穴バーレポート ACTIVITY

演出、ひらめき、食材のコラボレーション。 シェフの手腕に魅せられた、九州食材の華やかな饗宴

山菜やチーズ、野菜に蜂蜜……今回の穴バー特別編で使われたのは、九州各地の生産者から集まった多彩な食材たち。「皿の上の九州」の出品者12組の食材をすべて取り入れてほしい、というお願いを引き受けてくださったのが「リストランテKubotsu」の窪津朋生シェフです。

「お話をいただいた時は、食材全部を使わなきゃいけないとあって、さすがに頭を捻りましたね」とさすがの窪津シェフも苦笑いです。それでも、届いた食材を見た瞬間からどんどんアイデアが沸いてきたそうで、当日はイタリアンをベースとした、窪津シェフらしい「楽しく、美しく、香り立つ」料理10品を披露してくださいました。

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4種のネギとイタリアンの会」や「川茸とイタリアンの会」でも腕を振るってくださった窪津シェフ

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季節感を演出したテーブルレイアウト。秋の山を散策するというイメージで、切り株や紅葉があしらわれました。材料はシェフが自ら福岡や大分から集めたもの

会場には参加者と一緒にテーブルを囲む、10組の生産者の方々の姿もありました。「生産者さんの前で料理をつくるのは僕も緊張しますが、参加者のみなさんも、食材のつくり手さんと話しながら料理を楽しめる貴重な機会だと思います。それぞれの料理に使われている食材をじっくりと味わいながら、会話を楽しんでもらえたら」と窪津シェフ。その言葉どおり、ひと品味わうごとに質問や感想が飛び交い、終始賑やかな食卓となりました。

シェフが絶賛する「なべとう」の蜂蜜は、前菜とデザートで主役級の好演

今回の食材の中で、窪津シェフのひらめきを真っ先に刺激したのが、福岡県川崎町「蜂屋なべとう」の桜の蜂蜜でした。「口に入れた瞬間に桜の風味が広がり、鼻に抜ける香りの余韻が素晴らしい。久しぶりに感動するくらい美味しかったです」と、この蜂蜜を使ったジェラートを考案。

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「桜の蜂蜜の味を消したくなかったので、極力ほかのものを入れずにつくりました」。添えられたのは、宮崎県小林市「ダイワファーム」のフレッシュなモッツァレラチーズです

同じく「蜂屋なべとう」のナッツの蜂蜜漬けも、フォアグラのテリーヌとして登場。「和蜂の蜂蜜は味に透明感があってクリアなところが好きです。このナッツの香りが移った蜂蜜は、絶対にフォアグラに合うと確信しました」

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フォアグラをマリネする時に蜂蜜を加えたそう。テリーヌはとろけるような舌触りで、上に乗せた香ばしいナッツも食感のアクセントになっていました

食材の素材感を大切に。組み合わせの妙を楽しむ

窪津シェフの料理は、食べた時にちゃんと素材の味を感じられるように仕上げられています。「いい食材だからこそ、味を複雑にはしたくない。ゆっくりと味わうことで、ひとつひとつの素材を楽しめるような調理を心がけています」

そんな食材への配慮は、生産者さんにもしっかりと伝わっていました。福岡県大牟田市「德永農園」の德永さんは、自分が作った「バターナッツかぼちゃ」のニョッキを口にして、「ソースにもパンチがあるのに、最後にバターナッツの力強い甘味が出てくるんです。ちゃんと素材のことを考えてくださっているんだと感激しました」と、嬉しそうに話してくれました。

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ソースには、福岡県大川市「大川漁業協同組合研究会」の有明海苔と飯塚市「MISO LABO」の生味噌を使用。違和感なく溶け合っていながら、それぞれが時間差で存在感を放ちます

参加者からは「メニュー名を見ても、どんな味なのか想像がつかないものばかりだったので、料理が出てくる度にワクワクします」という声も。窪津シェフは、「料理人にとって大事なのは、想像力と舌の記憶です。何千という食材を味わって記憶し、これとこれを合わせたらこうなるんじゃないか、という発想によって新しい料理が生まれます」と話されていましたが、その言葉通り、食材の意外な組み合わせでも私たちを楽しませてくれました。

たとえば、斬新なアイデアに満ちた一品として会場を沸かせたのが、鹿児島県鹿屋市「kiitos」のカカオニブ(カカオ豆をフレーク状にしたもの)を使ったスープ。キッチンカウンターに並んだコーヒーサイフォンの上部には、イタリアンパセリ、カカオニブ、ローストした丸ごと玉葱が畑に見立ててレイアウトされており、火を点けると、下から鶏スープが沸き上がって素材を包み込むという仕掛けに。「スープにカカオって合うの?」と首を傾げたくなりますが、飲んでみると見事な一体感。後から控えめに主張するカカオの風味に、「こうきたか!」と唸りたくなる一品でした。

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カカオとロースト玉葱のスープ。「イメージはオニオンスープで、そこにカカオの苦みと香ばしさを加えたら合うだろうなと。想像した通りの味になってくれました」

「九州の食はやっぱり凄い!」を実感できた一夜

すべての料理を作り終え、大きな拍手に迎えられた窪津シェフは、ようやくほっとした表情に。
「僕の店でも、野菜、肉、魚までオール九州の地産地消を実践できているのは、生産者の方々に可愛がっていただき、頑張れと背中を押していただけているおかげです。これからも生産者のみなさんの力になれる機会があれば、どんどん関わっていきたいです」

生産者の方々も「とても上手に食材の魅力を引き出してくれて、嬉しかった」「目の前で食材を味わってもらえる機会はあまりないので、貴重な体験でした」「“美味しかった”という生の声が聞けて、頑張る気持ちをもらえました」と、この回を楽しんでくださった様子。

さまざまな厳選食材を、発見溢れる料理で味わい、たくさんの笑顔に包まれた1Dayレストラン。九州の食の魅力をあらためて実感することができた特別な夜となりました。

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(取材・文:ライター・吉野友紀、写真:勝村祐紀)

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