RethinkFUKUOKAProject

サブカルかましてよかですか? 会話のメディア“ラジオ”で、時には起こせよムーブメント!

Rethink FUKUOKA PROJECT レポートvol.046

アナバナではReTHINK FUKUOKA PROJECTの取材と発信をお手伝いしています。

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 今回から、“福岡で一番気の多い男”こと、ラブエフエムの三好剛平さんと一緒に、福岡のカルチャーをさまざまな視点から掘り下げる新企画「カルチャー・クラス」がスタートしました!

記念すべき第一回は、福岡にも多くのファンを持つラジオ番組「ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル(※1)」の放送作家、そして文房具、HIPHOP、アニメムックなどさまざまな分野の執筆を手がけるライター古川耕さんと、音楽プロダクション 「C.I.T.Y.」CEO兼プロデューサー兼RKBラジオの音楽番組「ドリンクバー凡人会議(※2)」を制作する野村祥悟さんがゲスト。
 自らも番組の大ファンで、誰よりも今日を楽しみにしていたという三好さん。その情熱あふれる司会進行に若干引き気味の古川さんと野村さんでしたが、気が多いもの同士のマニアックなやりとりはまさに人知れず放送されるカルトなラジオ番組の如し。

 今回は、ラジオメディアの本質論から、番組制作のウラ事情、その合間にインプリンティングされるサブカルワードまで、なるべくそのままで皆様にお渡ししたいと、文字数多めにお届けします。時にはツッコミ、時には相槌を打ちながら、深夜ラジオを聴く感覚でお楽しみください。

(※1)
ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフルWEBサイト
https://www.tbsradio.jp/utamaru/

(※2)
ドリンクバー凡人会議WEBサイト
http://blog.rkbr.jp/bonjin_kaigi/

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アニメ、HIPHOP、文房具、ラジオにと活躍!
その男“古川耕”、RETHINK CAFÉに立つ!

三好 私は、ラブエフエム(※3)というラジオ局で営業企画、ウェブ、イベントなどを担当しております。普段のお仕事の他に、伝統工芸やアートイベント、福岡アジアフォーカス映画祭の関連企画として開催されているアジア映画の商談会企画なども担当しています。あとは、シティリビングで映画の連載を6年、それにアメコミ映画、ブラックミュージックとかKPOPとか、その辺のカルチャーが大好きでしょうがないので、日々熱烈なつぶやきを発信しながら頑張っています。気が多くて恐縮でございます。
 今回から私が担当いたしますのは、題して「カルチャークラス」。片手に映画、音楽、アート、書籍などの幅広い文化を、もう一方の手には、福岡、九州の街を携えて、「この街で生きる我々が文化っていうやつを楽しんでいこうぜよ」とこういう事でございます。皆様がいつかそれぞれの舞台で「カルチャークラス・ヒーロー」として花開いていけばいいなあ、なんて事を思っております。
 さて、この「カルチャークラス」の第一回目のゲストは、アタシもうこの人しか思いつきません! ライターであり放送作家であらせられます、古川耕さんでございます!

古川 はじめまして、宜しくお願いします。

三好 そして、一緒にトークを進めてもらう相手には、同じくコイツしかいねえ! 我が同士、野村祥悟君でございます。

野村 普段は「マネー野村」と呼ばれています。どうぞ宜しくお願いいたします。

古川 マネーってお金のマネー?

野村 そうですね、いろいろなところからお金を生み出していきたいというところから、ゲン担ぎで。「メイクマネー」的な(笑)

三好 今日のテーマですけれども「文化を伝え、広める“語り”を学ぶ」です。詳しく掘り下げるその前に、古川さんをご存知の方?

古川 七割方ですね。わかりました、七割くらいの出力で話します。

三好 じゃあ、古川さんを文房具の人として知っている方?なるほど。
私も気が多いタチなのですが、古川さんも野村くんも気の多いタチなのではないかと思います。このお三方で何をしゃべるかというと、今や日本で最も影響力のあるカルチャー発信拠点として信頼される「ライムスター宇多丸のウイークエンドシャッフル」という非常に人気のラジオ番組があるわけです。これの放送作家を務められるかたわらで、自らも「文具でモテるための100の方法(※4)」という連載を…

古川 連載のタイトル、なかなかキツイっすね。

三好 なかなかイタいです(笑)。そんな文房具の連載を続けていらっしゃるライター兼放送作家の古川さんです。カルチャーに興味が無い方にも、その熱量や独自の切り口で鮮やかに伝播し巻き込んで行く手腕には、これから様々な文化を広め、伝えていかんとする「カルチャークラブ」の皆が身に付けておきたいアイデアが詰まっているのではないかと思います。
そして、野村君はレコード店の店主と選曲家という二人の手強いオジサンを相手どってカルチャー駄話を延々楽しませるカルトなラジオ番組「ドリンクバー凡人会議」のディレクターを担っています。

野村 電波の無駄遣いですよね(笑)

古川 どのくらい続けていらっしゃるんですか?

