博多まちづくりミートアップ

和の博多! 伝統工芸を身近に楽しむ新たな一手〜ミートアップvol8レポート前編〜

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瀬川信太郎  Shintaro Segawa

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ラブエフエム国際放送株式会社 博多伝統工芸館 事務局次長
太和田基 Hajime Tawada

hatta

ラブエフエム国際放送株式会社 博多伝統工芸館 副館長
八田美穂子 Mihoko Hatta


2017年11月14日、博多まちづくりミートアップの8回目を開催しました。今回のテーマは「和の博多! 伝統工芸を身近に楽しむ新たな一手」。全国的にも、需要の減少や作り手の後継者不足など多くの課題を抱える伝統工芸市場ですが、その価値を再確認し、現代にも通用する魅力を模索する新しい動きも始まっています。そんな取り組みに携わる3人のゲストをお迎えして、これからの博多における伝統工芸や民芸品のあり方についてお聞きしました。


伝統工芸って、何か基準があるの?

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白石さん(以下、白石)みなさんこんばんは。本日モデレーターを務めさせて頂く、ダイスプロジェクトの白石です。本日は「伝統工芸」をテーマにミートアップを開催させていただきます。

はじめに、伝統工芸ってそもそも何? ということですが、簡単に説明しますと、伝統工芸とは長年受け継がれている技術を用いた美術や工芸のことで、この伝統工芸を用いて作られる工芸品を「伝統工芸品」といいます。ちなみに経済産業省に基づく一定の基準を満たした対象物がそう指定されています。具体的には、

  1. 日常生活で使用する工芸品であること
  2. 製造工程の主要部分が手工業的(高度な手作品)であること
  3. 伝統的な技術・技法によって製造されるものであること
  4. 伝統的に使用されてきた原材料を使用していること
  5. 一定の地域で産地形成がなされていること

という5つの項目によって指定されています。平成20年8月の時点で210品目。これが多いか少ないかというと様々な捉え方があると思いますが、伝統工芸品の産業自体は、生活様式の大きな変化や海外から安価な輸入品が増えていることなどによって、需要が減り生産額そのものも減少している傾向にあります。ただここ数年は横ばいの状態です。

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需要の低迷、量産化困難、後継者不足……
様々な課題に直面する伝統工芸

白石伝統工芸には様々な課題があります。その一つが需要の低迷です。少子高齢化による人口の減少や、生活スタイルの変化などで、ニーズそのものが減っているという現状がある。また伝統工芸品は手作業を前提に生産されますから、ひとつひとつ手で丁寧に作られていることが魅力である一方で、市場として見たときに量産化できないというジレンマにも突き当たるわけです。課題はまだまだあります。人材や後継者の不足、生産基盤の減衰も深刻化しています。生産基盤とは、伝統工芸品をつくる過程で必要な原材料や道具のことですが、この材料や道具そのものも手に入りにくくになってきていて、その結果伝統工芸品の職人さんが作品を作りづらくなってきている。

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伝統工芸品の生産額(平成14年度→18年度)を比較すると、例えば博多織では28億円→16億円の12億円減。4年間でなんと4割もの減少がみられる

以上のようになかなか厳しい現状はあるものの、本日お越しいただいたゲストの方々の取り組みが今後の伝統工芸に新しい光を照らしてくれるのではないかと期待しております。
ではさっそくゲストの紹介に参りましょう。まずは、はかた伝統工芸館の八田さんです。どうぞよろしくお願いします。

はかた伝統工芸館ってどんな場所?

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八田さん(以下、八田)みなさん、こんばんは。はかた伝統工芸館(以下、工芸館)の八田と申します。今日はよろしくお願いします。福岡にも工芸館のことを知らない方がまだまだいらっしゃいますので、まずは簡単にご紹介させてください。

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八田さん

工芸館は、福岡市の委託でラブエフエム国際放送株式会社が運営している施設です。その名の通り、福岡の伝統工芸品やその歴史・文化を、展示物と併せて紹介しています。
展示物の内容ですが、国指定の伝統的工芸品である博多織、博多人形などを中心に、博多曲物(まげもの)、博多独楽(こま)、博多鋏(はさみ)、博多張子(はりこ)、マルティグラス、筑前博多矢など、福岡県特産民工芸品に指定されているものも展示紹介しています。展示のほかには、館内で様々なイベントを1週間おきに開催しています。

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博多伝統工芸館の2F展示スペース。博多人形コーナーでは、江戸時代か現在に至るまでの変遷を実物とともに紹介。博多織コーナーには、人間国宝の作品などを豊富に紹介。

