穴バーレポート ACTIVITY

五島の荒波が育んだ芳醇な旨味、全身まるごと美味な冬のクエ

身を切るような寒さの冬、五島の海では上質な脂をたっぷりたくわえたコワモテの魚が元気に泳いでいます。「クエ」は、言わずと知れた高級魚の代表格。中でも“天然モノ”は希少なため、地元の人でもめったに食せない幻の味なんですって。最近では温暖化の影響で島根県の方まで獲れるようになったそうですが、それでも五島のクエは格別とか。全国の食通を魅了する美味しさの裏側には一体どんな秘密があるのでしょうか?

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今回は、親子三代続く仲買人として五島の魚介を見つめてきた「株式会社鯛福」の永田和也さんにクエの魅力をお聞きしました。
さらに、永田さんをゲストに迎え開催した穴バー「五島のクエを味わう会」で披露された粒崎弘志シェフによるスペイン料理風クエディナーもご紹介。地元っ子も驚いた斬新なメニューの数々に、クエの可能性を探ります。

永田さん&粒崎さんのプロフィールはこちら
https://anaba-na.com/anabar-post/23289.html

五島の恵みをたっぷり蓄えた巨大な魚は
格別なおいしさ

まずは、クエという魚についてご説明しましょう。大きいもので1mをゆうに越す立派な体躯は、長い年月をかけて成長した証。穴バーで振る舞われたクエは3kgほどですが、ここまで育つには5年ほどの年月を要するそうです。いかつい外見からは想像できないほど、白身はきめが細かくふっくら。淡白なようでじっくりと広がる旨味は何も加えなくても十分に味わい深く、昔からシンプルに鍋で食されてきました。

永田さん
「クエがどうして高級魚なのか、その理由は“捨てるところが無い”から。皮やウロコ、内臓など、普段なら捨てる箇所もおいしく食べることができるんです」

さらに、五島の環境ならではのこんな理由も…。

永田さん
「五島の漁場はリアス式海岸という魚が住みやすい環境なんです。海には福江島のシンボル的存在の山“鬼岳”からの地下水が流れ込んでいるのですが、その水には動物性プランクトンがたっぷり。豊富な栄養を目当てにオキアミやキビナゴ、イカなど大型魚のエサとなる魚が集まって来るんです。中でも、クエはイカを主に食べるんですよ。栄養をたっぷり蓄えたイカを食べるので、身はもちろんですが、肝臓に栄養がしっかり回るんです。だからこそ、他の地域と比べて格段においしい」

仲買人の誇りと故郷への想いを胸に
時代の波に合わせた情報発信を

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五島で獲れた魚介を漁師から買い取り、全国へ発送するのが永田さんの生業です。だからこそ、上質な魚を見抜く目利きにもしっかりと理念を持っています。

永田さん
「魚を選ぶ時に一番大事にしているのは、誰が獲ってきたのかということ。釣った直後の魚自体はどこもほぼ同じ品質ですが、その後の漁師さんの処理で美味しさは変わってくる。魚の質は取引先との信用問題になりますから、日頃から漁師さんとの関係づくりも心がけています」

毎日のように魚介に触れるプロならではのこだわりが、クエの美味しさを一層味わい深いものに変えてくれます。
けれども、永田さんには魚市場に行くたびに気になることがあるそうです。

 永田さん
「今の五島の漁師さんの平均年齢は63歳くらいと高齢なんですよ。漁獲量も減っているのが心配です。僕は小さい頃から市場に遊びに行っていたのですが、当時は“魚が空中を飛び交っている”というくらい多かったんです。一箱に鯛やイサキがびっしり詰まって、みんな10kg単位で競りをするような。今はそのころの2/3ほどに減っている気がします」

漁業者の高齢化や後継者不足などが進む中、鯛福では若い世代のスタッフを積極的に採用しています。また、YouTubeなどの新たな情報発信にも取り組んでいるそうです。

 永田さん
「魚を釣って売るだけのアナログな商売のように思われますが、今は SNS が発達して魚の情報がリアルタイムでわかるようになっています。むしろ、こういう取り組みをしないと魚が売れない時代になったんです。従業員や釣ってきてくれた漁師さん、地域のためにも、僕らは魚の価値が少しでも上がるように工夫し続けなければならないし、同時に水産業に携わる人を増やさないと。それには自分達がいくら頑張っても限界があります。さまざまな業界と連携しながら、移住促進や人材雇用などにも取り組みたいと考えています」

※「鯛福」永田さんが厳選する魚は
ダイキョーバリュー弥永店、長者原店で土曜日に購入できるそうですよ。

場所はこちら
https://www.daikyo-plaza.jp/123653.html

 久世福オンラインでも注文が可能です。
https://taifuku.kuzefuku-arcade.jp/

鱗や内臓と部位ごとの持ち味を活かして
旬のクエが多彩なアイデアで変身!

