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映画『よみがえりのレシピ』と在来作物〜渡辺監督に会いました。(後編)

2013.4.23 up

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渡辺監督に独占密着インタビュー。 ここからの内容はイベント未公開です!

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ー監督が映画を撮り始めたきっかけは?
学生時代からです。もともとは芸術工科大学で建築デザインを学んでいました。なので、こういう場所にくると気になるんです…(監督、天井を見上げながら)
※会場はもともと材木屋さんだったスペースを改装した建物

きっかけは、たまたま足を運んだ山形のドキュメンタリー映画祭。そこで映画を創るという方向へシフトしました。デザインはすごく好きだったんですが、デザインというものが発信されている場所というのはどうしても東京が多いので、そこに若干のズレを感じていたんです。山形でしか出来ない事、山形ならではの事って何かな、と考えたときにそこに居るおじいちゃん・おばあちゃんたちのことを伝えていこうかなと思いはじめたんです。その時はまだ、どのようなものになるのかは、全然分からなかったんですけど。
ー中でもドキュメンタリーを撮っていらっしゃいますよね。
はい、監督として発表している作品はドキュメンタリーばかりですね。フィクションは、もともと考えていなかったです。おじいちゃんおばあちゃんたちの戦中戦後の生活を記録する、というところから始まりました。
ーいつもどんなことを思いながら、撮っていらっしゃいますか?
ドキュメンタリー映画というのは、実は『よみがえりのレシピ』でテーマにした“在来作物”と同じような存在です。つまり、手間ひまかけて作っても売れないかもしれないというか。お金を出してくれる人も多くはいないですし(笑)。作り上げてから自主流通させていく場合が多いですから。僕自身、撮影中も何度となく在来作物の生産者の方々と同じ気持ちになりました。

市場の原理に左右されないでその価値を伝えていくにはどうしたらいいのか、この問題意識を映画の中で直接語ってはいないですが、いつも持っています。
ー山形は、一度訪れたところがあるんですが素敵なところですよね。
ありがとうございます。夏は暑く、冬は寒いという厳しい気候の地域ではありますが…。
山形県は大きく分けて4つの地域というか文化圏に分かれていて…それぞれ食文化や方言が違うんです。私の住んでいる庄内地区と山形市の方でも全く違います。
ー料理の味付けなども?
味付けというより、食材そのものがまず違いますね。海沿いは魚文化だし内陸は特に保存食が多い。北部を中心とする庄内地区は、南の方と違って冬場の食べものが乏しいので、いかに飢えないか、なんですよ。
ー料理の味付けなども?
大学時代までは山形を出たことがなかったんです。
卒業してから6年くらい東京で映画の仕事をして、また戻ってきたんですけども、その時にはじめて、山形の良さが見えてきたんですよね。

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ー映画中にも登場する奥田シェフはずっと山形に住んでいらっしゃったのですか?
奥田さんも僕と同じで一度東京に出てから、戻ってきています。僕も奥田さんも山形にいた子供のころはずっと何も考えずに在来作物を食べていたんですよね。それが在来作物であるということも意識していなかった。普通のいわゆるどこにでもある野菜だと思って食べていたんです。(東京に出て)それが食べられない状況になってみて始めてその魅力に気がつきました。