野村 7年になりました。

三好 かなりの長寿番組ですね。それだけではなくて、音楽プロダクション「C.I.T.Y.」というレーベルを立ち上げて地元のアーティストのプロデュース活動もやっていらっしゃいます。今回はこの3者の視点から「文化を伝え、広めていく」というテーマについて学んでいきたいと思います。

古川 三好さんの司会があまりにも板についているので、若干引いてしまいました(笑)

野村 古川さんは福岡に来るの久しぶりなんですか?

古川 そうですね、10年以上ぶりです。当時、日本中のHIPHOPの記事を書いておりまして、その時に親不孝通りのアーティストを取材する仕事があったんです。3日間ほど滞在して、親不孝通りのクラブに通っていましたが、お世辞でもなんでもなくて日本全国の都市で一番好き。女の人がめちゃめちゃカワイイし! 当時は親不孝通りにクラブが何件もあって、一晩で歩いてハシゴするんです。夜遊びの自由さがケタ違いに会って、いい街だなと思ったんですよね。あと、レコード屋さん行っても、マニアックなレコードがむちゃくちゃあって、カルチャー的に豊かな場所だなと。お招きいただいてすごく嬉しかったです。

三好 やったぜ! ここからは、そんな古川さんのプロフィールを掘り下げていきたいと思います。まず、高校在学中に「月刊OUT」にてライターデビュー。

古川 僕のプロフィールって非常に散漫な内容なんですよね。皆さんの反応いかんではこのパートを飛ばしたいくらいなんですが(笑)。「月刊OUT」は説明が難しい雑誌なんですよ。創刊号の表紙から完全にどうかしてるんですけど。いわゆるサブカル雑誌の走りなんですよね。で、創刊して3号目くらいに「宇宙戦艦ヤマト」の大特集をするんですよ。それがめちゃくちゃ売れた事でアニメ雑誌の方に舵を切るんですが、雑誌の半分はサブカル的な内容というか投稿雑誌になるんですよね。まあ深夜ラジオの投稿の雑誌版、読者たちのコミュニケーションを取る場でもあったんですね。

三好 僕ら世代だと、週刊少年ジャンプの「ジャンプ放送局(※5)」みたいな。

古川 あ、そうですね。実際、作り手もちょっとかぶってましたね。

三好 ここで、在学中にライターデビューをされたんですね。

古川 僕も小学校高学年に読んでいて、誌面でライター募集をしていたので応募しました。このくだりはこんなもんでいいでしょうか。

三好 わかりました(笑)。そこからギューンと時は進んで、フリーライターとして華々しい活躍をされる訳ですけれども、「カウボーイビバップ」や細田守監督の「時をかける少女」「サマーウォーズ」「おおかみこどもの雨と雪」などのムック制作をされたという。

古川 そうですね。僕は特段アニメが好きなわけではなかったのですが、99年のアニメ「デジモン」の劇場版を見て初めて「アニメってすごい」と思ったんですよ。その監督だった細田さんは多分日本を代表する人になるだろうから、この人がどこまで行くのか見たいなあと。

三好 そしてアニメ分野で活動をされるかたわら、HIPHOP/R&B専門誌「FRONT」「BLAST」の取材も行うと。

古川 振り幅がひどいですね。高校生ぐらいからHIPHOPを聴くようになっていて、雑誌を読んでいると「佐々木士郎」という人の文章がズバ抜けてすごい。あの人みたいな文章を書きたいと思って、「FRONT」っていう雑誌に持ち込みに行って、そして書かせてもらったんですね。僕が22歳くらいかな。その時の「佐々木士郎」さんが、後のRHYMESTER宇多丸さんです。もう初めて会った時はアワアワしていました。

三好 古川さんと宇多丸さんって、ラジオで聴く限りだと、イーブンな関係だと思っていました。憧れの人だったんですね。

古川 なんなら今も緊張していますよ。細田さんと同じなんですけど、この人は本当にすごい。この人が高みに行くなら、僕はその手伝いがしたいと思いました。

三好 なるほど。そんな活躍を続けられる中で、脚本やノベライズの執筆、詩人・小林大吾さんの詩集のプロデュースなどを手がけられるという…。

古川 フリーライターも40歳すぎるといろんな事をしているもんですよ。

三好 小林大吾さん、めちゃくそかっこいいですよね! 皆、絶対聴いた方がいいよ!

