ReTHINK FUKUOKA PROJECT レポートvol.40
アナバナではReTHINK FUKUOKA PROJECTの取材と発信をお手伝いしています。
昨年8月より始まった、アナバナが企画する『コトバナプラス』。モデレーターに、発酵デザイナー小倉ヒラク氏を迎え、毎回さまざまなゲストをお招きし、連続シリーズで開催しています。
「未来の種」をキーワードに、九州内外のさまざまなゲストを迎えて語り合うトークイベント「コトバナプラス」。第7回目となった今回は、「冷えた組織の温めかた。リ・イノベーション再考」をテーマに、RETHINK CAFÉにて開催されました。「コトバナプラス」は、モデレーターの小倉ヒラクさんが手がける、コープ九州とのコラボ企画「コープ男子」をきっかけに始まったイベント。そのコープ男子内にも登場する、日本で最初のコープ「生活協同組合コープこうべ」の執行役員・本木時久さんと、九州大学大学院人間環境学研究院専任講師の田北雅裕さんが今回のゲストです。
コープこうべで組織内から大胆な改革を続ける本木さんと、自ら移住してまちづくりを実践し、今は大学でも教鞭をとる田北さんの意見を聞きに、今回もたくさんの人が集まりました。当日の模様を一部抜粋してお届けします。
信頼獲得の第一歩は、
嘘をつかずに正直であること
小倉 今回のテーマは「冷えた組織の温めかた」ということで、機能不全を起こしている組織を自分たちのやり方で改善していく方法について、失敗例も交えながら考えていきたいと思います。まず、田北さんから自己紹介をお願いします。
田北 はい。僕は学生時代に「trivia」というデザインプロジェクトを始め、トータルでまちづくりを考えていく活動を始めました。当時はコミュニティデザインという言葉もまだなかった頃で、その中で自分の等身大でできることをしたいと思って。そこから派生して、ランドスケープや空間だけでない、情報そのもののデザインをテーマに活動しています。
小倉 僕が田北さんの活動の中でも特に印象的だったのは、福岡市の児童相談所サイトのクラウドファンディングプロジェクトです。この活動について教えてもらえますか?
田北 はい、このプロジェクト「みんなの力で児童相談所のウェブサイトをデザインしたい!」のことですね。僕は学生時代からデザインに関わる活動をしてきましたが、広告業界や商業的な世界に比べて、役所など公的な場にデザインが施される例が少ないと感じていました。児童相談所は、里親と子どもを結びつけたり、子どもや家族が悩みを相談できたりするという重要な役割を持っているんですが、広報費がゼロなので、ウェブサイトのデザインができていなかったんです。一方で、市民側は、行政のサイトは税金で作らなくてはいけないと思い込んでいる。そこで、クラウドファンディングを利用してネット上で制作資金を集めることにしました。集まった資金だけを行政に寄付しても、いいデザインになるとは限らないので、こちらでデザインまでして、完成したサイト自体を福岡市に寄付するという形をとったんです。
小倉 それってすごく原点回帰的な発想ですよね。公共事業って、自分たちが享受する側の視点でばかり考えてしまいがちだけど、本来は市民が必要としているサービスなわけだから、作れるものは市民で作ればいいっていう。
田北 ええ。それから、行政は行政の言葉遣いで、そのまま情報を出しているだけなので、そこにデザインが介在していないから伝わりにくいんですよね。里親とか、児童虐待というデリケートな問題を、どんな言葉で語れば情報を必要としている人に伝わるのかを、考えながら取り組みました。
小倉 どうやって行政と信頼関係を築いていったんですか?
田北 この児童相談所のプロジェクトの前に、熊本県小国町の杖立温泉街に移住してまちづくりをしていて、そこでの経験が大きいですね。どんなに話をしても、理解してもらえないことがあって。それくらいギリギリになると、嘘をつかずに正直であることしか、相手とつながる手段がなくなるんですね。言い方を変えると、理解してもらえなくても正直でありさえすれば、「こいつ本気なんだな」「信じてもいいかな」という具合に信頼してもらえることがあります。少なくともその姿勢は大切にしています。
小倉 それって、とても根気がいりますよね。
本木 めげずに続けられる、モチベーションの源泉は何ですか?
