日々のてまひまの日々

障害のあるアーティストと社会を、デザインでつなげる「日々の芸術」ただいま準備中(後編)

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Interview ひまわりパーク六本松

現在、各施設では、イラストストック作成のために絵をデータ化させる作業に大わらわ。そんな中、今回のプロジェクトに参加されている福岡市のアート福祉施設『ひまわりパーク六本松』の山中さんと、『株式会社ふくしごと』の渡邉さんにお話を伺いました。


『ひまわりパーク六本松』でのアート事業をとりまとめられている支援員の山中さん。ご自身もインスタレーションアート作家として個展を開いたことも。

『株式会社ふくしごと』の渡邉さん。元福祉施設職員としての知識や経験をフル稼働しながら、障害のある人たちと社会とをつなげるべく日々邁進中。

植物園清掃からはじまったアーティスト集団「ピースプラント」

アナバナ)『ひまわりパーク六本松』はいつからアート事業をされているのですか?

山中さん(以下敬称略))『社会福祉法人福岡市手をつなぐ育成会』が福岡市からの委託事業として公園清掃をおこなっていました。その清掃場所の一つだった植物園で私がメンバーさん達と絵を描き始めたのが前身になっています。

アナバナ)なぜ絵を描こうと??

山中)植物園の詰所にみんなが出勤してきて作業していたんですけど、私が掃除だけでは飽き足らなくなってきて(笑) 休憩時間とか、外で掃除のできない雨の日に、詰所で絵を描くようになったんです。

渡邉さん(以下敬称略))ということは、山中さんがアート事業の生みの親なんですね! 個展や販売もされていたのですか?

山中)はい。「ピースプラント」という名でアート活動を行っていて、植物園の温室ギャラリーで毎年展示をさせてもらっています。あとは、イムズのときめきアート展や久留米の石橋美術館のビタミンアート展にも清掃していた当時から出展しています。


宮沢賢治の「月夜のでんしんばしら」をイメージした作品展を開催。壁画だけでなく、2mもあるオブジェを作成して空間すべてがピースプラントワールドに。

アナバナ)アート活動をはじめられた時、法人(事業所)側の反応はいかがでしたか?

山中)実は全然…で(笑) 「アート活動をしたい」って言ってもなかなか認めてもらえなくて、勝手にアートカレンダーを作って、雑貨店とかいろんなところに売り込みに行ったんです。「ちゃんとお金になる」という実例をまず作らなきゃと思って。

渡邉)すごい情熱ですね!

山中)市の清掃事業が終了して、平成24年に新しく事業所を作ることになったときに、「掃除しかしたことのない彼らに何ができるのか…」という話になって。「アートがある!」と言い続けて今の形になった感じですね。


毎年オリジナルのカレンダーを作成。一筆箋やTシャツなども制作して販売しています。

アナバナ)山中さんは彼らのアートのどういうところが好きですか?

山中)やっぱりおもしろいんですよね。あと、うらやましい。自分がアート活動をしていた時は「評価されるものを作らないと」というプレッシャーが常にあって。そういうことを考えずに白紙の状態で「好きに作っている」ことがひたすらうらやましいですね。
わが施設の売れっ子アーティスト蓑田さんなんて、ご自身の絵がいろんな商品になって販売されているのにも関わらず、全く気にもとめていないんですよね。それがすごい!

渡邉)蓑田さんの靴下! 今日も履いてますよ〜

アナバナ)わ!何ですか!そのド派手な可愛い靴下は♡

山中)エイブルアートカンパニーの登録作家になると、靴下や傘などいろいろな商品に作品をデザインして販売していただけるんです。蓑田さんの靴下は、伊勢丹さんでも売られていたんですよ。


渡邉さんお気に入りの私物靴下。スニーカーにもパンプスにも合わせやすく、「かわいい!」と評判だそう。

渡邉)この靴下は、まだ施設職員をしていたころに購入しました。「エイブルアートカンパニーのイベントが天神イムズである!」って聞きつけて、北九州から天神まで駆け付けたんですよ。
かなりヘビロテしているんですけど、これが蓑田さんの作品だと気付いたのはほんのつい最近。今まで何度もここに足を運んでいたのに、作家さんがこんなに近くににいるとは全く知らなかった!という(笑)

山中)お互いにね(笑)実は私もこの柄は初めて見たんですよ。
ふたりでびっくりして、「蓑田さーん!靴下になっとうよー」って彼を呼んだら、メンバーさんたちがみんな来て(笑)

渡邉)そうそう。みんながぞろぞろやってきて、真剣に足を見られて変な感じでした(笑)


優しいトーンが人気の蓑田さんの作品は、多くの生活雑貨に変身。百貨店でも売れる人気商品です。

デザインからつながる、障害のある人と社会

アナバナ)おふたりは、日々の芸術にどんなことを期待されていますか?

山中)メンバー全員の作品が、ポスターやチラシなど様々な制作物に展開される可能性があることがうれしいですね。自分たちだけでは、こんな素敵なことにはつながらないので。

渡邉)日々の芸術では、「アート作品そのもの」を売るというより、「デザインの素材のひとつ」として障害のある人の作品を販売しています。まずは、販促物などを制作するデザイナーさんにWEBで作品をダウンロードしていただき、そこからポスターやフライヤーなどに使ってもらう。そのために、デザイナーさんが気軽に使えるようなしくみになっているんです。日々の芸術を入り口にして、障害のある人の作品が、外の世界にどんどん飛び出していってくれたらいいなと思うんです。

山中)施設が単体で商品を作っても、販路が難しいんですよね。営業とか商品企画とか、専門ではないので。『日々のてまひま』がそこをカバーしていただけるのもありがたいです。

渡邉)施設で眠っている作品は宝の山じゃないですか! それを施設に代わって社会につなげて生かしていくのが私たちの役目ですから。

アナバナ)最初に日々の芸術のプロジェクトを聞かれたときの感想はいかがでしたか?

山中)わくわくしましたね!

アナバナ)それは、なぜですか??

山中)どんどん可能性が広がっていくとおもしろいなと思って。
エイブルアートカンパニーは奈良とか東京で展開されているので、なかなか商品を手にとる機会がありません。日々の芸術だったら、商品が売られている現場を身近で見られたり、デザインされたポスターなどを見る機会も増えるんじゃないかなと。そうなったら、利用者さん達も、ご家族もすごく喜ばれると思います。

アナバナ)なるほど

山中)アート作品が商品化されることで「これはどういう人が描いたんだろう」と想像してもらえたり、人から褒められたり、わくわくする刺激をいろいろもらえると思うんです。家族からも「こんなすばらしい才能があったんだ」と再発見してもらえる。社会とのつながりができて、メンバーさん自身の世界も広がっていくんじゃないかと思います。

渡邉)わぁ〜。ますます気合入ってきました! イラストストックができることで、私も企業さんにノベリティなどのデザイン提案がしやすくなります。
施設で素敵な作品がどんどん生まれて、それがポスターやチラシにデザインされて動き出す。そこからいろいろな交流が生まれていくといいなと思います。

ひまわりパーク六本松


アート作業と簡易作業を主な生産活動とする就労支援施設。メンバー全員がアート制作に携わり、『PEECE PLANT(ピースプラント)』という名前でアート作品をグッズ化したり、展覧会で発表したり、企業へのデザイン提示をしたりと活動の場を広げています。

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