自然というコンテンツを生かす方法
- —志賀島にお店を出すことになったきっかけを教えてください。
- 僕は、いま所属している会社(カラクリワークス株式会社)に入る前の、設計事務所で働いていた時から志賀島にはよく来ていたんです。市内中心部からすぐに行けるのに、農業や漁業が盛んで、自然も残っていて。ぐるっと周遊できるのが楽しくて、よく遊びに来ていました。毎週末通うようになったら、だんだんと漁師さんや地元の人たちとも顔見知りになって。志賀島の人たちって、人情味があるんですよね。仲良くなって、新鮮な海産物をいただいたり。
- —いいですね。
- 安曇族を氏神様とする志賀海神社があり、千年をゆうに越える歴史を持っていることにも魅せられました。そして、こんなに魅力が詰まった場所なのに、そのことに気づいている人は意外と少ない気がして。だから僕自身は、どっぷりとのめり込んでいきました。その後、ふとしたきっかけでカラクリワークスに入社し、会社の事業として志賀島に関わることができるようになって。ご縁で空家を借りられることになった時、かねてから志賀島に拠点が欲しいと思っていたので、率先して手を挙げて、店を立ち上げることになったんですよ。
海人族とされる「阿曇族」を祀った志賀海神社。いまでも島の人たちの心の拠り所になっているといいます。
建築事務所で働いた経験を生かし、店舗の設計は山崎さんが担当。ぬくもりを感じる床板や、夏には開け放てるガラス張りの壁面など、随所に工夫あり。
- —レンタサイクル店にされた理由を教えてください。
- 志賀島は島内の公共交通が十分とは言えず、来訪者にとっては優しくはありません。まずは自分自身が来訪者だった時に感じていた「あったらいいな」を形にしました。車以外で志賀島に来る人の大半は、市営渡船に乗って来るんですよ。だから、渡船場から降りてすぐの場所にあれば便利だし、ニーズはあるだろうと。
- —陸から行っても海から行っても、志賀島の玄関口ですもんね。
- そうそう、志賀海神社の参道の入り口でもあるので、観光動線とも重なる好立地ですね。それから、自転車は志賀島の自然や町並みをゆっくりと見て回れるベストなツールだったことも大きいです。市営渡船以外は大半の人が車で来ますが、滞在時間はほとんどが、島をぐるっと1周するわずか数十分。それでは、志賀島の魅力の半分ぐらいしか伝わらないんですよ。それを何とか変えたくて。
- —ええ。
- よく、町づくりや町おこしというと、まず箱モノを作って、他所からそこにコンテンツを持ってきて当てはめるというやり方が多いでしょう!? でも、志賀島は古くからの暮らしが残っていて、周遊できるという地理的な魅力があるので、自転車であれば気になる所にすぐに止まれるし、人との距離感も近いので、島の魅力をそのまま感じてもらいやすいなと。それを効果的に引き出してくれる形は何かを考えたら、レンタサイクルがぴったりだったんです。移動手段としての自転車ではなく“自然“や“走ること”を楽しんでもらうために、車種もよくあるママチャリではなく、質のいいものを揃えました。
自転車は、サイクリストにも定評のあるBianchi社のkumaシリーズを中心に、全部で9台。「Bianchiにこだわったのは、自分でも乗っていて性能をよく知っていたから」と山崎さん。1台6万円前後とレンタサイクル用にしては高価ですが、デポジット料を取ることでリスクを軽減させています。
- —シカシマサイクルでは、具体的にどんな活動をしているのでしょうか?
- 自転車、カフェ、イベントの3部門があります。自転車部門は、3時間2,000円のレンタサイクル。志賀島は1周約10kmですから、自転車でのんびり回ると1時間弱。それに、散策や食事、天然温泉に入る時間までを考えて、3時間で設定しました。2014年10月の立ち上げから1年間経たずにレンタル1,000台を突破し、初年度の目標は無事達成。認知度も着実に上がり、これまでは「志賀島に遊びにくる」のが目的だった人が、「志賀島に自転車に乗りにくる」ようになったりもしています。
- —自転車部門がお店の売上のベースになっているんですか?
- そうです。それから、店内で気軽に休憩し、人とコミュニケーションできるようにしたかったので、カフェを併設してジュースやお酒、軽食を提供しています。自転車を借りなくても利用できるので、地元の人や子供たちも顔を見せてくれますよ。可能な限り島内で穫れた食材を使ったメニューや商品開発も行っています。
- —島内の食材をその場で調理してもらえるんですか! いいですね。
- 少しずつメニューを増やしてますんで、ご期待ください! そして、地域との関係を深めるために立ち上げたイベント部門があります。この部門は、採算度外視で、ボランティアに近い活動ですね。例えば餅つきとか、季節の伝統行事をやる際に、僕らが率先して企画をしたり、力仕事を手伝ったり。島には若い労働力が少ないのでありがたがってもらえますし、伝統の奥深さを知り、アーカイブする文化伝承の意味で、僕らにとっても大事な活動です。田舎ならではの相互協力関わりあいが大事ですね。
- —これから立ち上げていく事業はありますか?
- 近く、志賀島の空家と借りたい人を繋ぐ「空家バンク」の事業を展開していきます。特に、島外からモノづくりをしている人や子育て世代を呼び込み、志賀島に住みながら小規模でも産業創出をして、地域の雇用を生み出していけたらと思っています。志賀島は陸続きなので人・モノ・情報といった資源がフレキシブル行き交いますし、これまでの事業で得ることができた人を適所に紹介したり、ノウハウを提供・共有するなど、さまざまなサポートができるはずです。
参道の入り口にあるシカシマサイクル。「サイクル」には、レンタルサイクルはもちろん、島の歯車となり、回遊性を高め、人や物を循環させていく拠点であれ、という願いも込められています。