RethinkFUKUOKAProject

他人事を自分事に変える。 足元の種から、社会を変えていく方法

ReTHINK FUKUOKA PROJECT レポートvol.23

アナバナではReTHINK FUKUOKA PROJECTの取材と発信をお手伝いしています。

そして8月より、アナバナが企画する『コトバナプラス』が始まりました。
モデレーターに、プロダクトデザインやみそづくり、麹づくりのワークショップで、今や世界に発酵の風をふかせている発酵デザイナー小倉ヒラク氏を迎え、毎回さまざまなゲストをお招きし、毎月第1水曜日に連続シリーズで開催します。


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「未来の種」をキーワードに、九州内外のさまざまなゲストを迎えて語り合うトークイベント「コトバナプラス」。発酵デザイナー・小倉ヒラクさんの軽妙洒脱な進行のもと、毎回定員いっぱいの人気を見せるこのイベントも、10月5日(水)で早3回目となりました。
この日のタイトルは、「オラに元気を分けてくれ―!自分たちの手で社会をつくるということ。 〜未来の種を集める〜」。ゲストは、NPO法人ドネルモ代表の山内泰さんと、地元メディア「ジモコロ」編集長の徳谷柿次郎さん。アプローチは違えど「やりたいことは自分でやる」というシンプルな発想を貫き、社会にインパクトを与える活動を続けるお二人です。
「こうなったらいいのに」「こうあるべき」、そんな思いを社会や行政や誰かに任せるのではなく、まず自分たちがやってみることで変えてきたお二人の行動を通じて、「自分たちの手で社会をつくる」方法について、会場の皆さんと一緒に考えました。

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口に出して話し合っていけば
「私たちで変えていける」という感覚が醸成されていく

小倉 まずは山内さんから、ご自身の活動を紹介してもらえますか。

山内 はい。僕はNPO法人ドネルモという組織の代表をしています。ドネルモは、超高齢社会に向けて「誰かと関わることで、さまざまな可能性がかたちになること」をテーマに活動している組織です。田舎での事業もしていますが、中心となっているのは、福岡のような都市部のコミュニティの問題についての活動です。

小倉 具体的にはどんな問題ですか?

山内 かつての田舎のような社会というのは、お互いが顔の見える、素性の知れた関係性ですよね。でも都会の場合、隣に住んでいる人がどんな人かもよく知らないわけです。これから超高齢化社会に突入していって、たまたま隣に住むことになった赤の他人同士が、助け合わないと生きていけない時代になっていきます。その時に、隣人とマブダチにはならなくてもいいから、助けあえる程度の適切な関係をどう築いていくか、そんな問題に今のうちから取り組んでいきたいと思っているんです。

小倉 なるほど。福岡市と取り組んでいる「地域デザインの学校」もそのひとつですか?

山内 そうです。福岡市の場合、自分の住む町に関心のある人は全体の9割もいるんですが、実際に地域に関わる活動をしているのは3割程度なんです。そこで、地域に馴染みの薄い人たちを集めて、自分たちがやりたいことから始めて、地域に関われる入り口を作るのが、この学校の目的です。

小倉 講座内ではどんなことをするんですか?

山内 講座といっても、僕たちが壇上で講義をするわけではなくて、参加者同士がお互いに話をするワークをひたすらやります。地域に住んでいる以上、地域について何かしら思っているところがあるし、それを口に出して話し合っていけば、「私たちでも何かできるんじゃないかな」という感覚が醸成されていくんですよ。

小倉 その後はどうするんですか?

山内 卒業式までに考えた企画を、実際にやりたいかどうか、改めて考えます。すると、だいたいの人がやりたいと言う。そこで、次は実際にやってみる段階になります。そのスタートアップのサポートを、僕たちがしていきます。

小倉 なるほど。その方法論は、どうやって確立したんでしょう?

山内 僕らが活動のモデルにしたのは、韓国の「ソンミサン・マウル」というコミュニティ活動です。共働きの夫婦が子どもを預けるために共同保育所を立ち上げたことをきっかけに、市民が必要なものをどんどん自主的に生み出していったコミュニティです。CO-OPのような共同購入の仕組みを作って、その後はレストラン、果ては学校まで、市民が協力して自主的に作って運営してるんですよ。

小倉 まさに、自分たちで暮らしを作っていってるんですね。

山内 もちろん失敗も沢山あるんですけど。でも、失敗したらすぐ止めて、また何かを始めたりする。みんなで試行錯誤できる風土があるんです。

小倉 山内さんから見て、活動が成功するか失敗するかの分かれ目はどこにあると感じてます?

