インタビュー

「ナリワイをつくる」。伊藤さんと山内さんとお話しました。(4)

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伊藤さんと山内さんと「ナリワイをつくる」についてお話します。

#04 持続する仕組みづくり

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山内 ナリワイという視点はすごく面白いのですが、その一方で僕が気になってしまうのは、「どうやったら伊藤さんみたいな人が増えていくのか?」ということなんです。「新しい働き方をするんだ!」っていう意識高い系ではない人や、あるいは本当にコミュニケーションが苦手な人とか、現状にすごくへばっている人とか、そういう人たちがつながっていける仕組みを、一方で考えないといけないんじゃないか、と思うんです。オルタナティブなら、なおさら。
 そういう点からも、ナリワイの活動の拡がりというか射程というか、伊藤さんご自身はどのような展開を考えていらっしゃるのかを聞きたいんです。「ナリワイをやりたい」と思う若い子が現れたときに、それを持続させていく仕組みをどう考えていらっしゃるのかなと思って。
伊藤 そうですね。どうやったらいいかは、本人が実践する前ではなかなかわからない。その第一歩として本はある程度共有できるからいいツールだなと思うんです。でもまあ本読んだだけでモンゴルツアーやれといってもなかなか難しいですよね。
 ただ、これまで失敗も色々体験して、やり方は確立したので、やりたい人がいたら教えながら一緒にやって、各個人が好きな国、縁のある国で武者修行ツアーができるようなインフラを作っていきたいなとは思っています。のれん分けじゃないけど。工夫すればすぐにできるようになる人もいると思いますし。

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山内 例えば”塾”のような形態も、ナリワイで考えていたりするんですか?
伊藤 そうですね〜ただ、それ専門にすると専門学校化は避けられなくなるので、それは“たまに”やろうと思っていますね。
 今回各地を色々回って思ったのは、実践者はそこらじゅうにいるということ。本人が自覚してないだけなんですよ。意外にいろんな仕事を複業して楽しくやってる人って結構いるんだけど、なんとなく周りから「早く本業を決めろ」みたいなプレッシャーを受けて「ああ自分はダメだな」という気持ちになってる人がすごく多いんですよ。
 でもそういう人が本を読んで、なるほどこういうやり方でやっていけば確かなものになるんだなとわかる。それでまず実践者が増えると思うんです。そういう人たちって僕が体験したこと以外の技術や経験を持ってるから、それをこの本を通して共有できるようなサイトというか、アプリが作れたらいいなと思っているんです。
 「本の第○章に関して、僕は具体的な体験を持ってる」とか、そういうのが共有できるようになったらおもしろいなと思って。
山内 なるほど。それは実際にあったら使ってしまうかもしれないなぁ。
伊藤 だから、僕1人が教えるより実践者それぞれが教えられるような場所が作れたら最高やなと思うんです。
 あとは、コミュニケーションが苦手な人がいきなりモンゴルツアーやってもしんどいと思うんですけど、段階があって、あれよりもっと簡単なナリワイってあるだろうと。
 最近やっているのは、ただひたすら床を張るという「全国床張り協会」の会長をやってるんですよ。ボロボロになった家の床を張るだけの協会なんですけど。依頼が来たら「◯○さんの家の床を今週土日で張ります、参加者募集!」として、ただ床を張るだけ。床張りって教えさえすれば誰でもできるんですよ。なんか居心地悪い空間も床さえ直せばかなりいい雰囲気に見えるんです。そうすると自分の生活空間がよくできるという自信が得られる。
 自分の力で(十数人でやりますが)、数万円くらいでいい部屋ができるということを知ることから、人が変わっていくことの余地が生まれると思っています。いわゆるしゃべりが上手という意味でのコミュニケーション能力がなくても何か作業しながら人と会話するのは難しくないんです。床張りという共通の話題がそこにある。「あ、釘曲がっちゃった」「難しいですよね、僕も曲がったんですよ」みたいな。
 ナリワイというのは自分の自給力をおもしろい形で身につける場でもあります。床張り協会は日本各地でみんな床張って、日本人の1割は床張れるんですみたいなのを目指しているんです。そこから何かやっていけたらいいなと思っています。
山内 話を聞けば聞くほど伊藤さんは非バトル系と言いつつ、かなりタフだと思うんですよ。 戦わないで生きていけるという意味で、実は戦闘能力が高い(笑)。
 でも普通は「安定感がない」ということに対する不安があるから、むしろ、無謀な冒険よりはマシに見えてしまう現状の中に、あるはずのない安定を求めて、勝ち目のない戦いを続けちゃうと思うんです。

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伊藤 ああ、それはあるでしょうね。
山内 現実にはなかなか安心感は得られない、という中で、例えば人気のパフォーマンスや雑誌、あるいはFacebookとかその典型ですけれど、サブカルのような、10年前には考えられないようなベタで視野の狭い事柄や考え方に、ますます多くの人が心の安定や拠り所を求めている傾向がありますよね。
 個人的に「これはいよいよヤバいなあ」と思っているのですが、でもおそらく圧倒的大多数は、現状の不安や拠り所のなさに耐えきれずにそうならざるをえない気持ちも、一方でよくわかるんです。
 だから苦しくても今の状況に縛りついちゃう。そういうあり方に対して、ナリワイではなにかアプローチをかけていくお考えをお持ちですか?
伊藤 そうですね。その辺、考えるところがすごくあって。何かできないかなと思うんですよね。

