LOCAL BUSINESS X FUKUOKA

「空き家」をテーマに地域活性化に取り組む方々の生の声を聞くセミナー〜後編〜

2016.03.31 LOCAL BUSINESS × FUKUOKA 福岡市農山漁村地域活性化セミナー VOL.1「福岡市ならではのローカルビジネスを始めよう」「空き家」をテーマに地域活性化に取り組む方々の生の声を聞くセミナー

後半は、参加者によるグループディスカッションを行いました。この日は、参加者が複数のグループに分けられて、まずは同じテーブル内で自己紹介。続いて、トークの内容を受けて感じたことや、現在取り組んでいることについて、発表しあいました。テーブルには、アイデアをメモする紙や付箋、ペンなどを用意。20代から70代までの幅広い参加者が集まり、活発な意見交換が行われていました。その後は、参加者の質問に答えるかたちで、ゲスト3名のトークが再開しました。


この日は参加者もグループに分けられ、トークの内容を受けたグループディスカッションも行われた

地域への貢献が地域を魅力的にしていく

参加者今日は東京から参加しました。普段は投資関連の仕事をしています。山下さんのお話で、不動産はライフタイムバリューで考えると難しいという話題が出ましたが、そのソリューションも少しずつ考えていらっしゃるんだと思います。生活の価値観が変わり、セカンドハウスを持つ人が増えたり、逆に一生賃貸で過ごそうという人もいる中で、次のステップとして考えていることがあれば教えてください。

山下さん(以下山下)これから、日本の社会は人口が減っていきます。それはしょうがないことです。その時代にどうやって生き残ればいいか。わかりやすい解決策は、一人が2軒、3軒と家を持てばいい、ということです。それを実現する方法は2つあると考えていて、ひとつは民泊です。家は、いままでは持つか借りるかのどちらかでしたが、民泊はその真ん中というポジションで、自分で所有しながら、それをシェアできます。投資と考えるよりも、自分の持っているものをうまく使って、生かす方法と考えた方が、日本人には馴染みやすいかもしれません。そしてもうひとつは、中古市場です。木造の家は、平均すると27.5年で壊されます。35年ローンを組んでいるのにです。これは、おかしいですよね。だから、20年後も30年後も、新しい価値をつけて売ることができるようになる必要があります。これら2つを、リノベーションによって実現することができると考えています。

山口さん(以下山口)20年、30年と長期的にその家に住むとなった時に、地域の魅力が30年後も担保されていないと難しいわけですね。その活動を、古橋さんがやっていると。地域の魅力が不動産の価値を決めるようになれば、近いエリアの中で、不動産価値が高いエリアと低いエリアが極端に分かれることもありえますね。

古橋さん(以下古橋)そうだと思います。地域を魅力的にしていくなら、ただ住むだけでなく、自分が住み続けたくなり、子供たちも住まわせたくなるように、地域に貢献していくことが大事だと思います。

山下難しいのは、地域の中でどう生きていくかがはっきりイメージできる人は、意外と少ないということではないでしょうか。

山口なるほど。

山下こんな生き方もいいかも、と想像させられるかどうか。

古橋いまの常識では、まず仕事を選び、仕事があるところの近くに住みます。仕事のプライオリティが高くて、地域選びはその後です。しかしローカルビジネスは、暮らしの中に仕事があり、生き方の中に仕事があると考えた方がいいと思います。自分のしたい暮らしがまずあり、そのためにどれだけ稼ぐか、という発想で、生活していくということです。

山口古橋さんのような人が、各地域に出先機関としていれば、心強いんですけどね(笑)。

職種も年齢もさまざまな人が、ひとつのテーマについて話す。これも地域社会の縮図

地域の人をどう巻き込むか

参加者古橋さんの自己紹介で、地元の人と信頼関係を築いていくという話がありましたが、地元の、特に高齢者の場合は、具体的にどのように信頼を築いていくんでしょうか?

山口津屋崎は田舎で、その土地に長く住んで愛着を持っている人も多いですから、ビジネスマン風の不動産屋が突然家を訪ねてきて、「家を売ってください」「買ってください」と言っても、簡単には聞き入れてもらえないですね。

古橋そうなんです。だから僕は、地元の消防団に入り、祭りにも出て、地元のおじいさんたちとも仲良くなって、それでようやく土地の所有者と話ができたり、「あの家をなんとかしたいんやけど」と相談が来たりするようになりました。都会の合理的な考え方とはまったく違う、地道なネットワークづくりが必要ですね。

参加者とても時間がかかり、根気のいる作業だと思いますが、それでビジネスとして成立するのかが気になります。

山口それは厳しい質問ですね(笑)

古橋いまは不動産の仲介料が事業収入の柱で、正直まだ自分たち家族が食べていくのでやっとの金額しか稼げません。しかし、時間はどうしても必要なんですよね。空き家を貸すこと自体は、所有者にとっても借り手にとってもWin-Winである、そのことはよくわかっていても、心理的な不安や感情面での抵抗が大きくて。それは、時間を重ねていくことでしか、解決できないと思っています。

参加者そういう地域を巻き込んだ新しい活動を歓迎しない人もいますよね?例えば、うちの地域は自分たちでやっていくから、よそ者は来ないでくれ、という場合はどうしますか?

