100%能古島産のはちみつ「NOCOHACHI」

100%能古島産のはちみつ「NOCOHACHI」島の恵みを商品に変えて、地域に還元

2016.03.18(金)

株式会社ヴァンベールフーズ 上野 敬之さん

博多湾にぽっかりと浮かぶ、福岡市のプチリゾート地「能古島」。姪浜の渡船場からフェリーで10分も行けば、ゆったりとした島時間が漂い、心が和みます。東西2km、南北3.5kmと小さな島ですが、かつては万葉集にも詠われた、歴史ある場所。現在は「のこのしまアイランドパーク」や、ビーチ沿いのレクリエーションが子どもから大人まで人気のスポットです。そんな能古島で、3年前よりユニークな取り組みが始まっています。それは、100%能古島産のハチミツ「NOCOHACHI」。島の特産品であるニューサマーオレンジや能古甘夏など柑橘類の花から採れる蜜を集めた商品で、爽やかな味わいがおいしいと評判になっています。能古島の恵みを生かしながら、経済活動を生み出し地域に貢献する、6次産業化の試みを取材しました。


能古島の自然を生かした事業で、島に貢献したい

—「NOCOHACHI」誕生の経緯を教えてもらえますか。
もともとは、弊社の関連会社の保養所が能古島にあって、弊社の代表が島に通ううちに、能古島をとても気に入ったんです。市内中心部から近いのに、自然が溢れ、時間もどことなくゆったり流れていて。老後はここで暮らしたいと思い、生活を楽しむためにも「ここで何かできないか」と考え始めたことがきっかけです。だから最初は、あくまでも代表の個人的な趣味の延長だったんです。ちなみに、「銀座のはちみつ」はご存知ですか?
—銀座のビルの屋上などで養蜂をして、採れたはちみつを商品化しているプロジェクトですね?
そうです。弊社の代表がそのプロジェクトを知って自分たちもやってみたいと思い、北九州・小倉で講演があった時にご挨拶をして、仕組みを習いました。能古島でそれを応用して生まれたのがNOCOHACHIなんです。自社で、小さな農地と利用権設定した果樹園を持ち、養蜂組合や地元の農家さんにも力を貸してもらいながら、いまの生産体制をつくりました。最初は、設備もノウハウもなかったので大変でしたが、能古島は人がとても穏やかであたたかく、いろいろと面倒を見ていただいて、とても助かりましたね。いまでも地元の果樹園さんの花から蜜を採らせていただいていて、その協力がなければこの事業は成り立たなかったと思います。

養蜂用の巣箱。能古島内を自由に飛び回った蜜蜂たちが、箱の下にある「巣門」と呼ばれるすき間から中に入り、巣作りをしていきます。

—なるほど。どうして養蜂を選んだのですか?
能古島は季節の花々が有名ですし、能古甘夏やニューサマーオレンジといった柑橘類が特産品ですから、養蜂が向いていると思って。それに、蜜蜂は行動範囲が半径2km程度です。島内の巣箱から対岸までは2km以上離れており、海で囲まれた島なので、採集したはちみつは純粋な能古島産となり、ここにしかない商品になります。実際に採れるはちみつの味も、花の香りに柑橘のさっぱりさが加わって、とてもおいしいんですよ! だから、これは自信を持っておすすめできる商品として、広く伝えていきたいと考えました。

うまみが凝縮された、ツヤツヤのはちみつ。純国産のはちみつは、市場に出回っているはちみつのわずか7%しかなく、収穫量もわずかです。

NOCOHACHIのラインナップ。左から、能古島内のさまざまな花々の蜜を集めた定番の味わい「ヴァリアスフラワー/レギュラー(1,000円)」。能古島の柑橘類の花々をミックスした、さっぱりとした甘さの「能古オレンジミックス(1,200円)」。ニューサマーオレンジの花から採った、貴重な純粋はちみつ「ニューサマーオレンジプレミアム(1,500円、全て税抜価格)」。各80g。2016年2月には平成27年度福岡県6次化商品コンクールで審査委員特別賞を受賞

