世界が注目する別府の芸術フェス「混浴温泉世界」にみる地方型アートプロジェクトの「いま」と「これから」。〜前編〜

三好さん（以下、三好）　こんばんは。今日は、アート業界の大先輩方が客席に多くいらっしゃって、すでに冷や汗をかいてますが、あろうことかハンカチを忘れまして……。気を取り直し、汗も気にせず、グングンと切り込んでいきたいと思います。それでは本日のゲストをご紹介します、BEPPU PROJECTの山出淳也さんです！

山出さん（以下、山出）　こんばんは、よろしくお願いします。僕は大分市出身ですが、福岡の千早区の保育園に通っていましたし、その後も福岡には縁があります。普段は、BEPPU PROJECTプロジェクトの代表をしていて、今日も別府から参りました。

三好　プロデューサーのイメージが強いですが、もともと山出さん自身もアーティストですよね？

山出　ええ、90年代末から2004年ぐらいまで、ヨーロッパなどで作家活動をしていました。

三好　どうして日本に帰ってくることになったんですか？

山出　なんの気なしに読んだ、とある記事がきっかけです。団体旅行の多い別府の街で、旅館のオーナーさんが路地裏散策をガイドしているという内容だったのですが、「お客さんが一人でもいたら、必ずガイドをします」という一文に強く心惹かれて。

三好　何を感じたんでしょう？

山出　その人たちに会って、話を聞いてみたくなったんです。別府の街と知り合いの作家たちを出会わせたら、どんな作品を作るのかを見てみたいという気持ちもありました。それで、アートプロジェクトをやろうと思いついて。

三好　そうなんですか。いち鑑賞者として、作品をみたいという想いから始まったんですね。

山出　ええ。なのでアートプロジェクトを立ち上げた経験もないし、マネジメントのこともまったくわからず。時には怒られ、時にはなぐさめられながら、なんとかこの10年間運営してきました。

三好　怒られたりしたんですか？

山出　それはもう、しょっちゅうですよ。「混浴温泉世界」ってタイトルからして、街の人たちに怒られましたから。「いかがわしい！」って（笑）。

三好　はは。確かにユニークですけど、どんな意味なんでしょうか？

山出　昔は、別府の山でひとつのいい温泉を見つけたら、みんなで草刈りして場所を整えて、そこに人が集い、みんなで活用して維持していた。温泉は、性別や国籍、宗教、文化、肌の色を超えて共有できる、多文化共生の場所だったんですね。この芸術祭を通じて、そんな体験を作り上げたいと思ったんです。タイトルというよりは、態度表明ですね。

運営母体であるBEPPU PROJECTは2005年に立ち上がり、2009年に1回目の混浴温泉世界を開催。2回目は2012年、今年が3回目で、これまでの集大成という位置づけ

三好　3回目となる今回は、どんな特徴がありますか？

山出　今回の特徴は大きく3つあります。まず、一人に対して最善のサービスでおもてなしできるように、観賞スタイルを変えたことです。今回のプログラムのメインである「アートゲートクルーズ」と「ベップ・秘密のナイトダンスツアー」は、ともに予約が必要なツアー形式の観賞スタイルです。観賞環境を最優先に考えて、定員の上限も設定しました。2009年の第2回は集客目標10万人でしたが、今回は3万人。原点に戻って、顔が見える芸術祭にしたかったからです。ツアーは基本的に夜に行うので、その日はそのまま別府に泊まって、夜は僕と一緒に宴会しましょう（笑）。

三好　いいですねぇ。

山出　2つ目は、常に変化し続けること。「ベップ・秘密のナイトダンスツアー」も、元ストリップ劇場の永久別府劇場を会場にした「恐怖の館」も、会期中に中身が何度も入れ替わりますし、デパート全体を舞台に展開する「わくわく混浴デパートメント」は、常に何かが建物の中で起こり続けている状態。いつ行っても、その時にしか体験できない世界を楽しめるはずです。

三好　なるほど。

山出　そして3つ目は、同時期に開催するさまざまなイベントとの連携です。毎年別府市内で行われる、素朴だけれど心のこもった市民文化祭「ベップ・アート・マンス2015」や、鉄輪地区ならではの貸間にイギリス人アーティスト2名が滞在制作を行う「KASHIMA 2015 BEPPU ARTIST IN RESIDENCE」、「BEPPU PROJECT 2015」、「おおいたトイレンナーレ2015」など、別府や大分市内各地で魅力的な空間や体験に出会えるはずです。

三好　中でも山出さんのおすすめのプログラムはどちらですか？

山出　どれも充実していますが、やはり今回のメイン「アートゲートクルーズ」と「ベップ・秘密のナイトダンスツアー」はぜひ体感してほしいですね。「アートゲートクルーズ」は、通常立ち入ることができない別府の最深部をツアーの案内人とともに巡る、2時間半の空間体験です。枝史織さん、大友良英さん、クワクボリョウタさん、蓮沼執太さんの4名のアーテイストそれぞれが、場所と対話をして紡ぎ出した作品を、じっくりと向き合うのに最適なルートや時間帯を設定してご案内します。「ベップ・秘密のナイトダンスツアー」は、どこへ行くのかも知らされないまま集められた観客が、商店街や地下など街全体を背景に展開する週替わりのダンスやパフォーマンスに、次々と遭遇していきます。

三好　おお、面白そうですね！　この「おおいたトイレンナーレ2015」というのも気になるんですが……。

山出　それは、大分市街地のトイレのみを舞台にしたアートプロジェクトですね。また怒られそうなタイトルですが（笑）、芥川賞作家の小野正嗣さんによる書き下ろし小説や、岡田利規さん率いるチェルフィッチュの新作、コンタクト・ゴンゾのパフォーマンスなど、内容はとても充実してますよ。

三好　いや〜、ホントに盛りだくさんですね！　山出さんのプレゼンを聞いていると、この10年間で混浴温泉世界がいかに発展し、波及効果を生んで、別府の街を面白くしているかがよくわかりました。

山出　ありがとうございます。肩書きはプロデューサーですが、実際の仕事のほとんどは資金集めなので、プレゼンはずいぶん慣れました（笑）。

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