LOCAL BUSINESS X FUKUOKA

作り手のココロが見えるからうれしい。山海の恵みと産直のカタチ〜後編〜

〈後半は、参加者による質問をもとにさらなる議論が展開されました〉

野菜を安売りすることは農家のリスク

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参加者4私は早良区で直売所を経営しています。今,おふたりに成功事例を色々とお話しいただきましたが、私はそのスタートラインよりももっと前のラインに立っています。地元の野菜を販売する際も、価格を低く設定しないと売れない。店舗展開も、あらゆる面で手が足りていないので難しいのが現状です。最近では地方創生と銘打って、国が地方を支援しはじめましたが、仕事をつくるという点でのサポートも必要なのではないかと思います。このイベントも行政が企画されています。この力を第一次産業底上げのために使うことができれば、またちょっと状況が変わるのではないでしょうか。

中野一次産業を底上げしたいというお話ですが、ちょっと手厳しい言い方をさせていただくと、まずは一次産業に従事する皆さんにもう少し頑張ってもらう必要があると僕は思います。まず値段を、売れないから安くするというのはダメです。どうしてものを作って売るのか。それはご飯を食べるためです。収益を下げてしまうと生活できない。そこを忘れてはダメなんですよ。あなたの直売所の野菜も、適正価格を設定しない限りは底上げできません。足りない収益を補填する国の制度に頼るのは大間違いです。制度がなくなったらご飯が食べられなくなるでしょう。でも、合瀬さんの直売所は別にして、どこの直売所も現状を危惧しているのは事実です。売上が10億あるような大きな直売所でも、生産者一人ひとりの収益を公表しているところは一軒もありません。農家にきちんと還元できてないからですよね。野菜を安く売れば売るほど、そのリスクは農家にのしかかりますから。だから直売所には若い農家の人たちはいない。孫に渡す小遣い程度にしかならないからです。これは本当に危機的で、あと10年もすれば直売所のかたちが変わると思います。

農家さんは勇気を持って値段を設定してください。6次産業化についても、簡単に始めないでください。作って、加工して、売るって、とても大変なんですから。これを仮に1人でやろうとすると、物理的にものすごい負担で、農業もおろそかになります。やる場合は仲間と、きちんとした対価が落ちる仕組みの中でやらなければなりません。

生産者・製造販売業・消費者をつなげたい

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参加者5私は弁当屋を営んでおりまして、1日一万二千食ほど出しています。最近ご縁があって農家さんのところに行ったりするのですが、製造販売業の私からするとびっくりするくらい宝の山です。それまで食べたことがないくらい美味しい大根や人参がわんさかあります。美味しいのに余っている。なぜならそれが消費者に伝わっていないからだと思うんです。それに僕らも中国産の水煮や漬け物を使わざるを得ないけれども、宝の山を使いたい。そうすれば生産者と製造販売業者だけでなく、食べるお客さんも元気になる。この3者をマッチングできるような場が必要だと考えています。

直売所に適した価格設定とは

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参加者6私は西区北崎地区の福寿寺という寺の副住職をしていまして、また今年7月に発足した「北崎未来を創る会」の代表をしております。会の発足と同時に直売所を運営しているのですが、そのシステムが全国にはない新しいシステムなんです。失礼に当たるかもしれませんが、一般的な直売所は農家にリスクが及ぶかたちで売り場をつくっておられると思います。私の場合、農家の野菜をすべて私が買い取ります。でも野菜が残ると売り場のリスクが高まる。そこでさきほどの弁当会社の方と結託し、直売所の残った野菜から「糸島野菜でつくったお弁当」として売り出す計画を立てています。また地域連携というかたちで農家の檀家さんから野菜を買い付けて、それを地元の牡蠣小屋で販売することで、漁師さんとの連携も図っています。収益に関しては、先月は95%の野菜を100円で売り切り、月70万円ほどの売上げになりました。自分の地区にある3カ所すべての直売所を合わせて93万円。そこから農家に還元できたのが87万円です。今月も150〜200万円の売上げが農家に還元される見込みです。現状では、売上げの9割は農家さんに入るかたちで進めているんですね。また北崎には48%もの耕作放棄地があるんですが、その背景には農家の方が畑仕事に時間を割けないという現状もあった。なぜなら野菜を袋詰めして直売所に持っていき、余れば取りに行く。体力も時間も取られます。僕のところでは、その作業を僕が請け負う代わりに野菜をもう少し作ってもらうようにお願いしています。現在買い付けているのは30〜35軒の農家さん。多い方で軽トラ3台分くらいです。

販売価格、余り野菜、作業の非効率性など、これまでは農家がリスクを背負ってきたからこそ直売所が運営できてきた。今、この直売所のあり方を見直す必要があると思っています。北崎地区がそのモデルケースになれるように取り組んでいる所存です。

お2人に質問ですが、今、値段設定を検討中です。半年やってきて考えているのは、100円均一です。そうすることで消費者は手を出しやすくなるんじゃないか。現在,直売所運営に関わっておられるお2人に、価格についてのアドバイスをいただけたらと思います。

