佐賀の地酒を、知識だけでなく“体験”として味わう講座「佐賀酒学」。第3回のテーマは、「日本酒は、もっと自由でいい。」。講師は、名古屋で酒屋「中村屋」を運営、さらに東京都内でも人気の立ち飲み店「純米酒専門YATA」の創業者である株式会社マグネティックフィールド代表取締役・山本 将守さんです。
これまでの佐賀酒学では、酒器やペアリングといった切り口から、佐賀酒の楽しみ方を広げてきましたが、今回はさらに、日本酒へのハードルを下げる多様な飲み方を学びました。
日本酒の“扱いにくさ”は、弱点でもあり武器でもある
まず話があったのは、日本酒が持つ「強み」と「弱み」について。
日本酒は、飲用温度の幅が広く、うま味成分がしっかり含まれていることから、飲み方の選択肢が多いお酒です。一方で、とてもデリケートで管理が難しく、開栓後の変化も早いもの。「開けたてが一番美味しい」というイメージがあるのもそのためです。
開栓後の変化を体感すべく、いただいたのが、「古伊万里 前(さき) 純米吟醸」(古伊万里酒造)と「肥前蔵心 特別純米 超辛口」(矢野酒造)。いずれも開栓直後のものと数日経ったもので、飲み比べてみると、わずかに香りや苦味、酸味の変化が分かります。
このように、開けてから時間が経った日本酒は味が変わり、一般的に、その変化は“価値が下がったもの”として扱われがちです。私も自宅で日本酒を飲む際に「開栓したら早めに飲み切らなければ」と考えていました。しかし、味の変化を”劣化”と諦めないのが山本さん。「その特性に合ったものを見極めてブレンドすることによって、お酒の味は生き返ってくるんです」と話します。
見方を変えれば、変化しやすいからこそ、使いどころを変えて多様な味が楽しめるということ。これまでになかった視点に、すでにワクワクしてきました。
「ボタニカルSAKEカクテル」という入り口を
そもそも“日本酒をベースにしたカクテル”という言葉だけを聞くと、「日本酒好き向けの応用編」のように感じるかもしれません。けれど、山本さんが紹介したボタニカルSAKEカクテルは、その反対で、日本酒初心者や海外の方が日本酒を楽しむハードルを下げるものでした。
まず「ボタニカル」とは、言葉通り、植物由来の素材のこと。柑橘、ハーブ、スパイスなど、身近な素材を使い、日本酒を“入口”として開いていく考え方です。低アルコールで飲み疲れしにくく、蒸留酒とは違い原料由来のうま味があることが、ボタニカルSAKEカクテルの強みとなります。この日用意されたボタニカルSAKEカクテルは、全部で3種類。いずれも、レシピ自体は決して複雑ではありませんが、実際に飲んでみると、それぞれに明確な役割と個性が感じられます。
まずいただいたのは「新緑」。日本酒にトニックウォーター、ライム、ミントを合わせたものです。開栓したての日本酒と、数日経った日本酒を使ったもの、それぞれを飲み比べてみます。
どちらも、日本酒単独で飲むのに比べてとても軽く、爽やかな香り。すっきりとした味で、食中酒としてぴったりです。日本酒を飲み慣れていない方でも、一般的なカクテルと同じ感覚でいただけそう。飲み比べてみると、「開栓直後のお酒で作る方がすっきりしている」「後の方がなじむ気がする」など、感想はさまざまですが、開栓後の変化をネガティブに感じることはなく、むしろ個性として楽しむことができます。
続いては、日本酒にレモン、ジンジャーエール、ローズマリーを合わせた「キツネ」。こちらは一転して、ジンジャーの刺激があり、飲みごたえのある一杯です。こちらも同様に、開栓したての日本酒と、数日経った日本酒の2パターンがありましたが、私は数日経った日本酒を使ったカクテルのほうが、味がどっしりとして好み。
ローズマリーの爽やかな香りがアクセントとなっていて、「麻婆豆腐など中国料理と合わせるのにもおすすめなんです」と山本さん。日本酒を中国料理と合わせるという発想はなかったのですが、カクテルだからこその醍醐味なのでしょう。
最後の抹茶を使った「青苔」は、見た目にも印象的な一杯。
グラスの中で抹茶が溜まり、混ぜることで表情が変わっていく様子も美しいです。味わいは意外にも重たくなく、抹茶のほろ苦さと日本酒のうま味が重なり、どこか落ち着いた印象。「インバウンドの方、とくにお茶を飲み慣れている台湾の方に人気のカクテル」とのことで、日本人だけでなく海外の方が日本酒を気軽に知ることができるきっかけにもなりそうです。
