インタビュー

ポップにつながって、世界を楽しくしたい(前編)

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ミュージシャンの平井正也さんに会いました(前編)

東日本大震災をきっかけに、家族で熊本の南関町に移り住んだミュージシャンの平井正也さん。
移住先で奥さまと雑貨屋を営み、この春には「はるかぜ2013」というロックフェスティバルを開催予定だ。
いつでも「楽しく生きる」がキーワード。そんなふうに、ポップに生きる平井さんを訪ねた。

一番気持ちのいいところに住もうと、たどり着いたのが熊本でした

「まさか熊本に住むとは思っていませんでした」
2011年、震災後に川崎の家を引き払い、家族で西日本に向かう旅がはじまった。
「引越のことを『ポップな都落ち』と呼んでいるんです。『震災避難』とは言いたくなくて」

そうして平井さん一家がたどり着いたのは、熊本のゼロセンターだった。
ゼロセンターとは、震災直後に建築家の坂口恭平氏が樹立した「新政府」の首相官邸の名称で、避難してきた人々が無償で滞在できるようになっていたところだ。
ここでの出会いがきっかけで、一家は熊本に移り住むことになった。
「どんな土地に行っても楽しく暮らせると思うんです。楽しいことはいいこと、楽しくないことよりずっといい。だから旅をしながら、一番楽しくて気持ちのいいところに住もう、と。その旅の途中で通過した魅力的な場所のひとつが熊本だったんです」
熊本に移住することを決め、市内の知人の家に居候し、3ヶ月間無料で貸し出されていたアパートに期間いっぱい住んだりもした。

慣れない地で家族4人、住む家を見つけるのは苦労もある。契約ぎりぎりで「やっぱり貸せない」と、破談になった家もあった。
そんな時、家がなかなか決まらず困っていた平井さん一家のことを人づてに知り、南関町にある稗島珈琲店の店主稗島さんが、直接連絡をくれた。
稗島さんは、震災後、空き家や耕作放棄地を利用できるよう整備し、被災者を受け入れられる住環境を整える活動をされていた。そうしたことから、稗島珈琲店は移住者のネットワーク拠点になっていたのだった。

稗島さんに会うために南関町に初めて訪れたその日、ちょうど新聞でこの町に産業廃棄物の最終処分場ができることを知った。
「そんな問題が持ち上がっている場所にわざわざ移り住むのはどうなのか?」と不安に思う平井さんに対し、稗島さんは「ゴミを出しているのは私たち自身。だから私たちの生活そのものを変えていかないと解決できない問題なんですよね」と話してくれた。
「稗島さんがいなかったら、南関町には来ていませんでした」
という平井さん。稗島さんの考え方や行動に強く共感し、南関町に住むことを決めた。

震災後、結果的に4度目の引越しで、ようやく落ち着いた暮らしが再開した。
「家が決まる前はそうとう暗い顔をしていたみたいです。家を探している時の僕らを知っている人に会うと『へぇ、平井さんってこんなに明るい人だったんだ!』って言われます」
平井さんは笑いながら話してくれた。

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いろんな「あたりまえ」のかたちがあると思うんです。

平井さんの本業は、ミュージシャン。全国各地でライブをしながら、この小さな町で「しそにぬ」というちょっと変わった名前の雑貨屋さんを夫婦で営んでいる。
「しそにぬ」に置いてあるものは、基本的に手づくりのものばかり。最近では自然食品にも力を入れるようになってきた。

「自分たちが欲しいもの、必要なものを売っている感じです」
奥さま有美子さんとのめおとものづくりユニット“ nelco ”も、日々のんびり活動中だ。
「 関東ではなかなか叶えられなかった“ 好きなことだけして生きていきたい ”という夢が自然に叶ったような感じです。もともと僕らの場合、都会での生活が合っていなかったのかもしれませんね。小さく暮らしたいし、本当に必要なものが少しだけ手に入ればそれでいいと思っていた」と平井さん。
そう話すあいだにも、息子の仁太くんが店の中を元気よく駆け回る。

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最近は自分たちで野菜づくりもはじめた。食材は、子どもの被曝を防ぐためにできるかぎり熊本県産のものを使うよう心がけている。小学1年生の娘、糸麻ちゃんには毎日お弁当を作る。給食は、使われる食材のほとんどが地元産とはいえ、加工品など産地が特定しづらいものもあるからだ。
「僕らが弁当を持たせていることについて、疑問に思っている地元の人もいるようです。だけど、もうそこは出る杭になろうと。そうすることではじめて興味を持ってもらえることもあると思う。旅をしていると気づくんですけど、同じ場所にいたら、ひとつに見える『あたりまえ』という感覚が、実はその土地ごとに無数にあると思うんです。」 (後編へつづく・・・)

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