RethinkFUKUOKAProject

コトバナプラスvol.4 発信力を味方につけ、働き方を変えた 地域密着型デザイナーの最前線

ReTHINK FUKUOKA PROJECT レポートvol.26

アナバナではReTHINK FUKUOKA PROJECTの取材と発信をお手伝いしています。

そして8月より、アナバナが企画する『コトバナプラス』が始まりました。
モデレーターに、プロダクトデザインやみそづくり、麹づくりのワークショップで、今や世界に発酵の風をふかせている発酵デザイナー小倉ヒラク氏を迎え、毎回さまざまなゲストをお招きし、毎月第1水曜日に連続シリーズで開催します。

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未来の種を自分の外側に“見つける”のではなく、自らが進んで未来の種に“なる!”
そんな「未来の種」づくりをキーワードに、発酵デザイナー・小倉ヒラクさんを迎えてシリーズ開催しているコトバナプラス。11月2日(水)に開催された第4回は、BEEK DESIGN代表の土屋誠さんとアイデアにんべんの黒川真也さんをゲストに迎え、「未来の種を残す〜住んで伝える、ローカルデザインの新世代〜」をテーマに行われました。
冒頭に、「ローカルデザインのあり方が変わってきている」と話した小倉ヒラクさん。「土地の人たちの情報発信を外部から手伝うのがローカルデザインの第一世代だとしたら、その土地に住んでいる人自身が発信力を身につけて、実践しているのが第二世代だと思う」。その第二世代の代表として招いたおふたりの、さまざまな取り組みを聞きながら、ローカルデザインについて会場の皆さんと一緒に考えます。

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自ら立ち上げた冊子が広告となって、
次の仕事を生む

小倉 8月から始まった「コトバナプラス」も、今日で4回目。続けてこられて、嬉しい限りです!

(会場から拍手)

小倉 今回のテーマは「ローカルデザイン」です。地域に移り住み、そこで根を張りながら、地域の人たちと一緒にデザインや編集の仕事で情報発信をしているおふたりをお招きしました。ではまず、土屋さんから活動紹介をしてもらえますか?

土屋 はい。僕は就職してから約10年間、東京で編集やアートディレクターの仕事をしていました。2013年に地元・山梨に戻ったんですが、当時は知り合いもほとんどいなくて、山梨にいながら東京の仕事が9割を占めている状態でした。山梨でも仕事をしたいと思って帰ってきたのですが、知り合いはほとんどいない状況。ならば、会いたい人に会いに行く口実で、取材してフリーペーパーを作ろうと思い「BEEK」を始めたんです。

小倉 九州の人にとって山梨は馴染みが薄いかもしれないので、場所の説明もしてもらえますか?

土屋 そうでしたね。山梨県は、静岡県とともに富士山の麓に位置する県です。面積は東京都の2倍あるんですが、人口は約85万人で、世田谷区と同じくらいですね。

小倉 そうすると、地域にデザイナーや編集者がそもそも少ない?

土屋 ええ。ローカルメディア自体が少ないので、まだメディア化されていない情報がたくさんあるんですよね。それで、編集から印刷まで自分の持ち出しで、山梨の各地を取材して「BEEK」を発行していくうちに、「BEEK」を見た人から仕事の依頼がくるようになって。

小倉 いわば手弁当で始めたフリーペーパーが、営業ツールになって、仕事を生んでいったんですね。

土屋 そういうことです。今では9割が山梨の仕事になりました。山梨の会社の会社案内やイベントのポスター、ロゴやサインのデザイン、市や県が発行する小冊子などを制作しています。他にもBEEKとして一箱古本市やトークイベントなども開催しています。ふだんのデザインや編集の仕事も、BEEKという小さなメディアも、山梨の良さをいろんな形で伝えていく、広告表現の一つという思いでやっています。

