ダイスプロジェクト1階で行われたトークイベント『“ごみゼロ”の町、上勝町で感じた地域を巻き込む働き方暮らし方』で、ゲストの坂野晶さんにお話しいただいた、徳島県上勝町のゼロ・ウエイスト運動。2020年までに町内のごみをゼロにすることを目標に、町ぐるみでごみ削減に取り組む現場へ行ってきました!
ゼロ・ウエイスト運動の始まり
今でこそ「ごみゼロの町」として知られる上勝町ですが、もともとは野焼きでごみの焼却をしていた過去があったのだそうです。その後焼却炉が新設されたもののダイオキシン規制強化を受けて使用禁止となった結果、焼却ではない方法でごみを処理する、ごみを分別して資源化し、消却・埋立ごみの量を削減するという方向に転換しました。
そして2003年には日本で初めて「2020年までに町の焼却・埋め立てごみゼロを目指す」とした「ゼロ・ウェイスト宣言」を行うことになったのです。
ごみステーションで考える、ごみって何?
NPO法人ゼロ・ウェイストアカデミー理事長の坂野晶さんに案内していただき、実際にごみステーションを尋ねてみました。
ごみ収集車が走らないこの町では住人が自分たちでごみを持ってきて、スタッフの方のサポートも受けながら自分たちの手で分別していきます。上勝町の分別は正式には34分別ですが、驚くことに今は実質60種類もの分別が行われているそうです。
実際に訪れて驚いたのが、臭いがしないこと。
それもそのはず、ここには生ごみがありません。上勝町は全国に先駆けコンポストや電動生ごみ処理器への助成を開始。生ごみは全量各家庭で堆肥化し、土に還しているのです。また業務用電動式生ごみ処理機も設置されており、家庭だけでなく商業施設でも生ごみを堆肥化しています。
晶さんは「ごみをごみたらしめるものは生ごみ」と語ります。
確かに、臭う・汚い、などのイメージがあるごみは大体が生ごみ、または汚れのついたものかと思います。生ごみを取り除いて綺麗に洗い、分別をすれば資源として再利用できるものばかり。ごみゼロの活動でも、まずは家庭で出る生ごみを堆肥化していくことからスタートしたのだとか。
ここでは、ごみを「自分ごと」として考えてもらうための”見える化”する工夫がなされています。
例えば、ごみの分別表示のところには資源の行き先や処理費用も一緒に表示されています。それによって、ごみを出した後にそれがどこへ行くのか、ごみを分別することでどれだけのお金が町に入るのか、町民も知ることができるのです。
「ごみを分別することで、無意識のうちに環境意識の教育にも繋がっているんです」と晶さんは語ります。
何も考えずにごみ袋に入れてしまうとごみになってしまう。でも、きちんと分別すれば資源となって生まれ変わる。実際に上勝町ではごみの約77%(平成26年度)がリサイクルされています。
捨てるものを作らない、くるくるショップ
ごみステーションの隣には、不要品交換場所「くるくるショップ」が設置されています。ごみを出すついでに「自分ではもう使わないけれど、綺麗で使えるもの」を町民が持ち寄り、必要な人が持って帰るという仕組み。年間使用量は持ち込みが約10トン、持ち帰りが約9トンと活発に利用されています。
ごみになる前に、必要な人へ届ける仕組み。とってもいいなと思います。
おばあちゃんの知恵がリメイク商品に!
「くるくる工房」では、地元のおばあちゃんたちが廃棄される鯉のぼりや不要になった着物などを使ってリメイク商品を作り販売しています。商品はおばあちゃんたちのアイディアから生まれたもので、全て一点物、同じものはありません。
上勝町で受け継がれてきた「ものを大切にする技術」を最大限に活かしたこのショップでは、目移りするほど素敵な商品が並びます。他では絶対に見かけない個性的なアイディア商品にお財布の紐が緩みまくり、つい色々購入してしまいました!
分別から発生抑制へ
現場では実質60種類もの分別が行われ、リサイクル率も高いゼロ・ウェイスト運動。スタート時から時間をかけ、町民の協力を得ながら多くのごみを削減してきました。今、この運動はこれ以上のごみの削減を行うために、そもそもの「ごみ」を出さないためにどうしたらいいか、という段階に入ってきています。
例えば、
・すぐごみになってしまう”使い捨て”のものをなるべく避ける
・余剰な包装容器を減らすため、遠方から運ばれてくるものよりも軽包装の地元産のものを購入する
・買う前に「本当に必要なものなのだろうか?」ともう一度よく考える
など。
ごみゼロ実現に向けて、分別でごみを減らす段階からごみを出さないライフスタイルの提案へ。また、企業に対してもごみが出ないパッケージデザインのアドバイスを行うなど、根本的にごみを減らす活動を多方面から進めています。
また、町ぐるみでゼロ・ウェイストに取り組むこの町では、カフェでも積極的にごみを減らす工夫を取り入れています。
町内にある「カフェ・ポールスター」では、使い捨ての容器は使いません。地元の野菜を無駄が出ない調理法で調理し、仕入れの際もマイバッグやカゴを持参するというこだわりっぷり。食べ残しを減らすためにご飯の量はちょっと少なめで、その代わりお代わりは自由なのだそう。
日々の暮らしの小さなことに気を配るだけで無駄は減っていくんだな、これなら自分にもできるかも、と思わせてくれる素敵な場所でした。地元のお野菜を贅沢に使ったランチも美味しかったですよ!
上勝町がゼロ・ウェイスト運動を進められる秘密とは?
町全体でゼロ・ウェイスト運動という一大プロジェクトに取り組む上勝町ですが、活動を続けていく秘訣はどこにあるのでしょうか。上勝町の町長、花本靖さんにお話を伺いました。
「上勝町は山深い集落で、流れていく山の水を使う一番最初の集落でもあります。一番上の集落で水を汚し、下流の集落の人たちに迷惑をかけるわけにいかない。だからこそ、ごみをゼロにするという大きな目標に取りかかれたのだと思います。
また、上勝町はごみの分別のおかげで1千万以上の節約ができています。これは町民の協力なしには実現できませんでした。34分別を続けていくことは、やはり少し不便だし大変です。だからこそ、今後は一緒に取り組んでくれている町民へ還元できることに力を入れていきたいですね。
これからも町民がこの運動を誇れるよう、活動に取り組んでいきたいです。」
自然とともに暮らしてきた場所だからこそ“ゴミを出さずに限られた資源を大切にする”という感覚がここまで受け入れられたのかもしれません。ゼロ・ウェイスト宣言の目標年の2020年まであと4年。上勝町のこれからに注目です。
(写真/文 畠山千春)