佐賀酒はボタニカルSAKEカクテルと相性◎
ボタニカルSAKEカクテルを通して体感できたのは、開栓後の日本酒が持つ可能性です。単体で飲むと、少しだけ酸味が前に出たり、わずかな苦味が気になることも。でも、トニックや柑橘、ハーブと合わせた瞬間、そのほのかな違和感が魅力ある個性として生きてくるのです。
では、どんな日本酒でも同じように仕上がるのかというと話は別。カクテルとしては成り立つものの、やはり向き不向きはあるそうで、中でも「佐賀酒はボタニカルSAKEカクテルとの相性が良い」と山本さんは話します。その理由は、佐賀酒の仕込み水は軟水が多いのですが、ミネラル感をしっかりと感じられるからなのだとか。
「米や酵母は他の地域から持ち込めても、水だけはその土地のものを使いますよね。だからこそ、水質はそのまま酒の骨格に影響します。硬水で仕込んだ佐賀酒は、ミネラル感があり、うま味の芯がしっかりしているものが多い。だからこそ、割ったり、混ぜたりしたときにも味が崩れにくいんです」と教えてくれました。
トニックの苦味や柑橘の酸味、ハーブの香りを受け止めながら、日本酒としての存在感が残りやすいことも、佐賀酒でつくるボタニカルSAKEカクテルの特徴のようです。
グループワークで広がった可能性
日本酒をカクテルで楽しむという新しい可能性をさらに広げてくれたのは、グループワークの時間。テーブルごとに参加者同士で自由にアイデアを出し合い、新たなボタニカルSAKEカクテルの魅力を探ります。
「うま味を足すならトマト」「スイカも合いそう」「山椒はどうだろう」「ソルティドッグみたいに、塩を足してもうま味が立つかも」……。私たちのテーブルは、ワインバーの経営者や利酒師の資格を持った方などがいて、講座の内容に加えてこれまでの経験を生かしたアイデアを出し合いました。お酒が入っているせいか、初対面でも打ち解けやすく、話題は自然と盛り上がります。
他のグループの発表では、佐賀の柑橘、スパイス、市販のアイスなどを組み合わせたアイデアが続々!自由な発想で、新しい可能性が広がります。「確かに、美味しそう」「だったら、これも合うのかも」と各テーブル、さらにアイデアが広がりました。
飲むだけじゃない、日本酒の楽しみ方も
また、日本酒を自由に楽しむ方法は、カクテルだけではありません。例えば、食材を組み合わせてみたり、ちょっと一手間加えてみたりするだけで、新しい発見につながるかも…。ほろ酔い気分で迎えた講座の後半にあったのは、そんな自由な発想のヒントをもらえるような提案でした。
提供されたのは、水の代わりに酒で仕込む貴醸酒「きまぐれドラゴン」(光武酒造場)。まずは燗酒でそのままいただくと、出汁を思わせるような、奥行きのある甘味とうま味に心をつかまれます。こちらをカステラにたっぷりとかけ、仕上げにゲランドの塩を添えて口に運ぶと、甘味・塩味・うま味が重なり合い、意外なほど自然な一体感。日本酒を「飲むもの」としてではなく、「味を重ねる要素」として扱うことで、また違った表情が見えてきました。また、冷たいアイスにかけると、日本酒の香りがふわりと立ち上がり、甘さがより上品に広がります。
いつもと違う、遊び心ある“一杯”の提案に参加者の皆さんも興味津々!「これ、家でもやってみたいですね」という声もあり、各テーブルで会話が弾んでいました。
日本酒は、もっと自由でいい
気になるけれど、取っつきにくいイメージもある日本酒。一歩を踏み出すのに戸惑う若者や外国人も多い中、ボタニカルSAKEカクテルは、日本酒を特別な存在から、ぐっと身近なものへと引き寄せてくれるアイデアです。
またすでに日本酒好きな方にとっても、これまでにない新しい楽しみ方。次に日本酒を開けるとき、もし少し残ってしまっても、「どうしよう」と悩むのではなく、「じゃあ、何と合わせてみようか」と考えてみるとワクワクしてしまいます。佐賀のお酒に地のものを組み合わせてカクテルにしてみたり、大好きなスイーツに合わせてみたり……。 そんな小さな視点の変化こそが、日本酒をもっと自由に、もっと楽しくしてくれるはず!
日本酒は、知れば知るほど自由に楽しめる。そのことを、体験を通して実感できたうれしい一日でした。
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(取材:編集部、文:ライター/戸田 千文、写真:カメラマン/西澤 真喜子)












