日々のてまひまの日々

日々の芸術ついに始動。逆転の発想から生まれた’ファンタジー空間’が、本屋さんに出現中。

福岡市天神・明治通り沿いに期間限定で営業中の、ビールと焼酎が楽しめる本屋さん『Rethink Books』。店内の大きな窓越しに、絵本から飛び出してきたかのような極彩色のビッグな鹿「アラジカ」が出現しています。
この巨大看板のデザインのもとになったのは、『株式会社ふくしごと』がこの夏WEBでの提供を開始した「日々の芸術」のイラストストックです。福祉施設『工房まる』の太田宏介さんが描いたアラジカは、落ち着いたトーンでまとめられた店内に絶大な存在感を放っています。

今回は、『Rethink Books』店長の西山さんと、この書店をプロデュースされた『博報堂ケトル』の日野さんが、太田宏介さんと初対面。絵を囲みながら、太田さんの作品を採用した経緯やこれからの展開についてお話をうかがいました。


『RethinkBooks』の真っ白な箱のような外観。駐車場のサインが店の前に鎮座しています。

駐車場の看板の裏は、キュートな太田さんのアラジカが!ビールや焼酎を片手にゆっくりと本を楽しむことができる異空間に仕上がっていました。

左から『博報堂ケトル』プロデューサーの日野昌暢さん、『工房まる』アーティストの太田宏介さん、『Rethink Books ~本とビールと焼酎と~ with Ploom TECH』店長の西山友美さん。

太田さんの絵を見た瞬間、「これだ!」と直感しました。

アナバナ)そもそも、なぜ看板にイラストをデザインしようと思われたのでしょうか?

日野さん(以後敬称略))道行く人から店内が見えるよう全面ガラス張りの店舗にしたんですが、前にある駐車場の看板が撤去できずに「看板の裏がお店になっちゃう」問題が発生しまして(笑)
お客さまがカウンターに座ったときに、看板の鉄骨ではなく「福岡ならではのアート」を眺められたらいいんじゃない?ということで、西山さん達と相談してアートを探して持ち寄ることになったんです。…完全に事情から入っていますね。

西山さん(以下敬称略))そうですね(笑)

日野)みんなが絵を持ち寄る中、実は僕、ひとつだけしか案を出さなかったんです。それが太田さんの絵でした。正直言うと、福岡で活躍されているアーティストさんの作品はネットで探したんですよね。開店準備でバタバタしているなかで、ざっと検索したくらいだとピンとくるものに出会えなくて。でも、太田さんの絵を見たときに、「あ、あった!」と単純に思いました。インパクトがあって、ちゃんとアートとして成立していて、構図や色使いも面白い。すぐに西山さん達にメールを送った記憶があります。

西山)私もたまたま同じタイミングで、「福岡には『工房まる』っていうおもしろいアート施設があるらしい」と日野さんに話をしていたんです。そしたら日野さんがおっしゃった太田さんっていうのが、『工房まる』のアーティスト太田宏介さんだと発覚して! ほんと偶然の一致でびっくりしました。

日野)『Rethink Books』には、「Rethink(再考する・とらえ直す)」というコンセプトがあるので、絵の完成度にプラスして、はっと考えさせられる何かが欲しかったんです。はじめは障害のある人が描いているとは知らなかったのですが、彼のバックストーリーを知るうちに「福岡ならではの作品になる」と確信しました。
障害のある方々がアートに取り組まれていて、その成果物がハッとするようなクオリティにあるというのは、「Rethink」のコンセプトにすごく合っていると思いましたね。


「表参道でもホークスキャップを被って歩いています!」と熱い故郷愛を語ってくださった福岡出身で現在東京都在住の日野さん。「Rethink Booksを福岡に’いい影響’を与えられる場所にしたい」と、今回のプロジェクトに対する思い入れは格別です。

神奈川県出身の西山さんは、下北沢の書店『B&B』で2年間スタッフとして勤務し、オープンを機に福岡へ。『B&B』での経験を生かし、福岡の書店界に新風を巻き起こしています。

『工房まる』アーティストの太田宏介さん。独特の愉快なタッチと斬新な色彩で福岡を中心に幅広く活躍中。

日野)そこからは、結構あっという間で。店舗デザインをお願いしている『株式会社ダイスプロジェクト』の建築デザイナー橋口さんに太田さんの絵のことを相談したんです。そしたらダイスプロジェクトは『ふくしごと』の事業をされている会社でもあることを知りまして。「知ってるもなにも!」ってことになって。「日々の芸術」のイラストストックをみせてもらうことになりました。

アナバナ)偶然が重なったのですね。それで、イラストストックから太田さんの“アラジカ”が選ばれたと。

西山)そうですね。(イラストストックの)たくさんの作品の中から、最終的には私の直感と好みで、色鮮やかでパッと目をひくこの絵に決めたんです。

日野)明るくてインパクトがありますよね。とてもいい感じに仕上がっていると思います。

西山)絵の前で立ち止まっていらっしゃるお客様をちょこちょこ見かけますよ。絵の横では『工房まる』の活動内容も紹介しているので、来店される方に少しでも福祉のことを知ってもらえたらなと思います。


イラストの見出しには『工房まる』の紹介文が。福祉を「Rethink」するきっかけを投じています。ちなみに、紹介文のテキストの書体は“筑紫ゴシック”という福岡生まれのフォントが使われています!

