博多まちづくりミートアップ

【前編】アートは街とビジネスをどう変えるのか?無形の価値を「新しい経済効果」に変換する視点〜ミートアップ Vol.35 レポート〜

ゲストは、株式会社ゼロテン代表取締役CEOの榎本二郎さん(右)と福岡地所株式会社の吉松吾朗さん(左)

博多を中心にさまざまな事業に取り組む方をゲストに迎え、その活動を通してこれからのまちづくりを考えるトークイベント「博多まちづくりミートアップ」。第35回のテーマは「アートとビジネス、アートとまちづくり」です。

企業や建物にアートを取り入れることには、どのような意味があるのでしょうか。

今回のゲストは、株式会社ゼロテン代表取締役CEOの榎本二郎さんと、福岡地所株式会社の吉松吾朗さん。福岡で進めてきたアートプロジェクトを振り返りながら、作品選びの舞台裏や、アートが街にもたらす可能性について伺いました。

世界の現代アートを、福岡の日常へ世界の現代アートを、福岡の日常へ

Photography by YSK

吉松さん(以下、吉松):
まず、福岡とアートとの関わりを少し振り返りたいと思います。

キャナルシティ博多には開業時からアートが取り入れられていますし、西日本シティ銀行の旧本店にも著名な作品が展示されていました。こうした歴史が、現在のプロジェクトにもつながっていると考えています。

榎本さん(以下、榎本):
少し補足すると、もともと福岡シティ銀行(現西日本シティ銀行)の元頭取はアートが大好きで、いろいろな作品をコレクションしていたんです。そのコレクションがきっかけで、海外のホテル関係者が福岡を訪れたという話もあります。

キャナルシティ博多にも、テレビモニターを組み合わせた映像作品などで知られるナム・ジュン・パイクをはじめ、さまざまなアーティストの作品が取り入れられました。建物をつくるだけではなく、そこにアートを組み合わせる取り組みは、以前から福岡にあったんですよね。

吉松:
そうした流れの中で、改めて物件にアートを取り入れるプロジェクトとして進めたのが、天神ビジネスセンターです。竣工の3年ほど前から動き始めました。最初は「最近のアートのトレンドはどうなっているんだろう」というところからのスタートでしたね。

坂井さん(以下、坂井):
その一環として、マイアミのアート・バーゼルにも行かれたんですね。

榎本:
そうです。アート・バーゼルは、世界各地のギャラリーが集まる世界有数の現代アートフェアです。一言でアートといっても、本当にいろいろな種類があります。音楽でいうと、ラップもあればテクノもロックもジャズもある。それと同じです。

アート・バーゼルに行けば、そうした多様な作品に一度に触れられる。世界では今、どんな作品がつくられ、評価されているのかを知ることができるんです。

坂井:
世界の動向を知ったうえで、天神ビジネスセンターにどんな作品を取り入れるか考えていったと。

榎本:
そうですね。いろいろな作家を候補に挙げて、提案していきました。

Photography by Tomoyuki Kusunose

吉松:
その中で選ばれたのが、ダニエル・ビュレンさんです。天神ビジネスセンターでは、天井の大きな作品と、壁面の作品を手がけていただきました。

榎本:
本人に会うため、パリにも行きました。「ここに来てくれ」と連絡があって、二人で会いに行きました。ビュレンさんは、見慣れた日常の空間を、作品によって違ったものに変えるアーティストです。その建物や場所に合わせて作品をつくることを、とても大切にしています。

吉松:
現地では天神ビジネスセンターのプロジェクトを紹介して、当時の図面を見せながら、どんな場所に作品を設置したいのか説明しました。プロジェクトそのものにも興味を持っていただけて、「ぜひ提案します」という話になったんです。

最初に届いたのは、本当に一枚のスケッチのようなものでした。そこから作品の向きや色、構造などを少しずつ詰めていきました。

坂井:
アーティストから届いた作品を、そのまま飾るわけではないんですね。

吉松:
そうですね。アーティストのスケッチを図面にする人もいれば、作品の構造や材料を検討する人もいます。アーティスト、ギャラリー、設計者、施工に関わる人たちが協力しながら、一つの作品を実現していくんです。

