インタビュー

地域を線でつなぎ新しい縁が広がるように。「西鉄縁線駅みやげ」の企画を手がけた吉中さんのまちづくりへの思い

自分の住むまちを紹介するとき、食べ物を挙げられる方ってたくさんおられると思います。美味しくて、しかも地元ならではのものって、ついつい自慢したくなってしまいますよね。

6月1日、西鉄福岡天神駅北口にオープンした『西鉄縁線駅みやげ』は、「Local Select Shop」をコンセプトに、沿線各地にある魅力的な商品をピックアップしたアンテナショップです。
このお店の企画を手がけたのは、西日本鉄道㈱事業創造本部事業開発部課長の吉中美保子さん。なんと1ヶ月足らずでオープンにこぎつけたという『西鉄縁線駅みやげ』ですが、「地元でしか買えないと思っていたお酒がここにある!」などと、その商品の充実ぷりにテンションがあがります。そんな嬉しい品揃えに出会えるお店を手がける吉中さんってどんな方だろう? ということで、さっそく会いに行ってきました。

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『西鉄縁線駅みやげ』の外観。店舗を運営するのは西鉄ステーションサービスさんです。


地域を縁でつなぐことで広がる可能性

「地域を線路でつなぐ鉄道のように沿線各地を縁でつなぎ、新しいつながりも広がっていくように」との思いが込められた『西鉄縁線駅みやげ』。素敵なコンセプトが宿るこの場所がオープンするまでの準備期間はおよそ1ヶ月。この超短期間の中、それでも生産者さんの元へ足を運び、できる限り一人一人に主旨を話して協力をお願いしたと吉中さんはいいます。

「生産者さまが商品にかける思いをお客さまに伝えることで、住んでいる地域やライフスタイルを再発見するきっかけになると思うんです」。吉中さんが込めた思いは、地域の生産と加工と消費を縁でつなぐこと。「このお店がきっかけで新たなお客さま層の開拓につながるとか、新しい取引が増えるとか、生産者さんのステップアップにつながるように」と、約20種類の商品を揃え、開店にたどりついたそう。中には吉中さんの思いに押されてか、この店舗のためにオリジナルで作られた商品まであるというのが驚きです。まさに“縁”の“線”が紡がれていくことで、地域が元気になっていくことが、吉中さんの目線の先に見えてきます。
「一押しの商品は?」と尋ねると、「うーんどれも素敵で選べないなあ」と頭を悩ませてしまいました。

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「写真は緊張する!」といいながらも素敵な笑顔を見せてくださった吉中さん。初めはクールで仕事のできるかっこいい女性という印象でしたが、気さくでユニークな一面も見せてくださいました

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この店舗限定「株式会社花の露」さんの純米吟醸生詰原酒。主旨に賛同し、特別につくってくださったものです。沿線地域の生産者さんにも思いは伝わっているよう

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こちらは太宰府市の福岡農業高校が収穫・加工した梅を使った「太宰府梅サイダー」と、柳川市のあまおうを使用した「あまおうプレミアムスパークリングワイン」。沿線の資源をつないで地域活性化や魅力向上を目指す、西鉄さんの”縁線プロジェクト”より生まれました


西鉄ならやれる。自分のやりたいまちづくり

「私、まちを良くするためにしか働いていないつもりなんですよ」と吉中さん。「西鉄という会社のいいところは、まちを良くすることがイコール会社の利益につながるところ。自分が信念を持ってやっていることが、たぶん会社の理念と一致しているんです」吉中さんは、それこそが今の仕事のやりがいだとおっしゃいます。
私たちが日常的に利用する駅や公共交通と都市開発を合わせてまちづくりを考えられることには、吉中さんご自身も大きなポテンシャルを感じているようです。