小倉 通常だと、デザイナーの仕事はクライアントから発注されて、クライアントの伝えたいことを代弁するのがデザイナーの仕事ですよね。でも土屋さんがやってるのは、デザイナー自身がクライアントになって、自分の媒体を作っていると。

土屋 そうですね。もともと僕は、雑誌を作りたくてデザイナーになりました。だからグラフィックデザインだけがやりたかったわけじゃないんです。業界に飛び込んで、仕事をしていく中で文章も写真も自分でこなせるようになったことが、今の仕事に役立っていますね。

 

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自前で作るからこそ
言い訳のできない仕事になる

 小倉 続いて黒川さんも自己紹介をお願いします。

黒川 はい。僕は京都出身で、大手広告代理店のクリエイティブを主に請け負う制作会社で働いていました。15年前に夫婦で沖縄に引っ越し、広告代理店に転職したんですが、イメージとは違って沖縄の人は終電がないから遅くまでよく働くんですよ。それに、大阪時代は分業が当たり前だったのが、沖縄では一人何役も担当したので、自分で一通りスキルを身につけることができて。その後独立して、夫婦で始めたのが「アイデアにんべん」です。

小倉 沖縄も、デザイナーが少ないんですか?

黒川 少なくはないですね。ただ、クライアントになる人たちのなかには、デザイナーや編集者がどんな仕事を担当するのかわからない場合が多いですね。なので、その人ごとにあわせて、たとえば、絵を描いて「こんな風にできたらいいですね」と企画意図を説明するところから始めています。

小倉 デザインや広告業界って、表現を誇張しがちな印象がありますけど、黒川さんのスタンスは、地に足がついていますよね。農家、豆腐屋、パン屋と言った並びに「デザイン屋」も無理なく存在してる感じで。黒川さんのデザインを見てるだけで、生活感が伝わってきます。この「百年の食卓」という冊子はなんですか?

黒川 これは、長寿の村で知られる大宜味村の「笑味の店」というお店の店主 金城笑子さんと一緒に「100年ちかく生きてこられた方たちの、暮らしの記録を残したい」という意図で始まった冊子です。これは、自分たちも印刷費を出し合って、発行しています。

小倉 この冊子は、自分たちが広告主なわけですね。

黒川 そうです。クライアントに依頼されて何かを作るのって、言い訳もしやすいんですよね。「本当はこうしたかったけど、クライアントの意向でできなかった……」そんな言い訳をこれまで僕らもしてきてしまいましたが、この冊子はそうしたくなかった。それにクライアントワークの場合、制作したものを自分たちで売るわけではないので、これまで売る経験をほとんどしてこなかったんです。委託販売の仕組みとか、自分たちでやってみて初めて知ったことがたくさんありましたね。

小倉 大きな職場にいると、分業制によって、自分が全体のどの部分を担当しているのかわからなくなったりしますよね。でも小さな組織でやると、自分の中で仕事を完結できる。それは、組織の歯車では得られない充実感がありますよね。

 

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生活の一部に仕事がある、
お百姓さんのようなデザイナーになりたい

 小倉 おふたりとも、都会から田舎に移住して来られたわけですよね。心持ちは、どう変化しましたか?

土屋 東京から戻って、生活がガラッと変わりましたね。周りにモノづくりをしている人が増えて、デザインという仕事も特別なものではなく、野菜を作ったり工芸品を作ったりする仕事と同じだなと思えてきました。農家の人は、朝9時に出社して5時に終わるというような、時間で区切られた仕事ではないですよね? 僕も、デザインや編集が生活の一部になって、1年を通して無理なく仕事ができるようになってきています。

小倉 地域に根ざしたデザイナーは、クリエイティブなお百姓さんになっていくわけですね。

黒川 僕も同じですね。僕たちは、家族で一緒にご飯を食べる時間を確保することを第一の目的に考えて、沖縄に移住しました。なので、「暮らし」というテーマに自然と感心が移っていきました。沖縄についてはまだまだ知らないことだらけなので、地域の皆さんに教えてもらえるのも嬉しいし、知っていくのが楽しいですね。

 

〜ここからは、参加者の皆さんも交えてトークが進みました〜

参加者Aさん 私は今、能古島という離島に住んでいます。地域の高齢化が進んで、空き家も増えていますが、地域の人がその空き家を活用したがらなくて。どんな方法を取ればいいでしょうか?