田北 それは自分でもよくわかりません。ただ、放っておけなくなるというか。自分がやらないと誰もやらないだろうから、やるしかないな、と。逆に、世間の関心が高くなったりして、それに携われる人が現れるのであれば、自分がやる必要は無いと判断します。
小倉 田北さんは、社会の中で死角になる部分、自分では見えない“首の後ろ側”を見えるようにするデザインに取り組んでいるんですね。今後の活動についても教えてください。
田北 今取り組んでいるのは、福岡市西区の「みんなで里親プロジェクト」です。里親というと、子どもの一生の面倒を見るような印象がありますが、短期間だけ里親になることもできるし、みんなで少しずつ支え合いながら一人の子どもを養育することもできます。そういう事実も、デザインを施してうまく伝えていかないと、みんなが知らないままなんです。保護や見守りが必要な子どもたちの支援を話し合う会議にも参加しているんですが、福祉系の会議の資料はデザインが行き届いていなくて、建設的な話し合いができずに終わりがちなんです。このような、デザインが入り込めてない領域での活動を、今後も広げていく予定です。
無関心層を味方につけて
組織を動かしていく
小倉 では、本木さんも自己紹介をお願いします。僕のコープ九州での連載企画「コープ男子」でも、最初にお話を聞きに行ったのが本木さんでした。
本木 そうでしたね。生協と一口に言っても、地域生協や学校生協などさまざまあって、コープこうべは大正時代に起こった、日本で最も古い地域生協です。ガンジー・シュバイツァーと並んで20世紀の三大聖人といわれる賀川豊彦という人が唱えた「救貧ではなく防貧が大事」という思想と、実業家、それに自分たちで自分や家族の暮らしをよくしようとした多くの主婦のパワーがかけ合わさって、盛り上がっていきました。ゆりかごから墓場までというように、店舗、宅配、共済などを展開して、生活に必要なあらゆるものの共同購入や、共同利用を進めていったんです。特に1970年代以降は急成長を遂げましたが、バブルが崩壊し、阪神大震災もあって、コープこうべは一気に坂を転げるように組織が弱体化して。なんでそうなってしまったか、その原因を3つ、考えてみたんです。1つは、組合員さんがお客化してしまったこと。
小倉 ここ、面白いところなんで補足しますが、生協の組織って実はお客さんという概念はないんですよね?
本木 そうです。本来、生協はお客様と従業員という関係性ではなくて、双方とも同じ組合員なんです。だから、生協の店に行って、品出しなんかをしてもらってもいいんですよ。本来は同じ立場なんです。
小倉 なるほど。
本木 それから2つ目は、前例踏襲や指示待ち、他部署が何をしているのか無関心な人が組織の内部に増えて、大組織病に陥っていたこと。さらに3つ目として、社会的課題が多様化・複雑化しているのに、いつまでも「食」の課題に対する手段でしかなかった小売業に囚われて、ほとんど対応できていないこと。60年代や70年代に比べれば安全な食べ物は格段に手に入りやすくなったけれど、高齢化に伴うものや貧困の問題など社会的課題は様々あり、かつ複雑に絡み合っていて、そういうことにアプローチできていないままだったと。そう考えて、これらを解決する改革を2012年から行いました。「我々は、社会的課題を解決する事業体のトップランナーなんだ」と青臭い理念を掲げて。
小倉 最初は抵抗があって大変だったんですよね?
本木 ええ。僕は課長の時にこの理念をぶち上げたんですが、周りの反応は総スカンで(笑)。それで、もっとお互いのことを知るところから始める必要があると思って、対話集会を始めました。集会になかなか来ない40代向けには「子ども参観」をしたり、社会活動家の人たちの力や知恵を借りたり。職員内で組織内SNSも立ち上げました。この対話の取り組みは今では組合員さんにも広がっていますが、最初は2割が賛成派、2割が賛成できない派、残りの6割はどちらでもない派だったので、この6割を味方につけていく作戦でやっていきました。
小倉 職員の中の年代別の特徴は?
本木 期待できそうで、そうでもないのが30代、50代になると残りの時間で組織に貢献したい層とテコでも動かない層が両方いるという感じ、どっちでもないのが40代ですね。
小倉 すごい現場感のある答え(笑)
本木 30代は結婚したり、子どもができたり、異動したりで余裕がないんですよね。だから今は20代に働きかけてます。彼らは恐いもの知らずで動いても許してもらえますし、20代が動くと40代も動き出します。50代の中にはかつての成功体験から抜けられない層がいて、変われと言われてもできないんですよね。ただ、50代の違う層と60代まで行くと、信頼して任せてもらえる器の大きさが出てくるんで、助けてもらえる存在になります。
小倉 無鉄砲な若者と懐の広いお年寄りにアライアンスができた時に、組織って最強になりますよね。でも、抵抗勢力をどう変えていったんですか?
本木 例えば、抵抗感の強い人の横に、僕が勝手に席を移したり(笑)。最初は無視されても、あいさつから始めたり、用もないのに話しかけたりして。いつのまにか仲良くなりました。水と油もほっとくと混ざるって、昔ラーメン屋の友人から聞いた通りですね(笑)
小倉 しつこく継続して変えていったわけですね。田北さんの時と同じ質問ですが、その本木さんのしつこさ、モチベーションはどこからくるんでしょうか?