「オフィスビルだからこうあるべき」を外してみる

坂井:
完成した空間を見ると、一般的なオフィスビルとは少し違う印象を受けますね。

榎本:
昔、福岡シティ銀行の関係者から聞いた話が印象に残っているんです。
その方がニューヨークの銀行を訪れたとき、建物の中がアートであふれていたそうです。社長室にも作品があって、かなり尖ったものもある。でも、ニューヨークの人たちにとっては、それが特別なことではなかった。

その経験から、「銀行は真面目でしっかりしていなければいけない」「オフィスはこうあるべき」という考え方も、実は固定観念なのではないかと感じたそう。僕もその話を覚えていて、オフィスビルでももっといろいろなことをやっていいんじゃないか、という考えは根底にあります。

坂井:
アートが、建物や空間に対する固定観念を外してくれるわけですね。

榎本:
そうですね。人が当たり前だと思っている枠から飛び出して、驚かせたり感動させたりする。そこにアートの面白さがあると思っています。

吉松:
天神ビジネスセンター以外にも、いくつかの物件でアートを取り入れてきました。

榎本:
例えば博多FDビジネスセンターには、人間の皮膚や髪などを表現に取り入れるドナ・フアンカさんの作品があります。建物の外から見えることも、作品を置く際に大切にした点でした。

坂井:
福岡を訪れた人が、街を歩きながら作品に出会えるわけですね。

榎本:
そうですね。街にアートが増えると、感性も刺激される気がします。

吉松:
天神住友生命FJビジネスセンターにも作品を取り入れていますし、西日本シティビルにも、新たなアートを設置しました。

Photography by DAICI ANO

榎本:
西日本シティビルで選んだのは、エルヴィン・ヴルムさんの作品です。この方は、皮肉やユーモアを交えながら、人の目を引く作品をつくるアーティストなんです。銀行というと、どうしても堅いイメージがありますよね。そこに少しユーモアや親しみやすさを加えられたらと思いました。

坂井:
銀行のような場所だからこそ、意外性が面白いですね。

アートを支える仕事にも、福岡の新たな可能性アートを支える仕事にも、福岡の新たな可能性

吉松:
西日本シティビルの作品は、もともと別々だったものを組み合わせています。埼玉の工場に持ち込んで、どの向きで、どう見せるかを検討しました。

榎本:
アートをたくさん置いてみて面白いなと思ったのが、設置や運送など、アートに特化したサービスがすごく必要になることです。普通の運送会社では難しいし、普通の施工会社ではできないこともある。

ところが、福岡にはそういう専門の事業者がまだほとんどないんです。毎回、大阪や東京、埼玉など、いろいろなところの事業者を探しています。

坂井:
作品そのものだけでなく、作品を運び、設置する仕事も必要になる。

榎本:
そうです。保管する倉庫も必要ですし、キュレーターなど、アートに携わる仕事は本当にたくさんあります。福岡には、そうした仕事がまだ十分に育っていない。逆に言えば、これからの可能性が大きいとも思っています。

アートが増えれば、それを支える仕事も福岡の中で育っていく。そうなれば、もっと活動しやすい街になるはずです。

後編へ続く>>

ゲストプロフィール

Zero-Ten 代表取締役CEO/Zero-Ten Park 代表取締役CEO
エフ・ジェイエンターテインメントワークス 代表取締役CCO
榎本 二郎  Enomoto JIro

1978年生まれ、福岡県出身。NY工科大学卒業後、2011年にZero-Tenを設立。国内外でコワーキングスペース「The Company」を14拠点以上展開するほか、2023年には食とエンタメのカルチャー複合施設「010 BUILDING」を開業。アートや文化を通じた先進的なまちづくりを推進している。

福岡地所株式会社
開発事業二部
吉松 吾朗  Yoshimatsu Goro

2009年福岡地所に入社。分譲マンション開発や東京都心での再開発事業を経て、福岡天神エリアの「天神ビジネスセンター」「天神ビジネスセンターⅡ」「天神住友生命FJビジネスセンター」などのプロジェクトを担当。現在はオフィス開発にとどまらず、ホテルや公共空間活用などのアセット企画を推進している。