—趣味ではなく事業化して取り組むのは、お金もかかりますし、覚悟がいりますよね?
確かにそうなんですが、ボランティア活動として小規模にやっても、結局は長続きしないんです。私たちは、事業を通じて能古島に貢献したくて。たとえば蜂が媒介となって受粉を促すことで、農作物の生産が安定し、農家の役に立ちますし、加工品を作れば生産のための雇用を生み出すこともできます。商品を売ること自体が、能古島のPRにもなります。そうやって、経済活動の中での試みを継続していくことで、島に貢献できると考えたんです。幸いにも、能古島は市内中心部からとても近いです。私たちの果樹園から福岡市内が一望できるんですが、150万都市が目と鼻の先なんですよ。これを生かさない手はないと思って。それで、2014年6月に農業生産法人化し、本格的な生産体制を作りました。
—なるほど。そこから国の法(※注1)に基づく認定までの流れを詳しく教えてもらえますか。
まず、養蜂業とトマトなど農産物を生産する株式会社ヴァンベールを、2014年6月に農業生産法人化し、7月に福岡市の認定農業者となりました。そして、2015年1月には株式会社ヴァンベールフーズを設立し、ヴァンベールで生産したはちみつを商品化したり、はちみつ加工品を製造販売しています。NCB九州6次化応援ファンド(※2)から2,000万円の出資を受け、2月には国より法(※注1)に基づく総合化事業計画の認定を受けました。ヴァンベールフーズでは、百貨店や小売店への卸など販売までを担います。1次を担うヴァンベール×2次・3次を担うヴァンベールフーズ=6次産業化となっています。
※注1)法とは,「地域資源を活用した農林漁業者による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律(六次産業化・地産地消法)」を指す。ヴァンベールフーズが受けたのは総合化事業計画の認定
※注2)NCB九州6次化応援ファンドとは、九州における1次産業者(農林漁業者)と2次・3次産業者(商工業者)との連携による新たな事業機会の創出などを目的として、A-FIVE(農林漁業成長産業化支援機構)と西日本シティ銀行が出資するファンドのこと

養蜂の他に、小規模ながら野菜も栽培されています。太陽の光をいっぱい浴びたトマトは、みずみずしいと評判!

—飲食店も経営しているんですよね?
はい。それが、私たちの特徴かもしれませんね。株式会社ヴァンベールの吉塚支店の1階に「ハニーカレー」、南区の長丘に「能古の旬」という、NOCOHACHIを使ったメニューを提供する飲食店を出店しています。「能古の旬」では、能古島で採れた旬の野菜もお出ししていますし、レジ横にはNOCOHACHIも常時取り揃えていて、帰りがけに買ってくださるお客様もたくさんいます。そうして、生の食材から加工品までを、直接食べてもらえる場所を作ることで、宣伝にもなりますし、食材を余らせることなく効率的に使うこともできます。
—島内ではなく、他所で営業しているのがユニークですよね。
それは意図的にしています。というのも、能古島は冬は来島者が激減してしまうんですよ。島内で島のことを売りにしても、そもそも島に来る人が少なければ、PRになりません。福岡の周辺地域に店を出し、能古島のよさを伝えることで、能古島を近くに感じてもらえるし、遊びに行くきっかけにもなります。店舗運営の経験がまったくない中で、PDCAのサイクルを回していくためには、ある程度集客が見込める場所でトライ&エラーをしていくしかないと思って。

古くからの屋敷を改築した南区長丘の料理屋「能古の旬」。新鮮な食材が、手頃な価格で食べられるとあって、人気急上昇中です。

成功事例を作り、若い人の参入を促す

—NOCOHACHブランドを立ち上げて、事業としての売上は実際のところいかがですか?
2015年5月にパッケージのリニューアルをして、主なターゲットである30代の女性に向けて、ブランドのコンセプトやイメージを整えていきました。美容やファッションに関心があり、流行にも敏感な女性が好むよう、デザイナーと一緒に作り替え、6月から販売を開始して。その結果、半年で前年同期の倍以上の販売実績を残すことができました。
—それはすごいですね。
島での採蜜量には限界があるので生産を拡大し続けることは難しいんですが、適切な売上を立てることで生産設備の増強や安定生産にも算段がつくようになります。また、商品にブランド力が出てきたことで、注目され、メディアで取り上げられたりすることも多くなってきました。こちらから商品展開を広げる仕掛けも積極的に行っています。2016年2月からは、ホテル日航福岡のレストランのシェフとコラボした商品も誕生しました。