古川 このご時世、CDしかないのでハードル高いんですけどね(笑)。小林大吾も別格で、細田さんや宇多丸さんと同じように、日本を代表する何かになるだろうなと思っています。

三好 詩とヒップホップって、こんなに距離が近いものなのかと圧倒されました。
さあ、続いては「文房具」ですね。

古川 いよいよ訳がわからなくなってきましたね。

三好 文房具の連載や日本最大のボールペン人気投票「OKB48(= お気に入りのボールペン)総選挙(※6)」の総合プロデューサーでいらっしゃると。

古川 すみませんね、こんなことまで言わせてしまって(汗)。ラジオ番組の中で文房具が好きって話していたら雑誌で連載をする事になって。ボールペンの人気投票をやったら面白いんじゃないかって、6年間、毎年一回店頭とウェブでボールペンの人気投票をやっています。気づいたら毎回3000票くらい集まるんで、名実ともに日本最大。すごい事なのかは全く分からないですが。

三好 「ジェットストリーム(※7)」は最強であると。

古川 我々は今「ジェットストリーム」時代に生きていると、声を大にして言いたい!

三好 そして、先ほどからお話が出ておりますが、2007年からTBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」にて放送作家業を開始されると。その他にも「ザ・トップ5」「ジェーン・スー生活は踊る」など、ラジオ好きにはおなじみの番組の立ち上げから関わっていらっしゃる。

古川 そうですね。最初は放送作家じゃなくて、ただ目の前にいる人だったんですよ。知能のある壁? みたいな。番組が始まる時に宇多丸さんから「高田文夫役になってくれない?」というメールが届いて。

三好 そのエピソード大好きです。

古川 ビートたけしさんのANNにおける高田文夫さん役になってくれ(※8)

って意味で。だから最初は台本書いてないんです。目の前に座ってただけ。その後、台本を書いてくださっていた作家さんが辞めて、2年目から僕が放送作家として入る事になりました。

三好 「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」をお聴きの方はおなじみですけど、トークの合間に聞こえる古川さんの乾いた笑いに安心感を覚える。そのウイークエンドシャッフル感というか、古川さんの存在が欠かせないものになりましたよね。

古川 ありがとうございます。星野源くんが「あいづち特集をやろう」って言ってくれているのですが、今だに日の目を見ないという(笑)。早くやってほしいな。

三好 そんな古川さんでありますが、ラジオのお話は後ほど掘り進めていきますので、皆さん覚えておいてくださいね。さあ、次は野村さん。

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古川 このプロフィール写真(※9)は、どこでなんの時に撮られたんですか?

野村 これはラブエフエムの取材の時ですね。

古川 最初に資料としてこの写真だけ送られてきたんですけど、とんだ奴がきやがったなと楽しみにしていたんですよ。全アイテムがハジけてますよね。実際はノーブルな方で(笑)。肩透かしを食らった思いでいっぱいです。

三好 これ、野村くんが結構キバっていた時代ですよね。撮影用にハッタリかましてきたのかな。

野村 そうそう(笑)。でも半年前くらいですよ。

古川 帽子のかぶり方まで完璧ですよ。最高です。

三好 そりゃプロデューサーにもなろうぜって(笑)。音楽プロダクション「C.I.T.Y.」のCEO。

野村 ここも“カマしマインド”が入ってますね。

三好 言ったモン勝ちですね。最初は、ラブエフエムでアルバイトを初めて、ラジオ番組の制作に携わると。2011年からRKBラジオの深夜枠で「ドリンクバー凡人会議」がスタート。

野村 深夜っていうか、早朝っていうか。28時という時間帯なんで。

三好 福岡の手に負えない音楽好きオジサンとたわいもないがためになる話を引き出す番組として続けていらっしゃいます。

古川 プロデューサーなんですか?

野村 最初はプロデューサーが別にいて、僕がディレクターで金曜夜10時にやっていたんですよ。1年目でランク落ちしまして。地獄に落とされると。それからプロデューサーがいなくなってしまって。僕もディレクターとしての作業が無かったので、3人で好き勝手にしゃべっていました。

古川 ディレクターがいなくていいってどういう事ですか? あるでしょ(笑)

野村 あるにはあるんですけどね、この段階ではもう台本も書いていなかったです。生で2時間3時間しゃべっているものを編集した方が面白いって気がついて。録音しっぱなしにしといて、外には誰もいない状況で僕らが喋っていると。

古川 セルフタイマーで自撮りする的な状況をラジオでやっていると。

野村 そうです。たまに社内の人とかが来ると、こんな遅い時間に何をやっているんだろうと不審がられて。

三好 ムダ話的なトークの中で撮りっぱなしをなんとか編集して流すというのをかれこれ7年間…。

野村 編集技術は無駄に上手くなりましたね。

古川 今週はマズいみたいな回はないんですか?

