2013.12.02(月)up
去る10月、福岡県は八女市発の映画『まちや紳士録』の試写会が行われました。昔ながらの町並みが残る八女で、町家を保存するために活動を続ける人たち、伝統技術を駆使する職人さんたちを追いかけたドキュメンタリー映画です。 映画を撮ったのは、八女在住の映画監督、伊藤有紀さん。伊藤監督にとっては初めての長篇劇場用の作品です。今回は試写会の様子とともに、映画の一部をご紹介します。
古い町並みを舞台にした映画
映画の舞台となったのは、八女市の中心地、福島と呼ばれる地区。江戸末期から昭和初期までの古い町並みが今も軒を連ねています。
福島地区の歴史は古く、戦国時代に築かれた福島城の城下町として発展してきました。城が廃城になったあとも、久留米と豊後を結ぶ往還道沿いの町として栄え、周辺の農村からの生産物を通して、提灯や仏壇、和紙など、八女のものづくりの礎を築いていきました。しかし建物は幾度の火災により焼失を繰り返します。そのため、商人たちが町家の建築に財を投じ、現在も見られる多様な建築物が生まれていったと言われています。
八女の美しい町家は、何もせずに残ってきたわけではありません。戦後の高度経済成長やグローバリゼーションの波に呑み込まれ、地域の衰退によって再生が困難となった時期もあったようです。その裏には、「八女の町家や町並みを保存したい」という人々の熱い思いがありました。
町家を支えるさまざまなかたち
映画には、町並みを保存する運動を支えてきたキーパーソンのお二人も登場します。元市役所職員の北島力さんと、地元建築家の中島孝行さんです。彼らを中心に、八女は地域ぐるみで古い町を残そうと、20年にわたり建物の改修や空き家の斡旋などを続けてきました。
元市役所職員の北島さんは、町並み保存運動を牽引してきた方。役所を定年退職後、現在はNPO法人八女町家再生応援団の代表として、空き町家の再活用に取り組んでいます。
一級建築士としてさまざまな伝統建築改修工事の設計に携わる中島さんは、NPO法人八女町並みデザイン研究会理事としても、伝統技術の継承に務めています。
彼らの長年の活動が後押ししてか、現在、八女には多くの若い人たちが移り住んで来ているのだそう。東日本大震災を機に八女への移住を決め、定期的に八女を訪れている家族もカメラは追います。
茨城県取手市在住の梅木さん一家は、八女への移住を希望。何度も八女を訪れ、地元の人々と町家を共に探す。
カメラを回す伊藤監督自身もまた、八女に越して来た一人。奥さんは町家で絵本屋を営んでいます。
映画では、昔から伝承されてきた大工や左官など職人の技術もふんだんに映し出されます。木材、石材、土、藁、漆喰など、自然の資材を用い、機械を極力使わない手仕事による再生技術は、目を見張るものがあり圧巻です。
八女の町並みを守るために、その裏ではたくさんの人々が様々なかたちで努力を積み重ねてきたのだということが、映画を通してひしひしと伝わってきます。ときにはぶつかり合い、ときには分かち合いながら、守られてきたものの大きさは、計り知ることができません。
建物とは、営みそのもの
上映後には、元市役所職員の北島さんが登壇されました。
北島さんは言います。
「建物とは歴史であり、暮らしであり、営みそのものです。そしてそれは、私たちに伝えてくれるものがあります。そういう意味で、町家や住宅には命がある。先人が大切にしてきたものをつないでいくということは、人の心もつないでいくということなのではないでしょうか」
懇親会では、八女の地酒「しげます」や八女茶などが振る舞われました。