でも“糸島”をメニューの謳い文句にしている飲食店は多く、気軽に食べる機会が確実に増え続けています。でも、私たちが生産者と接することってほとんどありません。そしてそれは生産者側も同じ状況です。
これからの農業は「生産物」をどう売りたいのか、いわゆる「経営」を意識し、販路やネットワークを生産者自身が能動的に切り開いて行くことが求められる時代です。生産者がただ農作物を作り市場に卸すだけに満足せず「消費者に届ける」ということを意識することで糸島の農業全体の底上げに繋げることがこの塾の目標です。
生産物を市場や直売所、飲食店に卸すことが多い農家さんが、料理人や消費者と密なコミュニケーションを取る事はまれです。そこで、農産物だけではなく生産者自らが、「消費」する側へサービスを実践する”最終課題”をイベントにしたのが今回の糸島ファーマーズキッチンでした。
会場は結婚式場というのもポイントでした。
ウエディングホールのスタッフはいわば接客のプロ中のプロです。シェフが食材をどんな視点で見ているのか、ホールスタッフはどんな風に料理をお客様へサーブするのかをこの会場で感じることができます。
そして、学ぶ側の生産者たちも食材のプロ。このイベントではそんなプロ達が集まり、来場客である消費者を通してお互いに学び合う場になってほしいとの願いもあるようです。
料理は“作り手”を知る事で確実においしくなる
まずは会場にずらりと並んだビュフェメニューの一部をご紹介します。
目にも鮮度が伝わってくる野菜たちは“中村さんの爽風ドレッシング”をかけていただきます。糸島の食材と自家栽培の野菜で出来たドレッシングはフレッシュな野菜と相性抜群です。
ネギの中を泳いでいるような真鯛のカルパッチョ。もちろん青ネギが主役です。これでもか、というほどのネギですが食べてみると甘みがあって淡白な鯛と調和しています。いとしおわかめがまろやかにしているのでしょうか。
“松崎さんの百笑納豆をつかったピザ”は。大粒の納豆が具だけでなく生地の中にもたっぷりと入っています。切り分ける直前で大葉を散らすという、ちょっとした気遣いで料理が華やかで風味豊かに変身します。
シェフいわく、「発酵調味料として納豆を使ったら美味しい和風のピザになるんじゃないか」とひらめいたのだそう。それにしても溢れんばかりの納豆ですが、大粒だからか大豆そのものの味が濃厚です。
いよいよメインデッシュ。作り手の“想い”とともに早い者勝ちの争奪戦!
みるみるうちに料理がなくなっていく会場には、いよいよメイン料理が登場します。
生産者さん自慢の農作物を活かした料理を目の前に、素材や自身の就農スタイルのプレゼンテーションがついてきます。生産者の後に、シェフが食材をどのような発想で料理にしたのかも紹介します。お話しを聞きながらお料理を味わえるとは、贅沢です。
ご夫婦でプレゼンテーションをされたのは野菜やトラキさん。
まずは旦那さんが簡単に自己紹介した後、早々に奥さんへとバトンタッチします。トラキさんは旦那さんが畑で野菜を作って、奥さんが外で売るという農業スタイル。脱サラして野菜を作りたいと言い始めた旦那さんのことや、現在の分業スタイルにたどり着くまでの葛藤をとつとつと語る奥さん。この時ばかりは会場の女性たちが今まで以上に真剣に耳を傾けていたように思います。
農作物の紹介から就農スタイルまで、プレゼンの内容も様々。食材にまつわる話は目の前の料理をより魅力あるものへと変身させる最後のスパイスとなり計7品ものお皿は瞬く間になくなりました。作り手の人柄がそのまま野菜にも反映されているかのようなストーリーを持った贅沢なメインデッシュの数々です。
旬の甘みがある野菜だと好き嫌いなくもりもり食べるんですね。女の子たちは争奪戦だったデザート”松末さんの紅ほっぺを使ったアイスクリーム“をしっかりゲット。食いしん坊な大人たちに負けてなんていられません!
糸島の魅力は“食”を支えるファーマーズの“姿勢”にある
イベントで「料理人の視点からどのように自分の野菜が捉えられているのかを知る良い機会になった」と卯(うさぎ)農園の三角さん。鳥越さんは実は就農前から塾生になったのだとか。元々みかん農家を実家に持つ旦那さんと結婚し、家業の手伝いや主婦業の傍らオリーブを栽培するためにこつこつと再墾しているそうです。
このように様々なスタイルで農業に関わっている塾生たち。その門徒の広さとゆるやかな繋がりで楽しんで活動しているようにも見えました。
彼らが作る“糸島ブランド”の魅力はその土地への吸引力にも直結していると改めて感じました。
生産物の質はいわずもがな、“作り手”としての向上心といった“姿勢”が地道な活動の中で知られるようになったからではないでしょうか。
糸島に移住して野菜のおいしさに目覚めたという参加者の方が「いつも食べている糸島野菜のよそゆきの姿を堪能できて嬉しい。これを入り口に糸島の野菜から生産者の顔を知る楽しさが広がってほしい」とおっしゃっていました。
他にも脱サラして就農する時の覚悟や農作物への想いなど、スーパーで野菜を買うだけだと聴くことのない話を知れて面白かったとの声もありました。
「糸島ファーマーズキッチンは塾としての集大成ですが、ここを通過点として、糸島の”農”をもっとおもしろくしていきたい」とcamo greenfarmの加茂さん。東京を拠点とするアグリフューチャージャパンの担当、岡部さんがまず糸島をこの事業の場所に選んだ理由として、九州の「農」が元気なこと、中でも糸島は農家の規模に関係なく農業者たちの行動力とパワーを感じると、理由に挙げてくれました。
ただ、糸島だからというだけではこれほどの食のイベントは成り立たちません。
もちろん「行政」だけでも「農家」だけでも難しいでしょう。
糸島市という「官」と天神モノリスとアグリフューチャージャパンの「民」、そして生産者の向上心が一体となり、今回のファーマーズキッチンが成功したのだと加茂さんも岡部さんもおっしゃいました。
作り手が誇りと自信を持ち、良い物を提供していくことをお互いに日々、意識し合っていること。
そしてその努力を楽しむ横のつながりが糸島ブランドを下支えしていると実感したイベントでした。
糸島ファーマーズの今後も目が離せませんね。
そして 次回のファーマーズキッチンではメインデッシュをしっかりゲットしたいとあらためて思いました。
<とよだあやこ>