合瀬私がよく言うのは、「自分が出した野菜を自分が買うつもりで値段ば付けてください」ということです。あんまり低くても儲けになりませんけども、あんまり高くしても売れません。あとはスーパーに合わせて変動することもありますね。とはいえ基本的には、わざわざ山の中まで野菜を買いにきてくれるお客さんのためにも安くして欲しいとお願いしております。生産者の方からは、全体を見て価格を決めているこちらの姿勢を見ているので、文句などはあまりありません。逆に文句ばっかり言うような生産者の方に対しては、値段を下げてもらいます。そうしないと売れないという現実を見てもらうんです。

また野菜が残ることももちろんありますね。そういう場合は、私が半値で買い取ったりしてお漬け物にしたり、お惣菜にしたりしています。

中野実は九州のムラも、十数年前にすでに全部買い取りで直売所をはじめたんですよ。お分かりだと思いますが大変ですね。

お話についてのアドバイスですが、値段をすべて100円に設定するのは長続きしないと思います。また売上げを農家さんに還元して手元に残るお金。それじゃ成り立っていかない。値段には、譲れない値段というものがある。それは何か。何度も言いますが、自分たちが生活できる値段なんです。材料費があり、流通費がある。そのきちんとした値段の仕組みを知れば、適正価格が分かります。

例を出しますと、宮崎県のマンゴー農家「吉野農園」さんは、7,000円/kgで直販されています(2014年7月時点)。宮崎産マンゴーの人気が高まった時期にほとんどの農家が値上げしたんですが、吉野さんは値段を変えなかったんです。理由を聞いたら「栽培にかかる経費と生活できる収益が回収できればそれでいい」と。ハウスが多ければ売上げが上がりますが、4棟までしか増やさない。なぜならそれが自分たちの手で栽培できる限界だからです。要は、生活できるかどうかなんです。生産者も販売者も生活できる値段。消費者は、自分たちが作れないものに対する対価を払うんです。そこをきちんと見定めて、信頼関係のもとで値段をつけなければいけないと思います。

参加者6少し補足しますと、私は生産者の言い値で買い取りをしています。それを100円の量に調整するんですね。例えばキャベツだったら半分に切って包む。もう一点は、農家さんたちの価格基準が、最寄りの格安スーパーなんです。僕はそれをなんとかつり上げたいのですが、彼らの意識はなかなか変わらないんですね。彼らは「そんな高くしたら売れん」と言い張る(笑)

中野僕の経験ですが、それはもう値段を設定してあげて売って、「ほら、この値段でも売れたやろ?」と証明するしかないですね。そのためには、販売力をしっかりと身につける必要がある。価値観を変えるような販売の技術ってあるんですよ。あなたのような若い方がサポートしてあげることで、一次産業は底上げされると思います。頑張って下さい。

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直売所は価値観を変えられる場所

参加者7日本のスーパーや百貨店などに行くと分かりますが、色がきれいとか、形が揃っているというものがブランド化されてきたと思うのですが、そういった背景も価格の設定に影響を与えているのではないかと思います。逆の発想として、「規格外」のものが今後どのように受け入れられていくかということもまた、考えてみる価値があるような気がしています。ヨーロッパなどではすでに、量り売りやサイズ別の販売などが主流です。日本でもそういった可能性はあり得るとお考えですか? また事例などあるのでしょうか。

中野おっしゃられた通りですね。規格品というのは、物流のために箱に入れやすいとか、見た目がきれいで形が揃っているといった理由で勝手に決められているんですね。それはそれで必要だっただろうし、これからも必要な部分があるかもしれない。もちろんヨーロッパと日本は根本的に素地が違いますし、この価値感をそのまま取り入れるということは難しいと思いますが、規格外の野菜も同じ畑で育ったものなんです。それは同じ食べ物として大事にしなければいけない。その意識改革には、やはり食育が必要だと思いますね。それをやれるのが、直売所なんですね。

連携し合うことで信頼関係が生まれ成功につながる

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山口本日は熱いお話をありがとうございました。

1次産業の難しさ,また6次産業化も今日のひとつのテーマとしてあったのですが、そんなに簡単な話じゃなく、やるならば連携を図ることが不可欠だと感じました。それは直売所でもそう、地方創生でもそうで、生産者だけ、販売者だけ、行政だけで考えるよりも、お互いが連携し合うことで信頼関係が生まれ、成功につながるというお話もありました。

また、価格設定は非常に議論が盛り上がりました。作る側と売る側の双方が、きちんとした対価が得られるような値段の落としどころがあるんだと。そこには「生活できるかどうか」ということが前提としてあるわけですね。それを買ってもらうためには、高くても質の良いもの、美味しいものを買いたいという人を仲間として増やしていくことが大切だと思いました。

最後に、これから一次産業に携わっていく若き方々にメッセージをお願いします。

中野では私が代表して。六次産業化が注目されていますが、これは自分だけの輪で終わる話ではないんですね。そこをまずはしっかりと考えて、方向性を定めていただきたいと思います。マッちゃんさんも長年直売所をやってこられるなかで多くの努力や改良をしてこられた。その姿勢はぜひ見習っていただき、取り入れていってほしいと思います。僕としては、実際の売り場で値段をどう付けるかという具体的な観点からみなさんのご協力ができる機会があればと思います。

山口お2人とも、今日はありがとございました。

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