山口私が津屋崎に来たばかりの頃にも、地元の一部から反発がありましたよ。よその人間がやってきて、津屋崎を救うみたいなことを言って、なんなんだと。「地元帰ってやれや」とも言われて、落ち込みましたね。でも、そうなったらこちらも本気でぶつかるしかないんです。「じゃあ、あんたらの同級生の半分以上がこの町を捨てて都会に出て行って、戻ってこない。それでいいんか?」と言いました。すると向こうも、「お前の知っている都会の知恵を、俺たちにも教えてくれ」というようになって。そうやって気持ちと気持ちでぶつかって、ようやく信頼を得られるようになってきました。

古橋なんで来るなと言うのか、現状維持でいいのかを、確認する必要がありますね。言葉の裏側で、本当はなんとかしないといけないと思っている、という場合もありますから。

山下団地の再生などのケースでもあります。若い人はマナーが悪かったり、夜に騒いだりするから、入ってこないでほしいと言うんですが、過疎化が進めば管理費も不足して、地域の祭りや行事もできなくなる。本当は困っているんですよね。

山口都会の人と田舎の人とでは、同じ日本語でも話している言葉が全然違う。だから、双方の気持ちを理解し、双方の言葉を話せる媒介役、翻訳者の存在が必要なんでしょうね。その役割を担っているのが、古橋さんだし、山下さんの会社のコーディネーターさんたちなんだと思います。

都会の人と田舎の人、双方の特性を理解し、双方に通じる言葉を話せる「翻訳者」が必要ではないかと語る山口さん

田舎でこそ新しい仕事が生まれる

山口さて、そろそろまとめに入りましょう。お二方、最後に皆さんに伝えたいことはありますか。

古橋津屋崎で活動をしていて感じるのは、地域の魅力をどのように面白がれるかが大事ということ。悪いところを上げはじめればキリがないんですが、いい面を見て、それを自分たちで面白がっていくことから、本当に面白いことが始まるのだと思います。

山下その通りですね。人口が減っていく世界というのは、日本人がこれまで一度も経験したことのない世界なので、みんな戸惑っています。でも、その新しい状況をどう楽しんでいくのか、みんなで話しあえるようになった先に、明るい未来があると思います。

山口あるアメリカの研究者が2011年に、ニューヨークタイムズ紙のインタビューに答えたところによると、「2011年度にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に今は存在していない職業に就くだろう」ということです。単純な仕事は人工知能に置き換わり、人間はもっと人間にしかできない仕事をしていくことになる。その中で、これまでにはなかった新しい仕事がたくさん生まれてくるはずです。だから、田舎だから仕事がない、ということではないでしょう。都会よりも田舎はすき間がいっぱいある、いわばブルーオーシャンです。人口が少なくなればなるほど、必要なものも増えてきますから、そこにビジネスチャンスがあるはずです。そんな予想を立てながら、地域で仕事を作り、地域で暮らしていくことの可能性を、これからも考えていきたいと思います。本日はありがとうございました。


トーク終了後は、参加者による交流会を開催。福岡市の農山漁村地域のひとつである志賀島で獲れた、新鮮な魚介類を使った料理を食べながら、さらに交流が深まりました。21時半に、今回のセミナーは無事終了。参加者の熱心に話を聞く姿が印象的な、濃密な3時間となりました。


食事を囲んでの懇親会を開催し参加者同士の交流の場に。会場の『HABIT』では、福岡市新宮町産野菜や猪肉の角煮など、地域の豊かな資源を使った料理の数々が用意された

[参加者アンケートより]

セミナー開催後に行ったアンケートでは、約8割の方が講演内容とグループディスカッションについて満足したと回答。また、セミナーで印象に残ったこととして、次のような意見が見られました。

「普段出会わないような人たちと共通のテーマで意見をかわし、楽しい時間となりました。今後の自身の働き方を考える上で、非常に有意義な機会となりました」

「空き家になっている実家を何か地域の人たちのコミュニケーションの場にしたいと考えて勉強中です。たくさんのヒントをいただきました」

今回の参加者は、不動産関連、官公庁、議員、NPO法人や大学など、合計62名。それぞれが感想を持ち帰り、ローカルビジネスの展開について考えるきっかけとなった、初回のセミナーでした。


[セミナーを終えて〜福岡市総務企画局企画調整部中牟田さんのふりかえり〜]

福岡市初となる、第1回セミナーは、3名をゲストにお招きし、空き家を活用したまちづくり・ビジネスの事例を通じて、参加者全員で福岡でのローカルビジネスを考える内容で開催しました。

3月31日という年度末日にもかかわらず、予定を上回る62名の方にご参加いただき、誠にありがとうございました。

セミナー終了後、「空き家を使ったビジネスを考えたい」という声を多数いただき、今後、各地域で空き家を使ったビジネスの事例が生まれてくることを期待していますし、福岡市としてしっかりサポートしていきたいと考えています。

今後、福岡市は農山漁村地域でのビジネスを創出していくため、今回のような全国の農山漁村地域の成功事例を学ぶセミナーをテーマを変えて開催するとともに、事業相談会や農山漁村地域での事業展開に興味のある事業者と地域とのマッチング等を行っていく予定です。


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