穴バーレポート ACTIVITY

佐賀県玄海町・浜野浦の棚田から生まれる“絶景”と“絶品”。豊富な玄海食材の魅力

佐賀県北西部にあり、同県で最も人口が少ない海沿いのまち・玄海町。まちを代表する絶景スポットといえば、浜野浦の棚田です。朝夕心地よい風を肌に感じ始めた頃には、黄金色の稲穂がこうべを垂れ、秋のみのりを知らせてくれます。

2022年10月の穴バーのテーマは、そんな棚田でとれた新米が主役の「棚田新米と玄界食材のマリアージュの会」。浜野浦の棚田で、新たに稲作に取り組む玄海町地域おこし協力隊の橘高ちひろさんと武藤敬哉さん、玄海町に面する仮屋湾で海人(あま)業を営む大野豪久さん・恭子さんご夫妻をゲストに迎えて開催しました。ゲストの皆さんに教えてもらった食材の魅力、そして新米や玄海町の食材を贅沢に使ったお米のフルコースの内容をご紹介します。


潮風が運ぶミネラルが美味しさの秘訣。
「浜野浦の棚田」のお米

玄界灘から駆け上がる階段のように、田んぼが広がる浜野浦の棚田。田植えのために水を張った田んぼは鏡のように空を映し、見惚れるほどの絶景を生み出します。そんな美しい景色は、「棚田100選」「佐賀県遺産」「恋人の聖地」に認定。一度は見ておきたい日本の原風景です。一方、浜野浦に限らず、棚田での稲作はとにかく手がかかるもの。急傾斜地の立地は農作業の負担になりやすく、さらに農道が狭い、整備されていないなど、機械を入れることができず手作業で進めざるをえないケースも少なくありません。

「田んぼの作業って、はじめは田植えと稲刈りくらいのイメージしかない。でも実際にやってみると、草刈りや獣害対策など本当にたくさん作業があって…。最初の年は、毎日、米作りを教えてくれる師匠に電話して、1日に2回は田んぼを見に行っていました」。そう話すのは、浜野浦の棚田で、2021年から稲作をはじめた橘高ちひろさんです。仕事で訪れた玄海町で見た棚田の姿に魅了され、2020年に夫とお子さんの家族3人で玄海町へ移住。当時、棚田の保全活動を担当されていた方から誘いを受け、米作りにチャレンジすることに決めました。

「展望台から見る棚田はもちろんきれい。でも、田んぼで作業をしながら見える景色って、展望台よりももっときれいなんです。もちろん、まちの誇りである棚田で米作りをすることに、プレッシャーを感じることもあります。私たちでいいのかな、大丈夫かなって。でも、周りの生産者の皆さんが近くにきて、声をかけてくれて、教えてくれる。そんなつながりがとてもありがたいです」。

ゲストの橘高さん(左)と武藤さん(右)

2022年から稲作をはじめた武藤敬哉さんも、きっかけは生産者さんとの交流でした。

武藤さん
「僕は、米作りのミッションを遂行するために、地域おこし協力隊として移住してきました。とはいえ、米作りははじめて。まずは、棚田に行って草刈りの手伝いをしていたんです。そのうち、近くの田んぼで作業している生産者の方たちが声をかけてくださるようになって。あるとき『僕も米を作ってみたい』と話したら、『いいよ〜』と(笑)。耕作放棄地を案内してもらって、あっという間にチャレンジすることになったんです」

水の管理や機械の操作など、もちろんはじめてのことばかり。春からの作業を振り返り、想像通りにいかないことが多くあったと笑います。

武藤さん
「田んぼに水を張ろうとしたのに、なぜか水が貯まらない田んぼがあるんです。なんでだろうと思っていたら、土を乾燥させて肥料を混ぜる田おこしという作業が十分にできていなかったり、水路が詰まって塞がっていたり…。周りの生産者さんのサポートのおかげで乗り越えていきました」

通常、浜野浦の棚田でできたお米は「棚田米」としてふるさと納税などで販売されます。数も少ないため、とても貴重なもの。海に面する棚田は、たっぷりのミネラルを運ぶ潮風を受け、うま味がしっかり感じられるのが特徴です。橘高さん、武藤さんのお二人が作るお米はまだ市場に出回ることはありませんが、浜野浦の棚田を知ってもらうためのイベントで配ることも。合わせて、棚田の景観を後世に残すための保存活動にも力を入れています。

橘高さんが所属する一般社団法人玄海町みんなの地域商社では、2022年に一般の方と農作業を行う「棚田保全米作り」の取り組みをスタート。田起こし作業からはじまり、田植えや稲刈りまで、年に数回、町内外から棚田に人を呼び込み、ともに作業をしながら棚田を守る取り組みです。2023年も実施予定で、募集は同法人公式サイトで行うとのこと。田んぼに入ることでしか見ることができない絶景を体験すべく、チャレンジしてみてはいかがでしょう。

まるで濃いたまごの黄身のよう!
一度は食べたい仮屋湾のウニ

玄界灘に面する玄海町は、海の幸も豊富です。今回の穴バーで登場した、仮屋湾のウニ、玄海町ではミナと呼ばれる巻貝・バテイラを届けてくれたのが、海人(あま)の大野 豪久さん・恭子さんご夫妻です。水産系の大学を卒業したふたりは、一緒に水産系の仕事をしたいとの夢を叶えるために、兵庫県から移住しました。