山内 その活動が、自分たち以外の誰かをも変えるものになっているかどうか、ですかね。例えば、大牟田のある病院の地域連携室の方を中心にした活動が面白いんです。普通、まちを徘徊している高齢者がいたら、病院に連れて行こうとするでしょう? でも、この人たちは、逆転の発想で、「安心して徘徊できる町にしよう!」というビジョンを打ち出したんです。

小倉 それは斬新ですね!

山内 地域の人たちに呼びかけて、徘徊者への対応として、声かけや見守りをしてもらうようにしたんです。すると、あるおばあちゃんの徘徊を、地域の人が「馴染みの道を散歩してるようなもんだね」と捉え直すようになったといいます。地域の人たちの徘徊に対する認識を変えた、これはすごいことですよ! また「模擬徘徊訓練」と言って、徘徊者役になって町を歩いてみて、感じた不安やその対策を共有する試みもあったりして。大牟田市は、認知症と共存するまちづくりをもう10年続けています。自分のおじいちゃんやおばあちゃんがこんな町に住んでたら、幸せだろうなって思いますね。

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他人事を自分事に変えるには、
人と直接触れ合うしかない

小倉 では、柿次郎さんの活動紹介をお願いします。

徳谷 株式会社バーグハンバーグバーグの徳谷柿次郎です。「バーグハンバーグバーグ」の事業は、ざっくり言うと、ふざけた企画・広告を仕事にしている会社ですね。「オモコロ」という、お笑いに特化したポータルサイトを始めて、そこから派生して現在は「ジモコロ」という、地元と仕事をテーマにしたメディアを運営しています。最近バズった記事は、例えばこれです。
クワガタとたけのこでフェラーリを買った人の話です。別の取材に向かう途中でたまたま通りかかったんですが、ノイズ感ある看板がやたらと気になって。話しかけてみたら本人がまたアツい人で、一度話し出したら止まらないんですよ!

会場 

徳谷 取材するつもりじゃなかったんですが、タンクトップ姿で1.5時間プレゼンされて、それがあまりに面白かったんで、そのまま記事にしちゃいました。

小倉 僕が柿次郎さんの記事を読んでいつも思うのは、“DIY感”があるということなんですよね。媒体全体が、作っている人の正直な感想で固められていて。媒体と作っている人のサイズが等身大で、メディアという巨大なロボットを操縦している感じがしないですよね。熊本の震災支援イベントについても、そんな印象があります。このイベントについても聞かせてもらえますか。

徳谷 はい。大分熊本の地震が発生した時、東京のテレビは、震災についてシリアスなことしか伝えないんですよね。悲惨なことや悲しいストーリーだけを発信し、後はSMAP解散とかの芸能ニュースにかき消されていって。でも、本当は笑えるようなことだって起こってるはずだし、僕らもそれを知りたい。WEBメディアが得意なのはムーブメントを作ることなので、100人が自腹で熊本の黒川温泉に行って、現地で楽しんでいる様子を一斉に情報発信するという企画を立てたんです。とにかく100人集めようなんて、アタマ悪そうな企画なんですけど、実際は南小国町の町長が挨拶に来てくれて地元の皆さんから十分すぎる歓迎を受けましたし、地元のテレビや新聞も取材に来てくれて、話題になりました。

小倉 震災の後、復興にどう貢献するかって2択しかなくて、行政に任せるか、自分一人でできることから始めるかですよね。でも柿次郎さんは、その中間をやっていて、そこが面白いなと思うんです。公共事業をDIYでやったというか。

山内 震災に対する関わり方って、窓口が少なすぎるんですよね。この試みは、関わりたいというニーズに応えて、違う入り口を作ったということでしょうね。

徳谷 ブレイクスルーを起こすには、ノリも大事だと思いますよ。まずやってみる、という。

小倉 面白い情報にたどり着くための、取材のコツみたいなものはあるんですか?

徳谷 地元のおもろいおっちゃんを見つけることですね。それでその人に、全力で甘える(笑)。他人事をどう自分事に変えるかって、結局人と触れ合うしかないですからね。人と関係を持てば、好きになるし、熱が入りますから。


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面白いことを見つけるためには、性格を悪くする?
町で起こる偶発的な出来事を面白がろう

〜ここからは、会場のみなさんも交えてトークが進みました〜

参加者Aさん 何か迷いが出た時に立ち返る原点とか、ぶれない軸のようなものって、皆さんの中にはありますか?

