博多まちづくりミートアップ

【後編】アートは街とビジネスをどう変えるのか?無形の価値を「新しい経済効果」に変換する視点〜ミートアップ Vol.35 レポート〜

建築とアートが一体になる「天神ビジネスセンターⅡ」

Photography by Tomoyuki Kusunose

吉松:
次に紹介するのは、新しくオープンした天神ビジネスセンターⅡです。

坂井:
この空間、面白いですよね。エスカレーターで上がっていくと、作品にだんだん近づいていくような感覚があります。

吉松:
そうですね。エスカレーターで上がりながら見上げると、作品に周囲の空間が反射して見えるんです。反射の様子が移動に合わせて変わっていくところは、来ていただいた方にも楽しんでもらえていると思います。

榎本:
建築とアートが、すごくよく合っている空間だと思います。

作品に近づいてみると、反射によって自分がどこを上がっているのかわからなくなるような、不思議な感覚があるんです。建築家とアーティストが、そうした見え方も話し合いながらつくっていきました。

坂井:
単にエスカレーターで移動するだけではなく、その時間自体が面白い体験になるんですね。

榎本:
そうですね。アートがあることで、いつもの空間がまったく違う場所に見えてくる。そういう作品が増えていると思います。

吉松:
今回の作品を手がけたのは、トマス・サラセーノさん。化石燃料に頼らない移動手段として、気球などを研究しているアーティストです。今回の作品も、空気を入れて膨らませる構造になっています。

榎本:
サラセーノさんは、アーティストでありながら研究者のような人でもあるんです。蜘蛛の巣の構造なども長年研究していて、作品づくりに取り入れています。

アートというと、絵を描いたり彫刻をつくったりするイメージが強いかもしれませんが、こういう活動をするアーティストもいるんですよね。

Photography by Tomoyuki Kusunose

吉松:
設置場所の検討も、かなり細かく行いました。
最初に建築の空間を見ながら、どこにどれくらいのスペースがあるかを整理します。そのうえで、天井の高さや作品の大きさ、吊るす位置などを具体的に検討していきました。

特に難しかったのが、建物のガラスを清掃するためのゴンドラとの位置関係です。作品は吹き抜けの天井から吊るすのですが、その上を清掃用のゴンドラが通るんです。

坂井:
作品を設置すると、建物の清掃ができなくなる可能性もある。

吉松:
そうなんです。図面上で調整していても、実際に吊るしてみると、ワイヤーの位置が想定と少し違うこともありました。ゴンドラが動いたときに作品とぶつからないよう、設置の直前まで細かく調整しました。

榎本:
ミリ単位の調整ですね。

吉松:
そうですね。作品の大きさも検討を重ねましたし、内部の空気圧が下がったら自動的に空気を送り込む仕組みも必要でした。建物の設備と作品の両方を成立させるために、いろいろな工夫をしています。

坂井:
完成した作品を見ているだけでは、なかなかわからない苦労ですね。

建物だけでなく、街の体験もつくる

吉松:
こうしたプロジェクトを振り返ると、不動産開発も少しずつ変化してきたと感じます。

もともとは、土地を効率よく使って建物をつくるという考え方が中心でした。そこに建築家が加わり、デザイン性のある空間をつくるようになった。そして、さらにアートを取り入れるようになったんです。

榎本:
効率だけを考えるなら、四角い建物をつくって、できるだけ多くのスペースを使うほうがいい。でも、それだけでは街が退屈になることもあります。

建築家と組むことで、建物に面白さや魅力が生まれる。さらにアートを加えることで、空間に新しい体験が生まれるんです。今は、オフィスや日常の空間にアートが入って、人が毎日それを見たり、触れたりする段階に来ていると思います。