西日本鉄道、通称“にしてつ”といえば福岡市民の“足”といっても過言ではないほど、市民の暮らしに密接する馴染み深い企業。「まちに、夢を描こう。」という企業メッセージのもと、鉄道やバス事業をはじめ、不動産やホテルなど様々な事業を展開する、一般的にみれば堅い会社の印象です。明治41年設立という歴史ある企業に所属する、一社員の吉中さんですが、どこかその仕事ぶりは“型破り”。予算がないのに前のめりに突っ込んで、あれよあれよとプロジェクトを形にしたり、関心のありそうな人たちには「一緒にやろうよ!」と、周囲の人たちをグイグイ巻き込んでいくエネルギーが漂います。
ご自身のやりたいことと会社の実現したいことがシンクロしているのは、仕事のあり方・働き方として、とても理想的なこと。『西鉄縁線駅みやげ』の実現や3年後の導入を見据えた観光列車の企画など、新規事業に多く携わるエネルギッシュな吉中さんの原動力は、ここに理由があったようです。

一方で、「人口減少が進んだときに、現在のまちを変わらず維持できるかどうかはわからないんです。全国の色々な場所で公共交通の存続の問題が起こっているように、鉄道だってバスだって、維持できなくなることがありえるんですよ」と、鉄道会社そのもののあり方が、変換期に来ていることがこれから解決していくべき課題という吉中さん。
人の総数が減る中でも地域の活力はそのままに保つという新しいモデルを、今まさに試行錯誤中。「とにかくなんとしてでも乗り越えなければ」という思いも、吉中さんのエネルギーに変換されているようでした。

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吉中さんの真剣な表情に、まちづくりに対する強い思いを感じます

行き当たりばったり。だからこそ信じる道が開ける

吉中さんとお話をしていると感じる、信じたことを迷わず実行する正直さのようなもの。経歴をうかがうと、そこにも吉中さんらしいエピソードがありました。

山口県下関市がご出身の吉中さんは、大学進学のために札幌へ移住。就職で福岡へ移住し、福岡市役所に3年間勤務後、「やっぱり学びたい」と、再び九州大学の大学院へ5年間通います。博士課程修了後、在学中に仕事で関わったご縁から、地場の企業である西日本鉄道へ就職、現在入社8年目です。

「大学の同級生は、ほとんどが修士に進みました。けれども私は、自分が学んでいることがどう役立つのかがいまいち見えなくて、早く働きたくて仕方がなかったんです」。実際に働いてみたことで、大学での勉強が役に立つということを実感し、もう一度学ぼうと大学院に復学することを選択されたとのこと。吉中さんは「行き当たりばったりなんですよ」と笑いますが、それこそが吉中さんから感じる正直さなんだなと感じます。自分の興味や熱意に正直な選択をしてきた吉中さんだからこそ、“自分がやりたいこと”が実現できる西鉄という強力なご縁を引き寄せたのかもしれません。

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終始楽しそうにお話をしてくださった吉中さん。仕事に誇りと自信を持って働かれているのがとても伝わってきました

これからの目標について尋ねると、「うーん・・・あんまり考えていませんね。なんか一生懸命やってたら道が開けるだろうくらいの感覚しか持ってないんですよ」との潔いご回答。ちょっと拍子抜けしてしまいましたが、この回答もなんだか吉中さんらしい気がします。

自分の思いへの正直さや熱意ある実行力が、働くことや日々の暮らし、ひいてはまち全体をも楽しく豊かにしていくのではないでしょうか。吉中さんからはそんなヒントをたくさんいただいたような気がします。
そして、「九州ってまだまだ美味しいものがたくさんあるよね」と、足を運ぶたびに九州を自慢したくなってしまう『西鉄縁線駅みやげ』。品揃えも定期的に新しくなるそうです。来年4月末までの期間限定オープンなので、お近くに寄られた際はぜひ足を運ばれてみてくださいね。

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お店には熊本地震で被害を受けた地域の生産者を応援しようと、熊本・大分のお土産をピックアップしたコーナーがあります。アナバナは西鉄さんと一緒に熊本と大分の応援をしています!

【店舗情報】
沿線アンテナショップ「西鉄縁線駅みやげ」
西鉄福岡(天神)駅北口外コンコース チケットカウンター横(渡辺通側)
(福岡市中央区天神二丁目11-2)
営業時間: 9:00~20:00 (年中無休)
営業期間:平成28 年6 月1 日(水)~平成29 年4 月末

(編集部 天野)


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