インタビュー

写真家竹沢うるまさんとお話しました。(4)

conversation_mianheader_012013.3.27 up

写真家竹沢うるまさんとダイスプロジェクト橋爪の公開対談

※対談で紹介されたうるまさんの写真は全てこちらのサイトからご覧いただけます。
億光年の旅人□http://billionlightyear.com/

#04 旅ではなく日常

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3年も旅をしていると、最初に訪ねた場所のことを細かく覚えていないこともあるのではないですか?
うるま そうですねぇ。忘れていることは多いですよ。でも、何かあった時には自分でも読み返すのが嫌なくらい、毎日日記を書いています。「今日路上で変な踊りをしているオヤジを見た。あの踊りはどこから生まれてきたんだろう」とか(笑)。 今は読む気がしないですが、この旅を本にまとめることになったら読み返してみようかなとは思っています。

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”旅ではなくなった場所”というか、ここで暮らしてみようかなって思えた場所はありますか?
うるま あぁー。「ここだったら暮らせるなー」って思ったのは南アフリカのケープタウンですねぇ。あそこは景色もいいし、そこそこ文明があって、そこそこ非文明で。そのバランスがいいんです。気候もいいし、魚もおいしいし。んー。あとはロンドンとか、ハンガリーのプタペストは冬は寒いでしょうけど、物価が安いし居心地よかったです。まぁでもやっぱり日本が良いですね。日本人ですから。
橋爪 そういえば以前聞いたんですが、うるまさんは写真を撮るとき三脚を立てて狙って撮らないそうですね。それは何か理由があるんですか?
うるま 人の表情や動きでも何でもそうですが、一瞬一瞬の輝きみたいなものがあるんです。それを、三脚立てて考えて構図を決めて、この時間帯にこの絞りでこの感度でこのシャッタースピードでってやって撮っても、想像の範囲を超える写真は絶対出て来ないんです。それを超えた外の世界の輝きがあるんですね。つまり、そうやってものを考えて撮る時点で、それらを囲い込んじゃって、限定しちゃってるんですよ。だからそういう作業を頭の中でして撮るとつまらない。三脚も持っていますけど、夜くらいしか使わないですね。 まずはその瞬間に立ち会えるかどうか。そしてそれを感じ取ることができるかどうか。その2点で決まってしまうと思っているので、あとは正直なんだっていいんですよ。
橋爪 なるほど、そういう理由があったんですねー。
日本に入国する直前の心境を教えてください。
うるま んー、案外普通でしたよ。何か盛り上がるわけでもなく、あぁ終わるんだなあと思いました。2年を越えると旅ではなく“日常”になってくるんですよ。だから、日本に戻った時も「また違う国に行く」という感じです。ただ、中国のチンタオから韓国のインチョンまで船で渡った時は少し感慨深かったですね。なにか大陸から離れるような感覚がして。「あーちょっと待って、心の準備が…」みたいな。昨日福岡の夜をうろちょろしてた時、やっぱり帰って来たんだなあって思いました。色んなものが不思議で、1人でぶつぶつ言いながらつっこんでいました。「ごはんのメニューなんでこんなに種類あるの?」とか「なんで夜なのにサングラスしてるの?」とか「コンビニこんなにいっぱい要らないでしょう?」とか。海外にいると日本語が通じないから、ついなんでも一人言を言うクセがついてしまって(笑)。

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日本では、福岡は”アジアの玄関”と位置づけられていますが、そういう体感はありますか?
うるま いえ。日本は“アジア”という感覚はないですね。日本は島国です。日本はどこにも似通っていないんですよね。アフリカ大陸は国が似通っていますし、南米もヨーロッパもそれぞれの国の特徴はありますが、共通点がある。中国の上海とか韓国のソウルとか、似ている部分もありますけど、それでもやっぱり日本は日本ですね。それは独特な感覚であったり、島国でこんなに発展している国はないんじゃないでしょうか。アジアではないと言いつつも中国文化圏のひとつであるという気はしますよ。やっぱり文化もそうですし、漢字を使っているし。ただ、あくまで僕の主観ですけど、アジアの一部と言われるとちょっとなんか違うような気がします。
橋爪 旅を通して、何か変化はありましたか?
うるま 世界を自分の肌で感じたことで新しい視点が生まれたかというと、正直そういうのはないです。「どうだった?」って聞かれるんですが、言葉にできない。僕らが想像できないくらい大きくて、僕らが理解できないような深い世界に触れてきたので、一言には表せないんです。
だから、この旅を写真と文章を使ってひとつのパッケージにはしますけど、それがすべてではないと思っています。
橋爪 すべてを理解できなくて上手く表現できないからこそ、地球についても人間についても興味がつきないのかもしれませんね。
「億光年の旅人」というタイトルはうるまさんが考えたのですか?
うるま はい。地球という星があって、それは宇宙の中のひとつの星で、星自体も旅をするんですよね。億光年というのは宇宙を意味してて、旅人っていうのは星を意味している。“億光年の旅人”とは地球のこと。それに自分をかけています。僕は世界一周して、この星を記録する。一冊にまとめたとしたらそこには世界が成り立つひとつの星がある。それを一言で表すと「億光年の旅人」という感じです。 まぁ、あんまり説明しちゃうとアレなんですが(笑)。
橋爪 これから沖縄に行くんですよね?
うるま はい。明日鹿児島から沖縄に渡ります。久しぶりの沖縄なので楽しみです。
橋爪 その後のことは、まだこれからという感じかな?
うるま そうですね。色々と言葉にするのは難しいんですが、ブログなどでも少しずつ思いを載せて行きたいと思っています。

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橋爪 写真集はいつぐらいに出来上がる予定ですか?
うるま 今のところ2013年の7月くらいを予定しています。 展示会もやりますので、その時はまた福岡にも立ち寄ります。
橋爪 へぇー!それは楽しみです。ぜひお待ちしております!

( 取材/編集部 文/田中 写真/大田 )

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