日々のてまひまの日々

天神地下街に新たな名所が現れた!’光りのアート’誕生までの日々。


モニュメントの製作メンバー。左から先崎さん、石井さん、中島さん、四ツ谷さん。

日々の芸術から生まれた、つながりのアート

9月に開業40周年を迎えた、福岡市中央区の『天神地下街』。交通機関の乗り換えや、商業施設間の移動など、天神地区の人と人、人と建物をつなぐ天神の大動脈となっています。その中心部にある「石積みの広場」に、『日々の芸術』の作品からつくられたモニュメントが設置されました。福祉施設『工房まる』のアーティスト石井さんによって描かれた巨大なパリの街並みが、光りの演出で様々な表情に変化。地下街を行き交う人たちの目を楽しませています。
『日々の芸術』の作品に多くのプロの手が加わって生まれた、美しい光りのモニュメント。その裏には関係者のみなさんの熱い想いと、手間がびっしりと込められていました。
今回は、モニュメントの製作メンバーから伺った、完成までのストーリーをご紹介します。

七色に変化するパリの街並み、キラキラと煌めく街灯にうっとり。季節や時間の移ろいにあわせて色を変える照明に加え、1時間ごとに光のショーが行われています。

モニュメントの題名は、「Relier(ルリエ)」、フランス語で「つなぐ」という意味です。その名の通り、人々が出会い憩う「つながり」の場所になっています。

よく見ると、パリの街並みをベスパが走っていたり、モネが絵を描いていたりと実に細かい!宝探し気分で隅々まで眺めてしまいます。

Interviewee

大坪恵太郎
中島 惣平さん
『福岡地下開発株式会社』管理部副長。天神地下街40周年の周年記念事業を担当し、モニュメント製作をプロデュース。
橋爪大輔
四ツ谷 昌紀さん
『株式会社乃村工藝社』九州支店営業部チーフ。原画のセレクトからモニュメントの製作、完成までをコーディネイト。
大坪恵太郎
石井 悠輝雄さん
福祉施設『工房まる』の人気アーティスト。優しい作風が特長で、緻密な線画から淡い日本画まで様々なタッチを使い分ける実力派。
橋爪大輔
先崎 哲進さん
『株式会社ふくしごと』取締役。デザイン事務所の主宰を務める傍ら、「日々の芸術」を社会の様々なアートシーンに広めるべく活動中。

ほぼ一目惚れのような、絵との出会い

アナバナ)モニュメントに、障害のあるアーティストの作品を採用されたきっかけは何ですか?

先崎さん(以後敬称略))当初は私のデザイン事務所で、モニュメントのイラストのご依頼を受けたんです。「もしかしたら『日々の芸術』で対応できるかもしれない」と思い、乃村工藝社の四ツ谷さんにご相談したら快く受諾していただいて。アイアンアートを施すには線画のイラストが必要なので、線画の得意な石井さんに依頼しました。

四ツ谷さん(以後敬称略))まずは地下街さんの判断を仰ぐために、石井さんに’パリの街並み’をラフで描いていただいたんです。タイトな制作期間だったんですが、その絵が社内で「一発でOK!」というすばらしさ。すぐに「石井さんにぜひお願いしよう」ということになりました。

石井さん(以後敬称略))「通るかどうかわからないよ」と言われていたんですけど、まさか通るなんて、かなりびっくりしたのを覚えてます。

中島さん(以後敬称略))プロのイラストレーターさんの絵も何案か候補にいただいたんですが、石井さんの絵を見たときに、「僕が求めていたのはこれだ!」とズーンと心に響くものがあって。絵が醸し出している温かい雰囲気がすごく伝わってきたんですよ。

アナバナ)石井さんの絵、すごく優しくて雰囲気がありますよね。

中島)老若男女いろんな方々が出会ってつながる場所にしたかったので、温かみが欲しかった。「ちょっと描き直してもらったら、もっとよくなるかもしれない」ということで、再度オーダーさせていただきました。描き直していただいた絵も、「これこれ!まさにこんな感じ!」というものばかりで、ワクワクの連続でしたよ。

四ツ谷)描き直しが出たときに、「ハードル高いかな」と一瞬思ったんです。けど実に見事な絵を描いていただいて、すごく感謝しています。

中島)「福祉施設にお願いする」と聞いて、僕からは「中途半端なものじゃ納得しないから」というオーダーだけはさせてもらいました。天神地下街の40周年として永く残るものなので、絶対に妥協はしたくなかった。それが、こんな完璧な絵をあっという間に描いていただけるなんて。まさに「思い描いていたイメージがそのまま出てきた」という感じでしたね。


手前にあるのが、石井さんが一番はじめに描いたパリの街並み。中島さんのオーダーで、パリを上から見た立体的な風景(写真奥)に描き直してもらいました。

石井さんの絵が様々なアートへつながる

四ツ谷)石井さんに描いていただいた絵は、パリの名所がほとんど網羅されているんです。「パリのメジャーどころを凝縮したい」っていうざっくりしたオーダーが、ちゃんと実現されてて感心しました。

中島)「建物の向きがおかしい」とか、「こう描いてほしい」とかパリ好きが高じてしまい、結構細かくオーダーしてしまって(笑)みなさんにはご迷惑をかけたと思います。

アナバナ)なるほど。街並みのリアル感は中島さんのパリ愛のおかげなんですね

石井)ガイドマップなどを見ながら、名所と思われるところを入れました。配置がかなり難しかったですね。

先崎)どの道を削ってどこを繋げていくかという発想力が必要だったんですが、そこは石井さんにほぼお任せしました。石井さんが描いた街並みの絵に、僕が人物や乗り物を配置させていき1つのデザインに仕上げていったんです。

アナバナ)どうやって鉄に加工されたのですか?