坂井:
美術館へ見に行くものだったアートが、日常の中に入ってくる。

榎本:
そうですね。生活の一部にアートがあることで、新しい福岡の空気感やカルチャーが生まれるんじゃないかと思っています。

企業とアーティスト、異なる価値観をどうつなぐか

坂井:
ここまで伺っているだけでも、アートを取り入れるには、かなり多くの調整が必要ですね。

吉松:
そうですね。まず社内で「何のためにアートを取り入れるのか」というところから説明しなければなりません。そこをクリアしても、今度はどの作家がいいのか、提案された作品でいいのか、金額はどうなのか、と判断が続きます。

坂井:
企業側とアーティスト側で、考え方が違うこともありそうです。

吉松:
特に著名なアーティストほど、作品に対する考え方や権利を大切にされます。企業側からすると、購入したものは自由に扱えると思ってしまうこともある。でも、アーティストはそう考えていない場合があります。

榎本:
例えばダニエル・ビュレンさんの場合、その場所のために作品をつくり、基本的に動かさないということが、作品のコンセプトの核心なんです。

アーティストの考え方を理解したうえで、企業側とも調整する必要があります。

坂井:
社内への説明と、アーティストへの理解。その両方が必要なんですね。

吉松:
そうですね。作品を決めるところから契約、設置後の管理まで、調整しなければならないことは本当に多いです。

福岡に「都市型の直島」を

榎本:
でも、アートにはそれだけの可能性があると思っています。
例えば香川県にある直島は、アートによって世界中に名前が知られるようになりました。国内外から多くの人が訪れる場所になっていますよね。

福岡全体を直島のようにするのは難しいと思います。でも、福岡のあるエリアが「都市型の直島」のようになったら、すごく面白い。そうなれば、アートに関わる仕事をする人たちも増えるでしょうし、それを見て「自分もやりたい」と思う若い人も出てくる。

街にとって、一つの起爆剤になると思っています。

坂井:
今、福岡の街を歩いていて、アートが街の活気やワクワク感にどのようにつながっていると感じますか。

榎本:
今の福岡には、まだアートがそれほどあふれているとは思わないですね。もっともっと増えていいと思います。

「この場所にこんなものがあっていいんだ」と思わせるような作品も、街の中にもっとあっていい。感覚的には、アートが10倍あってもまだ足りないと思っています(笑)。

坂井:
その差を埋めていくには、どんなことが必要でしょうか。

榎本:
一社だけでやるのではなくて、いろいろな福岡の会社が、見える形でどんどんアートを取り入れていくことだと思います。それが街の魅力になって、国内外から人が訪れるようになれば、福岡はもう一段階面白い街になるんじゃないでしょうか。

吉松:
今回、改めてこれまでのプロジェクトを振り返ることができて、よい機会になりました。これから次に何をしていくのか、まだ具体的に決められていない部分もありますが、考えていきたいですね。

榎本:
今日、こうして話しながら、福岡でも直島のように、アートをきっかけに人を呼べる街をつくりたいと改めて思いました。ぜひ皆さんも同じ方向を向いて、福岡をアートの街に変えていきましょう。

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ゲストプロフィール

Zero-Ten 代表取締役CEO/Zero-Ten Park 代表取締役CEO
エフ・ジェイエンターテインメントワークス 代表取締役CCO
榎本 二郎  Enomoto JIro

1978年生まれ、福岡県出身。NY工科大学卒業後、2011年にZero-Tenを設立。国内外でコワーキングスペース「The Company」を14拠点以上展開するほか、2023年には食とエンタメのカルチャー複合施設「010 BUILDING」を開業。アートや文化を通じた先進的なまちづくりを推進している。

福岡地所株式会社
開発事業二部
吉松 吾朗  Yoshimatsu Goro

2009年福岡地所に入社。分譲マンション開発や東京都心での再開発事業を経て、福岡天神エリアの「天神ビジネスセンター」「天神ビジネスセンターⅡ」「天神住友生命FJビジネスセンター」などのプロジェクトを担当。現在はオフィス開発にとどまらず、ホテルや公共空間活用などのアセット企画を推進している。