山形に戻ってからは、どうしてこんな美味しい野菜があるのか、なんでこんな育て方をしているのかと。調べるうちにいくつか納得のいくポイントが見つかって。
ー山形の外で食べる野菜とずっと口にしてきた在来作物は、 どんな風に味がちがうと感じられるのでしょうか。
スーパーで売られている普通の野菜と在来作物が違うというのはもちろんそうなんですが、同じ在来作物でも、北の方で作られたものと南で作られたものは違うんです。栽培方法も、焼き畑でつくったものと畑で肥料をやって作ったものとじゃ全然違うんですよ。風味が違うというか、辛さとか、食感とか、ほのかな甘さとか。なんとも表現しがたいんですけど…。
ー風味…言葉で伝えるのは難しいですよね。
難しいですね。食べれば分かるんですけどね。口に残る風味、濃さというか。
ーやっぱり、何よりも食べてほしいですよね。
そうですね!『よみがえりのレシピ』も「食べる」シーンばかりです(笑)
ー予告版を観ているだけでお腹が空きそうでした!
これでもかっていうくらい、「食べる」シーンを入れているので。(観る)時間帯によっては「観ていてお腹が空いてつらい」と言われます(笑)
ードキュメンタリー映画『よみがえりのレシピ』を観てあらためて「食」へ意識を向ける方がたくさんいらっしゃるでしょうね。
ドキュメンタリー映画は共有の形としてのびしろが大きいというか。観た後に実際に現地を訪れて在来作物を食べたり、登場人物に会ったり。それで生き方が変わったり。感じ方や価値観は観た方にゆだねています。
映画を観た後のストーリーは、ぜひお客さんにつくっていってもらいたいですね。
ー今回のトークイベント後、大分県へも出向かれるそうですね。
はい。別府の方で、上映会とトークイベントをさせて頂きます。 別府野菜の「地獄蒸し」というのが有名ですが、大分ならでは、ですね。
ー今日のトークイベントでもそうですが、大分のイベントでもみんなで在来作物を食べるんですよね。
はい。食べるだけでなく大分にはどんな在来作物があるのか、主催者の方が調べて下さって参加者でそれを共有するという。そこから少しずつでも”在来作物”への関心が広がっていけば、と思っています。
ーぜひ、全国各地でイベントを開催してほしいです!!
そうですね。作品はどんどんまわっていますが僕の体はひとつしかないので(笑)。映画を観た後で感じたことを分かち合ったり、実際に自分たちの地域にはどんな在来作物があるのかに興味を持ってもらって、これから何を食べていくのか考えるようなコミュニティができていって欲しいなと思います。
ー世の中は健康ブームで食への関心は高く、興味を持ってくれる方は多そうですね。

 

はい。在来作物という古来からのものがテーマなので、年配の方が中心になるかな、と思ったのですが、思った以上に若い、20代〜30代の方が興味を持ってくださっていて。「食べる」ことって年齢を飛び越えて共有できることで、すごく間口は広いなと感じています。実際に、そういったムーヴメントはポコポコと起きています。
ー最後に…今後の予定や撮りたいテーマなどをお聞かせください
引き続き映画の上映を全国に広めるながら、次は子供の味覚をテーマにした映像を企画中です。映画を作ることが地域文化をプロデュースすることにつながるような、映画製作のスタイルを今後より一層模索していきたいですね。

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失なわれつつある「在来作物」を守る人々を見つめるドキュメンタリー映画『よみがえりのレシピ』は、2013年7月、福岡再上映予定。

たくさんのことを、終始心地よくお話して下さった渡辺監督。ありがとうございました。
「ドキュメンタリー」を創る人の目線・想いを間近に感じ、静かに興奮してしまった。「ドキュメンタリー」は映画世界から現実世界に戻ってきても、その現実世界の中に今映画で観た人々が実在している(いた)んだ!という不思議でリアルな感覚が強烈にある。特に今回の『よみがえりのレシピ』は、同じ日本の同じ時代に、今日も自分と同じように暮らしている人々の姿が印象的。映画のテーマが自分とつながっているんだと素直に思える瞬間がある。「食」という一生のテーマならなおさらだ。

暮らし方や生き方、自分自身を見つめ直す瞬間をこれからも与え続けてくれた今回の出会いに感謝。それを創り出している渡辺監督に敬意と賞賛を。そして自身もそのようなものを創ることに関わっていきたいと強く感じた。

(取材/文 田原春香、写真/西田)

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  • Profile渡辺智文(わたなべさとし)
  • 1981年生 山形県鶴岡市出身。
    東北芸術工科大学在学中に東北文化研究センターの民俗映像の制作に参加。2002年「関川のしな織り」で撮影を担当。03年山形県村山市の茅葺集落 五十沢の1年を追う。上京後イメージフォーラム付属映像研究所に通いながら、映像制作を開始する。05年有限会社アムールに入社し飯塚俊男氏に師事する。06年障がい者が参加する第九合唱を描いたドキュメンタリー映画「An Die Freude 歓喜を歌う」撮影・編集。07年「映画の都ふたたび」を撮影。08年フリーで活動開始。「湯の里ひじおり-学校のある最後の1年』を監督。10年映画「よみがえりのレシピ」を撮影開始、11年の秋に山形県内で公開する。2011年山形国際ドキュメンタリー映画祭、2012年香港国際映画祭、ハワイ国際映画祭に本作品を正式に出品している。


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