インタビュー

良いと思ったら率直に、本気で。福岡の個性派ローカルスーパーダイキョーがゼロから作ったかき氷店

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2021年にオープンした福岡市南区柳瀬にある『ドルチェかき氷 熱捨(ねつすて)』はまるでドルチェのようなかき氷が食べられる、夏から秋までの期間限定のかき氷専門店です。2年目となる今年2022年は店舗デザインなどを一新。今年の開店を待ちわびたファンやかき氷フリークの「ゴーラー」が県内外から訪れています。

熱捨は隣接するローカルスーパー『ダイキョーバリュー弥永店』の母体ダイキョープラザが営むかき氷店と少し変わった経歴です。 畑違いとも思われるスーパーがなぜかき氷店を開くことになったのでしょうか。店長の秋吉奈々恵さんにお聞きしました。

かき氷を心地よい空間でいただく

植物が生い茂る外観。暖簾にはかき氷を運ぶ猫と「熱捨」の文字。涼しげなグリーンの配色や籐や落木の素材を組み合わせた空間は「おいしく暑さを捨てられる、気持ちのいい空間」をコンセプトに今年リニューアルされたばかり。メニューは定番3種と期間限定が2、3種で、果物をたっぷり使ったソースのかき氷を中心に展開。ソースや練乳、クッキーなども、すべてが手作りという徹底ぶりです。

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定番商品「いちごソース&カシューナッツクリーム」


スーパーがかき氷店を始めた理由

店長の秋吉奈々恵さん。株式会社ダイキョープラザ商品開発部を経て、2022年からマーケティング企画部長を兼任。 「毎日でも食べたいというお客様がいらっしゃって。嬉しいですね」

熱捨を手掛ける『ダイキョーバリュー』は1978(昭和53)年に福岡市南区柳瀬で創業。現在は福岡に3店舗、長崎県五島に1店舗を持つローカルに根付いたスーパーです。ユニークなオリジナル惣菜や弥永店ではインドやネパールの商品約200種類が並ぶスパイスコーナーを設置するなど、独自の路線で存在感を際立たせてきました。

ダイキョーがかき氷に関心を持つようになったのは、社長であり熱捨の代表の杉慎一郎さんがかき氷ブームに惹かれたのがきっかけだったといいます。
「10年間ぐらいでしょうか。会社としてはかき氷をやりたい、という思いがずっとありました。社長が、とりあえずプロ仕様のかき氷機を買ってみるなど、表には出ない形で“かき氷熱”は続いていました」

2011年ごろから全国的に始まったかき氷ブーム。夏だけでなくフルシーズンの店の登場、「ゴーラー」によるSNSの投稿、かき氷本の出版など一つの食ジャンルの地位を確立し、注目度は年を追うごとに高まっています。そんなかき氷ブームの中で、ダイキョーのかき氷熱が一気に形になったのは、杉さんが東京で出合ったかき氷からでした。 「まるでケーキのようなデコレーションにクリームや本物の果物を使ったソースに社長が『なんだこれ!』と」。2020年8月、その見た目とおいしさに、かき氷の概念が崩れた瞬間でした。

秋吉さんは、代表の話を聞くも、「かき氷に1,000円も出すの?」と、お高めの価格に当初は半信半疑だったそう。 「社長に、『とにかく食べてみて』と連れられて、九州のとある進化系のかき氷を食べたところ、おいしい。見た目も既存のガリガリとしたかき氷とはまったく違いスイーツという感じでしたし、味もケーキを食べているようで。進化系かき氷をもっと食べてみたいと、私がはまりました」。

「社員を連れて行ってでも食べさせたい」
「おいしいものを食べて喜んでもらいたい」
感動した味を人に伝えたい、食べてもらいたいというダイキョーの企業風土が、商品開発の原点だと秋吉さんは振り返ります。ブームやヒット商品といった第三者の評価だけに価値を置かず、よいと思った商品の魅力を率直に、本気で伝える。これはローカルスーパーとして長年築き上げてきた、親しみやすさとお客様との距離の近さがあるから自然にできること。お客様に対しても同じ気持ちで伝えたいと、満を持して開発がスタートしました。

 
スーパーの強みを最大限に活用する

2020年の年末、翌年5月にかき氷店の開店を目指して準備が始まります。当時商品開発部だった秋吉さん。惣菜作りは慣れていてもかき氷を作るのは初めてのことです。氷の削り方、氷の扱い方などまったくわからない状態からのスタートでした。 「どのお店も削るところは見せていないので、手探りでの研究でした。企業秘密ですから当然ですね」。本で学び、話題の店に遠征しては味や技術のヒントがないか食べ歩いては、会社に戻ってかき氷機に向かう自主練の日々だったといいます。 秋吉さんの奮闘と並行して、メニュー開発・監修には料理家の宮村ゆかりさんへ依頼。宮村さんもかき氷は初挑戦のため、自身の料理教室でかき氷通の生徒さんに尋ねたり、東京で1日7杯も食べ歩いたりしながら研究を重ねたそう。

秋吉さんと宮村さんが体当たりで集めた情報や食べた感想を出し合い、試作を重ねてかき氷の方向性を固めていきました。 「宮村さんは生や低温調理で素材を生かすローフード(Raw food)の専門家でもあります。かき氷のソースは得意のローフードをメインに据えること、そして生鮮スーパーの強みを生かして素材から語ることのできるかき氷にしようと決めました」 コンセプトは「ソースやシロップなど素材は手作り。旬の果物を使い、スイーツのような見た目。添加物や保存料など余計なものは使わない」。これは彼女達が食べたいかき氷でもありました。