野村 それは、7年中3年くらいはありますよ。基本、アラがある助っ人外人選手みたいなもんで、ホームランか三振なんですよ。

古川 全然助っ人じゃない(笑)

三好 野村さんの編集スタイルは特徴があって、投げっぱなしなんですよ。それでなんとか着地させちゃうんだよね。

野村 そうっすね。本当は「〇〇特集」とかやって僕が仕切っていった方がラジオ的には確実に面白くなるし、撮れ高もいいんですけど、真っ当じゃない方法でやってみたいなと思って。28時だし。実験マインドですね。

古川 実験マインド。(会場から)失笑が漏れましたけど(笑)

三好 この番組は音楽好きがやっているだけあって、非常に耳が早いんですよ。メジャーデビューされた「藤原さくら」さんとか、インドネシアのシティポップバンド「Ikkubaru」とか。

三好 スジのいい音楽好きの方ならチェック済みの「星野みちる」さんとかね。

野村 みちるちゃんには曲も作りましたよ。

古川 どんな曲なんですか?

野村 「シークレット・タッチ」っていう曲で、みちるちゃんもアイドルとはいえどももう30。

古川 アイドルといえどもって!

三好 厳しい!

野村 もう大人の女なんだから、エロい歌を歌わせようってね。

三好 そういう風に、ここをある種の磁場にしていろんな文化が生まれているんです。そしてその過程で出会った才能あるアーティストをプロデュース、そして売り出していくためのレーベル「C.I.T.Y. (※10)」設立ですね。

古川 この「彼女のサーブ・彼女のレシーブ」とはどういうコンビなんですか?

野村 これはですね、モデルの「浦郷えりか」の歌を僕たちで作ることになったんです。僕らの中で「物事を成すときには強いコンセプトが必要だ」という意識があって、コンセプトをテニスルックに決めたんです。

古川 強いコンセプトがテニスルック…。それは一考の余地があるんじゃ…。

野村 2020年オリンピックの時にテニスの公式キャラクターの座を狙おうと算段したんです。

古川 算段!?

三好 息が長い!?

野村 でも結成一年後に解散したという。で、それを引き継いだのがアイドルユニット「彼女のサーブ・彼女のレシーブ」なんです。「彼女のサーブ」は東京で活動しているんですけれど、「彼女のレシーブ」は行方不明で…。連絡取れなくなっちゃって、代わりのレシーブを絶賛募集中なんですよ(笑)

古川 行方不明に!? 人に関する感覚がちょっと軽くないですか!? 募集すればいいかみたいな(笑)

野村 次がいるぞっつって。

古川 エヴァンゲリオン的(※11)な発想(笑)

三好 浦郷さんもこの活動がきっかけで東京のプロダクションに引っ張られてね。

野村 東京のイベントに出る時は結構苦笑いされていたんですけどね。「本当にテニスルックなんだね」って。今は名菓「博多の女(※12)」のCMに出ています。

三好 東京に進出するアーティストを輩出しつつ、地元でいいモノを作り続けながら頑張っている、そんな野村くんですね。

野村 そうですね。僕は踏み台ですね。

古川 さっきから発言がいちいちドライですね。大丈夫かな(笑)

三好 ちなみに、「C.I.T.Y.」のバンド「COLTECO」は、「夏びらきMUSIC FESTIVAL2017(※13)」の福岡会場で宇多丸さんと同じステージに立つんです。ぜひチェックしてみてください。

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“どうかしている”人々が作る
クレイジーなラジオ番組を振り返る

三好 そんな二人をお迎えして、語ってもらうのが「文化を伝え、広めていくための“語り”を学ぶ」なんですけど。

古川 そうねえ…。

三好 大きく構えちゃいましたね。

古川 とんでもなくでかい話ですね。僕はこれを投げられて、特に何をやろうというものは一切無いんですけど…。

三好 会場の皆さんもご自身それぞれで活動なさっている事があると思うんです。でもそれを人と一緒にやるなんて難しい。ビジネス方面でもそんなお悩みを持つ方もいらっしゃるんじゃないかしら。しかも現代はSNSをはじめ、共感のメディアが走る時代。自分のやりたい事をうまく人に伝える事が出来れば武器になる。お二人にそのノウハウを聞いて、皆さんに持って帰ってもらおうと思っています。

古川 司会が上手くて引きますね。若干サギ師の雰囲気すら感じます(笑)

三好 「なんとかセミナー講師」みたいな(笑)。まあ、とはいえ、とっかかりがないと難しいので、ご用意しております。繰り返し登場した「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」。皆さんご存知かと思いますが、この番組がどんな内容でどんな特集(※14)をやっているのか見ていきましょう。古川さんならではの「こいつは狂ってやがる」という特集もたくさんあるんです。まずは今までの特集だけをピックアップしてきましたので見ていきたいと思います。スタートは2007年ですね。文字多いな!

