RethinkFUKUOKAProject

佐々木俊尚さん、CROSS FM坂田社長と“ReTHINK”する、 ローカルメディアのサバイバル術

ReTHINK FUKUOKA  PROJECT イベントレポート02

アナバナではReTHINK FUKUOKA PROJECTの取材と発信のお手伝いをさせていただいています。

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ReTHINK FUKUOKA PROJECTのトークイベント第2弾は、「ローカルメディア」がテーマ。テレビや新聞、ラジオといった旧来型のマスメディアに加えて、WEBマガジンや個人発信のブログ、SNSなどソーシャルメディアが台頭し、私たちを取り巻くメディア環境はめまぐるしく変化し続けています。そんな激動のメディア抗争時代に、再び注目を集めているのが、ローカルメディア。世界を瞬時につなぐインターネットの世界と逆行するかのような、地域で作られ地域の人に向けて発信される“地産地消”型ローカルメディアには、一体どんな可能性が眠っているのでしょうか。

ゲストは、メディアとライフスタイルの変容を追いかけ続けているジャーナリストの佐々木俊尚さんと、福岡県域を放送エリアとするFMラジオ局「CROSS FM」の坂田隆史社長。レギュラーメンバーとして、月間3,000万PVを誇るWEBメディア「TABI LABO」の代表・久志尚太郎さんと、外資系広告代理店BBDO J WESTのメディア責任者であり、雑誌「BOND」の編集長でもある小柳俊郎さん。メディアについて一家言ある4人の猛者たちが、5月19日(木)、西鉄福岡天神駅コンコース内にある「ReTHINK cafe」 にて語ったクロストークの模様を、一部抜粋してお伝えします。

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地方の“美少女図鑑”が、メディアのあり方を変えた!?

久志 僕らはTABI LABOというWEBメディアを運営していますが、WEBメディアの面白いところは、どこに住んでいても、価値観やライフスタイルといった共通項ですぐに人と人が繋がれることです。一方で、地域に根ざしたローカルメディアの可能性も、まだまだあると思います。特に福岡は、ローカルメディアが元気な街ですね。

小柳 ええ。雑誌「BOND」も、大判で持ち歩きにも不便な、時代錯誤なまでの紙媒体なんですが、毎号5万部を発行しています。

佐々木 ローカルメディアが台頭してきたのは、東京と地方の関係性が変化したことが大きいですね。ひと昔前まで、地方の文化は東京のエピゴーネン(模倣)で、東京発の文化を地方に伝えるのが、メディアの役割でした。腰履きファッションが東京で流行った半年後に、地方都市に飛び火するといったように。しかし、2000年代に入ってそのモデルが崩れていきました。地域ごとの“美少女図鑑”が売れ始めて、読者モデルも急増。ファッションのロールモデルを、雑誌の中の東京ではなく、地域にいる身近な人に求めるようになってきました。

坂田 ラジオでも、天神や博多など、身近な街で起きていることを発信すると、リスナーからのレスポンスはいいですね。特にラジオは、マスメディアでありながら自分に直接語りかけてくるような、マンツーマンの距離感を感じさせるので、ローカル情報と相性がいいんだと思います。

佐々木 東日本大震災の後に、コミュニティFMがいくつも立ち上がりましたが、5年経ったいまでも続いている局があります。長く続くのは、地域の人たちがその放送を切実に必要としていることの証。メディアとはなんのためにあるのかを、考えさせられる事実です。

坂田 そうですね。情報の送り手と受け手が、価値観をいかに共有できるか、それがメディアの価値を決め、存続の鍵を握っていくんだと思います。

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お気に入りのラジオ局のステッカーを車に貼るのがカッコよかった時代

久志 メディアの仕事でお金を稼ぐのは、難しい時代と言われています。これからメディアは、どうやってマネタイズしていけばいいんでしょうか。

坂田 民間のラジオ局は、主にコマーシャルで収入を得ています。ラジオが一番稼いでいたのは90年代のバブル後で、CDが一番売れていた時代だったので、レコード会社の広告出稿が豊富にありました。当時からすると、いまのラジオ局の売上は約半分。それでも1日24時間分のラジオ番組を制作することは変わらないので、番組あたりの制作費を下げざるをえない。これが、業界全体の悩みになっています。

佐々木 僕が大学生の頃は、活字を読みたいという欲求に対して、供給が足りてなかったんですよ。お金がなくて本も自由に買えないのに、読みたい欲求だけが募って。仕方なく雑誌「ぴあ」の欄外コーナー「はみだしYOUとPIA」を隅から隅まで読んだりして。そういう時代に、本や雑誌を出せば、売れるのは当然です。でもいまは、無料で読めるコンテンツが溢れています。この状況で、コンテンツを売って儲けるのはそもそも難しいんですよね。

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久志 では、いまの人はどこにお金を払ってるんでしょう?