インタビューの合間には、お二人から太田さんへ「なんでツノは水色なの?」「何をモチーフに描かれたの?」と不思議な絵を探りたいといろいろな質問が飛び交いました。

作品をきっかけに、福祉と社会の新しい’つながり’がひとり歩きしはじめる。

日野)今日、はじめて太田さんとお会いして、すごく明るい方なんだなと思いました。絵も元気があって明るいので、「こういうことか」と納得しましたね。

太田さん(以後敬称略))うれしいです。

西山)『Rethink Books』では、毎日のようにイベントを行っているんですが、太田さん、一緒に何かしませんか??

日野)それいいですね!

西山)もともとはこの看板も、公開アートとして太田さんと一緒に描けたら楽しいだろうなと思っていながら、どこまで声をかけていいのか分からなかったんです。『工房まる』は社会と繋がることを意識的にされているようなので、ここに来るお客さんと何か出来たらいいなと思います。

太田)絵を描いたりします。

西山)あ。店内にある本を太田さんに選んでもらって、それを絵に描いてもらうっていうイベントをやったら楽しそうですよね。お客さんと一緒に何かを描いてもいいし。

太田)ありがとうございます!

アナバナ)そのコラボレーションは素敵ですね!参加したいです。

日野)太田さんの絵を展示したり、いろんな方がイベントをしたり、そういうことの繰り返しで、福岡の人と人とのつながりができていけばいいなと思います。 太田さんの絵をご覧になって「この絵を描いた人と何かやってみたい」と思う人が現れたら、それが看板の成果かなと思うんです。この絵からたくさんのつながりが生まれて欲しいですね。

アナバナ)この絵がきっかけに、また新しい「Rethink」がはじまりそうですね。今日はお集まりいただきありがとうございました。

(文末の建築デザイナー橋口さんのインタビューへつづきます)


店内では、福岡や音楽、食やライフスタイルなど様々なことを”Rethink”するトークイベントや音楽ライブが毎日のように開催されています。

インタビュー終了後、最後はハイタッチでお別れした西山さんと太田さん。「お会いしたかったんです」と西山さんはとても嬉しそうでした。今後の展開が期待できそうですよ

close up !


株式会社ダイスプロジェクト 建築デザイナー 橋口敏一さん

純粋に「使いたい」と思えるクオリティの高さが、日々の芸術の魅力です。

——— 日々の芸術の作品を採用したきっかけを教えてください。
福岡と関わりがありつつも、メッセージ性のある絵を探していました。『工房まる』のアーティストさんはみなさん福岡在住だし、「福祉作業所のありかたを問い直したい」という施設の姿勢が、「Rethink」のコンセプトにもぴったりはまっていると感じていて、インテリアのデザイン提案をした時から、『工房まる』のアート作品を、提案段階の仮の絵で入れていたんです。
いくつかの候補がある中で「日々の芸術」の作品を選んだというよりは、設計者である僕も、日野さんと西山さんも、『工房まる』の絵を偶然使いたいと思っていた。みんなの思いが一致して採用に至ったという感じです。

——— イラストストックを利用しての印象はいかがでしたか?
太田さんが描いた今までの作品がすべてアーカイブ化されていて、カタログを見るような感覚で非常に探しやすかったです。眺めていてすごくわくわくしました。そのデータを西山さんに送って、絵を選んでいただきました。

——— 「日々の芸術」に登録されている他の作品の印象はいかがでしたか?
西山さんが今回のアラジカの絵を選ばれたのですが、実は、僕も他に選びたい作品がたくさんあったんです。データをみていくうちに、いろいろ使いたくなりましたね。今後、他のプロジェクトでも積極的に「日々の芸術」の作品を使っていきたいと思っています。「障害のある人の作品だから使ってあげたい」とかではなく、純粋に「使いたい」と思えるクオリティの高さが日々の芸術の魅力ですね。

【SHOP DATA】

「Rethink Books ~本とビールと焼酎と~ with Ploom TECH」

本を選びながら、ビールはもちろん焼酎も飲める新刊書店。店内は全面禁煙ながら、火を使わないたばこ『Ploom TECH』なら楽しむことができます。

住所:福岡市中央区天神1-10-24
電話:092-406-7787 営業:11:00〜22:00


改装工事中の天神地下街・石積みの広場(福岡市中央区)で、「ふくしごと」の新たなプロジェクトが進行中です。これから何十年先まで残るであろう、ある大掛かりな作品を作成しているそうなのです。アナバナではこのプロジェクトを追っかけ取材。「日々の芸術」が福岡の景色になるまでの日々をお届けします。


天神地下街40周年・改装工事の仮囲いには、ふくしごとが関わるプロジェクトの説明が書かれています(写真右)。どんな作品が出現するのか、乞うご期待!

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