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コトバナプラスvol.8 インターネットと人類学から考えた 僕らなりの“未来”の作り方

ReTHINK FUKUOKA PROJECT レポートvol.49

アナバナではReTHINK FUKUOKA PROJECTの取材と発信をお手伝いしています。

昨年8月より始まった、アナバナが企画する『コトバナプラス』。モデレーターに、発酵デザイナー小倉ヒラク氏を迎え、毎回さまざまなゲストをお招きし、連続シリーズで開催しています。

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九州のワクワクを発見するウェブマガジン「アナバナ」と、ReTHINK FUKUOKA PROJECTとの共同企画として2016年8月より始まった「コトバナプラス」。発酵デザイナー・小倉ヒラクさんの軽妙な進行のもと、毎回満員御礼となったこのシリーズも、5月16日(火)でついに最終回を迎えました。ラストにふさわしいゲストは、福岡出身の起業家であり、インターネット黎明期から現在まで様々なウェブサービスを世に送り出してきた家入一真さんです。

現在、家入さんが代表を務めている株式会社CAMPFIREは、目的達成のために個人がインターネット経由で資金を集められる「クラウドファンディングサービス」を提供する会社。このクラウドファンディングという仕組み、人類学で言う「贈与」の概念と密接な関係があると、小倉ヒラクさんは語ります。

WebやSNSを通して、個人同士がダイレクトに繋がることのできる時代。お互いを支え合う新しい経済が、生まれ始めています。「贈与と協同の人類学」をテーマに語り合ったコトバナプラス最終回の模様を、お伝えします。


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何者でもなかった自分が
インターネットに見つけた居場所

小倉 皆さん、こんばんは。全8回にわたって展開してきたコトバナプラスも、今日でついに最終回。惜しい気持ちと、毎回山梨から福岡まで通い続けた苦行がようやく終わるという安堵感でいっぱいです(笑) 。さて今日は、ファシリテーションの役割をすべて捨てて、その場の成り行きに任せて進行してみたいと思います。では最終回にふさわしいゲストをご紹介しましょう。元GMOペパボ、現CAMPFIRE代表の家入一真さんです。

家入 よろしくお願いします。

小倉 家入さんは、日本のインターネットシーンの隆盛に多大な貢献をした人ですね。僕はもともと、「www(ダブリューダブリューダブリュー)」という仕組みがなかった頃から、インターネットに触りだしたオタクです。当時はWebサイト自体がまだなかったんで、掲示板でメッセージをやりとりして。自分がわからないことを質問したら、オランダのおじさんが答えてくれたりして、「ネットの世界って、すげー!」と感動したのを覚えてます。

家入 今では当たり前になりましたけど、世界中がリアルタイムで繋がることの衝撃って、当時はすごかったですよね。

小倉 世界の反対側にも、自分と同じ思いの人がいるんだと実感できて。

家入 そうそう。僕もいじめが原因で、中学二年の頃から学校に行けなくなって、家からも出られなくて。そんな時にパソコン通信で、性別も年齢もわからない相手と対等に会話ができたのは、自分にとって救いでした。社会的な立場や役割と一切関係なく、「何者でもない、ただの人間である」ことを実感できたんです。

小倉 すでにディープな話に入ってきてますが、ここで一度、家入さんご自身で自己紹介してもらってもいいですか?

家入 はい。今の肩書きは、CAMPFIREの代表取締役社長です。他にもネットショップサービスの「BASE」をCEOの鶴岡くんと一緒に立ち上げたり、その前は「 paperboy&co.(現GMOペパボ)」を作ったりしました。他にもいろいろとあるんですが、簡単に言うと、さまざまな立場の人たちが自由に声をあげられるサービスをインターネットで展開してきた、ということですね。

小倉 クラウドファンディングのサイトもいくつかあって、それぞれ特徴があると思いますが、CAMPFIREは「祭り」感が強いと思いました。プロジェクトの規模が小さくても、一緒に盛り上げていこうという、エモーショナルなものを感じます。

家入 そうかもしれないですね。大義名分があるものとか、規模が大きくて有名なプロジェクトばかりがフィーチャーされてしまうと、ユーザーが「自分なんかが使っていいのかな?」って気になるでしょ? そうはしたくないんです。僕が感じていたインターネットの可能性って、誰に対しても門戸が開かれているってことなので。だから、ハードルはなるべく下げておきたい。

小倉 なるほど。

家入 Webサービスだからこそ、そこにどんな思想が流れているかが大事だと思います。というか、僕がそう信じたいんですよね。僕のようなひねくれた人間だったら使えないものは、作りたくないんです。僕は、高尚なやりとりばっかりの掲示板を見たら、すぐに閉じちゃうタイプの人間なんで。

小倉 プロジェクト掲載に当たって、審査はあるんですか?

