一軒の農家と、7人の移住者

[出品者情報]

長糸コンタ

[商品]

  • 無農薬の新米[農産物]
  • 秋野菜[農産物]

一軒の農家と、7人の移住者

福岡県最西部に位置する糸島市。その雷山の麓に、長野川の清流が古くから美味しい米を育んできたことで知られる長糸地区がある。この地を拠点に農業を営む6組の農家が「新しい農業を長糸から発信する」ことを目的に、1年前に結成したのが「長糸コンタ」だ。「コンタ」とはイタリア語で「農家(contadino)」の意味。メンバーは、九州をはじめ関東や東北からはるばる移住してきた5組の若手農家と、長糸で代々農業を営んできた柴田夫妻。現在は福岡を中心に、博多駅前の大型マーケットや地元で開催される小さなマルシェへの出店をはじめ、長糸集落での田植えや稲刈りなどの農業体験、ソーメン流しなど、大小さまざまな活動を展開中だ。

「外からやってきた彼らだからできることがあると思うんです。集まればもっと広がる。私だって、一人でソーメン流しなんかやりません」。そう話すのは、長糸コンタをひとつにまとめる柴田周作さん。長糸地区で明治期から続く農家の6代目だ。柴田さんが畑を引き継いだのは30年ほど前。ほとんどの農家が農薬を使用することに疑問すら感じていなかった当時、自然と人間がともに生きていくためには農薬をやめる必要があると決心し、周囲の反対を押し切って無農薬栽培を大規模に実践してきた。「時代が変わって無農薬が認めてもらえるようになったけど、あの頃は変わり者扱い」と笑いながら当時を振り返る。

そんな柴田さんを中心に、若手農家組には脱サラ、元デザイナー、元整体師、元ダンサーなど、多様な経歴の持ち主が集う。メンバー全員が口を揃えるのは、「長糸コンタの活動は、各々の畑に向き合うことからはじまる」という言葉。まずは一人前の農家になることが、長糸コンタにとっても大前提だ。

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「長糸コンタ」のまとめ役、柴田周作さんと奥さまの由美さん。明治期から代々続く農家を守り続けている。長糸コンタのメンバーにとって良き仲間であり良き相談相手でもある

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柴田さんの農家で修行中の大村昌弘さん。東日本大震災後の被災地支援を機に自分にできることは何かを見つめ直して脱サラ。長糸に移住してきた

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後藤直美さんは、昨年神奈川から移住して来たばかり。元バレエダンサーでもあり、ヒッチハイクで日本を縦断するなど、経験豊かな若き女性

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「みっちゃん自然農園」を夫婦で営む仁科光雄さんは、元ウェブデザイナー。2009年に神奈川から移住後、自然農農家で研修を積み、独立

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「寺本農園」を一家で営む寺本洋平さんは、幼少の頃から大の虫好きが高じてこの世界にたどり着いた。人間と自然との関係を追究した結果、「里山での農業」を実践するに至る

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「鍛冶農園」を営む鍛冶邦之さんは、整体師を経て農業の道へ。小さい頃から重度のアレルギー体質だったことから、その体質改善が入り口となった。現在は年間100種類もの野菜を無農薬・無化学肥料で育てる

良いものを作るためには、変化を恐れない

パプリカやナスなどスーパーでよく見かける野菜をはじめ、赤オクラ、リーキ、バターナッツなど一風変わった品種まで、さまざまな野菜を育てる長糸コンタのメンバー。農産物のほとんどは、無農薬または最低限の農薬を使用した低農薬栽培によるもの。体に安全・安心ながら、味も食感も食べごたえがあり、マルシェなどに出品してもすぐに売り切れてしまうものも多い。