古川 この情報量…。キングコングのエンドロール、こんな感じでしたよね。

三好 2007年から、こんな節操のない特集をやってこられて(笑)

古川 質問受け付けますよ。内容によってはもう忘れている可能性もありますが…。

(男性)「よくできた脚本と評判のカタカナ4文字映画に宇多丸が宣戦布告」ってなんですか?

古川 これは「キサラギ」という映画のことを宇多丸が口汚く罵った回ですね。これは歴史的には重要な回でして、当時は非常によくできた脚本だと言われていた映画で、アイドルが好きな男の子が出てくるあたり、宇多丸さん好きなんじゃないの?と言われていたんです。で、実際に見て「これはよくできた脚本ではないし、アイドルというものをちゃんと扱っていないだろう」と30分に渡って延々としゃべったわけです。後に番組のアドバイザーになる妹尾さんがこの放送を聴いていて、「あの回は本当に良かった。実は俺もキサラギについてそう思っていたよ」と褒めてくださって。
その後、妹尾さんに番組に入ってもらったんです。そしたら、妹尾さんが「映画のコーナーをやんなさい。キサラギのが面白かったから。ただし、宇多丸くんが見たい映画じゃなくて、見たくない映画を見る仕組みを考えよう」と言って、サイコロを転がして見る映画を決めていました。これが後の「ムービーウォッチメン(※15)」につながったと。歴史的にはすごく重要な回です。聴くと気分を害する人もたくさんいますけど(笑)

三好 今みたいにある種のバランスの良さというか、いい面も悪い面も両方言いつつ、落とすときは論理的に落としていくような、そういう語り方ではなかったんですね。

古川 そうですね。完全に人格批判してましたから。

三好 それはダメなやつですね(笑)。大人になられたんですね。2008年に移っても、音楽に映画、アイドルなんかもありますね。「杉作J太郎襲来!」とか(笑)

野村 タイトルとしても意味がわからない(笑)

古川 この回は何をやったのか覚えてないですね。杉作さんが来たのでしょうけど(笑)

野村 この年は、杉作さん、高橋ヨシキさん、吉田豪さん、町山智浩さんと、今のキーパーソンになっている人が出ていますね。

古川 そうですね。出てくれそうな人に片っ端から声をかけたんです。

三好 「カレーは音楽であり、音楽はカレーだ」特集?

古川 ゴスペラーズの黒沢薫さんが、カレー好きキャラを初めてフルスロットルで出した回じゃないかな。元々カレー好きは知られていたんですけど、それが狂気の域にまで達しているというのがここで初めて明かされたという。

三好 この番組でよく出てくる表現で「どうかしている」というのがあるのですが、大体出演されるゲストはどうかしていますよね。

古川 そうですね。面白くてチャーミングな形でどうかしています。

三好 その辺が、今日のキーワードの一つなのかもしれないですね。

野村 「アイドルとしての王貞治特集」?

古川 やりましたね〜! 王さんがカワイイっていう話を映像コレクターのコンバットRECがやっていて。最高にいい企画でしたね。

三好 これもね、すごく大事な事だと思うんですけど、「見立て」。既存のモノを別のジャンルで読み替えて、提示して共感にまで落としていくテクニックが入っている。

古川 あとはね、「十代の子に自分の人生を折れ線グラフにして送ってくれ」というのもありました。最初は良かったけど、弟が生まれて一回下がった、みたいな。

三好 あはは!カワイイ!10代だからこそ、たわいがないわけですね。

古川 そうそう。基本振れ幅ないんですけど。最初からマイナス50なんて子もいて、この子大丈夫かなとか。すごく好きな企画です。

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三好 2009年後半には文房具も登場していますね。僕はこの辺りから毎週欠かさず聴いています。「ところで4が好き、 挙げ句に5が好き!」とか。

古川 いろんな映画の4だけ、5だけを集めて語るとかね。

三好 皆さん「なんだこれ!?」ってタイトルだらけだと思います。

古川 「異性とのスムーズな会話」も記憶に残るいい企画ですね。

三好・野村 (爆笑)

古川 これは、音楽ジャーナリストの高橋芳朗さんという方がいて、クラブでの振る舞いがスマートで異性とスムーズに会話しているようだと。僕や宇多丸さんはその辺苦手なので特集しました。大失敗でしたね。いい意味で。