ホテル日航福岡のテーマレストラン「レ・セレブリテ」の森田シェフが、能古島のはちみつをスペシャルブレンドした、「「レ・セレブリテ」オリジナルブレンド」。能古島の自然の恵みが凝縮された、個数限定品です。

—特に注意したこと、心掛けたことは何ですか?
6次産業化戦略にとって重要なのは、出口戦略です。販路をいかに拡大していくかが、難しいんですね。まずは地道に電話や飛び込みで営業をして、NOCOHACHIを販売してもらうセレクトショップや小売店などの取り扱い店舗を増やしていきました。味には自信があり、一度食べてもらえればよさがわかってもらえるので、試食販売イベントにも力を入れています。私自身も売り場にも立って、お客様の好みを聞きながら、お勧めしていますよ。
—果樹園や農地から販売まで、すべて上野さんが担当されるんですか!?
もちろん一人ですべてやるのではなく、それぞれの担当に任せていますが、僕は上流から下流まですべてを把握するようにしています。そうしないと、6次産業化は難しいでしょうね。お客様の声を間近に聞きながら、それを次の生産品に直接反映できるのが、6次化の強みだと思います。

「能古の旬」で食べられる、NOCOHACHI百花みつを使った「クリームチーズとナッツの「のこはち」漬け」、500円也。濃厚で香り高いはちみつと芳醇なチーズの組み合わせが、至福の味わい!

—上野さんは、農家や農業従事者という雰囲気とはずいぶん違いますね。プロデューサーみたいです。
そうですか!? 私はもともと事業会社で広告宣伝の仕事をしたり、IT企業に籍を置いていたこともあるので、全体を見通して効果的な見せ方や宣伝方法を考えるのは、これまで自分がやってきたことでもあるんです。だから、広告宣伝の手法で、ブランドを整えて展開していきました。確実に手応えが出てきて嬉しいのですが、もちろんプレッシャーもありますよ。生産からすべて自社でやっていますから、リスクが大きい。でもその分、夢を持って商品を売ることができるし、能古島に確実に貢献ができるのが、やりがいになっていますね。

生産から販売までの、一貫した戦略をわかりやすく解説してくれる上野さん。実直なものづくりをするだけでなく、どう見せて売っていくかを考える時に、過去の経験が生きてきます。

—ありがとうございます。では最後に、能古島の未来像について、考えていることを教えてください。
作家の檀一雄さんが終の住処に能古島を選んだように、能古には心安らぐ雰囲気があります。乱開発ではなく、島の自然や環境のよさを守っていきたいですね。島は高齢化が進み、基幹産業であった漁業も衰退しているのが現状です。今後は、若い人が入ってきやすい環境を作ることが大事だと思います。そのためには、先進事例として「こんな暮らし方、こんな仕事ができる」ということを、僕らが見せていくことだと思っています。島内に仕事があり、安心して暮らして、子育てができるようになっていけば、明るい未来があるんじゃないかと思います。

一面の菜の花畑も、能古島の風物詩。3月が見頃です。暖かくなったら一度、訪れてみては?


農業生産法人 株式会社ヴァンベール

本社 福岡市南区長丘1丁目20-8
URL http://vanbeell.com/

株式会社ヴァンベールフーズ

本社 福岡市西区能古1432-1

能古の旬

所在地 福岡県福岡市南区長丘1丁目20-8
URL http://noconoshun.com/

WEB通販サイト「のこはち」ショップ

URL http://www.47club.jp/nocohachi-shop

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