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酪農家が生き残りをかけて挑んだ活路。 ダイワファームのチーズができるまで

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5年前から家業を手伝いはじめた「ダイワファーム」の大窪誠朗さん

宮崎県の南西部に位置する小林市、山々と田園風景が広がるのどかな環境の中で、日々酪農とチーズづくりに向き合う「ダイワファーム」。今でこそ事業の核は、自社生産の生乳を使った加工品製造ですが、もともとは牛乳を出荷する酪農を専業としていました。事業改革のきっかけは、突然訪れた大きな苦境だと言います。社長である父・大窪和利さんと共に「ダイワファーム」を支えている、長男の誠朗さんにお話を伺いました。

打開策としてはじめた加工品への取り組み

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「父が酪農を継いだのは20歳の時です。アメリカの酪農を参考にしながら規模を拡大していき、一時期は60頭以上の牛を育てていたと聞いています」と誠朗さん。そんな中、牧場経営を窮地に立たせることになったのが、1993年にはじまった生産調整です。牛乳の余剰を抑制するために生産を制限するという行政指導でした。
「僕はまだ小さかったのでよく覚えていませんが、父は当時を振り返って『あの時は先が見えなくなった』と言っていました。せっかく絞った生乳をただ捨てるしかないという状況に、牧場は経営危機に陥ったそうです」
そんな状況を打破するための策として、和利さんが試みたのはソフトクリームづくりでした。「新鮮な生乳と広い敷地はある。だったらそれを活用するしかない」と、倉庫を改築した店舗で販売をスタート。イタリア製の機械を使った本格的な味わいを追求し、ブルーベリーやチョコレートなどトッピングにも注力。その美味しさは徐々に口コミで評判となり、地元からも遠方からも、多くの人が訪れる人気店となっていきました。

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一番人気のブルーベリー。甘さ控えめで、特に女性や家族連れに人気

これを機に、生乳を使った加工品に活路を見出した和利さん。ある日、農業雑誌で偶然見つけた手づくりチーズの記事にピンときて、自ら作ってみようと思い立ったそう。
「実際にやってみたらすごく難しく、それが逆に面白かったみたいで。父は何事も途中で辞められない性格なんです」
和利さんは早速、湯布院のチーズ工房や、農業高校時代の恩師を頼って技術を学び、2005年、誠朗さんが小学生の時、本格的にチーズ製造に乗り出します。
「この時は、チーズを新しい事業にしようとまでは考えていなかったみたいです。でもこの頃の父は本当に忙しく、家族と会話する暇がないくらい酪農とチーズづくりに没頭していました」。やると決めたら本気でいいものをつくりたいと、必死に研鑽を重ねながら技術を磨いていった和利さん。次第に商品の質が認められるようになり、コンテストで授賞したり、飲食店からの注文が入ったりと、生産は軌道にのっていきました。

15年という歳月が経った現在、事業はチーズがメインとなり、息子の誠朗さんが片腕として和利さんを支えるまでに成長します。しかし「こうして親子で働くようになるとは、思ってもいなかった」と誠朗さんは話してくれました。

いつの間にか受け継いだチーズづくりの技術と職人気質

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週に2日はモッツアレラチーズづくり。朝5時半から作業にとりかかる

父の和利さんについて尋ねると、「豪快で裏表がない性格。困難に立ち向かっていく気概があるからこそ、逆境を乗り越えられたんだと思います」と、尊敬の念を隠しません。
それでも誠朗さんは、「僕自身、父を継ぐ気はまったくなかった。『二世』という文化にどこか抵抗があったんだと思います」と話します。高校卒業後は故郷を離れて福岡の大学へ進学。誠朗さんがチーズづくりに足を踏み入れたきっかけは、大学を辞めた時に和利さんがかけてくれた、「どうだ、やってみるか」のひと声だったそう。「決して強要ではなく、僕も『じゃぁ、手伝ってみようかな』という気持ちでした」

それから北海道のチーズ工房で熟成工として2年間働いた後、小林に戻り父の作業を手伝うように。現在は夕方の搾乳とチーズづくりを主に担当しています。幼い頃から、水代わりに牛乳を飲んで育ったという誠朗さんは、「なぜかほかの牛乳はお腹に合わないんです」とおっしゃいます。自家生乳の品質は誠朗さんご自身が身をもって感じているはず。何気ないお話からも、誇りをもち、チーズづくりに向き合う真摯な姿勢が伝わってきます。

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簡単そうで難しい、職人技を伴うモッツアレラの成型作業

「チーズづくりについては、手取り足取り教えてもらったことはなく、一緒に働きながら感覚で覚えていきました。生き物だから日によって状態が違うし、正解がないから難しい。でも、シンプルな材料からこれだけのバラエティが生まれるのはすごいと思うし、自分なりにもっと研究していろんなチーズに挑戦していきたいです」。今ではすっかりチーズに魅せられた誠朗さん。難しさに挑むことの中にやりがいを感じる職人気質は、きっと父親譲りなのだと思います。

20年ぶりのトッピング改革!変化もどんどん取り入れたい

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店舗ではソフトクリームやチーズ、ヨーグルトなどを販売している

チーズづくり以外にも、誠朗さんは“今できること”をひとつずつ取り組んでいます。たとえば、20年間変えていなかったソフトクリームのトッピングリニューアル。2019年秋の「皿の上の九州(リンク)」で出逢った鹿児島県鹿屋市「kitos」のチョコレートや、太宰府「CoRIcco」のレモンフレーバーのオリーブオイルなど、誠朗さんが納得して集めた素材を使った新メニューが、今年6月頃に登場予定だそう。ソフトクリームは店頭でしか味わえないので、ぜひ小林まで足を運んでみてください。

また、会社の今後についても誠朗さんならではの展望が。「これまではほぼ家族経営でしたが、今後は雇用も創出していきたいです。僕もそうでしたが、小林は高校を卒業したら町を出ていく人がほとんど。小林には若い人が働きたいと思える魅力的な職場が必要だと思います。働く時間や環境などをしっかり整えて『ダイワファームで働きたい』と思われるような会社にしていきたい」

一度は親元・地元から離れた誠朗さんが、家族のため・小林のために思案し奮闘する姿を、誰より嬉しく思っているのは、父親の和利さんかもしれません。苦境を乗り越えてきた「ダイワファーム」が、次の時代にどんな変化を見せてくれるのか、ますます楽しみです。

(取材:編集部、文:ライター/吉野友紀、写真:カメラマン/川原 朋子・末次優太)

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