5月のことですが、糸島で開催されたくるくるマーケットにて、
興味深いテーマの講演会がありましたのでレポートします!
くるくるマーケットは、荒木さんという主婦の方が
大阪から糸島に移住されたのを機に始まったイベントです。
住まいや暮らし、地域を軸に、フリーマーケットや竹箸づくりのワークショップ、
九大生による空き家プロジェクトの発表など、
年代を超えてさまざまなブースがゆるりと繋がり、糸島らしいにぎわいを見せていました〜。
そんな中、今回の一番の目当ては、ある特別講演が開催されると知ったから。
タイトルは『住まいと暮らしと生前整理』。
家事代行業歴28年、整理収納アドバイザーの高橋美智子さんによる講演です。
どんなお話が聞けるのだろう? と気になりませんか?
”生前整理”と聞いてちょっと身構えていましたが、
モノと住まいの関係をわかりやすく楽しくお話してくださいました。
「私自身も物が捨てられない人です」
講演会は、高橋さんの意外なひとことから始まりました。
高橋さんが今の仕事を始めた当時は、今みたいに家事代行業が一般的ではない時代でした。
もちろん”断捨離”なんて言葉もありません。
主婦が毎日やっている家事が仕事になるのか、と家族に猛反対されたそうです。
銀行員から農家に嫁ぎ、いわゆる普通の奥さんとして暮らしていた高橋さん。
農家と主婦業を両立することを約束に33才の時に家事代行業の会社を立ち上げます。
お姑さんが捨てた物をこっそり持ち帰ってくることもあるほど、
”もったいない度”が強いタイプの主婦だったそう。
子育ても一段落し、家族の為に磨いた家事の腕を社会で役立てようと思い至ったのも、
そんな風に物を大事にする高橋さんだったからかもしれません。
仕事を立ち上げて3年間は全く仕事がなかったそうですが、
もの珍しさからメディアで取り上げられるようになります。
すると、家事の担い手がない家庭よりも、
主婦当人からの問い合わせが殺到したといいます。
「盆正月くらいはプロにしっかり掃除してもらいたいけど、
家が片づいとらんけん他人をうちには上げたくない……」
そんな矛盾した悩みを多くの主婦が抱えていたそう。
掃除以前に、その前段階の整理整頓が出来ていない。
家事のプロである主婦が、整理収納に手こずっていたのです。
それならば、と整理収納アドバイザーの資格を取得した高橋さん。
「掃除をプロに依頼する方は、家の中がただ綺麗になれば満足ではなく、
もっと豊かに暮らしたいと思ってるんです」
ひとりの主婦として、依頼主と話す中で実感したことだといいます。
以前手がけたお仕事を例に、
「豊かな暮らし」と「整理収納」の関係をお話してくださいました。
夫の13回忌と孫との同居を機に、
築50年の家からマンション暮らしへの引っ越しを決心したご婦人からの依頼。
夫のいない家が嫌で、毎日習い事で家を空ける日々、当然家のことはおざなりになります。
高橋さんへの依頼内容は「新居での快適な生活を」というざっくりとしたものだったそう。
要は「全てをお任せします」というご要望、さらに引っ越しは10日後!
10日間で荷物の整理から引っ越し業者の手配、新居のインテリアまで手がけることになります。
「どんな仕事でもそうだと思いますが、仕上がりは段取りが全てです」
家具やインテリア小物など、残すものは採寸して携帯で写メを撮る。
それを元に物のサイズとマンションの間取りを見取り図におこす。
ちょっとしたことで新居の家具の配置などがスムーズに決まるそうです。
「風を取り入れるための空間を意識して、物を配置するだけでも、
住まいは生き返るんですよ」と高橋さん。
「物にも住所が必要。物を迷子にさせないことが散らかさない一番のポイント」だそうですよ。
そうやって要るもの、要らないものを限られた時間で整理し、着々と準備が進む中、
ご依頼主の奥さんがふと、こんなことを言われたそうです。
「引っ越しを決めたのは自分だけど、家も土地も物も何もかもを捨てていくことが実は悲しい」と。
当たり前ですが、長く暮らしていると、物にも歴史と思い出がついてきます。
奥さんだけでなく、お家を離れて暮らすお子さんらにとっても、物への「思い入れ」があります。
物は人の意思があるからこそ存在するもの。奥さんが「悲しい」と感じるのは自然なことです。
そうはいっても、豪奢な一軒家からマンションへの引っ越しともなれば、
持ち物のサイズダウンは避けられません。
「だからこそ整理収納のプロが必要なんです」と高橋さん。
空間を広く使うことに加えて、すぐ行動に移せる導線作り。
住まいと自分に合った物量で暮らすこと。
シンプルなルールで物を整理し、リサイズ。活用できるものは活用する。
こうして物と丁寧に向き合うことで、「物を捨てる」という罪悪感からは解放されます。
例えば、物を包んでいた新聞紙が昭和31年のものだった。
「それってつまり、それまで一度も使われていなかったってとこですよね?」
物にとっては悲しいことです。
状況をアドバイスし、背中を押す役割が整理収納のプロだと言います。
無事に引っ越しされた後、ご依頼主の奥様は
「この新しい住まいがずっと暮らしていたみたいに心地良い。
まだ元気なうちに整理して本当に良かった」
とおっしゃったそうです。
しかるべき時期に少しづつ、自分に合った生前整理をしていくこと。
それが快適な暮らしにつながります。
「60歳になったら自分の意思で物を整理し、要らないものは処分していかないといけません。
でもそんなこと誰も教えてはくれませんね」
不要なものを納得しながら処分し、住まいの風通しを良くする。
すると家が喜ぶ、残された物が活かされる、
そんな風に暮らしを変えた人たちが日々満たされていく様子を見てきた高橋さん。
そのことを「物の恩返し」と表現されていました。
「家の風通しが良くなることは、ちょっと先の未来についても風通が良くなるんですよ。
それって幸せな気分にならない?」
最後に、会場から掃除の仕方について質問が出ました。
「掃除をきちんとしている家は価値が下がらないんですよ」
家の寿命は「掃除」で決まると高橋さんは言います。
汚れたら拭く、使った物は元の場所に戻す。
「ただそれだけです。それをするかしないかだけです」
簡単だけどなかなか出来ない極意に、ただただ深くうなずくばかりでした……。
耳が痛い。
余談ですが、「冷蔵庫の中と家の中は似ていて、
家が物で溢れている人は冷蔵庫の中も間違いなくぐちゃぐちゃ!」
という経験談もお話くださいました。心当たりのある皆さん、お気をつけあれ!
「講演会のプロではないからおしゃべりはヘタなの」と微笑む高橋さん。
会社を経営している現在でもお客さんのお家で体を動かしている時が一番楽しいそうです。
掃除をすると確かに気持ちもすっとします。
もしかすると究極の健康法と言えるのかもしれません。
高橋さんの活き活きとした笑顔を見ながらそう感じたのでした。
今となってはなかなか教えてもらえない身の回りの整理の仕方、
さっそく冷蔵庫の整理からはじめます……
次回の糸島ぐるぐるマーケットは11月を予定しているそうです!
□高橋さんのブログはこちら。
(写真/文 とよだ)
★☆おまけ★☆