ゲストの大野さんご夫妻。ミナの取り出し方のコツをレクチャー中です

「海人はコンパクトに始められる漁。大きな船やたくさんの道具を揃える必要がなく、ふたりではじめるのに良いと思って選びました」と、豪久さんは話します。仮屋湾では、アワビやサザエ、ヒジキなどさまざまな海産物をとることができますが、ウニもそのひとつです。とれるのは主に、ムラサキウニと赤ウニの2種類。ムラサキウニは身が小ぶりながらも甘味がありまろやか、赤ウニは身が大きく高級品、少し渋みがあるのが特徴です。

「海人をはじめるまで、ウニをそこまでおいしいとは感じたことがありませんでした。でも仮屋湾のウニは甘味がしっかりあって、余計な渋みやえぐみがない。濃厚なうま味に驚きました。まるで濃いたまごの黄身を食べているかのようなまろやかさなんです」と恭子さんが教えてくれました。

こちらがミナという巻貝。低温でじわじわとゆでる“だまし煮”という地元の食べ方でいただきました

また穴バー当日は、仮屋湾でとれた乾燥ヒジキの販売も。購入して、恭子さんおすすめのヒジキサラダを作っていただいてみましたが、こちらも絶品!肉厚のヒジキは、柔らかさの中にもシャキッとした歯応えがあります。普段は意識することがあまりなかったヒジキのうま味も印象的。美しい仮屋湾だからこそとれる、豊かな海の恵に感動しました。

そんな仮屋湾で日々、海人業を営むお二人ですが、今後、豪久さんは一本釣り、恭子さんは牡蠣養殖にも力を入れていきたいと国の研修制度などを利用して勉強中です。玄海町の新たな特産品となる日も、そう遠くないかもしれません。

穴バーでは、生きた貝や海人漁で使用する道具の展示も


お米の新たな可能性に出会える「お米のフルコース」

穴バー当日は、橘高さん、武藤さんが育てたお米、大野さんご夫妻がとったウニのほか、中山牧場の佐賀牛やもちもちした食感が特徴の穂州鯛、玉ねぎや柿など産直野菜や果物など、玄海町の“絶品”を使ったコースをご用意しました。

調理を担当したのはHISACO ARAKIさん。フランスの一つ星料理店で経験を積まれたほか、東京のフレンチレストラン「ラ・ターブルドコンマ」で、日本の野菜フレンチの第一人者と言われる小峰敏宏シェフに師事。同店で副料理長を務めた実力の持ち主です。現在は、故郷・福岡で料理教室「la cocotte de chacotte(ラ・ココット・ド・チャコット)」を主宰しています。

お料理担当のHISACO ARAKIさん。家庭で気軽に楽しめるフレンチの料理教室を主宰されています

「お米の可能性を発見してもらいたい」と話すHISACOさんが作ったのは、お米のフルコース!前菜からデザートまでに新米を使ったここだけのディナーコースです。

ウェルカムおにぎり

アレンジを楽しむ前に、まずは王道のおにぎりから。一口サイズの白米のおにぎりで、新米の味をシンプルに楽しみます。噛むと甘味がじわりと広がるごはんは、ほっとする味。これから登場する料理への期待も自然と高まります。

前菜:お米と穂州鯛のサラダ

お米をサラダとして提供するのはフランス料理の定番。今回は、新米を硬めにたいて、赤玉ねぎのドレッシングを和えることで、ちらし寿司をイメージした味に仕上げています。濃厚なウニともっちりした穂州鯛がよいアクセントに。

スープ:玉ねぎのスープ 黒こしょうライスのコロッケとともに


玄海町産の甘い玉ねぎをたっぷり使ったスープは、まろやかで濃厚。口に含むとじわりと広がる地味深い味にほうっと息が漏れます。黒胡椒を効かせた混ぜごはんで作ったライスコロッケに添えられたのは、カツオ節を加えたビネガーソース。スープと少しずつ絡めて、味の変化を楽しめます。香ばしい香りとビネガーの酸味が、玉ねぎの甘さをいっそう引き立てます。

メイン料理:佐賀牛の白ワイン煮込み きのこのバターライスと



牛肉というと赤ワイン煮込みのイメージですが、この日はあっさりと白ワインで。ソースのとろみは、小麦粉ではなく、たっぷり使った野菜由来のものです。バターライスは、ごはんとほぼ同じ量のキノコを加えて炊いているので、想像より軽くぺろり。白ワイン煮込みのソースを絡めていただきます。

デザート:お米のデザートプレート〜お米のリオレ・お米のケーキ〜 松本牧場のアイス添え
ホット和彩香茶(なごみさいこちゃ)


「これもお米なの?」と会場から驚きの声があがった、デザートプレート。フランスで定番のリオレは、お米をミルクで炊いた甘いライスプディング。ほんのり感じるお米の食感が新鮮な逸品です。ヨーグルトを混ぜて作ったお米のケーキはしっとりとした食感で、優しい甘さ。松本牧場のアイスは熟成焼きいも入りで、濃厚な味わいです。玄海町薬用植物栽培研究所で栽培したミシマサイコの葉と茎に、柿と桑の葉をブレンドした和彩香茶と合わせて、ほっこりとした気分に。

ほかではなかなかいただく機会がない、お米のフルコース。これまで出会ったことない味わいや組み合わせもあり、驚きとともに「次はどんな料理が登場するのかしら」と、ワクワクの連続でした。そしてもうひとつ驚いたのが、玄海町の食材の豊かさです。決して大きくないまちで、これだけ多くの食材が楽しめるなんて。とはいえ、この日いただいたのは秋の実りのほんの一部。季節が変わればさらなる“絶品”に出会えるはず。棚田の絶景とともにおいしい食材の数々を楽しみに、玄海町を訪れてみてはいかがでしょう。

▽当日の動画もご覧ください

 

(取材:編集部、文:ライター/戸田千文、写真:カメラマン/長友典人)

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