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博多の民工芸品を集めて紹介しているコーナーも設置

伝統工芸品の新しい売り方を模索する工芸館の取り組み

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最近は民工芸品の展示だけではなく、他分野の作家さんやお客さん同士で交流していただけるようなイベントを年1回開催し、農産物、工芸品、雑貨などを中心としたマルシェや体験教室などを行っています。子どもや若い世代の方をターゲットに、伝統工芸自体に興味をもっていただくことが目的ですね。特に「体験」は大切にしています。伝統工芸って堅苦しいイメージがありますが、実は今の時代でも十分に楽しめるということを知ってほしい。まずはそこからですね。

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「博多商店」では、工芸品関連のワークショップなどをはじめ、農産物・加工品などの販売も実施

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体験型ワークショップでは子どもも参加できるようなイベントも多く取り入れた

八田博多人形の特徴は、地元の粘土を使って素焼きから彩色をするところ。例えば「美人もの」(着物を着た女性の人形)も、遠くから見ると本物の着物と見間違うほどの精巧さで彩色されています。その伝統的な技術や技法の素晴らしさもきちんと伝えたい。その上で若い世代にも認知して欲しいということで、博多人形に関しては企画展もたびたび開催しています。
その一つが「妖怪展」。作家の方って何気にプライベートでも妖怪の人形を作っておられる方が少なくない。この展示は関西や関東からもお客さんがたくさん来てくださいました。

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博多人形妖怪展の作品の一部

八田カプセル博多人形のイベントもあります。作家さんがつくった小さな博多人形が入っているのですが、そのクオリティはやっぱり高いんです。それがなんと500円。正直、粘土代にもならない金額ではあるのですが、若い世代や子どもたちにも博多人形の良さや魅力を伝えるための取り組みの一つです。

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手のひらサイズのカプセル博多人形。サイズは小さくても、作品に込められた技術は一流。会期中はカプセル博多人形を手に入れるため長蛇の列ができた

八田伝統的な技術だけに頼っていては発展していかないという現状がありますので、とにかく最近は若い方が頑張ってくれていて、私ども工芸館と一緒に新しい可能性を常に模索しています。

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海外へ進出する博多の伝統工芸

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八田博多伝統工芸館は開館して丸6年が経ちますが、海外プロモーションにも力を入れてきています。毎年行っている釜山では、博多人形、博多織、特産民工芸品を持って行き、展示販売をしています。現地では単に「張子」と言ってもわかりませんから、作家さんも一緒に行って、張子の実演体験などもしています。イタリアのミラノで開催された「ジャパンサローネ」では、チョコレートショップさんと博多織、博多曲物、博多水引でコラボレーションし、レセプションでお配りしました。

白石これは嬉しいですね。博多の伝統芸能とインバウンドという視点も重要です。

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博多織と博多の老舗チョコレート店のコラボ作品

白石ここでもうお一方のゲストをお迎えしたいと思います。太和田さんよろしくお願いします。

太和田さん(以下、太和田)ラブエフエム国際放送株式会社の太和田です。私は事務局次長という立場で、工芸館では博多の工芸品を知ってもらうためのPR活動やインバウンド関連の事業を担当しています。工芸品の認知度を高めるということも大切なのですが、買ってもらう=ビジネスとして展開していくことを目的に日々取り組んでおります。

白石インバウンドや海外との交流関連では具体的にどんなことをされていますか?

太和田昨年、2ヶ月間ほど台湾で研修をする機会がありました。現地でマーケティングリサーチをした結果、台湾では博多人形よりも博多織のほうが需要があるのではないかとういことが分かってきました。根拠としては、台湾にも博多人形と似たような民芸品があるということで、博多人形にはさほど珍しさや新鮮さを感じないというご意見が多く見られた一方で、博多織は、その日本らしさを褒めていただくことが多かったんですね。

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太和田ちょうどそのタイミングで、台南の雑貨店のオープ二ングに合わせて工芸品を展示販売できることになったんです。認知度の問題もあり、この時は「ARITA 」の名前もお借りして、博多織、博多人形、有田焼きで開催しました。若手の作家さんのコラボ作品も展示しました。

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台南で行われた「博多・有田展」より。若手作家を中心とした作品の実演販売や体験型イベントを多く取り入れた

太和田インバウンド関連の別の取り組みに、「HAKATA KOGEI LOVERS」というプロジェクトチームがあります。端的に言いますと、外国人観光客向けの伝統工芸品の開発事業のひとつです。

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プロジェクトチーム「HAKATA KOGEI LOVERS」には、博多織の作家、人形師、外国人DJ、デザイナーなど、国内外の多様な面々が揃う