かき氷の要となる果物は、高い鮮度と品質を目指すために、自社の青果バイヤーに仕入れてもらうことに。市場や産地から直送される果物、必要な食材を問屋に注文できるなど、スーパーの強みを最大限に活用したことで、熱捨のドルチェかき氷作りが可能になったのです。

かき氷店や飲食店が未経験にも関わらず、短期間の開店準備を経て、予定通り2021年5月に営業を開始しました。 「本当にゼロからの店作りでしたが、惣菜やスイーツ作り、接客など、スーパーで培われた積み重ねがあったからこそできたと思います」

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期間限定品「贅沢なとろける桃のソースとジャスミン」生の桃をカットしてトッピング。※8月終売

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「3種の葡萄を味わうRawぶどうとラムレーズンパウンドケーキ」※10月13日終売 食材の鮮度が味を左右する繊細な商品は限定10杯。


福岡の西部、糸島市へ素材の甘夏を採りに行く

今年大人気だったのは期間限定のかき氷「Raw糸島産完熟甘夏ソース&手作り練乳レアチーズクリームのせ」です。 甘夏は、夏まで樹上で完熟させた福岡県糸島市産が使用されています。なんとダイキョー職員有志で収穫した甘夏というから驚きです。店から約40km離れた糸島市へ収穫に行くまでのエピソードを教えてくださいました。 「2021年の夏、食材に甘夏が欲しいという話を社内でしたところ、職員の知人の糸島の農家さんの話になりました。1、2月頃に手の届く場所の実を収穫すると、取りにくい高所の実は枝にそのままにしていると聞きました。次年実らせるには実はすべて採ってしまわないといけないそうで」

通常、収穫後倉庫で貯蔵して酸を抜き熟成させて出荷するのに対し、高所の実は傷や形が悪いなどで市場には出ませんが樹上で完熟させたおいしい甘夏です。毎年定例の農作業のひとつで自分たちで行なっていますが、知り合いということもあり「ダイキョーさんが自分達で収穫するなら分けてあげる」との快い返事で交流が始まりました。

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福岡県糸島市での甘夏収穫のようす。収穫を行った7月、酷暑のなかでの甘夏狩りは大変だったとか。収穫後は、果肉を取り出し真空パックにして保存したそう。

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「Raw糸島産完熟甘夏ソース&手作り練乳レアチーズクリームのせ」。2種の完熟甘夏のソース、手作りの完熟甘夏ゼリーが中に入ります。(終売しています)

このかき氷は予想をはるかに超える注文があり、甘夏の在庫終了に伴って早めの終売になったのは嬉しい誤算でした。 顔の見える関係での産地との交流はこれからも続きそうです。


店がお客様を作る。すると地域が広がった

「私は熱捨のかき氷が好きなんです。商品に必要なのは、作り手が商品をどれだけ好きかだと思うんです。私は自分がいいと思う物おすすめしたいから」 最初の感動を忘れず、理想のかき氷を作り上げてきた秋吉さん。胸を張って好きという言葉には自信と力強さがありました。

店を開店してよかったことを尋ねると、「ご注文の品をテーブルまでお運びしたとき『うわー!!』とお客様から歓声が起きるんです。そのときはゾクゾクしますね。やりがいを感じます」と嬉しそうに教えてくれました。

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地域の方に喜んでほしいと始めたかき氷店ですが、蓋を開けてみると地元以外からの来店者が多く、九州各地や遠くは広島や東京から食べに来る方もいるとか。実はもう一つの目的は、おいしい食を求めてわざわざ人が訪れる場所として、地域の賑わいを作ることでした。

「(福岡市の中心部)天神にわざわざ出かけなくても珍しいかき氷が近所で食べられる。地元の皆様に喜んでいただきたいと思いました。弥永店があるのは福岡市南区の端です。ここにどうやったら新しく人を呼べるのか。熱捨に来ていただくことでダイキョーを知らないお客様に関心を持っていただくことも目的でした」。

開店時は親しい方を招待しての試食会から始めた、ささやかなスタートでした。写真映えする見た目と味。それがかき氷の熱心なファンの目に留まりSNSで拡散され、その投稿からテレビや雑誌、webメディアの取材につながりました。これが開店からの2カ月程度の短期間に起こり、福岡県外の集客につながっていきます。

かき氷好きの方は新規開拓やゴーラー同士の情報交換が活発で、それも集客の一助になっているとか。最初に食べたかき氷がおいしかったので他の味も食べてみたくなった、とリピーターも相次いでいます。秋吉さんが進化系かき氷を初めて食べて受けた衝撃と同じ感想を、今年の熱捨のかき氷を食べて口にするお客様も多いそう。「おいしいものを伝えたい」の当初の思いは確実に伝わっているようです。

「『店がお客様を作る』という言葉が社内にあるんです。自信が持てる商品を出せば、それを求めてお客様がいらしてくださる。熱捨はそうなっているのではと思います。多くの方にご来店いただいてありがたいです。これに満足せずチャレンジを続けて、先に繋げていけたらいいなと思っています」。

だんだんと深まる秋に歩調を合わせ、秋らしい食材でのかき氷が登場しています。今年の営業は10月31日まで。 夏から秋まで、今年の熱捨の熱い日々はもう少し続きます。

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「キャラメルパンプキンのかき氷」。販売10月17日〜

【店舗情報】
ドルチェかき氷 熱捨(ねつすて)
営業時間:11:00〜17:00
店休日:なし
住所:福岡市南区柳瀬1-33-1
電話:070-1307-6919
営業期間:2022年7/28(木)〜10/31(月)

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