ミュージシャンの平井正也さんに会いました(後編)
東日本大震災をきっかけに、家族で熊本の南関町に移り住んだミュージシャンの平井正也さん。
移住先で奥さまと雑貨屋を営み、この春には「はるかぜ2013」というロックフェスティバルを開催予定だ。
いつでも「楽しく生きる」がキーワード。そんなふうに、ポップに生きる平井さんを訪ねた。
僕らが新しい「かぜ」を生みだすきっかけが、このイベントです
この春「はるかぜ2013」と名づけられたロック・フェスティバルを開催するべく奮闘中の平井さん。ここにいたるまでも、震災後からのさまざまな経緯があった。
バンド“ マーガレットズロース ”で活動を続けてきた平井さんにとって、仲間と原子力発電や放射能についての考えを共有できなかったことも大きかった。
「正直、もう解散するしかないと思いました」
未曾有の大震災と原発事故という極限状態のなかで、ミュージシャンとして自分は何ができるのかを見失ってしまった時期もあったという。
「東京でもチャリティライブとかたくさんあったんですけど、僕は疑問も感じていたんです。チケット代に対してあらかじめチャリティーの割合が決まっていることとか。ミュージシャンはギャラをもらって、その中から募金したらいいし、お客さんも自由に、できるだけでいい。それに、組織にお金送ってどうなるのかなって気持ちもあったから。
だから、自分なりのやり方で集まった募金を、被災された地域のライブハウスに自分らで直接持っていって、そこでライブもやるってのはどうかって考えて。福島の友人に提案したんです」
そうして実現したのが、2011年5月に福島のいわき市で開催された「いわきサイコーです!!」だった。
このとき、真っ先に思い浮かんだのはシンガーソングライター遠藤賢司氏の「不滅の男」という曲。
『頑張れよなんて言うんじゃないよ、俺はいつでも最高なのさ〜♪』という歌詞があるんですが、押し付けがましくなく、底抜けに元気が出る歌なんです。その時はご本人に歌ってもらうことは叶わなかったから、自分たちで『いわきサイコーですバンド』っていう覆面バンドを結成して『不滅の男』を演奏したんですよ(笑)。
この続きをいつか熊本の地でやりたいと思っていました。今度は福島からバンドを呼んで、こっちで出会った人たちも、こっちに移住してきた人たちもみんな集めて。それが実現したときには絶対、遠藤賢司さんに『不滅の男』を歌ってもらうんだって決めてました」
そんな平井さんの想いが通じたのか、ここ南関に遠藤賢司氏の歌を届けられることになった。3/31(日)に出演が決まったのだ。
<音楽性や生活スタイルの違いを超えて、単純に楽しさでつながりたい。被災地からの保養や移住を考えるきっかけになったり、全国から訪れた人たちにも、地元の人たちにも南関の魅力を感じてもらえるようなイベントに(チラシ抜粋)>との想いを込めて開かれる“はるかぜ2013”。
移住してきた平井さんたちを“風”に例えて「はるかぜ」と銘打った。稗島珈琲店の稗島さんが考えてくれたタイトルだ。
「はるかぜ」という歌もできて、みんなのテーマソングにもなった。
同じ場所にずっといても風は吹かない。外から来たからこそ、新しい風を生み出すことができる。
「ひとつの正解だけじゃなくて、いろんな『あたりまえ』が一堂に会して、それまで気づかなかったことに気づける場所になったらいいなって思っています。
移住というと世界ががらりと変わってしまうように思われるかもしれないけど、実は一本の道の延長線を進んでいるだけ。このはるかぜも、今までの出会いと、そして熊本での出会いがひとつにつながろうとしている。自分が今までやってきたことがひとつのかたちになろうとしてるんです。自分みたいなよそ者が来たことで、気持ちのいい風を吹かせられたら良いですね」
そして、一時は解散を考えたマーガレットズロースも「はるかぜ2013」にやって来る。
「僕が好きなロックンロールって、 考え方の違いで人を選ぶようなせこい音楽じゃないんだって気づいたんです。もっと大きくて全部関係なしにしてしまう音楽。だからこそ、今はこのメンバーでバンドを続けたいと思っています」
実行委員会の皆が、それぞれに仕事を抱えながら進むイベントの準備。初めてのことに苦労することも多々あるというその表情は晴れ晴れ。大変さを感じさせない期待感に溢れていた。
南関に、もうすぐ新しい風が吹く。
(取材/曽我由香里、文/堀尾真理、写真/西田)
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