インタビュー

「博多になくてはならない店へ」 iPhone世代もこよなく愛す老舗カメラ店「カメラのゴゴー商会」後郷さんインタビュー

以前ご紹介した動画「HAKATag CLAPS」のなかで、ベンさんから見た魅力的な福岡のスポットのひとつとして登場するのが、1945年から続く老舗のカメラ店「カメラのゴゴー商会」さんです。老舗の専門店にも関わらず、敷居を設けず誰もが親しみを覚える店の魅力について、また長年博多のまちを見守り続けてきた店だからこそ感じるまちの魅力について、二代目店主の後郷さんにお聞きしました。

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後郷壽雄(ごごう・ひさお)さん/1945年創業の老舗カメラ店「カメラのゴゴー商会」の二代目店主。カメラをこよなく愛す一方で、博多祇園山笠がすべての「山のぼせ」でもある生粋の博多っ子。

 

大型カメラ店より、小さな老舗カメラ屋が選ばれる、その理由

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ひときわ目を惹くゴゴー商会の名物看板。映画看板絵師が描いたデザインは創業当時のままで、現在はなんと四代目だそう!

—–随分と歴史を感じさせる店構えですね。まずはゴゴー商店さんの歴史について教えてください。

 創業は1945年です。もともとサラリーマンをしていた父親が、戦後にカメラ好きが高じてカメラ屋をはじめたんですね。当時は御供所町(博多区)にありましたが、30年前に今の上川端町(同)に移りました。当初、僕はカメラ屋を継ぐつもりはなかったんですが、父親が病気で倒れましてね。それまで僕は博多山笠がすべての「山のぼせ」でしたから、祭の仲間に「博多の老舗のカメラ屋を継がずにサラリーマンになった」と言われるのが嫌だった。つまり、山笠のために店を継ぐ決心をしたのが、最初の動機だったというわけです(笑)。

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—–「HAKATag CLAPS」のなかでは、ベンさんにカメラを渡す役として登場します。ベンさんとの出会いはどのようなものでしょうか?

 ベンさんが九州大学の留学生として福岡に住んでいる時期に、よくお客さんとして来てくれていました。ベンさんは、いつもふらっと現れては、フィルムカメラの機材を見たり、買って行ってくださいました。デジタルカメラのイメージが強いかもしれませんが、実は大のフィルムカメラ好き。クラシックカメラもとてもお詳しい。

—–大型のカメラ店ではなく、ゴゴー商会さんのような専門店に通っておられたわけですね。ベンさんに限らず、ここに来るお客さんは、このお店のどういうところに魅力を感じておられるのでしょう?

 いわゆる大型カメラ店では最新型のデジタル機種がずらりと並んでいますが、中古のフィルムカメラってほとんど取り扱ってないでしょう。フィルムカメラの良さが好きな方は、やはりうちに来られますね。またうちはライカの特約店(※)でもありますので、ライカがお好きなお客さまも来てくださいますね。

※ライカの正規特約店は、九州ではゴゴー商会さんを含めてなんと2店しかないそうです……!

ロマンを与える幸せな仕事

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店内には、総数約1,500台の貴重なカメラがところせましと並んでいます


—–さきほどおっしゃられた「フィルムカメラの良さ」というのは、具体的にどのようなものですか?

 それはもう、デジタルでは表現できない微妙な光の調子を出せるところでしょうか。ここに、新品ではもう手に入らない、中古フィルムカメラのニーズが根強く残っている理由があると思いますよ。また工業美術品としてのその繊細なデザインも、愛好家やコレクターが多い世界。シャッター音、フィルムを巻き上げる時の音、自分で絞りをまわし、ピントを合わせる楽しみ、撮れる枚数が限られていること、そして写真の出来上がりを確認できるまで時間がかかること……など、カメラそのものを“愛でる”醍醐味が溢れているんですね。カメラが単なる“中古”として消費されるのではなく、ビンテージやクラシックと呼ばれて愛され続ける所以です。

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2階のカメラサロンには、1,000台を誇る貴重なクラシックカメラのコレクションがズラリ。1900年頃の木製暗箱カメラ(非売品)なんかも、運が良ければお目にかかれるかも?!

—–このデジタル全盛期に、敢えてフィルムカメラを選んでこのお店に来られる方はどんな方ですか?