土屋 実は山梨は、空き家率が全国一なんですよ……。富士吉田で空き家を改修して新しい人を呼び込む活動をしている人がいますが、その中心人物は、地域の人や大工の親方と積極的に飲みに行ったりして、受け入れられてますね。Aさん自身が、そういう存在になればいいんじゃないですか?

小倉 大体2,000人以下ぐらいの村だったら、個人の影響力で、村全体が変われると思いますよ。

 

参加者Bさん 自分たちのサービスや価値を地域の人にわかってもらうために、どんなことをしていますか?

土屋 田舎の場合、僕らの役割自体が理解されてない場合も多いですからね。最初のトライアルで予算がないときは、物々交換で野菜をもらう代わりにデザインするなんてこともありますよ(笑) 一度でもやってみると、価値が伝わりますから。

黒川 話をしていく中で、課題やヒントが見つかることもありますよね。

小倉 僕もデザイナーとして仕事をしてますが、話をしている時間が全体の8割ぐらいです。大事なことは、相手の話に合わせていくチューニング能力です。相手にシンクロしていくと、相手からいろんな内容を引き出すことができるんですよね。話を相手から引き出すこと自体が、仕事になってる気がします。

 

参加者Cさん 情報発信する上で気をつけていることや、見せ方のコツを教えてください。

土屋 写真や言葉を発信するときに、誰が見るかをいつも想定していますね。少し気をつければ、ぐっと伝わりやすくなると思います。

黒川 そうですね。たくさんの人に伝えるのも、結局は近しい人に伝えることと同じだと思うので、届けたい相手をイメージしながら発信するのが大切だと思います。

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<モデレーター小倉ヒラクより追伸>

イベントレポートお読みくださってありがとうございました。
デザイナーやクリエイターというと「特別なひと」というイメージがありますが、それは都市部の広告の世界でつくられたものなのではないかなと思います。
地域のなかで、生業としてのデザインを選んだ黒川さんと土屋さんのお話しを聞くと、「お百姓さんのようにデザインする」という地に足がついた「ふつうの感覚」で表現することの大事が理解できそうです。
目の前にあるものを新鮮な視点で見ること、ていねいなコミュニケーションすること。
誰しもトライできるささいなアクションから「その土地の素敵な伝えかた」が始めるのではないかしら。

 

いかがでしたか? 地域に根ざしたおふたりの仕事ぶりを見ていると、デザインや情報発信の根本には人がいて、人と人とがしっかりと信頼関係を結んでいるからこそ、いい発信ができることを感じさせます。九州のローカルをつぶさに見ながら、その魅力を発見していく「アナバナ」としても、彼らの姿勢に学ぶことが多くある回となりました。

さて、軽妙洒脱な小倉ヒラクさんの進行とともに開催してきたコトバナプラスも、次回が最終回。お二人の女性ゲストを招き、より良いコミュニティづくりについて考えます。最後までどうぞお楽しみください。

 

ReTHINK FUKUOKA PROJECTについて
コミュニケーションや働き方、ライフスタイルに大きな変化をもたらしている福岡。新しい産業やコミュニティ、文化が生まれるイノベーティブでエネルギッシュな街となっています。
そのチカラの根底には、この街に魅力を感じて、自らが発信源となっている企業や人がいます。
ReTHINK FUKUOKA PROJECTは、「ReTHINK FUKUOKA」をテーマに、まったく異なるジャンルで活躍する企業や人々が集い、有機的につながることで新しいこと・ものを生み出すプロジェクトです。


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