三好 「社畜特集」とか「MAZO飯」とか、この調子でどんどんディープになっていきますね。

野村 タイトルのキレが半端ないですね。

古川 「MAZO飯」は、普段ヘルシーなモノを食べている人でも、こってりしたものやガッツリ飯を食べたくなる事があるだろうと。そんなメニューを集めようと会議にかけたのですが、なかなかワードが定まらず。最初は「レ〇○飯」と呼んでました。

三好 それは放送しちゃダメなやつですね(笑)

古川 要はめちゃくちゃにされたいみたいな時はありますよね。

野村 クリスマスには満を辞して「NA-MA-ZO飯」になってる。

三好 2012年くらいには、「紅白歌合戦予想」とか。リスナーさんが参加してくるものも増えてきましたね。この番組から輩出された才能もすごく多くて、ジェーンスーさん、コンバットRECさん、高野政所さんとか。この番組からフックアップされていったんですね。

古川 元々、皆さん番組前から交友があったんです。公私混同スタイルというか、誰も聴いてないからいいじゃんて。これって、ラジオには大変重要なマインドなんですよ。

三好 巻き込んでいく力みたいなものを感じます。

古川 個人的に好きなのは、「渋滞対策情報リアル」渋滞は本当に起こっているのか、車で現場まで乗り付けて車中から放送したんですね。宇多丸さんが車内でおしっこしたりして。

三好 車で放送に出るって、ラジオ的にすごく手がかかる事なんですよね。それをこんなくだらない事でやるなんて。

古川 途中、宇多丸さんのおしっこが手にかかったのがすごく嫌でしたね。

三好 あんなに憧れてた人だったのに(笑)。今まで17年分の神回を気になった方はぜひ「ウィークエンドシャッフル神回傑作選(※16)」をチェックしてみてくださいね。

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リスナーとの会話に心を溶かして…
思いを届ける、ラジオマンの美学

三好 古川さんは番組で節操がないくらいのいろんなトピックを扱っていらっしゃるじゃないですか?お題選びはどうしているんですか?

古川 まず、企画の立て方ですが、大まかに3つのパターンがあります。1つが宇多丸さん発信、2つ目が僕からの提案、3つ目はゲストや売り込みを持ちかけられるパターン。そこから会議にかけるのですが、最終的には宇多丸さんが責任を持って受け止められるかどうかが基準ですね。あと、「この人といえばコレ」みたいなものがある時は、あえて別の切り口やネタで話してもらいます。

三好 つまり、中心にボールを放らないと。

古川 そうですね。すでに手垢がついているものはやらなくてもいいかなと。あと、この長さの割にアニメと漫画のネタは少ない。漫画を面白い切り口で、かつ中身をもたせる語り部が少ないんですよ。

三好 ネタの決定権はどなたですか?

古川 皆で決めます。

野村 派手にボツになったテーマはどんなものがありますか?

古川 ただ散歩している音源を録ろうとか…。雑ですね。誰かが一人、絶対やりたいと周りの人を説得できていれば、ほぼほぼ実現できていますね。

三好 番組制作のメンバーは感性が似ている人たちなんですか? それとも、違うアングルで捉える人たちなんですか?

古川 う〜ん。僕と宇多丸さんはわりと近いほうだと思うんですけど、他のスタッフは若干違うかな。もちろん、それはとてもいいことなんですけどね。

三好 リスナー的には、宇多丸さん達の仲間に入りたいというか、キャッキャした感じがグルーヴとしてあって、そこに憧れさせる力みたいなのはあるんじゃないでしょうか。

古川 それはね、半分狙ってやっているところがありますよ。楽しそうに振る舞ったほうがいいに決まっている。番組10年目ですが、昨年からとうとうスタジオにゲーム機が導入されるという、新しいフェーズを迎えております。収録が終わった後、放送時間より長い時間皆でゲームをするという。いよいよ極まった感がありますね。それを番組にも出していこうというね。

三好 この番組から発信された結果、一つの分野のカルチャーが育っていくという事案が多い。僕もそのフォロワーになっちゃっているんですけど。意図的にヒットする状況を作りに行ったのか、それとも結果的にできてしまったんですか?

古川 それは結果的にできたものですね。プレゼンしてくれた人の中には、頑張って大きくしようと動いてくれた人もいらっしゃいますが、僕も宇多丸さんも実はあんまり考えていないんですよね。

三好 そうなると、今回このトークイベント自体のテーマがまるであざとく見えてきましたね(笑)!

古川 やな感じになっちゃいましたね(笑)すみません!

野村 ラジオ制作に限っての話かもしれないですが、こうしたいという地図を描いて番組を作ると、99%はその通りにいかない。ラジオって、リスナーに依存するメディアだから。リスナーはこっちの想像の通りには動いてくれないし。ならば僕としてはリスナーに投げちゃったほうがいいなと思って。

三好 出た! 投げっぱなし! 「どうせ誰も聴いてねーし」と思ってるでしょ。

野村 そうそう、地獄だし!