四ツ谷)東京にあるアイアンアートの会社に製作をお願いしました。原画をもとに、鉄板や鉄の棒を何層か組み合わせて絵にはめ込んでもらったんです。ですが照明を当てたら、だだの影絵みたいで面白みがなくなってしまって。「石井さんの絵を活かすにはどうすればいいのか」とかなり苦戦しましたね。

中島)より立体感を出すために、鉄の色を黒からシルバー塗り変えて光を反射させたり、アイアンの先端を丸く加工したり、常に新しいアイディアを出し合ってイメージに近づけていきました。ほぼ毎週東京に行って、一緒に進捗を確認させてもらってたんですよ。

アナバナ)え?東京まで毎週ですか??

四ツ谷)実はこのような案件は弊社も初めてで。地下街さんも含め、現場で試行錯誤しながらみんなで作り上げていった感じです。


アイアンアートはすべて手作業。石井さんの絵をパーツに分けて、鉄板を切り抜いたり、鉄の棒を曲げたりしたものを組み合わせて配置されたそうです。

実際に照明を当てて、影の見え方や反射などを確認しながら色を決めます。ここが一番悩み所だったとか。

毎週、現場を訪れるうちに、職人さん達ともすっかり打ち解けた中島さん。最後にはご自身で色を塗るまでに!

中島)誰もが手探りで進めた感じでしたね。「絵を描く」というアートと、「鉄の芸術」としてのアート、照明アート、それらが繋がってひとつのアートになるのですが、誰も最終形は分かっていなかった。だから除幕式の時はみなさんウルウルされていて、かなり感動しました。みんなの気持ちがひとつになって、すごくいいものができたなと思います。

石井)除幕式の時にはじめて現物を見て、立体的で光も変わるし、「すごい仕事に携わらせてもらったな」と感無量でした。本当に、やって良かったです。

中島)除幕式では、石井さんのお母さまがとても喜んでいらして。「大変なこともあったけど、作品が日の目を見ることができて良かった」と。それを聞いて僕も嬉しくて涙がでましたよ。やっぱりこの絵を選んで良かったなって。


姿を変えて登場したご自身の作品を、感慨深げに見つめる石井さん。除幕式では、スーツをビシッと着こなして、自信に満ち溢れた堂々たる表情でした。

「今までの苦労が、報われました」と、愛情深く石井さんを見守るお母さま。涙を流して喜ばれていた姿がとても印象的でした。

施設のみなさんにも「夢」となる代表作に

アナバナ)今回、「日々の芸術」を利用されていかがでしたか?

四ツ谷)私たちの「妥協したくない」「プロのイラストレーターとして仕事をしてほしい」という気持ちに、石井さんがしっかり応えてくれて、誰が見ても「素晴らしい」と感じてもらえる作品になったと思います。

先崎)デザインの現場で「福祉施設の作品を使う」という選択肢って、なかなか生まれてこないんですよね。今回の作品で「こんなにすごい仕事ができる」と堂々と言えるようになれた。いいPRの場になりましたし、このような事例をどんどん作っていきたいですね。

石井)絵の依頼が増えてきているのは嬉しいんですけど、仲間もいろんな絵を描いているので、もっとみんなの作品もいろんなところで使ってもらえたらと思います。

アナバナ)除幕式の時に、『工房まる』のみなさんが嬉しそうに「私たちもがんばる!」と言われていたのが印象的でした。第2の石井さんがきっと出現すると思いますよ。

中島)僕も、今回の石井さんの仕事をきっかけに、施設のみなさんが刺激を受けて欲しいなと思いますね。もともと「ハンディキャップがある方に輝いてもらいましょう」という企画ではなく、石井さんの作品が良かったからお願いしただけなので、障害があるとかないとかは全然関係ないんです。それって誰にでもチャンスがあるということ。みなさんにとっても「夢」になるような、本当にいい作品ができたなと思います。

先崎)今回のような大きなプロジェクトは、施設だけで進めていくのはなかなか難しいんですよね。発注者である企業や行政などとの間に『ふくしごと』が立って、イメージに近いものを生み出すためのコーディネイトをできたら思っています。

中島)いろんな方にめぐり合い、みなさんの力に支えられたプロジェクトでした。天神地下街40周年を飾るにふさわしい作品ができて、本当に記念になったなと思います。

先崎)50周年もぜひよろしくお願いしますね(笑)

一同)笑

アナバナ)「日々の芸術」の作品が様々な人々とめぐり合いながら繋がって、ひとつのアートになっていく。このモニュメント自体が、題名でもある「つながり」そのものだったんですね。すごく貴重なお話を伺うことができました。本日はありがとうございました。


「嬉しい」「かっこいい!」「すごい!!」と『工房まる』のメンバーのみなさんも大絶賛。除幕式後も度々ここを訪れては、SNSで紹介してくれているようです。

( 写真/西田真紀、取材・文/編集部いはら )

Thank you 日々のてまひま Party 開催します

 

日々のてまひまサンキューパーティが開催決定! 数々のプロジェクトに携わった方々をお迎えして、トークライブも行われるそうです。次回はパーティに潜入、ゲストのみなさまの声をお届けします。


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