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山内 収入と支出の総額を減らして最低限の支出にお金をまわしていくというお話でも、今の伊藤さんの生活水準だとできる話、例えば40過ぎで子どものいるサラリーマンにはどうでしょう。「お父さん、会社やめて今日からナリワイ始める!」とか言っても。
伊藤 それは危ないですね。いきなり辞めなくっても、3年くらい待ってほしいですね。
山内 そういう時に、どんなあり方があるのかなというのにも興味があって。僕としては、それぞれのバランス、年代別のナリワイの作り方、仕事の仕方のサンプルが色々できればいいなと思ってるんですよね。
伊藤 確かに、それは思いますね。 いろんな年代、いろんな家族構成におけるナリワイ的生活をしているの実践者を見つけて、その人が具体的にどうやってある程度おもしろい生活をやっているかというのを世の中に共有できる形にすることを、次にやらなければと思っているんですよ。もちろんある程度応用は利くんでしょうけどやっぱり僕のやり方は僕の条件で、それぞれにやり方も違うから、条件も変わるはず。
 推奨したいのは、思い立ったら今の仕事をすぐ辞めようとしないで、3年くらい準備して辞めること。でもそれだと日常にのまれてできないということもあると思うんですが、その場合は計画を推進するためにマネージャーをつけないといけない。既にナリワイを始めている友達がいたら相談しながらやってみてもいいし、普通の友達に月1回だけでも報告会をつきあってもらって、定期的にそのテーマで飲み会を開いてみるとか、そういう工夫をせないかんですね。
山内 本の終わりの方でも、本当は人とつながることも大事ですよと書いていますよね。僕が取材に行った街で、韓国のソウル市に、「ソンミサン・マウル」っていう面白い地域があるんですよ。マウルとは村という意味で、ソンミサンは「大橋」「中洲」みたいな地名です。ソンミサンの住民が作っているコミュニティがソンミサン・マウルって呼ばれているんです。
 行ってみるとなんてことない普通の小さな地域なんですが、そこには見えないネットワークが広がっていて、ソンミサン住民による住民のための様々なサービスがビジネス展開されている。自分たちが「求めること」と「できること」をすりあわせて、自分たちで資金を出して運営までしてしまう。うまくいったら続けるし、うまくいかなければすぐやめるという感じで、現在70以上のサービスが走っているんです。
 こんな風に、ナリワイを持っている人たちが集まったり、広い意味での自活のモデルがナリワイの行く末としてあるのかなって思っているんですけど。

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伊藤 そんな地域があるんですか! そういうことはぜひやりたいですね。各自の得意分野を交換できて必要なものが揃うという状況を作ればできるわけなので。 さっきのアプリの会員数がそれなりにいたら、その中で物のやりとりとかサービスを提供するなどということができるかもしれない。
山内 そういう動きはおもしろいですね。 最初は小さいかもしれない。でもネットワークの中で自分たちができるサービスみたいなものを作っていきながら、ある動きを作っていく。それが段々外に広がっていいきながら、他のナリワイの人たちとつながっていく。そういうのは未来があっておもしろいなと思います。
伊藤 はい。実際動きそうだなというのは実感しているところです。

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山内 伊藤さんは今回、本の販売で各地を巡業してらっしゃいますが、今後考えている展開はありますか?
伊藤 本はほっといても売れないので、直接会って売ろうと思いまして、今回は鳥取、島根、尾道という感じで、南へ下りてきました。
 今東京に住んでいるんですけど、和歌山県の熊野本宮大社近くで家賃3,000円の一軒家を借りたんですよ。床とか壁とかは全部張らなきゃいけないんですけど。今の日本って都市は機能的でいいんだけど一カ所に依存していて、いざ都市機能が停止したときにバックアップがない人が多い。ちょっと脱出したいんだけど行く場所がない。だから、熊野の家を整備して、さっとやって来ても、各々が普段どおりに、ふつうに仕事ができてしまうような場所にしてみようかと考えているところです。
 あとは、本読んで人と一緒になんか実際にやるところまでいきたいですね。本を出したときしかこういう動きはできないので、今年度くらいは各地で巡業イベントができれば。
 おかげで、空き家やら牧場やらみかん畑が余っていることがわかったり、こんなナリワイやってるんだという人に出会ったりして。ナリワイ作りをしている人のネットワークを今後育てていく必要があると思っていて、その準備でもあると思っています。
山内 なるほど。伊藤さんのお話は示唆に富んでいますね。ドネルモで今「2030年代の高齢社会のモデルを考える」プロジェクトを行政やシンクタンクとの仕事でやっているのですが、そのためのヒントも色々といただいたように思います。今日はありがとうございました。
伊藤 こちらこそ、ありがとうございました。

( 取材・文/曽我 写真/大田 )

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