古川 いや、地獄とまでは思ってないから(笑)

野村 僕らは放送時間が日をまたいじゃっているんで。もう彼岸ですよ(笑)

古川 ラジオって基本少人数で作るんですね。テレビに比べて、めちゃめちゃ規模が小さい。だから個人の思いやほとばしる何かがうっかりメディアに乗っちゃうんですよね。この人何か言いたい事がある、なら出しちゃえ、が成立するんですよ。ラジオよりもっと小さなメディアで考えると、もう書籍になるんです。あれは、作家と編集者の二人いればできるんですが、何せ本は流通量が多いから、面白いものを見つけるのは難しい。逆にテレビになると、見ている人も関わる人も多いし、影響力もケタ違い。個人の思い込みだけで突っ走ることって、なかなか出来ないと思うんですよね。ラジオに出た個人の思い込みが、文化と呼ばれるものを作るってことに尽きるのではないかな。

三好 メジャーの広がりになる前の発信みたいなものをラジオのスケール感が生み出しているんですね。

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古川 そうですね。書籍やネットにも個人の意見は載っていますが、探してくるのが大変。ラジオは作り手側にも責任はあるので、何でもかんでも出していいわけじゃない。ちょうど個人の思想が出やすくて、結果的に文化的なモノを生むような土壌になっている。よく漫画で例えるんですけど、「週刊少年ジャンプ」っぽい思うんですよね。以前、周辺で仕事をしていてつくづく思ったのですが、「ジャンプ」って作家の才能主義なんですよ。編集者が鍛えつつ、最終的にはその人の才能にかけちゃう。だから時には才能が潰れもしますけど、その分誰も想像してなかったようなすごいところまで行けちゃう。時代を変えるような才能は、やっぱり昔はジャンプから生まれていた。個人の思いが爆発すると、巨大な波が生まれると言う実感はありますね。

三好 古川さんは、宇多丸さんや細田さんのように、才能を持った個人を見つけていきたいんですよね?

古川 そうですね。やる仕事はなんでもいいんですが、面白いと思ったものを伝える手段を考えています。

三好 面白いと感じるものの根っこには、才能ある人がいると。

古川 そうですね、基本的には人です。でも「いやぁ〜、僕は人が好きでね」なんていうノリは大嫌い(笑)

三好 好きなものへの情熱が手に負えないところまでたどり着いている、いわゆる“どうかしている”人たちをどう見せ直すかを考えてらっしゃるのかなと思いました。

古川 そう! それができれば、作家としての仕事は終わったも同然です。これは、編集者がやっている仕事でもありますよね。

野村 僕が扱っているものは最後まで形がなくてグチャグチャのまま走り出すことが多い。それをリスナーさんがどう受け取るかを見たいです。

古川 リスナーからのフィードバックが欲しいってこと?

野村 幸い、福岡なので、リスナーの人からの反応を受けやすいんですよ。それを直に聞いて、スクラップアンドビルドというか、こういう事はこう表現したらいいのかと、後から知るんです。

三好 まだ混沌とした状態をリスナーとの間でシェイクして、形が出来上がっていく過程をドキュメンタリー見せる、それが面白いと?

野村 そう。最後まで形にならないのもあるけどね。

古川 すごくよく分かります。僕らは、意外と聞いている人の顔が見えていない。リスナーからのフィードバックの楽しみを知ったのはごく最近です。投稿コーナーは増えていて、ちょっと難易度が高い特集にリスナーからのいい球が来るんですよ。

三好 そうなると、古川さん達が作る番組って、一貫して「俺たちが面白い事をとにかくやる」ってスタンスなんですか?

古川 う〜ん、そう、なりますかね。傲慢なようですけど。俺たちはもちろん面白いと思うし、リスナーにとっても面白いだろうと思うもの…。あれ!? これもう傲慢ですね。

三好 いや、それは「自分たちが面白いと思ったものを信じ抜いて発信する」というシンプルな話かなと思います。

古川 そうですね。どんなにくだらない中にも、これをやることに意味はあると思っています。世の中でこの事が話された方が良くなるだろうということですよね。そういう思いはどの企画にもあります。

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三好 僕は、古川さんの番組に「狂気」と「品性」があると思うんです。品性とか優しさみたいなものが発信側にあるかどうかが重要で、古川さんはその内容を届けた先の誰かが生きやすくなるんじゃないかというマインドをお持ちなんじゃないかと。