佐々木 音楽業界を例にすれば、CDなどの音源よりも、ライブやフェスにお金を使っていますよね。ライブ会場に行くと、ただ演奏を聞くだけでなく、同じ音楽を好きな人たちと価値観を共有している安心感や一体感が感じられる。この体験のために、お金を払っているわけです。

小柳 なるほど。

佐々木 “オリーブ少女”という言葉に代表されるように、一つの雑誌が作り出した価値観をみんなで共有できれば、そこに属している満足感を得られるんです。

坂田 ええ、ラジオの世界にもありました。この(会場の)中にも、CROSS FMのステッカーを車に貼っている人、いたでしょう?

佐々木 そうそう。つまり、メディアというのは単に情報を発信する場所ではなく、文化を作り、支えていく場所なんです。そこに集う人を支えて、深堀していくこと。それによって、メディアと人の間に強いエンゲージメントが生まれれば、マネタイズにつながっていくんじゃないでしょうか。

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鬱陶しいぐらいの熱量で、アツい思いを伝えよう

久志 WEBメディアを運営している僕が言うのもおかしいんですけど、インターネットって情報が多すぎて疲れちゃうことがありますよね。情報って本来は、人の思いや熱量によって伝わるもの。口コミがまさにそうです。でもネットの世界は気軽に情報を作れてシェアできるから、熱量が失われた情報も大量に流れてきて、それに疲れてしまう。これからは、熱量を保ったままいかにコミュニケーションできるかが、重要になってくると思います。Facebookの友達という距離感では何も感じなくても、面と向かってアツく語られたら、心が動きますから。

坂田 そうですね。ラジオでも、耳から入ってくる情報だけでは、伝えられる熱量が限られます。音楽はもちろん、料理やスポーツなど、リスナーや生活者との接点となるリアルイベントの場をいかに広げていくかに、ラジオの未来はかかっていると思いますね。

小柳 ローカル都市においては、顔の見える距離感でモノやサービスを売りやすいので、やりやすい時代になってきました。一方、個人レベルでは、自分のパーソナル・マーケティングを真剣に考えないといけなくなりましたね。ちゃんと仕事ができる人だとしても、普段のFacebookでの投稿がどうもイケてなかったら、仕事を頼みたくなくなりますから。

佐々木 これからは、リアルにおいてもネットにおいても、さまざまなコンテキスト(文脈)に合わせたコミュニケーションスタイルが無数に立ち上がり、その場に適切なスタイルを選んで使い分けていく時代になるでしょうね。マニアックな音楽について好きな人同士で熱く語る時もあれば、全国民で民主主義について開かれた議論をする場もある。2人で話す時と大勢で話す時は、話し方から変わります。そういったスタイルの微妙な差異を感じて、使い分けるスキルを磨いていくことが、大切なのではないでしょうか。

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いかがでしたか? メディアのスペシャリストである4名の示唆に富んだお話、それを聞きに来たお客さん、美味しい飲食物をサーヴするReTHINK caféの空間……それらが一体となったこのトークイベント自体も、いわばひとつのメディアです。それぞれの感想を持ち帰った皆さんが、次に起こす新たなコミュニケーション。それこそが“ReTHINK”なのかもしれません。さてさて次は、どんなトークが繰り広げられるのでしょうか? 次回のレポートをお待ちください!

ReTHINK FUKUOKA PROJECTについて

コミュニケーションや働き方、ライフスタイルに大きな変化をもたらしている福岡。新しい産業やコミュニティ、文化が生まれるイノベーティブでエネルギッシュな街となっています。
そのチカラの根底には、この街に魅力を感じて、自らが発信源となっている企業や人がいます。
ReTHINK FUKUOKA PROJECTは、「ReTHINK FUKUOKA」をテーマに、まったく異なるジャンルで活躍する企業や人々が集い、有機的につながることで新しいこと・ものを生み出すプロジェクトです。


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