本木 答えも田北さんと同じで、わからないんですよ。これが自分の役割だから、と思ってやっていますね。
違和感を感じたら、荒削りでもいいから
その場に言葉を投げ込んでみる
小倉 後半は参加者から質問を受け付けます。聞きたいことがある方は、早めにどうぞ!
参加者Aさん 人を巻き込むためのエンジンになるものって、何でしょうか?
田北 僕は、巻き込むっていう言葉はあんまり使わないようにしています。まちづくりの人材が足りないからといって、強制的に手伝わせるのはおかしくて。何かしらの活動をしていなくても、本来は、まちに生きているだけでかけがえがないはずですから。誰かに関わってもらいたい、動いてもらいたいと思った時に、関われる・動ける人を見つけられていない、あるいは伝わってないだけかもしれない。まずは、伝わる人たちを見つけ、情報を丁寧に届けていく、ということに気をつけます。
本木 先ほど話したように、コープこうべの場合は硬直した組織の改革が必要だったんですが、変えていくときに「オープンであること」を心掛けました。会議室があるから密室的な会議になってしまう、だったら会議室をすべてフリースペースに変えてしまえばいい。そんな発想で進めていきました。「これをしなさい」と決めるのではなく、「こんな風にしてもいいんだ!? 」 「だったらこうしたい!」 という意見が自発的に出てくるようにしていきましたね。
参加者Bさん 私は今の会社に入って1年目なんですが、「もっとこうした方が楽しそうなのに」「もっとこう表現したらおしゃれなのに」と思うことがあっても、意見が通らなくて悩んでいます。
田北 おしゃれとか楽しさっていうのは、表現の一つでしかなくて、本来はどんな課題解決ができるかが重要なはずです。おしゃれじゃなくても、楽しいものでなくても、課題を解決する方法があるなら、それを選ぶのもいいと思いますよ。デザインは表現するのが目的ではなくて、あくまで課題解決の手段なので。
本木 僕は、わが子でさえ思い通りにならないのに、他人が思い通りになるわけがない、といつも考えて行動しています。だからその人の価値観を見つけて、そこに合う提案をしてあげることが大事なんじゃないかな。押すところを間違えていたら、いくら押しても変わらないので。
田北 Bさんは今、1年目のフレッシュな状態でその組織を見ていて、そこにたくさんの気づきや疑問がありますよね? それは、組織の中で役割が固まってしまった人は気づくことができないものなので、それを大切にしてください。1年目というのは、組織を変えるチャンスでもあるので。
参加者Cさん コープで配送の仕事をしているんですが、配送センターのリーダー2人が、仲が悪くて困っています。
本木 そういう場合、2人に共通の目標を持ってもらうことが大事ですね。それが難しいなら、問題を顕在化して、大きくすることで、解決を図ってもらうか。上長に相談してもいいと思いますよ。ストレスを感じた時に、それを自分のせいにして我慢するのはよくない。Cさんが感じている時点で、他の人も居心地の悪さを感じているはずだから。
小倉 Cさんがモヤモヤと考えていたことも、こうやって言葉にしてこの場で話したことで、それをみんながシェアして、それぞれの頭でどう課題解決したらいいか、頭を巡らせているわけですよね。だから、荒削りでもいいから、その場に言葉を投げ込んでみるのがいいと思いますよ。
田北 僕は、詩人の谷川俊太郎が言っていた「戦争しない」という考え方が好きです。戦争するか仲良くなるかの二択ではなくて、戦争しないという選択もあるんじゃないかと。無理に仲良くさせようとすることが溝を深めたりもする。戦わずして前に進めるやり方が必ずあるので、「作戦を練ろう!」というノリで、その状況を共有している周囲の人たちとムードよく攻略していく姿勢が大事だと思います。
いかがでしたか? 組織の内側に入り込み、課題を見つけ、その解決のために柔軟に動いてきたお二人。人との関係性をよりよく変えていくための、具体的な方法がいくつも示された、有意義な回となりました。
昨年のファーストシーズンを終えて、延長戦に突入したコトバナプラス。小倉ヒラクさんの軽妙な進行のもと、次回はどんな話が展開するのでしょうか。楽しみにお待ちください。
ReTHINK FUKUOKA PROJECTについて
コミュニケーションや働き方、ライフスタイルに大きな変化をもたらしている福岡。新しい産業やコミュニティ、文化が生まれるイノベーティブでエネルギッシュな街となっています。
そのチカラの根底には、この街に魅力を感じて、自らが発信源となっている企業や人がいます。
ReTHINK FUKUOKA PROJECTは、「ReTHINK FUKUOKA」をテーマに、まったく異なるジャンルで活躍する企業や人々が集い、有機的につながることで新しいこと・ものを生み出すプロジェクトです。