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続いて、穴バーに登場したクエのディナーをご紹介します。

長崎県東彼杵郡でスペイン料理のレストランを営む粒崎さん。日頃から市場に足を運んで吟味するほど魚介料理に力を入れているそうですが、大型で高価なクエを相手にするのはほぼ初めてだったそうです。

粒崎さん
「クエは内臓やエラまで全部食べられると聞いて、やってみたらすごく勉強になりました。最初の印象は、白身魚なので旨味はあるけどクセはない。トマトソースやクリームにも相性がいいなと。身の部分はシンプルに調理して、出汁も本当に美味しいのでそのまま生かしました。胃袋や肝は食感がいいので少し手の込んだものにしようかなと」

五島から届いたクエは、永田さんの目利きだけあって鮮度抜群!オードブルには驚きを秘めた内臓料理でインパクトを、その後には切り身と出汁でクエの真髄を演出するスペシャルディナーが完成しました。

Appetizer 前菜

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胃袋をつかむタルト(クエの胃袋のカジョス風)
カジョスとは、牛の内臓をトマトソースで煮込んだスペイン料理のこと。
肉厚なクエの胃袋は噛むほどに旨みがじわりと増し、酸味のあるトマトソースと香ばしいチーズにマッチしています。メニュー名の通り、ゲストの皆さんもすっかり胃袋をつかまれたようです。

スペイン風生寿司
酢でしめた生魚の切り身をご飯に混ぜ込む五島の郷土料理「生寿司(なまずし)」をヒントにした一口寿司。刺身にスモークパプリカのソースをあしらったアレンジが斬新です。

 肝とチーズの前菜
希少なクエの肝をオリーブオイルとニンニク、塩でアヒージョ風に調理。嬉野「ミルキーファーム」のカマンベールチーズを合わせました。濃厚な旨みと塩気が溶け合い、お酒が止まらなくなる逸品。

211217_0465re柑橘ドレッシングのカルパッチョ
熟成させて身と脂がなじんだクエの刺身はシャキシャキの野菜とカボスのドレッシングで爽やかに。クエの鱗揚げのカリッとした歯触りと相まって、食感も風味もバランス良く仕上がっています。

Soupスープ

211217_0584クエのスープ
クエの骨だけでとったスープは体に染み渡るような旨みがたまりません。ハーブとオリーブオイルでやさしい味わいに。

Main dishes メイン料理

211217_0774ポアレ みそクリームソース添え
当初は切り身に小麦粉をまぶして焼く「ムニエル」を予定していましたが、少量の油で焼き上げる「ポアレ」に変更。脂がのった身の味わいがダイレクトに伝わります。コクと甘みのある味噌クリームと魚介の出汁で炊いた里芋を添えて。
「ちょっと味噌汁っぽい味を目指しました」と粒崎さんの直感が冴える創作も散りばめられています。

211217_1081reクエの出汁で炊いた魚介のパエリア
パエリアにはお米ではなく、なんと五島うどんを使っています。旨味の強いクエの出汁をたっぷり吸い込んだ五島うどんは、外はカリカリ、中はもっちり。
うちわ海老とイカがこれでもかとのった豪華な見た目もパーティにぴったりです。

Dessert デザート

211217_1882re五島和紅茶のクレマカタラーナ かんころ餅添え
懐かしいおばあちゃんの味、さつまいもで作る「かんころ餅」がしゃれたデザートに。香り豊かな五島の和紅茶が自然な甘みを引き立てています。

ゲストからは「味噌クリームとの相性が抜群!」「胃袋とトマトが意外に合う」「熟成したお刺身も独特の歯ごたえがあって美味しい」「鱗の唐揚げって珍しい」など、さまざまな感想が飛び交いました。
五島市役所の皆さんも、「こんなクエ料理食べたことない」と大絶賛!

身や内臓など、部位ごとに違うアプローチで調理できるのは、素材そのものに高いポテンシャルを秘めているからこそ。高級魚として敷居が高いイメージがありましたが、これだけ多彩な食べ方ができるのであればお得な魚なのかも知れません。

クエの他にも種類豊富な魚介に五島牛、うどんにいも焼酎と、五島グルメはまだまだ盛りだくさん。次のお休みはぜひ現地へ行って、自然に癒されながらお腹いっぱい満喫してみては?

▽当日の動画もご覧ください

穴バーは2022年もさまざまな食材との出会いをお届けします。
今後もぜひご期待ください!

(取材:編集部、文:ライター/大内理加、写真:カメラマン/勝村祐紀)

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