必ず課題として上がってくるのは、やはり博多の伝統工芸そのものの認知度が低いということ。リサーチの結果、外国人が日本から買って帰りたいものの上位は、お菓子、化粧品、雑貨ということが分かっています。工芸品を買ってもらうためには、まずは知ってもらう必要がありますし、そのためには広報活動にも力をいれていかなければなりません。その上で実際にどんな商品を開発するのか。まだ制作には入っていませんが、面白いアイデアが出てきていますので、近日中に工芸館で発表することになると思います。

八田工芸館では都市間の交流も行っています、これまで国内では有田、熊本。海外では釜山、台南・台北との交流を実現してきました。今年は海外の方にも博多に来ていただいてのサミットも開催しました。メインイベントのシンポジウムでは、海外の方からの生の声を実際に聞くことができました。

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「伝統工芸サミットin博多」よりシンポジウムの風景

八田印象的だったのは、台湾の漆作家の方が「博多人形って気持ち悪いし、怖いです」とおっしゃったんです(笑)。どうもリアルすぎるらしいんですね。私たちは博多人形の素晴らしい技術をどんどん見せたい。でもいくら見せても一方通行でしかない場合もある。来年は高雄で展示を開催する予定もありますし、このような経験をフルに活かしていきたいと思います。

白石ありがとうございます。

新しい”作り方”と”売り方”

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工芸館2Fに展示してある博多人形《福の神》(中村信喬作)

白石これまでのお話のなかで「博多商店」や「カプセル博多人形」など、全体的に若い人たちに向けた新しい取り組みが目立つ印象を受けました。

八田もちろん技術を見せる必要はありますが、それだけでは若い方に興味を持っていただけない。幅広い層の方々に興味を持っていただけるような導入、きっかけを作ることで伝統工芸の新しいファンを増やして、作品を買っていただくことにつなげていきたいですね。

白石これは個人的な感覚なのですが、”アート作品を買う”ことそのものは、若い人たちにとってはハードルが高いですよね。ギャラリーや画廊となるとさらに高い。でもカフェや立ち寄りやすいギャラリーなどで買う人たちは、僕のまわりにも結構います。それぞれの世代にあった”売り方”がやはり大事になってくると思います。しかも常にアップデートされていく必要がある。新たな価値観に伴った新たな”売り方”を開発していくということが非常に大切だと思うんですね。

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白石さん

八田それは”作り方”にも通じると思います。例えば工芸館に設置している《福の神》は、博多人形師の中村信喬先生が作ったのですが、彩色は別の作家の方によるものです。最近ではこのように、デザイン、制作、色彩……と、別の方とのコラボレートを望んでいらっしゃる作家さんも増えてきています。色々な分野の方と交流を深めることで新しいものが生まれていくこともあります。外をみないと、新しい価値は見えてきません。極端に言うと、粘土にこだわる必要もないかもしれません。金具や錫(すず)もある。若い方には特に、そこに自分の技術を吹き込んでいってほしいですね。

白石今の博多人形も、伝統的で古臭いと思う方もいらっしゃるでしょうが、実はアップデートを重ねた結果が今なんですよね。工芸館2階の博多人形の展示を見ると、江戸時代から現代にかけての人形の変遷が見て取れるわけです。「こんなの作ってたの!?」というくらい、デザインそのものは時代によって様々。現在の形になったのはここ数十年ですよね。いつの時代も気づかないうちにアップデートされてきたのでしょうね。

八田“売り方”と”作り方”を一緒に考える必要がありますよね。例えば、現在は居住形態もマンションなどの集合住宅が多くなってきていて、昔のような広いお座敷もないですから大きい博多人形が置けないんですね。だからといって博多人形の需要がないのではなくて、玄関先やリビングに気軽に置ける小さいサイズの人形などが注目されてきています。もちろん小さくても技術は手を抜きません。どういうものが今求められているのかということを作品に反映していかなければと思います。

一つ飛ばしの伝承とは

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白石若手の作り手さんの話でいうと、孫の世代が技を受け継ぐという傾向はありますか? これは私見ですが、僕たちの世代も親のことは素直に格好良いと思えないんだけど、「おじいちゃんの仕事って格好いいな」という感覚が芽生ることってあるじゃないですか。「一つ飛ばしの伝承」と言いますか、伝統工芸の世界でもそういう動きはありますか?

太和田そういう動きは確かにあるとは思いますね。ただ、おじいちゃんがやっていることが伝統になればなるほど、カラーが固まってしまって新しいことがやりにくくなる。もともと民芸品だったものも、伝統工芸品というジャンルに固定されてしまったがゆえに、新しいものが生まれにくくなってしまっている。工芸品も、現代の状況に合わせるのであれば、民芸品や雑貨に寄せていく必要があるんでしょうけれど、それができなくなってきているんですね。それはみなさんが持つジレンマだと思います。

白石伝統工芸化することでハードルが上がり、保存されるものになっちゃうということですね。どうにか打開したいところでもあると思います。


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