糸島市二丈にあるアートカンパニーStudio Kuraで行われた、「Bissan Rafe(ビサン・ラフェ)のchildren’s book(絵本)を作るワークショップ」にお邪魔しました。
米蔵を改装してできたstudio kura。海外からのアーティストが滞在するスタジオとして開放しながら、多彩なワークショップも定期的に開かれていて、自然たっぷりのどかなこのあたりでは、少し異色な存在。それでもたくさんのアーティストが滞在を希望するのは、日本らしさが残る自然豊かなこの場所と”蔵”という特別な空間に惹かれるからなのでしょうね。
そんなすてきなstudio kuraさんの母屋で行われたワークショップの様子は、おばあちゃんちで夏休みの宿題をしているかのようなほっこりする雰囲気でした。
今回ワークショップをひらいたのはBissan Rafe(ビサン・ラフェ)さん。パレスチナにルーツを持つ米国出身のマルチメディア アーティストです。現在はテキサスを拠点に、画家やフィットネス インストラクターなどといった活動をしながら、自然療法の研究をされている、とてもチャーミングな女性です。
ビサンの絵本ワークショップは、これまで五カ国で行われており「最後の国は日本にしたい」との思いから、Studio kuraのアートインレジデンスプログラムを活用することになったそうです。
まずは、ビサンが、その土地にある昔話や印象に残った自然などにインスパイヤされた寓話を創作。それを参加者と共有して、イマジネーションを膨らませるという、独特の手法でワークショップは進みます。
この日は『オオカミとオオカミに三匹の子ヤギを食べられた母ヤギ』というちょっと恐いお話がテーマに。
許しを乞うオオカミに、母ヤギは「世界を良くする三つの願い」を考えるように言います。その三つの願いをイメージして創作がスタート。
最初はみんな、なかなか手が動きません…が、一枚を描き終えると、だんだんと筆がのって来てきたようです。
普段は医学部のインターンとして働くビサン。一年の約三ヶ月間をアート活動に当てているそうです。自然療法を専門にされているせいか、この時期、日本ではあたり前に道端に生えているドクダミ草の白い花についても興味津々で、効能など地元の方に話を聞いたそうです。
これまでイタリア、ポルトガル、パレスチナ、米国で行われてきた絵本作りのプロジェクト。5カ国を巡り、リサーチした文化や寓話などを絵本にまとめて出版し、その売り上げでパレスチナに無料の病院を作るのが夢だと語っていました。
この絵本プロジェクトは、ビサンが17才の頃から温めてきた企画なのだそう。当時から、世界各地で子ども達が犠牲になるニュースを耳にしては心を痛めていたと言います。テキサスのスタジオでは、世界各地からその土地にやって来た、母や子どもたちの交流の場になるようなワークショップも行っているそう。
「国によって子ども達が置かれている境遇、考え方、将来の夢の持ち方など、それぞれ違うけれど、絵を描く事が楽しいと感じるのは、どの国の子どもも同じ」と言います。ワークショップの様子を見ていたら、その言葉をあらためて実感 。真っ白な紙を前に、なかなか色を落とせないもどかしい様子から始まり、最後には「おしまいよ!まだ描くと?!」ってつっこまれるほど、たくさんの絵を描いていた子ども達の嬉しそうな様子が印象的でした。
これまで、千葉や群馬の田舎に滞在経験があり、日本はお気に入りの国なのだそう。ここ糸島は、山だけでなく海もあるところが、とても気に入っている、と穏やかな表情で話してくれたビサン。同時開催の個展では、海に加え、梅雨と田植え時期でもあった糸島の印象を「水」をモチーフに表現していました。
美しい田園風景が広がる「糸島」という土地で描かれた絵が、海を渡り、そして同じように世界中の子どもが描いた絵とともに絵本に載ることを想像すると、なんだか不思議な気持ちです。
今回の参加者が、ビサンの夢のお手伝いをしたことにもなるのでしょうか。そうなるととても素敵だな、と幸せな気分になったワークショップでした。
(とよだあやこ)
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Bissan Rafe
Nohra-Studio
http://www.nohra-studio.com/