日を追うごとに寒さが増す今日この頃、「土鍋」と聞いただけで食欲がムクムクとわいてきて、にぎやなか食卓を想像しませんか?
そんな気分にぴったりな「マイ土鍋で料理教室」という会にお誘いいただいたので、先日お邪魔してきました。
いざ土鍋でお料理といっても、よせ鍋、おでん、ちょっと頑張って季節のご飯を炊いてみる、くらいしか思いつきません。。。どんなお料理が待っているのでしょう?
この土鍋料理教室は土鍋の魅力を広めるべく結成された、ワークショップユニットconabeさんと、主催者の陽子さんが「自分の作った土鍋で自分が収穫したお米を食べたいね」というたわいもない会話から思いついたのだそう。言われてみれば、土鍋も誰かがこしらえた温かみのある道具ですね。
そして、ただ料理を覚えるだけではなく、五感すべてを使って料理をすることを身につけてほしいとおっしゃいます。
五感を使う料理って??
そして、今回の講師は、博多鍋で有名な老舗「割烹たぬき」の若女将です。
「割烹たぬき」といえば博多の趣を残した街、御供所町で65年続く隠れた名店です。博多と言えばもつ鍋や水炊きという印象が強いのですが、 割烹たぬきの名物「博多鍋」はオリジナルの白味噌仕立て。 こちらも地元の人達に愛されて続けた味です。
そんな65年の歴史を受け継ぐ女将さんから教わるお料理って、すごく本格的な予感!
この日のメニューは
・かぶの詰め物煮
・鳥つくねのとろろ鍋
・きのこのみぞれ鍋
・秋刀魚ご飯
・茶碗蒸し
・焼き栗ぜんざい
の6品。煮物、汁物、ご飯物、茶碗蒸し、果てはデザートまで!
これほどのメニューが土鍋で作れるんですね。
「今日は計量しません」という宣言から会はスタート。
お米を炊くお水の量やだし汁と調味料の割合など、必要最小限の分量だけで、後は必ず味見して自分の舌で美味しいものを作ることを覚えましょう、そんな風にレッスンは始まりました。これが“五感を使って料理する”ということなのでしょうか。
例えば、出汁をとる時、昆布を引き上げるタイミングは湯の沸き具合と、昆布に爪がすっと入る頃合い。大根をおろす時は、円を描くようにおろすと口当たり柔らかく、直線でガシガシすれば荒い大根おろしに仕上がります。
すりおろす際の音や感触で、焼き魚に合うおろしにするか鍋に合うおろしにするかを見極める、そんな風に味覚だけでなく音や感触を頼りにすることも調理には欠かせないことなんだそうです。
他にも、つくねを作る時はミンチ肉を半分カラ入りにして混ぜ合わせるとつくねが縮まらず、ふくっくら仕上がる。さらに胡麻を入れるとより美味しくなる。「ごまかす」はそこから来ているんですよ……そんな風に、ここでは書ききれないくらいのちょっとした、でもとても大切なお料理のコツと手順が女将さんから伝授されます。
そして女将さんはとにかく常に味見をします。出汁をとった時、つくねのタネが出来た時……下ごしらえした食材が、その後に何と何を合わせてこしらえるお料理になるのかを想像しながら、素材が変化するたびに自分の舌で味を見て、ちゃんと調味料を加減していくのです。簡単だけど美味しい食事を作る上で、なにより大切なコツの数々を女将さんは伝授してくださいました。
女将の手でひととおり献立の手順を教わったら、いよいよ各班で調理開始です。
しかし、いざ料理を始めると、こまめに味見するのをつい忘れがち。メンバーで出汁の味、これくらいでどう?う~ん?良い?何か足りない?
皆、探り探り、自信無く確認し合います。
五感を使うのって難しい・・・。
全て土鍋でこしらえるから、焦げないように音を聞き分けて、火を弱めたり、蒸らしたりと、ここでも五感をフル稼働です。
各班、女将さんと同じ材料で同じ料理を作ったのに、ちょっとずつ違う味に仕上がりました。これも料理の面白いところかもしれません。
陽子さんと土鍋ワークショップユニットconabeさんが料理教室を、老舗「割烹たぬき」の女将さんにお願いしたのは、普段当たり前においしいものを作る人がもっと前に出て欲しいからだとおっしゃいます。例えばなんてことない大根も、レシピ本のような同じ分量で味付けするより、それぞれの大根にあったおいしくなる「加減」を知ると、大根を作る生産者さんの顔も知りたくなり、体も心も安心で温かいものを求めるようになるのではないか。食材の美味しさを最大限に生かすお料理を作るためには、まずは食材を知ることから始まります。たしかに、その先には食材を作る生産者さんのことを知らずにはおれません。
conabeさんは今後も食、道具、それを生み出す手仕事が繋がるようなワークショップをして行けたらとおっしゃっていました。
手軽で簡単に美味しいもを誰もが作れる時代ですが、今回のように、日々、美味しいものと向き合っている人から教わる料理には、スポーツと同じように、そこに集まった人達と体や頭を使ってお料理をこしらえていく楽しさがありました。土鍋に限らず、愛着のある道具とともに、五感を目一杯使って素材や料理に手間をかける、そうやっておいしいものを作ることって一番豊かな時間なのかもしれません。
(写真・文/とよだあやこ)
※画像の一部は参加者の方からご提供いただきました