家入 他のサイトは内容の審査をして、成功に繋げられるかどうかを、あらかじめふるいにかけているところもありますが、うちは最低限の審査しかしません。「自分たちで審査するほど、自分たちは偉いのか?」という立場に立ってるんで。

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クラウドファンディングは
共犯関係を作る“祭り”

小倉 文化人類学の観点から話をすると、CAMPFIREのサービスってとても文化人類学的だなと思ってるんです。マルセル・モースという文化人類学者が提唱した「贈与」という概念があって、簡単に説明すると、未開部族がとなり合う島同士で贈り物の交換をするときに、必ずパーティーが開かれるんですよ。やり取りされる贈り物自体が大事なんじゃなくて、催されるパーティーのご飯や宿の用意とか、そこで発生するいろんなやりとり自体が重要だと。

家入 面白いですね。

小倉 今の資本主義社会だと、物のやり取りは普通、等価交換ですよね。300円を払い、300円のものを受け取る。でも、「贈与」は等価じゃない交換で、そこで発生する無駄が文化を伝達したり、支えたりしていたんだと。

家入 なるほど。

小倉 それって、CAMPFIREも同じだと思うんです。目標金額を達成すること自体はもちろん大切だけど、それだけじゃなくて、特典を用意したりプロジェクトを広報したりする中で、いろんなコミュニケーションが発生するんですよね。CAMPFIREはそこを大切にしているんじゃないかなって。

家入 確かにそうですね。いま、うちで広報を担当してくれている社員は、身長が178cmある女性なんですが、コンプレックスから彼氏ができなくて悩んでたんですよ。それで、CAMPFIREでお見合い相手を募集するプロジェクトを立ち上げて、目標金額も200%達成し、そこで出会った人とお付き合いしています。他に、「iPhoneを洗濯機で洗ったから修理費を集めたい」というプロジェクトを立ち上げた社員もいました。結構叩かれましたけどね、「家入はクラウドファンディングの素晴らしい部分を壊しまくってる」と言われて(笑) 。でも個人的には、こういうのも全然アリだと思ってます。

小倉 カオスですねぇ。僕がネットの世界に感じていた面白さって、こういうアナーキーさだったと思います。社員の人たちも、みんな家入さんの思想に共感している人たちなんですか?

家入 どうでしょうかね? 僕が面接をやるときは、僕のファンとか僕の本を読んでくれているかどうかは重視していないです。組織としては、多様性を保つことが大事なんで。僕の考え方に共感していなくても、優秀な社員はたくさんいますから。

小倉 でも家入さんのように、思想や哲学を大事にしたサービスを展開したいと思っても、会社を成長させていくためには広くいろんな人に受け入れてもらう必要があるわけで、そのバランスは難しいですね。

家入 矛盾していると言われればその通りだと思います。スタッフによく言っているのは、答えを出そうとせずに、いつも問い続けようってことです。今の世の中は、なんでも参考にできるものや前例があって、答えに溢れていると思うんです。でも本来、メディアの役割って、「あなたはどう思うか」という問いを発することだし、ビジネスやアートの役割もそうなんじゃないかなと。

小倉 アートですか?

家入 ええ。僕は、中学生で引きこもりだった頃、ずっと絵を描いていて、画家になりたかったんです。でもできなくて、仕方なく就職して、そこから起業して。上場してお金も入ってきたし、成功者のように言われたけど、自分では全然しっくりこなかったんですよね。なりたかった自分と実際の自分が乖離していて、納得感がなくて。でも、僕が今ビジネス界でやっていることは、アートに近いんじゃないかと思い始めてから、少しラクになりました。ビジネスもアートと同じように、自分の考えていることを社会に投げ込んでいく活動だなと思って。

小倉 なるほど。僕も最初はイラストレーターで、その後デザイナーになって、今では微生物の研究をしています。ふと自分の原点ってなんだろうって考えると、言語を使った左脳的なコミュニケーションよりは、何かの世界観を作って伝える右脳的なコミュニケーションが得意なんじゃないかなと。人と人とがわかりあうためには、理屈だけではダメで、うまく人に伝える方法を模索してきたんだなと思っています。

家入 原点という意味では、僕は結局、中二の頃の自分に向けて今でもサービスを作り続けているんだと思います。あの頃の自分が参加したいと思えるものや、行ける場所を作りたい。僕は「リバ邸」というシェアハウスの発起人で、そこは学校からあぶれてしまったり、病んで会社に行けなくなったりする人が集まる「現代の駆け込み寺」です。なぜ始めたのか、動機は結局のところ、中二の頃の自分に対して、居場所を与えたいということですね。

小倉 家入さんの事業って、何かに解答を与えるものというよりは、みんなに「はてな?」を与えるものですよね。交換における、余剰や謎の部分。この隙間から、文化が出てくるんですよね。今やテクノロジーの発達によって、人間はどんどん暇になっていて。そんな時に、謎を求める潜在的な気持ちがあるんじゃないかと。

家入 テクノロジーは、あらゆるコストを下げるために進化し、究極まで進んで行くと思います。今や、電話で話す時の感情表現も、スタンプ一つで済ませられるし。

小倉 そうそう、それで限界費用が下がっていくと、人は結果的に暇になる。だから、クラウドファンディングのような祭りに参加したくなる。

家入 祭りは、自分の中でのテーマでもありますね。インターネット空間の中に、いかに祭りを起こすか。だって、祭りになった瞬間に、文句を言う人に対して、「野暮」と言う言葉で片付けられるんです。それってすごいことで。

