100年前の種をつなぐ、唯一の味の唐辛子

[出品者情報]

唯一味
佐賀県

[商品]

  • 唯一味(細粒)
  • 唯七味
  • 唯一味
  • 唐辛子味噌
  • DRY YUZUKOSHOU(ドライタイプの柚子胡椒)

100年前の種をつなぐ、唯一の味の唐辛子

佐賀県北西部に位置する唐津市。“唐”に一番近い港だったことから、“唐津”と名付けられた町。意外と知られていないが、台風や大雨などの災害が少なく、唐辛子づくりに適した環境で、古くからの唐辛子産地だ。今でも多くの畑の一角では、家庭用に栽培されている。

「100年もの間、途絶えることなく続いてきたこの味を変えないことが、受け継いだ私の使命」とは宮崎さん。栽培には農薬や化学肥料を使用しないで、種は直播き、草は一本一本手でむしり、乾燥は天日干し、と昔ながらの製法をとことん貫く。今どきの農法をあれこれ試しながらも、結局は、この種が生かされ続けてきた従来のやり方に辿り着いたという。近所の唐辛子農家からは、「こんなつくり方、初めて見た」といわれるが、最小限の肥料でやせた土地で育てる、というのも宮崎さん流。「その方が、頑張って栄養を取ろうとして、根をしっかり張ってくれるんです。ぬくぬくと育てるよりも、厳しく育てた方が味わい深くなる。人と一緒です」と宮崎さんは話す。

170920_475

辛さを決めるカプサイシンは通常の6倍! という「熊鷹」。宮崎さんがつくる“唯一味”は、ピリッと舌に残る辛さと野性味あふれる味わいが特徴的。オンラインとお取り扱い店舗で販売。お客さんのほとんどが関東だそう

170920_529

育てやすい環境とはいっても、この5年の間に幾度となく、「農業の厳しさを、改めて目の当たりにした」と宮崎さんは話す

170920_703

味だけでなく、七味や柚子胡椒、唐辛子味噌などの加工品も販売。素材の一つひとつを宮崎さん自身で厳選し、「ひと口目の感動を味わえるもの」と、納得のいくものだけを商品化する

脚本家から唐辛子農家へ。祖母の畑を受け継ぐ決意

もともと、関西を拠点に脚本家として活動していた宮崎さんが、唐辛子づくりを始めたのは5年ほど前のこと。ちょうど、脚本家としての仕事が軌道に乗り始めた時。 「唐辛子農家、やめるから」。80歳を過ぎたおばあちゃんのこの引退宣言がきっかけだった。おばあちゃんのつくる唐辛子の大ファンだった宮崎さんは、「この唐辛子がなくなってしまうのは寂しい」と、突如、唐辛子づくりを決意。とはいえ、関西で脚本家として活動していたこともあり、当初は自分たちが食べる分と欲しいという人たちのためだけに、という軽い気持ちでしかなかった。

それでも、いったん脚本家の仕事に区切りをつけ、「やるからには、きちんと作ろう」と、関西にあった拠点を、月の半分は唐津に移し、種まきから草むしり、収穫、加工までの一連の作業を、一からおばあちゃんに教わる。そこで、これまで当たり前のように食べてきた唐辛子が、実は100年もの間、この土地で育まれてきた在来種に近いものであることを、今さらながらに知ったという。「日本で失われつつある在来種。そのひとつを、いま自分がここに持っているという奇跡と感動、そしてその自覚が、次の代にきちんと繋げていこう、という思いに変化していきました」。ゆっくりと、でも力強く語る。

最初は、おばあちゃんの畑の一角だけでつくっていたという唯一味。お裾分けしているうちに、その珍しさ、美味しさから、口コミで徐々に広まり、今では畑の規模を約600坪にまで拡大。脚本家の仕事を再開するのは、「まだまだ先のことになりそう」と笑いう宮崎さん。今はとにかく唐辛子づくりが楽しくて仕方がないようだ。

170920_234

ラベルとパッケージはリニューアルしたばかり。ロゴは、太陽と畑と唐辛子がモチーフだ。“唯一味(ゆいいちみ)”とは、唐辛子の“一味”と、100年受け継がれてきた“唯一”の意味が込められている

170920_058

宮崎さんおすすめの唐辛子料理。唐辛子の葉を使った「唐辛子味噌」は、焼きおにぎりや焼き茄子と好相性。好みでパルミジャーノをかけても美味しい

農業で心も生活も豊かになれる社会に

現在、宮崎さんは、月の半分を佐賀で農作業に励み、残りは関西で商品開発や加工、販売などに専念する。もちろん、その間、畑は必然的に放置される。一見、農業を甘んじているかのようだが、この手を掛け過ぎない環境こそが、決してマメではなかったというおばあちゃんや先祖から受け継いだものであり、野性味あふれる“唯一味”らしい味をつくっているようにも感じられる。従来の農法を大切にしながらも、新しい農業のスタイルを模索中の宮崎さんらしい。

まだまだ生産量が少ない“唯一味”。「なかなか手に入らない」「あの店に行かないと買えない」という付加価値ではなく、近所のスーパーやコンビニでも、田舎に住むおばあちゃんでも“ふつう”に買えるような商品にすること。それが、宮崎さんの現在の目標だ。そこには、「農薬を使わない商品が当たり前、という社会になれたらいいな」という願いが込められている。

今後は、徐々に畑を拡大し、雇用の選択肢が少ない唐津に、高齢者や若者たちの雇用を増やしていきたいという思いもある。目指すところは、農業できちんと生計を立てること。そして農業で、心も含めて、生活を豊かにすることだ。

唐辛子の「唐」と唐津の「唐」は同じ漢字。何かに引き寄せられるように、この地で唐辛子農家を営むことになった宮崎さん。先祖が代々受け継いできた唯一の味は、ここでつくるからこそ意味がある。唐津に、日本の農業に、新しい風を巻き起こし、100年続いてきた物語は、これからもまだまだ続く。

170920_380

宮崎さん自身で開発から行う加工品は、どれも厳選された素材がそろう。なかでも、素材選びに苦労を重ねたのが、「唯七味」「DRY YUZUKOSHOU」のゆず。野性味たっぷりな香りが特徴だ

170920_366

取材したこの日、柚子畑にも案内してもらう。山の奥へ奥へとぐんぐんと進んで行った先には、柚木の木が所せましと立ち並んでいた。何十年も手つかずの状態で放置されていたそう

170920_568

一面に広がる唐辛子畑。昔ながらの農村風景が残るこの場所で、先祖から代々受け継がれてきた唯一の味は、また次の世代へと繋がれていく

関連する記事