徳谷 僕は、煮詰まったら地元大阪の西成に泊まりに行きます。自分の地元の、柄が悪いところに戻って、「ここが俺の原点だ」って再確認するようにしてますね。

山内 僕の場合は、安寧に落ち着く感じが逆に不安になるんですよね。自分自身が考えていることもどんどん変わっていくし、軸がぶれてる時こそチャンスだなって思います。

小倉 わかります。言う時は本気で信じて言うけど、次の瞬間には自分の言ったことを疑っている、という感覚ってありますね。

参加者Aさん そうなんですね。

小倉 僕が立ち返る場所は、本業である菌の研究です。菌って、全力で増えるんですよ。10の8乗とか、そんな勢いで増えていくんで、それを見てると「負けてらんねぇ」って思いますね。

参加者Bさん ネタはどうやって探してるんですか?

山内 僕も、柿次郎さんやライターさんの面白がる視点がどんなものか、興味あります。

徳谷 面白いことを見つけるためには…例えば性格を悪くすることですかね。意地悪な視線で、「こんなことやってんの、きっと変わったおじさんなんだろうなぁ」と想像していって。その先にある個性を拾うのがジモコロ的な面白さだと思っています。世の中にいるヤバい人に対する経験値を積んで、慣れていくことも大事かもしれません。

山内 それはすごくわかります。

徳谷 僕が生まれ育った大阪の下町は、実際変な人が多かったし、変な人に対して町の人も寛容でしたね。今は東京の山谷(三ノ輪、南千住周辺)って町に住んでるんですけど、ここもすごいです。「ここでウンコするな」って張り紙がありますから。ウンコはさすがにまずいけど、オシッコはひとまず許されてる、そういう町(笑)

小倉 ははは。

徳谷 おっちゃんたちが路上に寝てて、ある店の人が注意したら、「今日は星が綺麗だから寝てるんだ」って言ってたらしいんですよ。そういうエピソードを自分の中にいっぱい取り入れていますね。

参加者Cさん 「ソンミサン・マウル」の人たちは、どうして町の過去の歴史に縛られずに、新しい試みができるんでしょうか?

山内 「ソンミサン・マウル」に住んでいるのはソウル市内で働いている人が多く、地元で生まれ育った人は少ないんですよ。ゆかりのない土地に、たまたま住むことになった人たちが、暮らしをよくしていくために工夫していった結果、ユニークなコミュニティになったんです。

徳谷 地域がそこそこ豊かで、安定して生活ができていると、創意工夫も生まれにくいと思います。アマゾンの奥地で、一攫千金の金塊を求めて毎日掘り続けているガリンペイロという人たちがいるんですが、彼らは毎日2gの金塊を掘って、仕事が終わってから一杯のビールにありつくんですよ。この一杯のビール、ちょっと幸せ、という状況がくせ者だなと思っていて。一杯のビールも飲めないような状況に追い込まれた時、工夫のある本当にユニークなものが生まれる気がします。僕はそういうものを追いかけていきたいですね。

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<モデレーター小倉ヒラクより追伸>
イベントレポートお読みくださってありがとうございました。
徘徊老人やドヤ街のおっちゃんなど、ディープな話題が飛び交いましたが、ゲストのお二人の目線はあたたかで、語り口はユーモアたっぷり。これから、地方はたくさんの課題を抱えることになりますが、そんななかでも明るく生きていくためには今回のトークのようなスタンスなのでしょう。
未来はひとえに、僕たち一人ひとりがどう生きるかにかかっているのだぜ…!

 

いかがでしたか? 片やNPOの代表、片やWEBメディアの編集長と、お二人の活動は全く別の領域でありながら、その姿勢はどこか似通っています。共通するのは、目の前の人と対峙する時の視線、そこから刺激や面白さを発見して広げていくセンス、でしょうか。小倉ヒラクさんが、「今回はお二人に任せていれば面白い話がどんどん飛び出すので、進行役の僕としては一番ラクでした」と語るほど、話し手も聞き手も一体となって楽しんだ、充実の回となりました。

さて、全5回で展開するコトバナプラスも、次回で4回目。次第に「未来の種」を探る確信へと迫ってまいります。小倉ヒラクさんの和やかな進行とともに、次回もどうぞお楽しみください。

 

ReTHINK FUKUOKA PROJECTについて
コミュニケーションや働き方、ライフスタイルに大きな変化をもたらしている福岡。新しい産業やコミュニティ、文化が生まれるイノベーティブでエネルギッシュな街となっています。
そのチカラの根底には、この街に魅力を感じて、自らが発信源となっている企業や人がいます。
ReTHINK FUKUOKA PROJECTは、「ReTHINK FUKUOKA」をテーマに、まったく異なるジャンルで活躍する企業や人々が集い、有機的につながることで新しいこと・ものを生み出すプロジェクトです。


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