中でも、特に希少価値が高いのが柴田さんの作る無農薬米「つくしろまん」だ。福岡を中心に生産されている品種で、ツヤのある光沢と柔らかく粘りのある食感が特徴。一粒一粒に米本来の旨みが凝縮され、その美味しさが評判を呼び全国にリピーターも多い。「糸島の中でも水が特にきれいな長糸だからこそできるお米」と、柴田さんにとっても自信作だ。今回の「皿の上の九州」ではこの自慢の「つくしろまん」新米をはじめ、無農薬栽培の万願寺トウガラシやさつま芋など、旬の食材を届けてくれる予定だ。

今でこそ比較的安定して需要を確保できるようになったが、無農薬栽培を始めた最初の10年間は買い手もつかず、苦難の連続だったという柴田さん。農法を確立するまでにも失敗に失敗を重ね、試行錯誤を繰り返してきた。そんな柴田さんのお米に今や欠かせないのが、家族のし尿(※)をバクテリアで分解した「活性水」だ。堆肥や発酵肥料と混ぜ、時には直接散布することで、ミネラル豊富な活性水が土中の微生物の分解や堆肥の発酵を促し、作物がより美味しく育ってくれる。

「今後も良いアイデアがあればどんどん試してみたい」という柴田さん。古き良さを守り続けながら、より良いものを追究するためには変化を恐れない。そんな柴田さんの農業に対する姿勢が、「長糸コンタ」を生み出したのかもしれない。

※し尿…人間の排泄物(大小あわせて)のこと。

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仁科夫妻が育てる赤オクラ。この時期はほかに、ダビデの星(星形オクラ)やバターナッツなど、珍しい品種を数多く栽培

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寺本さんが育てるリーキ(西洋ネギ)は、初挑戦の品種。この時期はほかに、通常の白ネギや満願寺トウガラシなども栽培

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農薬は一切使わず、害虫を食べてくれるタニシの力を借りて育つ柴田さんのお米。もちろん除草剤も使わない。「30年のあいだに雑草もあまり生えなくなってきた」そうだが、それでもどうにもならない時は手押し除草機を押して地道に除草

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家族の排泄物を、「BM菌」と呼ばれるバクテリアの一種と花崗岩を投入したバケツに貯蔵し、空気を送り続けることで作られるBM活性水。いわゆる「肥だめ」は、江戸・明治期のほとんどの農家で使用されていたが、現在BM活性水を自分たちの排泄物から培養している農家は、九州でも柴田さんのみ

一人でできないことは、皆でやる

福岡市街から車で30分。海と山に囲まれ、目の前にはどこまでも続く田園風景が広がる長糸を含む糸島は、観光地としてはもちろん、近年は移住地としても注目を集めている。長糸コンタも、柴田夫妻を除く若手農家組は、近くは福岡市内、遠くは関東や東北から移住してきた男女7人からなっている。

「せっかく若い人たちが長糸に来て農業をしているのに、彼らをつなげないわけにはいかないでしょう」と柴田さん。長年長糸の農業を守り続けてきた彼が移住者に気をかけるその理由は、何よりも「新しい人たちが長糸に根付いて欲しい」から。その背景には、高齢化による農家人口の減少や、それにともなう農業の担い手不足、耕作放棄地の増加など、他の地方と同じく深刻な長糸の状況がある。柴田さんが5組7人のパイプ役となることで、彼らが長糸の地に根を下ろすことができるのでないか。そしてそれが、長糸の農業を再生産し持続可能なものにしていくのではないか。そんな気持ちがひしひしと伝わってくる。

長糸コンタの目的はもうひとつ。一人でできないことでも、皆と一緒だからやろうと思えること。ひとりひとりが愛情込めて育てた安全・安心な農産物でも、新しい土地での販路の確保やイベントへの出店には限界がある。だったら、皆でやればいい。

すべての原点にあるのは、自分たちが育てた安全で美味しい野菜やお米を、少しでも多くの人たちに食べてもらいたいという想いに限る。

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イベント以外にも、たまに皆でごはんを食べたりお酒を飲んだり……。長糸の大自然を背にマイペースに付き合うその“ゆるさ”が、長糸コンタの魅力のひとつ

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