小倉 岸和田のだんじり祭なんかは、無責任に炎上を焚きつけるような部外者が関われないようになっていて、みんな当事者だから異様な盛り上がりになるんですよね。

家入 当事者意識をいかにもってもらうか。僕は「共感」という言葉よりも、「共犯」の方がしっくりくるなと思っていて。それぐらい、肩入れして当事者意識を持てる関係性を、CAMPFIREでも作っていきたいと思ってます。

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避けられない変化の中で
ワリを食ってしまう人に寄り添いたい

小倉 では、会場の皆さんの質問に答えていきましょう。

参加者 Aさん 私は山口県で、実家の漬物屋を手伝っています。私の関心ごとは、お金がなくても豊かに暮らすことで、今ある生活を丁寧にする、そのために食を丁寧にする暮らしを提案していきたいと思っています。日本の漬物文化をもっと広めていくために、どうしたらいいと思いますか?

小倉 僕がアニメ「手前みそのうた」を作った時、一緒に作った五味醤油さん「これはみそを作る文化や価値を伝えるために作るんだから、うちの社名は出さなくていいよ」って言われたんですよ。それってすごくないですか? 他のメーカーの役割も全て肩代わりして、手前みそを仕込む素晴らしさを伝えるものを作る。それが結果的に周りからの信頼を得ることになって、少し時間差で大きなリターンとなるんですよね。だからAさんも、他の漬物屋が喜ぶことを積極的にやったらいいんじゃないですか?

家入 人生って、誰しも一冊の小説になるくらい、いろんなことが起こりますよね。僕は、次の一ページをどう描こうかって、いつも考えながら生きてます。自分の物語に賛同してくれる人が仲間になってくれたり、物語にジョインしてくれたりもする。だから、あなたの人生を語って、そこに賛同してくれる仲間を募ってみるのはどうでしょうか。

小倉 うん。漬物屋の娘って、すごくいいドラマになると思う。


参加者Bさん 家入さんのように、時代の先を読むビジネスをする上で意識しておくべきことはありますか?

家入 時代の先、読めてないですよ(笑)。 読めてたらもっと儲かってると思うんで。「これからはソシャゲ(ソーシャルゲーム)が来る!」という頃に、現メルカリの山田進太郎さんやドリコムの内藤裕紀さんらと一緒に、中国まで視察に行ったりもしましたけど、僕は乗れなかったですからね。当時僕はドーナツ屋さんをやりたくて、美味しいドーナツを作る方法ばかり考えていました。

小倉 逆らい難い時代の流れがあるとしても、それに乗って行った先に幸せがあるかどうかはまた別問題ですよね。時には流れに杭を打つことも必要かもしれないし、杭を打つこと自体が哲学とも言えますね。

家入 例えば今、クラウドソーシングという働き方が注目されていますけど、実際はその収入だけで生きていけてる人はまだまだ少ないわけです。だからと言って、クラウドソーシング自体に意味がないとか、失敗だったかというと、そうではない。まだ過渡期ではあるけど、生き方を変える可能性は秘めていると思います。

小倉 そうですよね。

家入 時代の先を読もうとしなくても、避けられない未来の変化は必ずやってきます。その時にオイシイ思いをする人と、そのことでワリを食う人が必ずいるはず。その時に、ワリを食ってしまう側の人たちのことを、考えていきたいと思ってます。

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いかがでしたか? 連続起業家と呼ばれても初心を忘れず、動機に忠実な家入さん。そして文化人類学と発酵という専門分野を軸にあらゆる話題を整理し、わかりやすく伝えてくれるヒラクさん。お二人の示唆に富んだトークに、来場者もぐっと引き込まれ、あっという間の2時間となりました。この日は、小倉ヒラクさんの新刊「発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ」が発刊されたタイミングでもありと、会場で用意された本も全て完売。最終回にふさわしい盛況な回となりました。

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さて、天神・Rethink Booksを舞台に展開してきたコトバナプラスも、これにて閉幕。全8回のシリーズを通して、普段福岡ではなかなか聞くことのできないゲストの貴重なトークを、来場者の皆さんと共有することができました。「コトバナプラス」のコトバの中に、一つでも皆さんの心に残る言葉があったとしたら、このシリーズも展開した甲斐があるというもの。関わりを持ってくれた全ての皆さん、ありがとうございました。またどこかでお会いしましょう。

 

ReTHINK FUKUOKA PROJECTについて
コミュニケーションや働き方、ライフスタイルに大きな変化をもたらしている福岡。新しい産業やコミュニティ、文化が生まれるイノベーティブでエネルギッシュな街となっています。
そのチカラの根底には、この街に魅力を感じて、自らが発信源となっている企業や人がいます。
ReTHINK FUKUOKA PROJECTは、「ReTHINK FUKUOKA」をテーマに、まったく異なるジャンルで活躍する企業や人々が集い、有機的につながることで新しいこと・ものを生み出すプロジェクトです。


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