古川 多分、それはずっとあるのかもしれないですね。

三好 最後の最後に込めたそういった優しさが「伝わりやすさ」なんじゃないかなと思うんですよ。

古川 今、ちょっといい話になっていますけど、究極的にいうと「美意識」の問題。そういう振る舞いがカッコいいと思っているんです

野村 そうですね、そういう意識がないと足元がぐらついちゃうから。語るときは何かの軸がないと届けられない。

古川 僕が思うに、ラジオって、人と人の会話なんですよね。宇多丸さんは相手がどんな危険球を投げてきても、一回それを引き受けて返すんですよ。つまり「会話」になっている。そしてどうやら僕らは、成立している会話を心地いいものと捉えるようなんですね。宇多丸さんがゲストやリスナーの思いを引き受けることによって、会話が成立する。それが結果的に人に伝わるものになっているんだなという気はします。

三好 気持ち悪いんですけど、僕はラジオを聴きながらめっちゃ喋るんですよ。ツッコミをいれたり、相槌を打ったり。

古川 それは本当に気持ちが悪い(笑)

三好 演者の会話に参加している感覚というのが、文化が伝わって広がっていく状況のベースにあるのかもしれませんね。こいつは俺だと!

野村 これ「ラジオあるある」なんですけれども、アーティストゲストのコメントがあるじゃないですか。博多に来たら、「ラーメン食べました」みたいな。

三好 あ〜定型文みたいな。

野村 そういう会話って、導入の仕方が下手なだけなんですよ。こういった定型文を作ってしまった方が楽だから、皆使っちゃう。

三好 これは放送作家の怠慢だと言いたいんでしょ(笑)

野村 そうそう。明らかに原稿を読んでいてリスナーさんとの会話になっていないものは、全然面白くない。その逆で、原稿を読んでいても読み手がうまいもので会話になっていると面白いものもある。

三好 会話にする事で伝わる。ラジオだけではなく、人生についても言えることかもしれませんよ。

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この後は、参加者の皆さんとの質疑応答タイムを経て、懇親会へと突入。
熱心なファンはもちろん、ラジオなんて学生時代以来という人も、3人のやりとりにハマっていた頃を思い出していたよう。終わるのが惜しいほどの盛り上がりでした。

お三方の放つ言葉は決して前向きなものばかりではありませんが、それでもすんなりと心に入ってくるのは、きっと“会話”が成り立っているという事でしょう。
他のメディアと比べて、どこかアンダーグラウンドな香りが漂うラジオの世界は、我々の内面に眠る好奇心のタネとコミュニケーションの喜びを呼び覚ましてくれたようです。自分の思いを人に伝えたいと思った時、まずはラジオのスイッチをひねってみてはいかがでしょうか。

(※3)ラブエフエムWEB http://lovefm.co.jp

(※4)GetNavi本誌の大人気コーナー「ド腐れ文具野郎 古川 耕の文房具でモテるための100の方法」WEB http://getnavi.jp/stationery/127801/

(※5)1982年10月〜1995年12月で『週刊少年ジャンプ』に連載された読者投稿コーナー。「月刊OUT」のライターとして活躍していた「さくまあきら」など、数々のクリエイターが携わっていた

(※6)OKB48総選挙WEB http://sugobun.com

(※7)ジェットストリーム WEB 
http://www.mpuni.co.jp/products/ballpoint_pens/ballpoint/jetstream/standard.html

(※8)『ビートたけしのオールナイトニッポン』にて、ビートたけしと「黄金コンビ」、「もう一人の相方」としてタッグを組んだ放送作家。

(※9)このサイトでの野村さんのプロフィール写真
http://rethinkfukuokaproject.com/post/158768772744/046

(※10)IC.I.T.Y.のHP https://city.amebaownd.com/

(※11)『新世紀エヴァンゲリオン』第拾九話「男の戰い」のレイの台詞より

(※12)博多のお土産の定番 http://www.nikakudou.co.jp/commodity/index12.html

(※13)夏びらきMUSIC FESTIVAL2017 HP http://www.natsu-biraki.com

(※14)「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」特集一覧はこちら (過去ページ)https://www.tbsradio.jp/utamaru/labo/index.html

(※15)「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」の映画コーナー 

(※16)ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル”神回”傑作選 Vol.1 https://www.tbsradio.jp/5885

 

 

ReTHINK FUKUOKA PROJECTについて
コミュニケーションや働き方、ライフスタイルに大きな変化をもたらしている福岡。新しい産業やコミュニティ、文化が生まれるイノベーティブでエネルギッシュな街となっています。
そのチカラの根底には、この街に魅力を感じて、自らが発信源となっている企業や人がいます。
ReTHINK FUKUOKA PROJECTは、「ReTHINK FUKUOKA」をテーマに、まったく異なるジャンルで活躍する企業や人々が集い、有機的につながることで新しいこと・ものを生み出すプロジェクトです。

 


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