 ベンさんのように、海外の方も多くいらっしゃいます。国内ですと、最近では20〜30代の若い女性の方が増えてきていますね。いわゆる“iPhone世代”にも、フィルムカメラで写真を撮ってみたいという一種のトレンドのようなものがあるのかもしれません。そういう方々にも、どんなカメラを選んで、どんなふうに使えばいいのか、その “入り口”としてご来店いただいています。ただ販売するだけではなくて、会話のキャッチボールをしながらお買い物のプロセスから楽しんでいただけるように、心がけていますね。


—–ゴゴー商会さんは、カメラの売買だけではなく、お客さんとの触れ合いの癒しの場でもあるのですね。

 僕は、カメラはロマンを生むと言っているんです。おじいさまが大切に使われていたライカを、お孫さんが私も使いたいからと修理に持ってきてくださったり、自分と同じだけ歳をとったカメラで写真を撮ってみたいとお買い求めに来られたり。中には、カメラを買った方からお礼の絵葉書をいただくこともあります。一般的には、お礼を言うのは店側のはずなのですが、ここでは「カメラを売る人間」と「それを買う人間」という単純な関係を超えた信頼が生まれることがあるんです。それに、Eメールが主流のこの時代に敢えて絵葉書に手書きのお言葉を頂戴するなんて、励みになりますし本当に嬉しいものですよ。こういうところに、カメラが生み出すロマンを感じています。逆に言うと、ロマンを与えられる仕事をしているなんて、僕たちは幸せ者ですよ(笑)

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敷居が高いと思われがちなカメラ専門店ですが、ゴゴー商会さんの入り口には扉がありません。お客さんが入りやすく、そのまま自然に後郷さんと立ち話をしてしまう気ままな雰囲気もまた魅力です

 

博多とは、古き日本のよさが詰まった街

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「ひやかし大歓迎」の文字は初代から変わらず。誰でも気軽に……の思いは、いたるところに散りばめられています


—–70年以上も地元に根付き、博多のまちを見守り続けてきたゴゴー商会さんですが、このまちの良さはどのようなところにあると思いますか?

 ひと言でいいますと、日本の良さが博多には詰まっていると思います。例えば、この地で770年以上も続くお祭り・博多祇園山笠では、長幼の序や、祭り期間中だけではなく、一年を通して自治に関わることが、まちの良さを支えてきた文化として根付いているのではないでしょうか。かくいう僕も、「山のぼせ」(※)ですし(笑)

※山のぼせ・・・祭の期間中はもちろん、年がら年中、山笠にすべてを捧げる男衆のこと。


—–お祭にまつわる振る舞いや所作には、どういったものがあるのですか?

 人としてはごく当たり前のことではありますが、挨拶や目上の方に対する言葉使い、態度などは厳しく先輩が指導します。また例えば、直会(なおらい)など酒席の際、ビールを注ぐ時は、ラベルを上にして必ず両手を瓶に添えることなども、山笠では当たり前です。冠婚葬祭の際も、祭り期間中は博多の正装である当番法被を着用して出席します。
 そういうことを長年継承してきた男衆たちに、真の信頼関係や強い連帯感、男気のようなものを感じるんですね。毎年、追い山が終わると感激のあまりに涙を流す若者もたくさんいます。もちろん裏で支えてくれているごりょんさん(ご婦人)たちにも感謝の気持ちでいっぱいです。こういう文化が残っているまちは、本当に少ないと思います。

※直会・・・祭事が終わっての宴

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山笠の話題になると、自然と顔がほころぶ後郷さん。店内には、ご自身が追い山の台上がりの棒さばきを務められた際の写真も飾られていました


—–ゴゴー商会さんの今後について、何か展望はありますか?

 お客さまとの触れ合いを大切にしながら、今まで通り続けていくだけです。強いて言えば、カメラ好きの人が「ゴゴーさんに行けば何か見つかるかもしれない」とか、「ゴゴーさんでカメラ買うなんて通やね」と思ってもらえるような店を目指していきたいですね。これからも、博多のまちにはなくてはならないお店となるべく精進していきます。

クラシックカメラ、ヴィンテージカメラという、一見敷居の高いカメラの世界で、心も店もオープンに、お客さんとの触れ合いを大切にされてこられた後郷さん。それが、ゴゴー商会さんが色んな世代を超えて愛される理由なのかもしれませんね。後郷さん、ありがとうございました!

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HAKATag CLAPS」では、蝶ネクタイがトレードマークの後郷さんが、ベンさんにカメラを渡す役で登場しています!

■「HAKATag CLAPS」を撮ったベンさんのインタビュー記事はこちら

(取材/編集部)


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