インタビュー

久留米市「セルフリノベーションコクブ」オーナー白石さんが企む “ひたすら自由な” 賃貸住宅とは?

「あなたの“好き”で埋めてください」と、床から壁、天井も自由に使える物件に住めることになったら、なにをイメージするだろうか?“リノベーション”という言葉はよく耳にするようになったといえ、大胆な改造計画が家主に通じるケースはそう多くはないだろう。ところが、今面白い試みが久留米市ではじまっている。その名も「セルフリノベーションコクブ」というプロジェクトである。

間取(壁)も床も壁紙も自由。退去する時の原状回復も不要とは、これまでの常識からは考えられないほどフリーダムな物件ではないか。しかも2物件同時にセルフリノベーション物件に変えていくという。なんとも大胆なこのプロジェクトの物件オーナーである白石信幸さんにお話を伺うべく、久留米市を訪ねた。

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笑顔で温かく迎えてくれたオーナーの白石さん。この場所で生まれ育ち、現在はサイクルショップのオーナーでもある。趣味はトライアスロン、ロードバイク、旅行と、時間を見つけて各地を飛び回っているそう

セルフリノベーションコクブの誕生

福岡県久留米市にある築27年のサンコーポコクブと築30年のサンコーポシライシ。その外観はいわゆる一昔前のマンションといった佇まい。年々空き部屋も増えていき、頭を抱えていた白石さん。一度はリフォームを考えたものの、いまいちピンとくる切り口が見つからなかったそうだ。

「賃貸住宅は築年数や間取りといった一般的なスペックで判断されてしまいがちで、リフォームをしても新築物件にはかないません。なにか他の切り口で魅力的な物件にしたいと思っていました」。そんなある日、知人の紹介でリノベーションを得意とするクリエイティブ集団「アナバプロジェクト」の存在を知り、「ここなら今までにない面白いことができそう」と感じ、相談。今回の「セルフリノベーションコクブ」プロジェクトがスタートした。

セルフリノベーションコクブって?

セルフリノベーションコクブは、賃貸住宅でありながら入居者さんの思い通りにリノベーションすることができる物件。壁や天井、床や間取りスペースなども自由自在。1Fの部屋には土間スペースや、専用庭が使えるという夢のような間取だ。一歩足を踏み入れれば「ああしたい、こうしたい」と想像せずにはいられない。白石さんは「やはり最初は少し不安もありました(笑)。これまでの価値観では判断できない物件ですからね。だけど、部屋が少しずつ仕上がっていく過程を見ていると、どんどんかっこよくなっているから、今はどんな物件ができるんだろうと期待しています」と嬉しそうに語ってくれた。

ただのリノベーション物件ではない この場所を好きになる+αの物件を目指して

実は白石さん、サンコーポコクブの1Fで自転車店「サイクランドシライシ」を営んでいる。取材に訪れた日も、閉店時間まで常連さんの笑顔が飛び交う店内の雰囲気が印象的だった。週末には白石さん自ら企画するサイクリングイベントも開催しているそう。ハードな上級者向けから、美味しいお店を回るといった初心者向けの企画まで様々だ。自転車を楽しむのはもちろん、まちの新たな遊び場の発見やまちのにぎわいにつながれば、そんな思いから企画している。

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サンコーポコクブの外観。1階が白石さんの営む「サイクランドシライシ」だ。ロードバイクを中心に、初心者からプロ仕様の本格的なライダーまで幅広い層に対応している

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いつも常連さんで賑わう店内。自転車のドックルームでは自転車を購入したお客へのアドバイスを常連さんが担う光景も! 白石さんのお人柄がうかがえる

そもそも「サンコーポコクブ」と「サンコーポシライシ」、そして「サイクランドシライシ」は白石さんの両親から受け継いだもの。当時は周辺の掃除や集金も両親自ら行ったり、家庭菜園で栽培した芋を入居者さんやお客さんに振る舞ったりしていたそうだ。そうした入居者との近い関係にある両親の姿を見てきた白石さんは、「オーナーと入居者、自転車屋とお客さんという関係性ではなく、同じコミュニティの一員でありたいと思っています。ご入居されている部屋だけでなく、この場所や人との繋がりも好きになってもらえるような物件にしていきたいですね」と話してくれた。ただリノベーション物件を提供するだけでなく、この場に自然と人が寄り集まってくることで、地域ごと元気にしたい。これこそが、このプロジェクトに込められた白石さんの思いだ。

これからのセルフリノベーションコクブ

愛着をもってもらう場づくり。そんな視点から、少しでも多くの人にセルフリノベーションコクブを体験してほしいと、内覧会に先駆けて、塗装を体験できるワークショップも開催されている。 参加者からは「こういった経験はなかなかできないので、とてもいい機会だった」や「想像以上にしんどかったけど、家や部屋作りを体験できたので、自分でリノベーションするイメージが膨らんだ」など、充実の感想が聞かれた。興味があるけど、何をどうしていいのかわからないという人でも、気軽に参加でき、存分にリノベーション体験ができるワークショップだ。

塗装ワークショップ。真剣な表情で部屋づくりを体験中

塗装ワークショップ。真剣な表情で部屋づくりを体験中

ワークショップでランチの様子。この日は◯◯が振る舞われ、ゆったりとした昼のひと時を味わえる

ワークショップでのランチの様子。美味しい食事を囲んで会話を弾ませるテーブルでは、近い未来の日常風景のような空気感が再現されていた

 1階102号室。まっさらな状態で引き渡されるのであとは自由に自分の暮らしにあわせた空間づくりを楽しむだけ!同じ建物内でも入居者のライフスタイルによって随分と違う印象に仕上がるのだから面白い

1階102号室。まっさらな状態で引き渡されるのであとは自由に自分の暮らしにあわせた空間づくりを楽しむだけ!同じ建物内でも入居者のライフスタイルによって随分と違う印象に仕上がるのだから面白い

「サンコーポシライシ」では、なんとアートプロジェクト計画も進んでいる。同じく久留米市の障害支援事業所「LikeLab」が運営する福祉施設「studio nucca」さんと共同で、ウォールアートのワークショップを開催予定だという。公認で壁に落書きができるので、親子での参加も大歓迎とのこと。 プロの手で美しく整備されるのではないセルフの家づくり。人生で多くの時間を費やす「家」ができるまでのプロセスを体験することや、そこに集う参加者と対話しながら生まれる空間には、きっと新鮮な気づきや発見があるはず。

どんな方に入居してほしいですか?と尋ねると、白石さんは、「まずは自分の色に染めてほしいですね。事務所やアトリエ、雑貨屋さんやカフェといったオープンスペースにしてもいいし、ご家族やカップルにもぴったりだと思います。存分にリノベーションを楽しんでいただいて、その結果、この建物だけはなくて、エリアの魅力につながれば嬉しいです」と答えてくれた。自分の手で作り出したものは、失敗や思い通りにいかないことがあっても自然と情が芽生える。その小さな情の積み重ねが、愛着になり、自分らしいライフスタイルにつながっていく。豊かな暮らしとは、そんな些細なことから始まるのかもしれない。ぜひ一度セルフリノベーションコクブを体験して、あなたの暮らしのイメージを広げてみてはいかがだろうか?

サンコーポコクブ

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(取材/文 小村順平)

※写真の一部はアナバプロジェクトさまにご提供いただきました


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